星の花
はじめましての方は、はじめまして。
いつも読んでくださっている方は、いつもありがとうございます。
素敵な企画に参加させていただきました。
感謝いたします。ありがとうございます!!
難産でした。
よろしくお願いいたします。
―――暗がりで薄っすら目を開けると、
白く輝く星が降ってきた。
――何でその花に目が止まったのか、今なら分かる。
花屋の店先にその花はあった。
知らず知らずのうちに足が止まっていた。
「――ペンタスといいます。」
穏やかな声にそちらを向くと、店員がいた。
店名の入った緑色のパーカーを着ている。
フードを被っているので、目元が見えない。
接客業なのにそれで良いのか?
そう思うはずなのに、何故かそれが自然に思えた。
「・・・・ペンタス。」
たしか大学の授業で聞いた気がする。
ギリシャ語で五つ。
「ご存知でしたか。花弁が五つあるので。」
あれ?口に出していたか?
疑問に思うが、花から目が離せない。
たしかに、一つの花に花弁が五つある。
それがたくさん集まって、まるで星屑のようだ。
「・・・・・―――綺麗だ。」
特別、花好きでもないのに、
俺はその花を買うことにした。
毎日、花に水をやる。
すくすくと花は成長する。
毎朝、花におはよう、と言う。
花は笑うように揺れる。
仕事から帰ると、窓際に花がある。
出迎える奥さんみたいだ。
ただいまを言うと、
花がお疲れさまを言ってくれている気がした。
変なことというか、
嬉しいことが始まったのはこの頃だ。
忘れたと思ったUSBがちゃんとポケットに入っていたり。
晩酌をして、卓でうたた寝したと思ったが、
ちゃんとパジャマでベッドで寝ていたり。
いつの間にか部屋が片付いていたり。
始めは気のせいかと思ったが、こう何度も続くと確信的だ。
そして、その夜、星の花が降ってきた。
――何かの気配に目が覚めた。
ぱらぱら、と星の花は枕元に落ちる。
目の前にとんでもない美人がいる。
白い髪に濡れたように黒い瞳。
よくよく覗き込むと、瞳の中にも星が瞬いている。
人間では、ない、のか??
美しさに息を忘れていると、美人が口を開く。
「・・・・願いを。」
「願い?」
「願いを、叶えます。」
なるほど。星に願いを、か。
「ただし、願いごとは一つだけ。
よくよく考えて。」
「うん。決めた。」
「では、心でそれを強く願って。」
俺はそれを心で強く願った。
そうすると、美人の身体が強く光り始めた。
俺は星の瞳が泣きそうに潤んでいるのに
気付いた。
「何で泣きそうなんだよ?」
「――もう、お別れだから。」
そうか。願いを叶えたら、消えてしまうのか。
「バカだな。」
俺は笑って、その目元にキスをした。
涙は甘い蜜の味がした。
――花は消えてしまった。
新しい花を買おうとあの花屋に行ったら、
そこは大きなビルが立っていた。
そもそもそこに花屋なんてあっただろうか?
「おかえりなさい。」
家に帰ると、あいつが出迎えてくれる。
相変わらず律儀な奴だ。
「ただいま。」
あのとき、願ったのは。
――――『こいつが、幸せになりますように』。
だから。
俺は、毎日こいつにキスをする。
(『星の花』完)