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47 ――汝、なすべし

 時間がない、やり方がわからない、意味が見出せない。

 技術的に不可能、検討の余地がない。


 だから、出来ない。


 なぜ、できない理由ばかりを言い募るのか。

 一歩引いてみて、あるいは譲ってみたとして、できない理由がそれだけ分類できるのならば、出来ない原因は十分に分析できているはずで、出来ない理由を突破できるだけの準備も整っているわけで、従ってできないという発言をすることの意味がまるでなくなるはずである。


 だが、この世のだれも彼もが、出来ないという。

 この世のだれも彼もが、他人の足をひっぱりあい、ひとたびその沼から抜け出そうと上を目指したならば、群れをなして地の底に押し留めようとする。

 人間の群れとは、いよいよ持って愚かものの集まりなのではないかと、半ば本気で思っている。

 飽き性で、ひとつのことを目指すことをせず、そもそも人生のなかで叶えたい夢など持ち合わせていない。

 彼らが心配するのは、仕事帰りに酒が飲めることと、寝室で抱く女がいることと、やや高級な思考をもつものは、明日の仕事にありつけるかどうかだった。

 

 だからこそ、ひとは、誰よりも聡く、強力で、先を見通せる指導者が必要で、その指導者のそばで価値を与えられることこそが、彼あるいは彼女にとって自身の価値を見出すものになるであろう。


 神はかつて、こうおっしゃった。

 汝、なすべし、と。

 まさにこれは、ひとを知り、本質をみごとに着いた言葉だ。

 神を創造した過去の指導者は、実に切れる男だったに違いない。


 汝、なすべし。

 わたしがなすべきことはなんだ。

 神にもひとしい力を持ち、人びとを導くことこそ、己のなすべきことだと知る。

 わたしには、夢がある。


 神になりかわり、理想郷を築くのだ。

 誰もが飢えることのない街。暖かな家と、親兄弟と、あるいは妻と子と安心して過ごす時間。

 何者にも侵すことのできない、不可侵で誇りある夢を、誰もがもつ街。

 そんな理想郷を我が治世のうちに、実現することは叶わなくなりつつあることは、理想と現実の埋まり具合と、我が身にのしかかる老いとを比較すれば明らかだった。


 だとしても、夢は叶えるためにある。

 神がひとにくだされた、汝なすべし、はわたしにとって、福音だったのだ。

 その生涯をかけるに値したと自負しているし、わたしの撒いてきた種が、ゆっくりではあるが芽吹きつつあるという事実は、何事にも代えがたい喜びである。


 わたしの成し得た仕事に誇りをもつ。なんぴとたりとも侵すこと能わず。

 誰だって生涯を掛けた仕事が、目の前で壊れゆく様をみるのは恐ろしかろう。

 幸いなるかな。わたしは、わたしの築き上げてきた信頼とひとを従わせる力がある。

 これは大変にありがたいことだ。

 

 わたしは、わたしの意思をこれからも貫くことを許される立場にあり、実のところ、わたしが何か面白いことに挑戦するとき、誰にも頭を下げなくていいというのは、大変に気分のいい。

 これの感覚を味わうに値する弟子は、果たして誰になるのだろうか。

 おおき若者に囲まれてながら過ごすというのはいい。いつまでも心が若いままでいられる。


 だが、ときたま、彼らが、いや、彼がないを考えているのか、まるでわからなくなることがある。

 歳の差か、世代の差かはわからぬ。

 弟子との間には、決して埋めることのできない壁を感じる。

 彼が、わたしの夢の真意を悟る日がくることは、あるのだろうか。


 しかし、文字が自由に見えなくなりつつある。

 震える指が忌々しい。

 文章が思い通りに綴れないというのは、何かに当たり散らしたくなるほどに、腹の立つものなのだと。 

 歳なんぞとりたくないものだ。

 はてさて、わたしの思うがままを記したこの書を読み、わたしの真意に気付くことのできるものは、はたして何人いるのだろうか。

 それがわたしだけなのだとしたら、わたしは唯一、ひとの頸木から解放されたことになるだろう。

 はたして、わたしは何者なのであろうか。


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