TEKIYA〜汚い大人になっちまった自分にグッバイ
汚い大人は変わりたい。
2016年9月YouTubeに、とある動画がUPされた。『祭りくじで悪事を働く一部始終を公開します。』
それは祭りくじに当たりは入っていない‼︎と言うのを300万を用意して当たるまで買うと言ってこのクジの中に当たりが入っているか分からないと言わせその店の店員に事実上当たりがないことを認めさせる物だった。
動画投稿者はテキ屋(祭りの出店の人の総称)を汚い大人と呼び、コメント欄にはテキ屋に向けての
「子供を騙して食べるご飯は美味しいですか?」
「私も昔、楽しみにしてくじ引き行ってたのに、思い出が汚された気分です。」
「親がくじ引きだけは絶対にするなって言ってた理由がわかった。」など辛辣なコメントが並んだ。
動画の視聴数は3000万回を超え動画再生後の祭りのくじ引き離れは凄まじく、テキ屋組合からは投稿者に制裁を加えるなどの声も上がった。
「・・と言うわけで、あの変な髪型のにいちゃんに謝罪させるか、制裁を加えんとおさまるもんもおさまらんからして・・・」
組合長のおっさんが喋っている途中で初老の男性がガタリと席から立ち上がった。
「おっ?てつさん、何ぞいい意見でもあったかい?」
「くだらん、ワシは帰らしてもらうよ。」
「下らんとは何だ!あんたんところはくじ屋だろうに。1番被害受けとるじゃないか!」
組合長の言葉を背にてつと呼ばれた男は退出した。
昔は良かった。一等の景品がエアガンでも子供は来てくれたし、喜んでくれたもんだ。当たりも今よりちゃんと入れていた。
「いつからこうなっちまったかー。」
経済的に豊かになり祭りが増えると、商品も対抗して豪華になる。エアガンくらいじゃ誰も喜ばん。プレステやらセガサターンやら3DOやらが必要になってくる。あの頃は小銭を握り締めてくるガキ供の笑顔が何より嬉しかったんだがなー。そんな考え事をしながら歩いて行った。
がららっと引き戸を横に引き家についた。
玄関先では駅3つ向こうに住む高校生になる孫がべそをかいて立っていた。
「じいちゃん、俺、動画見たよ!俺が昔当てたエアガンもホントは当たってなかったの?今でも部屋に飾ってるんだぜ。」
「いや、ちゃんとあれはお前が当てたもんだよ。じいちゃんはズルや贔屓なんてしておらんよ。」
その言葉は本当でてつは孫だからといって、当たりを引かせるようなことはなく、ちゃんと公平に孫は特賞を当てたのだった。
「今も?今もちゃんと、特賞は入ってるの?動画では無かったA賞もB賞も入ってるの?」
「むぅ・・」
てつが言い淀んでいると、孫は部屋に飾っていると言ったエアガンを背中のガンホルダーから取り出し、フルオートでてつに向かって連射した。
「じいちゃんのばかー!」
てつの恰幅のいい体に長年丁寧に手入れ(改造)されたエアガンの弾がビシビシと当たっていく。
注※エアガンは人に向けてはいけません。
「ぬぅぅ」
弾が出なくなり電動音だけが虚しく鳴るエアガンをと投げ付け・・・・ることはせずにガンホルダーにしまい、孫は走り去って行った。
(くぅ、この痛みは孫の心の痛みだ。断じて、わしの体の痛みなんかではない。あのエアガン電動音とか鳴ってたかの?)
てつは両手を上げて叫ぶ。
「わしはもう一度孫に愛されるくじ引き屋になるぞー!痛うぅ」
引き戸にヒビが入っている、どう考えても3千円で買った景品ではないエアガンの強さと、婆さんに怒られ千発以上に渡るエアガンの弾を玄関中から拾い集めた話は締まらないので割愛しよう。
次の日てつは、いつも屋台を一緒に開ける相棒の元へ向かった。そして開口一番こう話した。
「サブ、わしはくじ引きのくじに当たりを入れる事にした。」
「えっ!そんな事したら組合からどんな制裁を受けるか分からないですよ。くじ引きに当たりを入れるなんて、禁忌じゃ無いですか?」
サブはまだ若く、祭りで当てた事も当たりが入っていたクジを見た事も知らずにテキ屋業界に入って来たのでてつの言うことが信じられなかった。
「組合に睨まれても、わしはやる。だからお前が他の親方の所について何も言わん。」
「てつさん、この間のツートンカラーのYouTuberが原因ですね。やってやりましょう!俺たちの意地見せてやりましょう。」
「ありがとう」と一言いって早速1週間後に迫る祭りの景品を仕入れに行った。
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「てつさん、無茶だ!Nintendo Switchの空箱以外を買うなんて!A賞のVRも空箱じゃないだと?しかもポンタカードの店で売ってる980円のじゃなくて5千円の画質が綺麗なやつを!そんなもんでキッズがセクシーな動画を見たらどうなっちまうんだ。てつさん、あんた男だ。絶対ついて行くぜ。」
他のハズレの買い物も済ませ、くじ引きのクジを売っている卸売り業者に足を運んだ。淀んだマフィアの隠れ家の様なところで店主は言った。
「てつさん、あんた今なんて言ったんだ?私の耳が遠くなっちまったのかねぇ。もう一度いってくれないか?」
「特賞と書いたくじを2つと、A賞を2つ、B賞を2つ作ってくれと言ったんじゃ。」
「あんた本気かい!こんな事が上にバレたらこの商売やっていけなくなるよ。」
「領収証も、控えもいらん。現金払いで、あんたの所の名前は出さんよ。迷惑はかけんから頼む!」
「・・・・フーッ、わかった本当にいいんだね。この仕事は他に漏れんようにワシ1人でやろう。」
タバコに火をつけ店長は言った。そして硬い握手を交わし2人は別れた。
祭り前日、てつは組合長に呼び出されていた。
「てつさん、あんた蜜祭りの申請だが、本当に良いのかい?他のくじ屋は動画でバズってるめちゃくちゃ山盛りの焼きそばとか、凄く圧縮するお好み焼きとか、10分で180個作るたこ焼き屋とかにに移行してるよ。」
「わしゃあくじ屋しか出来んよ。気にかけてくれてありがとな。」
「でも、いつものクジを注文している問屋から、今年はクジの注文が来てないって電話があったんで心配でねぇ。」
偽装はしてある。落ち着けワシ!
「今年は違う所に注文したんだよ。前回のが中途半端に余ったから、少なくても安く注文させてくれる所を息子が見つけてくれてのぉ。」
「そうかい。それならいいんだが。今年はあの動画の影響で、あんたん所ともう一つの二つだけだ。よろしく頼むよ。」
そうして組合長の部屋を後にした。さぁ孫よ、じいちゃんの勇姿を見せてやる。
最後の花道を歩く役者の気分でてつは家路についた。
そして祭り当日、少なく見積もってここ10年は鳴らしていない手持ち用のベルを鳴らした。カランコロンという音が鳴る。
「おめでとうございます。B賞、人をダメにするクッションです‼︎‼︎」サブが当たりの口上を叫ぶ。
それはツートンカラーの、マッシュルームヘッドの真似をした、弱小YouTuberがやった、『5万円で当たりが出るか検証してみた』
だった。こうなると特賞があるか気になって来る。しかし、5万円が資金の限界だったパクリ野郎は帰って一つの結論に辿り着いた。
コラボのお願いをしよう。
「前略 ヒ○ル様 貴方の動画をいつも拝見していて是非コラボをしていただきたいと思い、D.Mさせて戴きました。突然ですが、こちらの動画を見て下さい。明後日までの祭りなので、できれば明日来ていただきたいです。住所は〇〇の〇〇になります。蜜祭りです ピカル」
いつもなら無視をする、弱小YouTuberの動画を戯に見ると金と黒が自分とは逆のツートンカラーのマスクをした青年が出て来た。
「渋谷の〇〇大体〜」
挨拶までパクってる、つまんなと思いながら早送りすると、場面が祭りのくじ引きに変わった。くじ引きは熱いコンテンツなので、見て行くと5万円という、動画にするには弱過ぎる金額でのくじ引き企画だった。
しかし、何と4万5千円位で賞品が当たったのだ。
一回が500円と祭りのクジにしては少し高いが、それも当たりが入っている信憑性が高まった。
「〇えっさん、今から〇〇の蜜祭りっていうの行こっ、朝イチにはつきたいし。」
「はぁ⁉︎今夜中やで。この時間車しか無いから6時間はか・・・」
「ええからはよ準備して。」
謎のトップユーチューバーは情報提供者に返信をして、すぐに車に乗り込んだ。
翌日待ち合わせをして、目立たない場所でパーカーの帽子を被りピカルと会ってカメラが回り始めた。てつのいない所で物語は動き出した。
「はい!というわけでね今日は情報をいただいて、500万持って、蜜祭りまで来た訳なんですけど、昨日の夜中ですよDM見たの。でもねホントに当たりくじあったらピカルさんの当たりを見て他の客が一杯引いちゃってるかもしれないから、とりあえず店の前まで、時飛ばし。」
すげー!本物だよ。これで俺もバズれる今日が俺のサクセスストーリーの始まりだ。なんて思っている姿はすでにヒカ〇の眼中には無かった。
目立たないように、ハンドカメラで撮影して行く撮影チーム。件の店について展示してある景品を見て開口一番言い放つ
「とりあえず100枚!下さい。」
「んー100枚はダメだよ、子供の分がなくなっちまうだろう?本当にこの景品欲しいの?」
「はい、欲しいですちゃんとお金払うんで。」
「じゃあ5万ね。昨日もいたなこんな客。」
なんてやりとりをしていると、パーカーを脱いでマスクを外してクジを引き始めた。
「あっ!お前!あの?なんだっけ?ヒ○ル、ヒ○ルだろ。てつさん、来ちゃいましたよ。てつさん!」
店員がてつさんと呼ばれる、店長?を呼ぶ。
「んー何だサブ、交代にはまだって、来やがったな。待ってたぜずいぶん早く会えたもんだがな。サブ、三脚とビデオカメラ用意しろ。」
「へい、てつさん。」
「何してるんですか?」
「お前も撮ってるだろ。都合よく、動画編集されない様に、こっちも回してお前が都合いいもんだけを流すやつだったら、これを使う。」
ここに史上初の相互動画撮影くじ引きバトルが始まった。
「やばいな。とりあえず100枚何も出ません。てつさん、これほんまに当たり入ってます?」
「100枚しか引いてないで何言ってやがる。ヒカ〇ってのは思ったよりケチなんだな。それより何枚引いてもいいから、後ろで並んでるガキ供にも引かせてやってくれよ。子供がハラハラしたり喜んだりするのに祭りのくじ引きはあるんだからよ。」
「じゃあ僕がお金出すんで、ギャラリーの子供たちに引かせていいですか?当たりがあるなら、当たったのは引いた子にあげるんで。」
それならと、もう100枚追加でくじが売られる。ここで10万。勝負は始まったばかりだ。
ここでも中位の商品は出たが上位の商品は出ない。
「店長、これホンマあたり入ってます?もう景品でたとかとちゃいますよね?」
(おかしい、このじいさんは当たりが入ってそうな態度取ってたけどホンマは無いんちゃうか?『汚い大人』で、片付けても良いけど前回と同じ内容の動画は数字が伸びひんしな。)
「お前の運が悪いんだろ。くじ引きの神様にでも嫌われてるんじゃねーのか?心当たりあるだろ?」
(出ねえな。こっちは視界の端に孫が見えてるんだよ。さっき息子から電話が来てたのよ。お爺ちゃんに謝りたいから、今日の祭りに行くって。空気読んで早くなんか当てねーかな。)
((出ろ、出ろ))
「大将これ後何枚くらいあります?全部買うんで、もう賞品出しませんか?それとも無いちゃうんですか?」
(トップユーチューバーとして同じオチはいかん、もっとエグいことやるかプレゼント企画でもせんと。)
「400枚くらいかな。けどそれはダメだよ兄ちゃん。400枚買ってすぐ特賞でたらあんたが損になっちまう。ちゃんとあるから。」
(孫がな、エアガン持って涙ぐんでるんだよ。そんなんで景品をあげても引き金は引かれるんだよ。格好良いところ見せてやりたいんだ爺ちゃん子なんだよ。)
((もとから金じゃないんだよ‼︎))
ヒカ〇とてつの心情がシンクロし始めた時に奇跡は起こった。代理でどんどん引いていく子供の1人が声を発した。
「あっ!」
カランカランカランベルの音が鳴る。
「おめでとうございます。A賞VRヘッドセットです!」
後ろのギャラリーから地鳴りの様な歓声が湧く。ひとまずエアガンの銃身が下がる。
「見ろい!当たりはあるって言ったろ。」
(ナイス!襟足の長い金髪のガキ。お前の事は忘れない。)
「いやーまだ特賞じゃないですからね。」
(おっそいわーホンマ。それにもっとええとこで出せや。じいさんと話してる横で出されてもリアクション準備出来へんっちゅーねん。)
そして残りが147枚になった時、招かざれる客が訪れる。
「お前らしょうもないやり方をするな。祭りを荒らすな。子供のためのもんだぞ。・・・お前あの動画のやつか‼︎」
「いや、くじに当たりが入っているか確かめてるだけなんですよ。」
「組合長邪魔だ。この兄ちゃんは子供の喜ぶ事をしてくれてる。処罰は後で俺が受けるから冷めさせないでくれ。」
「いいから帰れ‼︎お前みたいのが来るほどこの祭りは・・・」
いつかの動画の焼き直しの様に強面の組合長は群衆に引っ張られ飲み込まれていった。
そして再開1発目
「ちょっと空気悪いんで、僕が一回引きますわ。ここで引いても特賞まだ1枚あるし、僕が持ってるとこ見せて特賞1つ出してswitch当てますね。みんな声出して!」
(ホンマ空気悪いわ。やっとA賞出て盛り上がっとったのに。どうせ外れるし、オーバーリアクションしてこのちょっとおもろい店長に絡んでなんとかしよ。)
後ろのギャラリーを鼓舞して10枚適当に選んで、店長の目の前に準備してお金を渡そうとする。
「あぁ。悪かったよこの10回分はタダでいいから引いてくれ。」
てつの采配にギャラリーがまた湧く
「キタ‼︎‼︎綺麗な大人や!この人は汚い大人やない!」
(店長ナイスアシスト、ギャラリーも盛り上がった。後は外して、やっぱり汚い大人って言えばええな。まぁ軽くウケるやろ。
1枚、2枚とハズレを重ねて行く。7枚目クジを開くと『特』の文字が出て来た。覗き込んだサブが
ガランゴロンと重厚感のある、音を鳴らした。
「特賞、Nintendo switch大当たりいぃぃ!!!!!」
(当ててどうするーー!)
「やっぱりあったー、このおじさんは綺麗な大人や!みんなきれいな大人がおったぞー!」
(でもおさまったー。当たり無かったら撮れ高どないしよかと思ったわ。)
「どうだ、くじ引きは楽しいだろ。」
(孫、ずっと名前ないけど大事な孫、見てるか?じいちゃんは嘘なんてつかんぞ。お前の大好きなじいちゃんだ。)
2人は目を合わせてニヤリと笑い合った。
少し離れた場所でエンディングが撮られている。
「はいっ!という事で、この店長のいる店には当たりがある様なので、皆さん〇〇地区のお祭りには行ってみたらいいんじゃないでしょうか?えっ?まだ特賞一枚ある?B賞も?後残り130枚少し?後はキッズに託して今日の動画は終わりたいと思います。さよなら。」
動画の撮影ボタンをお互いが切る。
「動画配信楽しみにしておるよ。」
「てつさんいろいろ若いっすね。またご一緒できたら嬉しいです。」
お互いの目標を達成した、2人は握手を交わし別れた。その後くじは飛ぶ様に売れ、残り20枚になったところで特賞が出た。
3日目は100枚のくじを追加して特賞を1つ用意して同時に100人引くイベントを開催したところ、即完した。てつの意外な商売のうまさだった。
ピカルは2日目に目立てなかったので3日目のイベントに参加しようとしたがヒカ〇と間違えられて組合長に連れて行かれた。
数ヵ月後、またもDMが届いた。
『拝啓ヒカルさん、あのくじ引き屋がまたとんでもない事始めました。 つぎの社長」
名前が変わってる事はほっておいて、
「まえ〇さん、〇〇にいこっ!」
同じ下りなので割愛して、〇〇地区のくじ引き屋の前にヒカ〇はいた。
「一回5千円⁉︎特賞が10万円相当のダイヤの指輪と、ゴールドバーって、もう、縁日やありませんやん。」
「何言ってんだよ。ワシもあれから勉強してな。お前さんは元々子供に夢をとか言うキッズ系ユーチューバーじゃないだろ。そういうこと言うのはヒカ〇ンやは〇めしゃちょーに任せときゃいいんだよ。」
「てつさんめっちゃ勉強しましたね(笑)にしても5千て。」
「おう、祭りの主役は子供っていうが、大人も子供も楽しめなきゃ祭りじゃねーからな。」
「それじゃあとりあえず、100枚‼︎」
「あいよ!」
てつ(70歳)の成長と物語はまだ始まったばかりだ。
連載してます。
宿屋革命
異世界転移のホテルマンはおもてなしの心を見せ付ける。https://ncode.syosetu.com/n1358gf/
リンクがどうしてもできませんでした。お手数ですが興味を持ってくれたら作者名から飛んでくれると嬉しいです。
読んでくださりありがとうございました。