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レモン  作者: あかりん棒
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プロローグ

 

 夕暮れどきのこと。俺は学校の帰り道で、ある人の路上ライブを聞いていた。

 駅の片隅で20人くらいの人を立ち止らせている者の正体は、俺と同じクラスにいる物静かな女の子だった。




 その日俺は、部活動の帰り道に駅のコンビニに寄った。最近だいぶ肌寒くなったし小腹もすいたので、冬定番の肉まんを買うことにした。

 3種類の肉まんを買い、コンビニを出てホクホクの肉まんにかぶりつこうとしたところ、駅の片隅に偶然人溜りが目に付いた。

 興味本位で近づいてみたら学校のクラスメイトがその中心でギターを弾きながら歌っていたのだ。


 そこで歌っていた女子の名前は篠崎夢羽しのざきゆめは

 学校での篠崎は黒髪ロングで、服装も崩したりしない優等生に部類される人間だった。

 身長は女子の平均身長より少し小さいくらいで、顔は俗に言う、中の上、上の下、くらいといえばわかるだろうか。

 そんな大人しめでやや可愛い女の子が弾き語りをしているのだ。

 


 これは友達に話す良いネタになりそうだなぁと思い、すぐさまポケットからスマホを取り出して録音する準備をしようとした。


 ―が、結局は俺のスマホに篠崎の歌声が録音されることはなかった。


 既に俺は録音のことを忘れるくらい篠崎の歌に聞き入っていた。

 


 篠崎の歌声は、毎日学校で見ている姿からは想像もつかないくらい力強かった。


 マイクセットも無しにギターの伴奏すらも上回る声量は、通りすがる人の興味を引き寄せる力があった。


 しかし、篠崎の歌う姿を見守っている人達が、足を止めて歌に耳を傾けている理由は声量だけではない。


 彼女の歌声は力強いが、音が散ることはなくはっきりとした発音で歌詞が耳によく入ってくる。


 なによりも俺が感じたのが、歌うときの語尾の特徴が彼女の持ち味だと感じた。


 声が少し裏返るような―それでも違和感など感じられず、むしろ可愛げのある印象を受けた。


 俺は肉まんを食べるのも忘れるくらい篠崎の歌の魅力に惹かれ、ずっと篠崎の歌を聞いていた。




 篠崎は俺が着いてから2曲歌い終わると、路上ライブの終わりを告げた。


「少しの間でしたが、聞いてくれてありがとうございました!」


 学校では見られないキラキラした顔で篠崎が挨拶をすると、ぱちぱちと拍手が送られた。「よかったよー」とか、「次はいつやるんですか?」などと篠崎に声をかける人も数人いた。

 その声を掛けてくれる人たちと会話する篠崎の表情は、笑顔であふれていた。

 


 いつも学校では見られない笑顔をみて、俺は不覚にも可愛いと思ってしまった。


 「―、これがギャップ萌えってやつかぁ」


 俺は、人生で初めてのギャップ萌えを経験した感慨にふけた。

 声を掛けてくる人の対応する篠崎に、自分も便乗して声でも掛けようかと悩んだのだが、学校では全然喋ったこともないし、なんだか篠崎の秘密を盗み見たような感じがしてそそくさと家に帰った。



 家に着いたころには肉まんは全部冷めていた。

 

 だがその日はクラスメイトの知らない一面を見るができ、なんだかすごく得した気分になった。





 

 

 

 



 

はじめての投稿ですが、あたたかい目で見てくれるとうれしいです。

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