2話。勇者スギタ
毎日投稿はしないと言ったな。アレは本当だ。
「くっ!貴様ら!捕虜にこんなことをしてただで済むと思ってるのかっ!」
前線に近い砦の奥で若い女が叫び声…と言うか非難の声をあげていた。
彼女が率いる部隊は目の前の男たちの奇襲を受け崩壊した。このままでは抵抗もできずに全滅すると判断した彼女は、自分の身柄と引き換えに部下だけは逃がすと言う交渉をして、こうして囚われの身となったのだが…
その扱いは捕虜と言うよりも戦利品と言う形であり、武装解除は当然として、両腕には鎖で枷まで付けられている。そして砦の奥に連れられてきたと思えば、部屋に置いてあるのは粗末なベッドのみ。
あまりにも非常識な扱いに頭の中が真っ白になっていたところを、後ろからドンッと押し出され、ベッドに倒れこんで発した一言が先ほどの非難の声で有る。国際的な常識で考えても捕虜に対してこのような扱いは許されない。
もしもコレが公表されてしまえばこの国の国際的な立場は地に落ちるし、今後この国の人間が捕虜にされた時に報復を生むのは必至だ。
だからこそ彼女は捕虜の扱いを知らないこの野蛮な指揮官に説教をしてやろうと思い、先ほどの非難の言葉を発したのだ。しかし、今回は相手が悪かった。
「ハッハー!ただで済まなきゃどうなるってんだ?俺は勇者でお前は敵だ!捕まえた敵に慈悲なんかいらねぇんだよっ!お前と言い他の奴等と言い、生温いこと言いやがって!現実を知らねぇお嬢さんに1つ教えてやる。いいか?死ぬ覚悟がねぇヤツが戦場になんか出るんじゃねーよ!」
己を非難する女に対し、謎理論を語りながら心底楽しげに笑う若い男と、その取り巻きたち。
「ば、馬鹿な…勇者だと…それに他の奴ら?貴様、まさか今までもこんな真似を?!」
相手が勇者だと初めて知ったのだろう。女騎士の顔色が明らかに青く染まる。相手が正規軍なら交渉の余地はある。だが相手が勇者ならこの後自分は……
「……く、来るな!止めろっ!私から離れろっ!」
交渉?違う。質問?違う。尋問?違う。…これから自分がナニをされるのかを理解した女騎士は無遠慮に自分に近付く男たちから距離を取ろうとするが、そもそもが狭い部屋。すぐに追い詰められてしまう。
「それ以上近付くなっ!例え勇者とてこのような真似はっ!」
「…うるせぇなぁ。おい、口になんか詰めろ」
「はっ」
「止めろ!私に触るな!この下郎ど「うるせぇ!」うあっ!」
必死で抵抗して取り巻きの連中たちを遠ざけようとしていたが、勇者を名乗る男に攻撃を加えられ、気絶する寸前までダメージを受けてしまい、女騎士は抵抗する力を無くしてしまう。
「あ~しくった。色々諦めて大人しかったり、ずっと泣いてばかりのには飽きたから、こうして活きが良さそうなのを捕まえたのによ。これじゃいつもと同じじゃねぇか……いや、まだ反抗的な目をしてるな。へへへ、やっぱ○○○はこうじゃねぇとな!」
口に布をくわえさせられ、両腕を枷で繋がれ、両足を無理矢理開かされている騎士は、それでもうーうーと呻きながら勇者を名乗る男を睨み付けるのを止めない。
彼女からすれば精一杯の抵抗なのだろうが、ソレが男にとって最高のスパイスになると知らなかったのは、彼女にとって不幸なことだったのだろう。
「お、ラッキー。初物じゃん!」
女騎士に屈辱を与えるためか、それとも勇者の趣味なのか、わざわざ声に出して周囲に伝えていく。
「うー!うー!」
囚われの身となり、尊厳をこれでもかと踏みにじられている女騎士は、自分の下半身を見てくる男たちの視線から逃れるために涙目になりながらも必死で腰を動かすが、それもまた勇者にしてみれば誘っているようにしか見えないわけで……
「あぁ、さっさとシテくれってか?んじゃお言葉に甘えてヤらせてもらうぜ。あぁはじめてでもちゃんと入るようにする専用の油が有るから安心しな!ハハッお前成人の日だぞ!」
そう言いながら勇者はカチャカチャとベルトを外してズボンを脱ぐ。その間に取り巻きの男たちは専用の油とやらを女騎士にかけたり、女騎士の上着を切り裂いたりと、準備を整えていく。
「お前らも良くみておけよー」
「「「オナシャス!!」」」
「暴れるなよ…暴れるな…」
「むー!!むーー!!!むーーー!!!!」
…言葉にならない女騎士の、いや少女の叫び声が室内に響き渡った。
「ふははははは!やっぱ旬の初物は格別だぜっ!」
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依頼を受けてから四日目。勇者スギタを見張って三日目になるが、ヤツは今日も今日とて盛っていた。
簡単に集めた情報によると、ヤツの最近のトレンドはその辺の町娘を無理矢理拐うか、捕虜にした騎士や貴族の女を犯すことらしいが…今日は後者だったらしい。
気分で前線に出たり後方の街で女を漁ったりと、忙しいことこの上ない上に、肝心の行動基準が気分なので行動予測が難しかったのだが…今回ヤツは奇襲で敵の部隊を襲撃し、あの女騎士を含む何名かの敵(女限定)を捕虜として捕らえ、連日あのような行為に及んでいた。
もちろんヤツが言うように敵だからと言って捕らえた敵に何をしても良いなどと言う法は無い。むしろ貴族や騎士の扱いと言うのは、後日に身代金の要求や人質交換に使う為ある程度の配慮をするのが通例になっている。
誰だって自分が捕虜になったときに手荒な扱いは受けたくないしな。その為、捕虜の扱いは法として明文化はされては無いが、ある種の紳士協定として各々の国でルールが定まっているのだ。
だからこそ彼女は投降したはずなんだが、その相手が悪かった。紳士協定?ヤツは勇者だぞ?紳士とは正反対の存在だ。
『(百歩譲って変態紳士ね)』
ナイアが上手いことを言ってきたが、まさしく変態だよ。
彼女もこちらに勇者が居ることを知っていれば、部下の命と引き換えの投降などしなかっただろうに。
「どーだ俺のご立派様は!」
ご立派どころか平均以下であり、取り巻きの連中も全員が勇者以下だと判明しているがな。
「その辺の村娘と違って良いもの食ってるから体つきが違うし、鍛えてるから活きも良いときた!ははっ女騎士は最高だぜ!どうだ?お前もそう思うだろ!」
「うぐっ!あぐっ!むぐぅ!」
少女は言葉にならない呻き声をあげ、泣きながら首を左右に振るが、彼女の心中など勇者には関係がない。
「ほら!まずは一回目だ!」
「う、うーーー!」
自信満々に繰り出される一回目。時間は五分も経ってないが、コレが勇者スギタの平均らしい。誰が呼んだかゴブリンスギタ。特徴を押さえた良い二つ名である。
で、一回出したらその後は…
「へへっ、勇者様。あとはいつも通りにしてもよろしいんですかい?」
勇者と女騎士の行為を眺めていた取り巻きたちが、ニヤニヤと笑いながら勇者に確認を取る。
「おう、好きにしろ。あぁ一応最後にもう一回俺がやるから、使ったら綺麗にしとけよ?」
「「「ヒャッハー女だー!」」」
自分がナニをされたのか理解して放心している少女を、当たり前のように取り巻きに使わせるスギタ。取り巻きたちも、もはや捕虜に対する礼義など関係ないと言わんばかりに少女に群がる。
その姿はまさしく野獣。その行いは蛮族の所業。
…あんなのを日常的にやってたらそりゃ殺害依頼も来るわな。当たり前に外道働きをする勇者に対してそう評価を下すが、そもそも少女を助けることも出来た自分が、勇者を観察するためにあえてアレを放置している時点で俺も同じ穴の狢と言える。
まぁ俺はあいつらの国の兵士じゃないし、一応勇者の言った覚悟云々は間違いではないからな。
常に命を危険に晒す兵士たちに比べれば、指揮官連中に危機感が無いのは事実である。それは高位の貴族になればなるほど顕著になり、勇者が召喚されるようになるまでは、民衆や兵士が最も嫌うのは戦場に出てくる高位の貴族であったと言うことも有名な話だ。
だから少しは同意できるところも有るのだ。………本当に少しだけだが。
なにせ今ではダントツで勇者の方が嫌われているから、彼の言う言葉に説得力など皆無。彼らは目の前のスギタのように敵は殺すし捕虜も犯すのが基本と言う獣である。
ちなみに基本から外れる場合は、敵を殺さずに敢えて半殺しにしたまま放置したり、戦争中に止めをさそうとした味方を止め、的外れな説教をして場を混乱させようとするのだから、指揮官にせよ兵士にせよたまったモノではない。
そんなわけのわからない価値観を振り回して最終的に被害を拡大させると言う彼らは、面の皮の厚い貴族以上に嫌われている。
何せ貴族は保身に走るだけで済むが、勇者は敵だけでなく、味方や戦場近くの村や町の人間にまで被害をだすのだから。
それはともかくとして、今の連中は隙だらけだし、それなりのプランも出来た。依頼人を待たせるのもアレだしそろそろ殺すか?
十分観察も終わり、いつでも殺せると判断した俺は最後に勇者の戦力調査も兼ねて軽く殺意を向けてみる。コレに反応しないようなら逆に困るのだが…そう思った俺の考えは杞憂に終わった。
今までずっとニヤニヤしながら取り巻きの男たちに嬲られている少女を眺めていた勇者が、急に真顔になり外に視線を向けて来たのだ。
「勇者様、どうしました?」
彼の態度の急変に、順番待ちをしていた男が何かあったのかと確認を取る。
「んぁ?…ちょっとな。少し出てくるから、俺がヤるまで殺すなよ?」
取り巻きにそう言って勇者が部屋を立ち去るのを見て「あぁトイレか何かか」と言った感じで見送る取り巻きたち。女騎士、もとい少女は傍若無人な勇者が消えたことで、これで自分も助かるかも…と淡い期待を抱くが…
「「「ヒャッハー!」」」
彼らは勇者が居なくなったからと言って残された少女を救助したり、紳士協定に従って丁重な扱いをするような連中ではない。逆に今の言葉を「殺さなければ何をしても良い」と解釈した男たちは、コレ幸いと少女に襲いかかる。
「う、うぐぅぅぅぅぅぅ!」
少女にとっての絶望の時間はまだ終わらない。
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「さぁ、そろそろ出て来いよ」
少女の声にならない声が響く部屋を出て、そのまま砦の外に出てきたスギタは誰も居ない暗闇に向けて剣を構える。第三者が見れば何をしてるんだ?と思い、スギタが狂ったかと判断するような光景だが、あいにくとスギタは行動は狂ってるが、戦士としてはソコソコに優秀だ。
「おや、バレてましたか」
一向に構えを解かないスギタに対して、コレ以上は無意味と判断したか、誰も居ない筈の場所から浮かび上がって来るかのように男が姿を現す。
顔は覆面で隠してるので不明だが、身長はおよそ170~180。体重も70~80くらいだろうか。
一般人にしてみたら体格は良いとも言えるし、兵士にしては物足りない。服装は密偵風の黒っぽい服で、特に特徴と言えるような特徴が感じられない。そんな感じの男だった。
「あぁ、昨日から居たろ?今までは監視役を兼ねた伝令か何かだと思ってたが…」
「おぉ、ソコまでご存知とは流石勇者様!。実はその通りで…「演技は要らねぇよ。お前が敵だってのは分かってる」…ほぅ」
密偵風の言葉を戯言と斬って捨てるスギタ。その言葉には明らかな確信が有る。
「俺に誤魔化しは効かねぇよ。職業は冒険者で、名前は…ミューラー?ドイツっぽい名前だが、まぁ勇者じゃねぇのは分かる。ソレにレベルも48?あぁかなりのモンだ。その辺の騎士じゃ勝てねぇだろう。だが俺は勇者だ!俺には絶対に勝てねぇ!だから暗殺を狙ってたんだろう?残念だったなぁ!」
スギタは自信満々で密偵風の男の情報を明かし、油断なく構えていた構えを解きその剣を肩に置く。
隠れ潜む事を第一とし、さらに何よりも情報を隠すべき密偵が自らの情報を暴露されるのだ、この時点で勇者が圧倒的優位な立場にあると言うのは言うまでも無いことだろう。
「…ソレがアストレアの勇者が持つと言う鑑定と悪意を見抜くと言うレーダーですか…厄介な」
苦々しい声を出す密偵風の男。ソレを聞いてスギタは、思わず上機嫌になる。活きの良い女も良いが、こうして自分を殺しに来たヤツを返り討ちにするのはまた違った喜びが有るからだ。
「お?少しは知ってるみたいだが、肝心の俺の実力を見誤ったな。こうして俺に見つかった時点でお前は終わりだ。どこから送り込まれて来たか知らねぇが…一つ良い事を教えてやる。俺のレベルは153だ!」
相手に絶望を与えるように自分のレベルを明かすスギタ。ソレが本当ならレベル差は105。絶望的と言っても良いだろう。
「本来ならハンデで左手一本で戦って、絶望を与えてから殺してやっても良いんだがなぁ。今はお楽しみの最中なんだよ。だからおめぇに構ってる暇は……ねぇんだッ!」
その言葉を言い終わるかどうかと言う所で、スギタが無造作に右足を踏み出し全力で突進する。そしてその速さにまるで反応出来て居ない密偵風の男に対して、剣を振り下ろした。
勇者として鍛えられたステータスをフルに使った突進からの振り下ろし。単純だが強力なこの攻撃。
コレに神の加護による確率補正が入るのだ。この、同じ勇者ですら回避も防御も困難な一撃こそが勇者スギタの必勝パターン。今までこの攻撃で倒せなかったヤツは存在しない。
「クルルァァァ!死ねやぁぁぁ!」
レベル差に裏付けされた実力の差を疑うことも無く、絶対の自信を持って振り下ろされた一撃は密偵風の男を紙のように切り裂いて…
「………あん?」
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誰も居ない暗闇に話しかけ、誰も居ない暗闇に剣戟を加えたスギタは、何があったんだ?と手応えが全くなかったことを訝しむ様に己の手を見る。だがソレは目の前の敵だけではなく周囲にまで張っていた警戒心を緩ませる行為に他ならない。
そんな隙を見逃すほど俺は甘くは無いぞ?
密偵風の男が居たところとは全く違う方向から繰り出された刃がスギタの眼前に迫る。
「なっ?!ちぃっ!」
いきなり眼前に現れた刃を回避。それと同時に腹部に投げられていた刃を防いだのは、神の加護も有るだろうが、スギタが勇者として場数を踏んでいたからだろう。だが甘い。
「…がっ!!」
眼前、腹と二か所の同時攻撃を防いで気が抜けたか?同時攻撃が二か所と誰が決めた?
背後からの一撃を回避出来ず肩口から切り裂かれたスギタは転がって間合いを取ろうとするが、ソレを黙って見逃す義理は無い。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
前転して間合いを取り、コチラを視認しようとしたところに、彼ら異世界人が棒手裏剣と呼ぶ暗器を突き立てる。完全に体勢が崩れていたスギタは回避もできず、その一撃を左目に受けることになった。
「目が!目がぁぁぁぁ!」
本来ならこの一撃で殺せたが、依頼人のオーダーは「出来るだけ惨たらしく」である。彼に対して「善処する」と言った手前、やれるならやるべきだ。
「(ナイア)」
『(りょーかい!)』
「おいヤメルルォ!!貴様ナニしやがるぁぁぁ!!」
スギタの目からは止めどなく血が流れていく。いまだかつて経験をしたことが無い激痛と状況にスギタが狼狽するが…まぁ今まで勇者として生きて来たならば、現状に納得など出来ないだろう。
本来勇者は神の加護が有り、傷の回復は恐ろしく速いし毒も通じない。出血もすぐに止まるし痛覚も鈍いのか痛みに対する非常に高い耐性がある。
もしも自身で回復魔法が使えるなら、潰された目もこの場で回復させることが出来たはずだ。
だが今の彼はどうか?感じたことが無い痛みを感じるし、傷は一向に塞がらない。その上で流れる血も止まらないし、今も使っているはずの回復魔法も意味を成していない。
まさしく異常事態だ。俺に対して叫び声をあげるのも無理は無い。
まぁ教える気は無いが。
何処でアストレアやその使徒が監視してるか分からない以上、冥土の土産と言っても情報を渡すつもりはないし、そもそも細かく言えば俺も原理は分かって無い。
ただナイアが勇者から加護を奪っているのは分かる。ナイア曰く『ご都合主義殺し』これにより勇者特有の能力は全て失われ、彼らは一般人と同じ領域まで堕ちることになる。
「力が…俺の力がっ!」
己の身に起きてることを自覚したのか、目を押さえながら必死で何かが出て行くのを妨げようとするが、残念ながらナイアによる捕食は、一度食いつかれたらその力が全て絞りつくされるまで開放されることは無い。
『(しゅーりょー!)』
そう言って俺の中に戻って来る(と言うか俺の中に居るのか?)ナイア。彼女はその力で他者の命を奪うことは無い。ただ『勇者としてのスギタ』を殺しただけだ。
「あ…か、返せ!返せよぉぉぉぉ!!俺の力を返しやがれぇぇぇ!」
勇者としての力を無くした子供が斬りかかって来るが、その速さは先ほどまでとは比べモノにならないほど遅く、軽く、弱い。
普通に考えれば、加護を無くしたところで、今まで鍛えたステータスやら技術やらが残るはずなので、ソレを万全に使えればもっとまともな攻撃が出来るのだ。だが加護を無くした勇者は何故かステータスの面でも著しく弱体化する。
ナイアが奪った『神の加護』が勇者にとってどれほど大きな意味を持つのかが良く分かる一例と言えよう。
「返せ!返せこのチート野郎が!卑怯だぞ!!」
……とにかく、俺の目の前に居るのは少しレベルが高いが、その力の使い方を理解していないガキだ。
ボキッ!「ぎゃぁぁぁぁ!!」
隙だらけで稚拙な攻撃を加えてきた左腕を折る。
ゴキッ!「あぁぁぁぁぁぁ!」
目を抑えていた右腕の肩を外す。
ザクッ!「がぁぁぁぁぁぁ!!」
両腕を投げ出して隙だらけの胴体に毒付きの短剣を突き立てる。
レベル差が有ろうが何だろうが、関節は砕けるし刃も通るんだよ。
そもそもミューラーって誰だ?いや、ナイアが鑑定を誤魔化すためにダミーのステータスを貼ったのは分かるんだが…
「あ…が……ご………」
白目を剥いて痙攣するスギタを見下ろすが、どの程度が依頼人にとって惨たらしい死なのかわからない。
なので俺はコイツに敢えて止めを刺さずこのまま放置して、一番キツイと思われる刑罰を処すことにする。
精々地獄を見ると良い。
依頼人を待たせる気も無いのでさっさとその刑罰を実行しようとその場を後にしようとする俺に、ナイアから『ちょいまち』と声がかかる。
『(コイツは勇者として間違いなく死んだからコレで良いとして、あそこに居る取り巻きはどうするの?)』
ナイアが言う「あそこ」つまり砦の中に一室では、スギタが帰って来ないことを不思議にも思っていない男どもが、自分たちでは滅多に味わうことが出来ない身分である少女を「この機を逃がすものか」と言わんばかりに貪っている。
「何もしないさ」
『(何もしない?)』
確かに依頼には含まれてないが、依頼人の妻や娘を殺したのは彼ら取り巻きである。自分に魂を捧げると言った依頼人の事を考えれば、少しは配慮してやりたいと思うのだが…
「アレは依頼に含まれてないからな。それに…俺がどうこうする必要もないだろう?」
耳を澄ませば遠くから「お嬢様を救え!」と言う声が聞こえてくる。部下を活かすために虜囚の身になったのだ。ならばその部下が彼女を助けに来ることも当然と言える。
コチラに勇者が居ると分かってれば、彼らの行動ももっと遅れたのだろうが、スギタが勇者だと分かってるのは直接言われたお嬢様だけ。
だからこそあの連中は、自分たちを庇って虜囚となった彼女を救うことに躊躇はしない。
今までソレが来なかったのは、恐らく勇者の持つ『ご都合主義』の影響だろう。捕虜を辱め、加護を無くし、両腕を壊され、毒に侵された元勇者とその取り巻きがどうなるか…きっと依頼人も満足するはずだ。
スギタの装備を破壊した後に使った道具を回収し、勇者殺しのトレードマークとなったナイアの刻印を大地に刻んでその場を去る俺。
そして俺と入れ違うようにその場に現れた連中は、半死半生のスギタを見て訝しむも、大地に刻まれた勇者殺しの刻印と、コレが自分たちを襲って「お嬢様」を攫った連中のリーダーだと理解する。そして施していた治療を最低限で止め、半死半生のまま彼を拘束することにした。
すぐに殺さずに最低限とは言え治療を行ったのは、彼らが捕虜になった「お嬢様」と「勇者」の人質交換をする為の処置だったが………この後乗り込んだ砦の中で「お嬢様」がどのような目に遭っていたかを知った彼らが、主犯の「勇者」とその取り巻きにどのような行動に及ぶのか…ソレは語るまでもないだろう。
三日後、勇者スギタは処刑された。彼が捕らえられてからの三日間の間に何が有ったのかは誰もわからないことだが、その顔には目も、鼻も、耳も無く、歯は全て叩き折られたか抜かれたか一本も無い。また舌も途中で焼き切られていた。
凄惨なのは顔だけでは無い。両手の指はぐちゃぐちゃにされ、全ての爪は剥がされていたし、足は指が全て無くなっていた。また体中の肉と言う肉が削り取られ、条約で禁止されている「回復魔法を使いながらの拷問」をされたことを隠そうともしなかったと言う。
そして彼の処刑方法は、全身を柱にくくり付けた石打の刑であった。なまじステータスが高いので一般人が使う石では死ねず、餓死するまで柱に括りつけられ、石を投げられると言う凄惨な処刑方法だが、処刑する側がスギタの行いを公表したことも有り、召喚した国家も教会も彼を擁護することは出来なかった。
更に彼の威光を利用していた取り巻き達は全員拷問の末に死んでおり、同じように利益を得ていた家族は家名を公表され、そのすべてが相手国に引き渡された。
幼い子供は…と言う声も有ったが、彼らの被害者は相手国だけではない。国内の被害者に対して、幼いから慈悲を掛けたなどと言おうものなら暴動が起きるだろう。
その為「せめて拷問されないように」と引き渡しの前にギロチンで殺す程度の慈悲を掛けるのが精一杯であった。
そして諸悪の根源と言われたスギタが死んだのは柱に括りつけられてから3日後のこと。最後まで謝罪の言葉を口にすることは無く、その最期の言葉は「か…かえ…せぇ」で有ったと言う。
ソレはとある廃教会で、とある男が、とある依頼をした10日後のことだった。
そして王都から二日ほどの距離にあるとある村のとある廃教会では、中年の男性が心から満足したような顔で眠りに着いていたと言う。
最初からこの流れは決まってたのでこの話が早く仕上がっただけでして、今後は不定期になる…予定です。
直接的な表現は無いのでR-18にはならない…はず。
ならないよね?ならないんじゃないかな?ならないといいなぁ。
スギタ=サンがどこかで聞いたような言語を多用している?
きききき気のせいじゃないですかね!ってお話。
だけどイメージはcv杉田智〇だったり…大丈夫だ(本人は見て無いから)問題ない