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1話。依頼

ふと思い付いたので書いてみました。


他の作品とは違い、毎日更新は不可能でござるよ。

王都から馬で二日ほどの位置にある、どこにでも有る宿場町の、どこにでも有る廃教会の片隅で、ボロボロの身なりをした男が隣に座る男に袋を差し出し、頭を下げていた。


「頼む!いやお願いします!コレでヤツを殺して欲しい!俺、私の全財産です!足りないならなんとかして金は作ります!私を奴隷として売っても良い!だからヤツを!なんとかしてヤツを殺してください!」


必死さを感じさせる声で頭を下げる男に対して、椅子に座る男は無表情のまま顎に手を当てて何やら考え込んでいるようだ。


その男の髪はやや明るめの茶色、目の色も茶色。身長は170~180。体重は70~80で、やや肉付きが良いとも言えるかもしれないが、普通と言っても良いだろう。


さらに服装も特に目立った所もなく、極端な話王都周辺を歩けば3人に1人は彼と似たような男を見つける事が出来るだろう。


まぁ俺なんだが。


「お願いします!もう俺には何もねぇんだ!だが俺じゃヤツを殺せねぇんだよ!アンタしか居ないんだよっ!」


つーか、俺の隣に座っていた筈の男はいつの間にか椅子から降りて床に膝を着き土下座して人殺しを頼み込んで来る。ちなみにこの男の名は知らん。あくまで依頼人でしかない。


自分を俺と呼んだり私と呼んだり、頑張って丁寧語を話そうとしてるが…まぁ話し方なんてどうでも良いんだ。


「……その話、詳しく聞こう」


依頼のルールを守ってる以上、聞かないって選択肢は無いんだからな。


「おぉ!」


それまで無言だった俺が詳細を聞くと言うだけで、土下座をしていた男は悲痛な顔から一転し、希望を見出だしたかのような顔をする。


いや、話を聞くだけだからな。場合によっては断るし。つーかなんで最近こんな依頼しか来ないんだよ。溜め息を吐きたくなるが、今は依頼人の前なので、必死で我慢する。


「お、俺。いや私の娘はヤツに無理矢理拐かされたんです!国に認められ、教会に認められてるヤツは何をしても裁かれない!!なんとかして欲しいと妻と一緒に教会に懇願しに言ったら偶然近くにいて話を聞いていたヤツが私を殴り倒し、兵士に命じて私を取り押さえたんだ!そして動けない私の前で娘を……、さ、さらに妻までっ!し、しかもヤツだけじゃなく取り巻きの連中全員でだ!そして二人は興奮した奴等の手によって首を折られて………」


そこまで言って、男は言葉に鳴らない嗚咽と恨み言を繰り返している。


「(ナイア?)」

『(嘘は言ってないわ)』


はぁ……泣きじゃくる男の後頭部を見ながら、今度こそ溜め息を我慢できなかった。


……また勇者か。コレが今の俺の素直な気持ちだ。


こう言うのは最近良く有ることで、なんでも教会や国が他国や他種族を相手にした戦争に使うために異世界から定期的に勇者を呼ぶらしく、呼び出された彼らが大なり小なり問題を起こしては、こうして勇者討伐の依頼が来るようになっていた。


どうやら呼び出された勇者は基本的に子供で、最初は戦場に出るのを嫌がると言うまともな感性が有るようなのだが、王家や教会の神官たちは誉めて誉めて誉めまくり、これでもかと持ち上げて、何とか戦線に投入するようだ。


とは言え、何の経験もない子供を戦場に投入なんかしたら、普通なら死ぬ。百パーセント確実に死ぬ。


だが彼らは基礎能力も高いが何より成長力がすさまじく高いし、いざと言う時の運と言うかなんと言うか、まぁソレがあるのでしっかりと生き抜いてしまう。


問題はその後だ。こうなると元の素養もあり彼等は戦場で獲た経験値で簡単にレベルを上げてしまう。その結果、一般的な努力と言う過程を無視して力を手に入れてしまった子供が、調子に乗って好き勝手をしてしまうようになるのだ。


戦場から帰ってきた兵士はタガが外れて問題を起こすことが多いが、なまじ異世界から来て、更に異常な力を持つ彼等による被害の度合いは常人の予測を遥かに超えてくる。


そして国や教会も、そんなタガが外れた勇者の行動を嗜めたりはしない。まぁ国にしてみれば、何の後ろ楯もなく、その辺の一般人よりも簡単に騙せて、さらに戦争に協力的で、そして何より力がある勇者を優遇するのは当然と言えるからな。


むしろその辺の貴族と違って功績を立てても土地をやる必要がないので、使い倒す分には非常に楽なんだとか。


だが勇者と呼ばれる連中は基本的に性格が宜しくない。出された飯は残すし、女は飽きたらすぐに捨てるし、詳しく知りもしないくせに政治やら何やらに口を挟もうとするとか、とにかく面倒なのだ。


それに連中は二言目にはチキュウでは~だとかニホンでは~とか抜かす上に、こっちの礼儀やら作法を理解しようともしないから貴族連中は関わろうとはしない。


技術に関しても口煩い。なんでも向こうには魔法が無いらしく、魔法無しの技術が発達してるらしい。


そしてそのニホンの技術こそ最高!みたいな感じでとにかく魔法でソレを再現させようとしてくるので、プライドが高い魔術省の連中からも嫌われてるし、自分達の先達が培ってきた今の技術を頭から否定されてる技術省の連中からも嫌われてる。


商人達から見ても、自分達の既得権益に口を挟んでくるから嫌われてるし、農業に至っては作物を無駄にするのが仕事みたいな感じで、とにかく手を出せば失敗する。


そんで、二言目には「コメならなんとかなるのに…」だの、やっぱり「土も種も違うから…」とか言って諦めて放置して行くのが一連の流れとなっている。


中途半端に手を加えられた挙げ句に放置された土地はまた1からの整地や開墾が必要なのだが、あくまで実験なので国からは何の補填もされない……それで幾つの村が潰れたことか。


今ではどこの国でも勇者用の畑が用意されてて、彼らが何かを言い出したらそっちでやらせるって話になっているらしい。


…もうわかったと思うが、勇者ってヤツはとにかく世間に嫌われてる。奴等を好むのは、戦う力は持っているが全体的に未熟な彼らを顎で使える王族や神官どもだけだ。


それも内心は戦奴と見下していて、自分達にとって都合の良い猟犬程度の扱いである。


つまりコイツの妻や娘は猟犬にやる餌として使われたんだな。そうしないと周りの兵士の家族や貴族の娘まで狙ってくるらしいし。


まさに狂犬。最低限の分際を弁えてる分、甘やかされた貴族のボンボンの方がまだマシだと言う世の中の評価に異論を唱える者は居ない。


別の国じゃ王女が人身御供みたいな扱いで勇者の饗応役にされるんだとか。結果的に増長した子供が好き勝手して、目の前の男みたいな被害者を産み出す。


中には勇者は拉致被害者なんだから保護されるべきだ!って連中も居るらしいが…被害者だからって何しても良いわけじゃないだろ。


それに拉致された被害者だって言うなら拉致した国や教会が保護して、勇者が何かをやらかしたら保護者としてしっかり補填しろって話だ。


あとは教育だな。奴等は自分達の方が学が有ると思ってるから、こちらの言葉を聞こうともしない。言ってしまえばあまりにも独善的すぎる。


中には奴隷商を襲撃して、そこに居た奴隷を無理矢理奪うなんて真似もしていくらしい。あとは奴隷を勝手に解放しようとするんだよ。連中は良かれと思ってやってるかも知れんが、勝手に解放された奴隷には、行く宛も無ければ身分証もないんだぞ?


そうなればスラムに行くか、ソイツらを利用しようとする悪党に拾われて、その辺の奴隷よりも酷い扱いを受けることになる。


結局のところ、勇者と言うのは戦場以外では役に立たない存在で平時は「奴等がいて誰が得するんだ」ってくらいヤバイ連中なんだ。そんな連中だから被害者の数が膨れ上がるし、方々から勇者を殺してくれと言う依頼がギルドに溢れるようになった。


何せ国だって常に戦をしているわけではない。統治だって立派な仕事だ。その統治の邪魔をするのが勇者なのだ。


大人しく前線の砦で敵の国が呼んだ勇者と睨み合ってくれるならソレが一番良いのだが、それでも前線の砦の兵士の士気はがた落ちする。


国や教会はわざわざ女の冒険者や神官を派遣して勇者の相手をさせるのだが、奴等はソレに満足することなく女の騎士やら兵士にも手を出すし、そもそも奴等は指揮官の命令を聞こうとしない。


結果として指揮系統がガタガタになるのだ。それでも相手が召喚した勇者と殺せるのは同じ勇者だけなので、どうしても優遇しないといけない。


で、勇者だけじゃなく勇者の取り巻きも調子に乗る。特に自分から望んで勇者の元に行く冒険者や神官は大半が勇者の権威やら何やらが目当てだからな。


親衛隊みたいな振る舞いをして周囲に迷惑をかけるわけだ。具体的にはこの依頼人の娘や妻にしたようなことが日常化している。


そして様々な連中が奴等の対処に悩んでいたとき、俺は条件付きで勇者限定の復讐代行業を行うとある組織に打診したんだ。


最初はいぶかしんだ連中だったが、試しに…と依頼された勇者一行を無事殺害したことで、俺はそう言う業界の連中から一定以上の信頼を得ることに成功した。


それからと言うもの「勇者殺し」の名は知る人ぞ知るモノとなり、ある協力者の協力もあって、こうして依頼人から依頼を受けることになってるんだ。


まさか馬鹿正直にギルドに「国や教会が認めた勇者を殺します!」なんて言うわけには行かんしな。


場合によっては勇者を喚んだものの扱いきれなくなった国からも依頼が来るのだから、全くもって因果な商売だ。まぁ俺としても勇者を殺すことで得があるから文句は無いんだがな。


そこで今回の依頼人だ。ナイアに確認を取らずとも嘘は言っていないとわかっては居たが、世の中にはどんなスキルが有るかわからないから、油断は禁物だ。


さらにこの商売は国や教会を完全に敵に回すことになるので、秘密厳守鉄則である。


「わかった。その依頼、受けよう」


「ほ、本当に?!」


床に土下座をしながら泣きじゃくる男にそう告げれば、彼はバッと顔を上げ、泣き笑いのような顔を見せた。そしてありがとうございます。ありがとうございますと何度も繰り返し頭を下げる。


相当憎んだのだろう。相当苦労して金を集めたのだろう。その服やひび割れた手の甲を見れば、彼がどれ程の思いで俺には依頼をしてきたかがわかる。


「とは言えこれは契約だ。こちらの出す条件をそちらが飲むかどうか。それによっては依頼そのものが無かったことになる」


「じ、条件?な、何でも言ってくれ!俺、いや、私に出来ることならなんでもします!」


『(ん?今なんでもするって…)』

「(ナイア……後にしろ)」


まったく、人間の悲壮感などどうでも良いのはわかるが、今は空気を読んでくれよ。


さきほどとは別の意味で溜め息を吐きたくなるが、まずは契約を交わすことを優先しよう。


専用の契約書を懐から出し、文言が相手にしっかりと見えるように広げる。


「文字は読めるか?」


「は、はい!」


「結構。ならば確認してくれ。問題が無いならそこに自身の血を使ってサインをすれば良い」


指先を切る為のナイフと一緒に契約書を渡す。


たまに字が読めないヤツが居るからな。その場合は俺が口頭で伝えるんだが、正直面倒なんだ。


そして俺の言葉を受けて、契約書に書かれた内容を真剣に読み込んでいく依頼人。


契約書としての体裁を保つために長々と書いては居るが、簡単に言えば以下の十項目だ。


①俺のことは誰にも言わない。

②依頼のことも誰にも言わない。

③契約のことも誰にも言わない。

④料金は前金制。ただし失敗した場合は全額を返済する。


⑤依頼内容に嘘や隠し事が有れば殺す。

⑥依頼が成立してもしなくても2度と接触はしない。

⑦依頼のキャンセルは不可能。


⑧依頼が達成された際、依頼者も死ぬ。

⑨死した後の依頼人の魂は勇者に加護を与える正義のアストレアではなく、ソレを打ち破る神であるナイアットに捧げられる。

①~⑦の上記のいずれかに反した場合は死ぬ。


と、まぁこんなところだな。①~⑦に関しては、まぁ依頼の内容を考えれば当たり前のことである。依頼人を装ったり、コイツを餌にして俺を釣り上げようとする場合が有るから、隠し事なんかの確認は大事なのだ。


ただ依頼人にとって重要なのは⑧と⑨だろう。


ここには補足を入れないとイメージが悪いからな。きちんと説明しよう。


「⑧と⑨については俺の使う特殊なスキルが有ってな。依頼者の恨みの籠った魂の力でもって勇者の加護を打ち破り、勇者が勇者たる力を破壊するんだ。そのせいで依頼者は勇者に力を貸すアストレアの敵と認定され、死後はその加護を受けることができなくなる」


イメージとしては地獄に堕ちるぞって言う警告だな。その言葉を聞いても、依頼人は怖じ気付くどころか、目を爛々と光らせて、犬歯が見えるかと言うくらい口許を歪ませた。


「死ぬのは構わない!邪神…いや、ナイアット様に魂を捧げるのも良い!むしろ俺の命を使って勇者を殺してくれると言うなら、こっちからお願いしたいくらいだ!」


そう言って貸したナイフで指先を切り、男は契約書にサインをする。


『(ヨッシャー!魂ゲットー!)』


サインが完了すると同時に俺の中で響く歓喜の声。正直言って五月蝿いんだが、何度言ってもこの時だけはテンションが押さえきれなくなるらしい。


場の雰囲気とかを考えて欲しいものだ。


「契約を確認した。これより対象の勇者『スギタ』を殺傷する。依頼は基本的に十日以内で終わるので、その前に死ぬことが無いよう自己の体調管理を怠るな…家が無いならここで暮らすと良い」


そう言って差し出された金から一ヶ月は生活出来るだろう金を抜いて依頼人に渡す。どうせ依頼人の死体の処理もあるし、余ったら後から回収するだけだ。


「十日だな。わかった!ヤツが死ぬまでは絶対に死なないッ!」


依頼が成立し、自分の命も諦めたからなのか、依頼人は拙い丁寧語を完全に辞めたようだ。


まぁ俺としても無理して取り繕った言葉に価値が有ると思ってないから問題はない。


「あとは…そうだな。そちらにも勇者の死を確認出来るようにするので、その確認の後は…」


契約に従い死ぬことになる。最後まで言わなくてもわかるだろ?そう言う意味を込めて依頼人を見れば、爛々と光る目はそのままに真剣な顔で頷いた。


「あぁ、わかってる……もし、もしも出来るのなら出来るだけ惨たらしく殺して欲しい!」


さらりと追加オーダーが入ったが…まぁ問題ないな。


「善処しよう。ではこれより作業に入るので、これにて失礼する」


これから勇者の殺害の準備をしなきゃいかんからな。


「ありがとうっ!ありがとうっ!」


教会を出る俺の背に向かい、何度も何度も頭を下げる依頼人。


なんと言うか…例え向こうに問題があるとは言え、子供を殺して感謝されると言うのはあまり楽しいモノじゃない。


何せ俺には勇者に対して恨みも憎しみも無いのだから。


『(だからこそ貴方が処刑人に相応しいのよ!)』


そんな俺を自信満々に肯定するナイアことナイアット。彼女と縁を結んだのがこの稼業を始めた切っ掛けなのだが、まぁその話は後日にしよう。


まずは仕事だ。










「勇者『スギタ』その命、貰い受ける」


その声と共に夜の帳に消える男。


ここに『勇者殺し』は動き出した。





分かりやすく言えば、地獄○女と必殺仕○人とゴル○13を合わせた感じですね。


地獄少○は必殺○事人のオマージュ(公式)だし、必○仕事人はゴ○ゴ13を描いてるさいとう先生(原作は池波先生)の仕掛人藤枝梅○が翻案元(事実)なので、まぁ全部合わさっても問題は無い……と思いたい。

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