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ゼロ達が来た鍛冶屋は町の中でも、最大級の広さを誇るところだった。中には、色々な武器や防具が並んでいる。
そこには、一際目立つ高そうな棚に並べられているものもあれば、大雑把に箱に、纏めて入れられたものもある。
「じゃあ、これから別行動にしようか。自分の好きな武器と防具を選んできてくれ。予算は大体、一人銀貨三枚くらいだな。時間は、あの時計が十二時になったら、ここに集まるのでいいか?」
銀貨三枚は、一般的な家庭の給料二ヶ月だ。それくらいあれば、安い物でなら一式揃えれるのだった。
ゼロが指を指す方向には、どこからでも見える位置に設置された、大きな掛け時計があった。
「「うん。わかった」 」
二人は声を揃えてそう言い、頷く。
「一応、訊いておくが、方向音痴とかないよな?」
広い王宮で暮らしていたはずの王子が、方向音痴というのはないだろうと思いつつも念の為、訊く。
「うん!大丈夫だよ。兄さんは方向音痴だけど、僕はいつも兄さんの居場所が、何となくわかるから!」
それは、全然大丈夫じゃないだろ…。いや、今までリオが見つけてこれたのなら、大丈夫なのか…?
「よし。じゃあ多少、時間がロスするだろうが、リオとレオは一緒に行動してくれ」
「わかった!兄さん、僕から離れないでね…」
リオが、不安そうにレオに言う。
「……わかった」
レオも納得してくれたのかはわからないが、頷いてくれた。
「リオ。念の為、レオと手を繋いで、行動してくれないか?」
ゼロは何かフラグが立ったような気がして、思わずそう言ってしまう。
「うん、いいよ!ね、兄さん」
「別に、そこまでしなくても…」
レオはそんな扱いをされるのが嫌なのか、断ろうとする。
「レオ、頼む。俺はレオが心配なんだ」
俺は出来るだけ俺の心配が伝わるように、レオの目を見てそう言う。
「う、ゼロさんがそう言うなら…」
不承不承といった感じだが、レオはなんとか頷いてくれた。
「よし、じゃあ今から一時間後の十二時に、ここに集合な」
俺の言葉に二人が頷く。
「じゃあ、解散」
そう俺が言うと、二人はしっかり手を繋いで歩いていった。
「じゃあ、俺も安い双剣を探すか…」
二人を見送ると、ゼロも歩き始めるのだった。
ゼロが最初に足を止めたのは、無造作に剣が入れてある四角い木箱だった。
ゼロはふと思った。別に双剣じゃなくても、剣を二本買えば、双剣として使えないか、と。
「だが、長さも持ち手の太さも違うのは、流石に無理だな…。ま、時間はあるし、気長に探すか」
ゼロは箱の中の剣を一通り、感触を確かめると、別のところへと見に行くのだった。
「兄さん、これはどう?」
リオとレオの二人は、防具のコーナーに来ていた。
「うーん、これは重すぎるな」
リオが勧めたのは、フルプレートの防具だった。
「でも、兄さんは剣で戦うんでしょ?だったら、フルプレートじゃないと危なくない?」
「でも動きづらかったら、意味無いだろ?」
そんな会話をしている二人に、黒いフードを被った怪しげな男が、近づいてきた。
「おい、何か悩んでいるのか?」
そう声を掛けられ、リオとレオは警戒しながら答える。
「はい、実はどんな防具を使おうか、悩んでいます」
「私は剣を使うつもりなのですが、そうなるとあまり重い装備は着けられないので」
リオが最初にそう言い、その後すかさず、レオもそう答えた。
すると、フードの男は腕を組み、何かを考え始めた。そして、一度頷いた後、二人の肩に手を置く。
「よし、私が一番お前達に合うものを選んでやろう」
そう言った男の顔は、自信満々といった表情を浮かべていた。
「しかし、私達は他に武器も探さないといけないので…」
「十二時に待ち合わせしているので、それまでに」
リオが断ろうとして、レオが理由を言った。
「うん?そうか。なら、全部纏めて私が探してやろう」
確かに男の見た目はガタイがよく、強そうだ。腰に差している剣も素人目に見ても、相当な業物だ。きっと、武器のことなら、頼りになるだろう。
しかし、三十代後半くらいに見える男が、いきなりそんなことを言ってきたのだ。リオ達の警戒度は、より上がっていた。
そのことに気づいたのか、男は肩に置いていた手を離して、何かを取り出した。
「私は怪しいものではない。私の名前は、ブラット・ハーノルドだ。ほら、これは私のギルドカードだ」
そう言って、見せてきたカードは金色だった。
「金…もしかしてSランクでしょうか?」
リオがそう言う。
「そうだ。私はSランク冒険者ブラットだ。ちょうど、武器を見に来ていたら、お前達が何か悩んでいそうだったのでな。気になって、声をかけた」
「Sランク…」
リオもレオも、もちろん見知らぬ人と行動することは、良くないと理解している。が、こんな人に武器を選んでもらえる機会は、滅多にないため、悩んでいた。
「リオ、探してもらおうぜ。こんな機会、逃すのは勿体ない」
レオがリオに迫る。
「ちょっと兄さん、顔近い!…でも、いいのかな…?」
「大丈夫だろ、俺の勘はそう言ってる」
レオは自信満々の表情で、リオを見る。
「勘って…。でも、兄さんの勘ってよく当たるんだよね」
レオは第1王子として、生まれたときから、様々な人と会ってきていたこともあり、そういう勘は鍛えられてきていた。
「ふぅ。僕、兄さんのこと信じるからね?」
リオはレオのことを信じ、そう決断した。
「話は纏まったか?では私が探す、ということで問題ないな?心配するな。十二時までには、必要なもの全て見つけてやる」
「「はい!お願いします」」
その頃ゼロは
「いや、こっちの方が切れ味がいいか?だが、こっちの方がしっくりくるような…」
結局ゼロは、安めの双剣を見つけれたため、双剣を買おうとしていた。
ゼロが悩んでいるのは、二本の剣だった。
一つ目は、一見、普通の鉄で出来た剣だが、普通より切れ味が鋭い。
二つ目もまた、一見、普通の剣だが、持った瞬間に一瞬、真っ赤なオーラの様なものが剣を包む。
どちらも纏めて置いてあった、比較的安い金額のものだった。
「やっぱ、少しでも安い方にするか?いや、でもこっちの方は、色が変わるしな。テンプレでは、こういうのは、大抵何かあるしな」
ゼロが手に取ったのは、二つ目の剣だった。
「よし、これにするか。双剣だし、鞘もついているし、完璧だ」
ゼロは一人でそう納得すると、受付へと向かうのだった。
「二人とも、時間通りだな。偉いぞ」
ゼロは約束の十二時に来た、リオとレオの頭を撫でる。
「うん、僕達ちゃんと、武器も防具も選んできたよ!」
そう言って、リオが持ってきたものをゼロに渡した。
「よし。じゃあ、受付に持っていくか」
ゼロは三人分の武器と防具を持って、受付に向かった。
買ったものを装着した二人は、軽防具に剣、ナイフと見るからに近接向きの動きやすい装備だった。
「おお、似合ってるぞ。二人とも、近接装備にしたのか」
「うん!僕、体動かすの好きだから!!」
「俺も。それに、ゼロさんの背中を守れる戦い方にしたかったんだ…」
ゼロは、小さくそう呟くレオに癒され、自然とレオの頭に手が伸びる。
…あ、でもこのパーティ、近接タイプしかいないな。レグルが見たら、絶対なんか言ってくるだろうな…。
しかし、レオは得意武器が剣と双剣だから、まだ予想はついてたが、得意武器が杖とナイフのリオはてっきり杖にするんだと、思ってたんだけどなぁ。まあ、いっか。
「よし、じゃあ次は訓練所、行くぞ。二人共、装備試したいだろうし、俺も、双剣早く使いこなせるようにしないとな」
そう言って、ゼロ達三人は、冒険者ギルドにある訓練所へと向かうのだった。