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二人の奴隷を連れたゼロは、宿屋を目指して歩いていた。向かっている宿屋は、高齢という理由で閉めてしまった馴染みの宿屋の主人から勧められた所だった。


その空気は、宿屋へ向かっているとは思えない程に、重い。


「……。」


「「……」」


それは、双子がゼロに付いてきてはいるが、何も話そうとはせず、ゼロはゼロで何を話せばいいか分からず、といった状況でお互い無言を貫いているためだ。


「…お、俺の名前はゼロという。これからよろしくな」


ついに、無言に耐え切れなくなったゼロが、驚かさないようにと、社長時代の営業スマイルを浮かべて、そう言った。


「…ぼ、僕はリオでひゅ」

「……レオ」


先に喋ったのが弟のリオで、後が兄のレオだった。

その姿は一言で言えば、可愛い。


噛んでしまったリオも、小さく呟いたレオも将来は、イケメンまっしぐらな顔立ちだ。

同性だが、これは恋愛的にではなく、動物の赤ちゃんに向けるような、保護欲を擽られる可愛さだ。

俺の中に子を見守る親のような感情が、芽生えたのを感じる。


「そうか。これから宿へ行く。その後、冒険者ギルドに行って、レオとリオには冒険者になって貰う予定だが…いいか?」


これで拒否られたら、本末転倒だ。そうなると本当に困るのだが…。


「はい…大丈夫です」

「俺も、リオと一緒なら大丈夫」


俺の心配を他所に二人とも即答してくれた。


「よかった。助かる。あ、訊きたいことがあれば、何でも言ってくれていいぞ」


そう言うと、恐る恐るといった感じでレオが手を挙げた。


「はい、レオ」


「俺たち…私達はこれから何をするのでしょうか?」


流石王子というべきか、まだ小学校中学年くらいだろうレオは、ばっちり敬語で訊いてきた。


「普通に話していいぞ。で、質問の答えだが、今の目標はとにかく金を稼ぐことだ。だから、俺とパーティを組んで、俺と一緒にギルドの依頼をこなして欲しい」


そう言うと、今度はリオが不安そうな顔で手を挙げた。


「あ、あのレオと離ればなれになることはない?」


「もちろんだ。それは保証する」


こんな可愛い子達を離ればなれにするなんて鬼畜なこと、俺には絶対に出来ない。今だってリオは、レオの服の裾を小さく握っているのだ。


まあ、それでも佐藤ならやりかねないが…。


そんなことを考えていると、宿に着いた。

ゼロが二人を連れて宿の中に入ると、受付には綺麗な金髪の髪、大きい胸の、美人といった顔立ちの女が立っていた。


「いらっしゃい!!」


ゼロは一瞬見とれた後我に返り、言う。


「…三人で泊まれる部屋はあるか?」


「三人って、その子達奴隷じゃないの?」


揶揄うわけではなく、本当に不思議そうに訊いてきたため、ゼロは普通に言う。

これがもし、見下した目だったなら、いくら仲の良かった人に勧められた所であっても、ゼロは間違いなく宿を変えていただろう。


「そうだ。三人泊まれる部屋を頼む。出来れば、体を洗えるところもあればいいんだが…」


「…ふふっ、そう。あ、三人部屋ね、わかったわ。一日二食付きで一人、銅貨五枚よ。それと、体を洗える場所は井戸くらいしかないわ。しっかり汚れを落としたいなら、近くにある銭湯に行くのはどう?」


そう言われたゼロは、笑みを浮かべて言う。


「わかった。じゃあ、その部屋で頼む」


ゼロはお金を渡した。


「了解っ。今日は朝食はもう終わっちゃったから、その分、夕食の量を増やすのでいい?」


「ああ。それと、銭湯が何処にあるか教えてくれるか?」


銭湯への行き方を教わると、ゼロは荷物を部屋に置いて、銭湯へと向かうのだった。



「あ、あの…これどうやって使えば…」


リオが石鹸の使い方を訊いてくる。その顔は今にも泣き出しそうだ。


「お、落ち着け。ちゃんと教えてやるから」


しかし、王族なのに石鹸も使っていなかったのか?他の国は分からないが、この国での石鹸は少し値段は高いが、平民が買えないほどではなかった。いや、王族なら誰かに洗ってもらうのが、普通だったのか…?


そんな疑問を抱きながら、次はレオの体を洗い始めるのだった。




体を洗い終わり、ゼロは、レオの頭を洗い始める。



「ふぅ、これくらいでいいか。レオ、痒いところはないか?」


レオの頭を泡立てながら、ゼロが訊いた。


「大丈夫だ。……あ、あの、こんなことしてもらって、本当にいいのか?」


レオが下を向き、目を瞑ったまま、そう言った。


「……?レオは、洗い方がわからないんだよな?なら、しょうがないだろ」


ゼロは平然として、そう言った。


「で、でも、奴隷ってもっと酷い扱いなのが、普通だろ……?」


「そうなのか?まあ、俺は二人が戦闘で役に立ってくれれば、それでいいからな」


そもそも奴隷なんて、前世にはいなかったし、この世界に来てからも初めてだからな。奴隷の普通の扱いっていうのが、どういうものかも、わからないんだよな…。


ゼロがそう思っていると、レオが口を開く。


「……ゼロさん、って、変わってるんだな…」


「そうか……?」


ゼロはレオが何故、そう思ったのか不思議に思いつつも、レオの頭の泡を流すのだった。


「よし、これで完璧だな。じゃあ、風呂に浸かるか」


使った道具を元の場所に戻すと、ゼロは二人を風呂へと連れていく。そんなゼロは、まるで親のようだった。実際には、ゼロも十五歳のため、見た目では兄弟という方が正しいが。


「どうだ、気持ちいいか?」


いや、王族なら、毎日入ってて慣れてるか?


「うん!気持ちいい」


「ああ、こんなの初めてだ…」


二人は会って初めて、笑顔を見せてくれた。


…俺も久しぶりだな、誰かと風呂に入るなんて。やっぱり、一人じゃないっていうのはいいな。


ゼロも自然に顔が緩む。


「ゼロ、さんは、その顔の方がいい」


それを見たレオが、そう呟いた。


「うん?」


なんの事か分からず、ゼロは訊き返す。


「うん!僕も、僕達が最初に会った時の笑顔より、そっちの方がいい」


そう言われ、やっとゼロは、営業スマイルのことを言っているのだと気づく。


「そうか?」


おかしい…あのスマイルは完璧のはずだが。こんな小さな子供にまで、通用しないとは…。

ああ、王子だから、そういう笑顔はいつも向けられていたんだな。だから、慣れているんだろう。うん、きっとそうだ。


ゼロはそう、自己完結すると、二人を見た。


「…ところで、リオとレオは、どんな武器を使いたいとかあるか?」


「武器?」


二人は不思議そうに、こちらを見る。


「ああ、冒険者になるんだから、武器は必要だろ?」


「「え?ぼ、僕(俺)達に選ばせてくれるの(か)!?」」


二人は驚いた様子で言った。


「ああ。やっぱり本人が一番使いやすいのが、大事だからな」


当然と言った様子で言うゼロに、二人はさらに驚く。


「それがどうかしたのか?」


「ど、奴隷は物だから、もし殺されたとしても、罪には問えないって…」


リオのそう言っている瞳は潤んでいた。


「リオ、泣くな。お前が泣いたら、ゼロさんに迷惑が掛かる…」


レオが、リオの目に溜まった涙を指で拭き取った。


しかし、リオの瞳には、また涙が溜まり始める。


「…兄さんだって、泣きそうじゃん……」


二人はそんな会話をしている内に、ついに耐えきれなくなったのか、泣き出してしまった。


「わ、わかった…。大丈夫だ。二人が思ってるようなひどい扱いはしないから、安心しろ。ほら、大丈夫だから泣きやめ」


ゼロは二人を抱きしめて、なんとか泣き止まそうとするが、全く収まる気配はない。


しかし、ここは部屋ではなく、銭湯なのだ。


当然、ゼロ達以外の客も居たため、ゼロ達に視線が集まる。


「すいません、公共の場で…」


ゼロは二人を抱きしめ、風呂に浸かりながら、謝り続けるのだった。



「よし!じゃあ改めて、ギルドに行くぞ」


なんとか二人を泣き止ませ、銭湯を出たゼロは、ギルドへと向かう。


「ゼロさん、さっきは本当にごめんなさい!!」


「ごめん、迷惑かけて」


リオはバッと頭を下げ、レオは泣いたことが恥ずかしいのか、少し照れた様子でそう言った。


「ちょっと、兄さんも頭下げて!!」


リオが、横を向いていたレオの頭を下へと押す。


「いや、もういいぞ。まあ、お前達はまだ子供なんだし、そんなに気にしなくていい」


平然とそう言ったゼロに、リオとレオは顔を見合わせる。


「ん?なんだ、どうした」


「いや、ゼロさんもだいぶ、若く見えるんだけど…」


「ゼロさん、何歳なんだ?」


「俺か?俺は十五歳だぞ。…ふ、二人とも、十歳は超えてるか?ギルドは、十歳からじゃないと、登録出来ないんだが…」


奴隷を選ぶ基準に、年齢の事を入れていなかったことに気づき、ゼロは焦る。


「大丈夫だよ!僕達は二人とも十歳だから」


「そうか。十歳なのか。じゃあ、やっぱり二人は双子なのか?」


リオがそう言ったため、ホッとしたゼロは一息つくと、そう訊いた。


「そうだよ!でも、ゼロさんって十五歳なんだね。もっと上の人と話してるように感じたんだけどな…」


リオの言葉にレオも頷く。


「それはまあ、身長というのもあるだろう。それに俺はて…」


転生したからだ、と言いそうになったゼロは、そこが町中だということを思い出し、言い留まる。


…誰が聞いてるかわからないしな。まあ、リオ達には言っといてもいいだろ。それにしても、だいぶ年上か…。まあ、前世の年齢も合わせたら、四十年近く生きてるからな。あながち間違ってないな。


「…まあ、詳しくは宿に帰った時に言う」


二人は、ゼロが何か言いかけて止めたことに、首を傾げながらも頷いた。

そこら辺が、普通と違うところだろう。普通の子供なら、言い留まると、逆に気になり出すものだ。


やっぱ、王子っていうのは、大変なんだろうな……。


ちなみに、ゼロの身長が170cmくらいで、リオ達が150cmくらいだった。


「お、ギルドに着いたな。じゃあ行くか」


そんなことをしている内に、見えてきたギルドに入る。


ギルドの中には、酒を浴びるように呑み、顔を真っ赤にした筋肉ムキムキの男達やチームを組んでいるのか、依頼を見て何かを話す人達など、様々だった。


「リオ、レオ、こっちだ」


冒険者には荒くれた者も多いため、絡まれないように二人の手を取って、受付へと向かう。


「すいません、この二人の冒険者登録をして欲しいんだが…」


そう話しかけた受付嬢は、昨日怒られていた新人の受付嬢だった。


「こんにちは、ゼロさん!あ、冒険者登録ですね…」


「ああ。えっと、確か昨日の…」


「はい!アリーです。昨日は、本当にすいませんでした!!」


ゴンッ__


新人受付嬢アリーはカウンターを見ず、そのまま勢いよく頭を下げたため、思い切り、頭をぶつけた。


「痛っっったーー!!…うう、すいません。それじゃあ、この紙に記入をお願いします」


そう言って頭を擦りながら、二人に紙を渡す。


相変わらず、ドジっ子キャラなんだな。


ゼロはそう思いながら、リオとレオの方を見る。


二人は初めてギルドに入った緊張からか、アリーの頭突きにも気づいていないようで、すぐに紙を受け取り、さっさとテーブルに向かっていった。そして、何故かペンを持たず、二人で何かを話していた。


「リオ、レオ、文字は書けるのか?」


一向に記入する気配のない二人に、ゼロはそう訊く。


「うん。文字は習ってたから、書けるよ」


「俺も書ける」


二人は即答した。


しかし、なら何故書き始めないのだろうか…。


「どうかしたのか?」


不思議に思い、声をかけると、二人は平然とした様子で言った。


「うーん、これ全部書かないといけないのかな?」


「だな、それに偽名とか使ったら、なんか罰とかあるのか?」


そう疑問を口にする二人に、俺は二重の意味で驚いた。


それは、まずこの歳でそこまで考えれること。そして、その疑問が、冒険者として登録しに来た時の俺と全く同じだったからだった。


「アリー、その辺どうなんだ?」


そんな二人を内心、褒めながら、アリーに尋ねる。


「はい、まず全部書かないといけないか、ということですが、名前さえ書いてくだされば、他は書かなくても大丈夫です。ただ、多くの情報を入れてくださった方が、ランクが上がって指名依頼が入った時、その人により適した指名依頼が来ます」


アリーはそう言った後、でも指名依頼が入るくらいランクが上がる人自体、あんまりいないですけどね、と苦笑した。


俺は、受付嬢が今から冒険者になる人に、そんな夢のないことを言っていいのかと思ったが、夢を見させて暴走させるよりマシなのか、と思い直す。


「で、偽名を使ってもいいのか?という質問ですが、特に構いません。ですが、何か違反行為をした場合は、しっかり罰則がありますのでご注意ください。あ、これがルールブックです」


そう言って、アリーは二人に薄い冊子を渡した。


「「わかりました。ありがとうございました、アリーさん」」


二人は笑顔できっちり九十度で、頭を下げる。


「い、いえ。…なんかこの子達私より賢そう」


アリーがぽつりとつぶやいたが、二人は気にせずに紙を書き始めた。


「「これでいいでしょうか、アリーさん」」


二人はしばらくしてペンを置くと、紙をアリーの前に持っていき、声を揃えてそう言った。


流石双子だな…。

ゼロは、そんなことを思いながら、その様子を一歩離れた所で見守っているのだった。


「は、はい!では、これがギルドカードです。無くすと、再発行に銀貨一枚かかりますのでご注意を」


二人はギルドカードを受け取ると、すぐにゼロの元へ向かうのだった。



「おかえり、じゃあ次は鍛冶屋に行くか」


二人が戻ってくると、ゼロは一言そう言った。


「「鍛冶屋、武器買うの(か)!?」」


目を輝かせてゼロを見る二人に和みながら、ゼロは頷く。


「ああ。それと服もな。ただ、あまりお金がないからな。今は安いので、我慢してくれ…」


ゼロは、 双剣のために貯めている分のお金以外には、生活費しか持っていないため、双子の分は、双剣の方のお金から削って出すつもりだった。


「え、そんなに厳しいの!?そんな時に、本当にいいの……?」


さっきまでの表情が嘘のように、気まずそうに二人は、俺の方を見る。


「大丈夫、気にするな。それに、二人の装備を整えないと、俺が心配になって困る」


この歳で他人を気を遣える二人に感動し、ゼロは二人の頭を撫でる。


「…本当にいいのか?」


それでもまだ心配な様で、今度はレオが訊いてきた。


「大丈夫だ。レオ達が、一緒に戦ってくれるんだ。今までより、ずっと早く稼げるからな」


そう言うと、二人は俺の腰あたりに、抱きついてきた。


「俺、頑張る!」


「僕も一生懸命頑張るね!」


…いや、マジで可愛いんだが…。ああ、社長時代もこの子達が居てくれればなぁ。それなら、ゲームにもハマらずにしっかり仕事が出来てたかもしれない。


そんなことを思いつつ、鍛冶屋へと向かうのだった。



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