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「よし。奴隷商、行くか」
スラム街の道端で捕まえた男達と一夜を明かしたゼロは、一言そう呟く。
以前レグルがニヤつきながら、奴隷を買うならここがいいと言われたことを思い出したのだった。
「ようこそいらっしゃいました、ゼロ様」
奴隷商の店に入ると、薄暗い店の中に男が立っていた。
「俺の事、知っているのか?」
ゼロは怪しむように言う。
「もちろんです!ゼロ様の噂は、有名ですから。そんな方が私のところに訪れてくださるなど、とても光栄です」
奴隷商の男は、へりくだった言葉遣いで話す。まだ十歳前後の子供でも、そんな言葉遣いをするあたり、さすが商売人といえるだろう。
もっともそれは、ゼロの噂というのがソロでありながら、尋常ではない量の魔物を狩っている、というものだからだが。
「それで、今回はどうして御来店?性奴隷ならば、沢山取り揃えておりますよ。今なら、希少なダークエルフの奴隷なども、おりますが?」
そうまくし立てて言う奴隷商の姿に、ゼロは申し訳なさそうに言う。
「悪い。奴隷も見たいが、先にこいつら引き取ってくれないか?」
「はて?その方達は、どういった方でしょうか」
奴隷商は不思議そうに、ゼロに訊く。
「ああ、実は…」
ゼロはエリーシャのことは伏せて、今までの経緯を話した。
「そんなことが。そういうことならば、喜んでお引き受け致しましょう」
「悪いな、助かるよ」
買い取ってもらえることにホッとしたゼロに、奴隷商は言った。
「いえいえ。では改めて、どういった奴隷をお望みでしょうか?」
「ああ、戦えるやつを頼む。だが今は金があまりない。できれば今売った男達の分の金で、買えるやつがいれば助かるんだが…」
ゼロは長時間でも、チームで効率よく戦えるように、いっそ奴隷を買ってしまおうと、考えたのだった。
「そうですか。すみませんが、それでは最低ランクの奴隷しか…。なにせ、ゼロ様が売られたような男の犯罪奴隷は、需要があまり無くてですね…」
奴隷商によると、奴隷を買う人は大体が性奴隷を求める貴族なのだという。そのため、男の奴隷は安くなるらしい。
「そうか、いや無理を言って悪いな。なら、最低ランクでいいから見せてくれ」
そう言うと、奴隷商は肩を落として、地下へと案内した。
その様子を、奴隷商が気まずそうにしているのだと受け取ったゼロは、その奴隷商を優しい性格だという勘違いをし始めていたが、実際には、五年もソロで魔物を狩り続けているという噂から、高い奴隷を買ってくれるだろう、と判断していたため、期待がはずれ、がっかりしていただけだった。
「こちらです。ゼロ様が売られた分ですと、そこに居る奴隷達から二人、買い取ることが可能です」
「ここにいるのは、皆同じ金額なのか?」
ゼロは性奴隷として使うことは、全く考えていなかったので、男の方が安ければ、男を買うつもりだった。
何より、同性の男の方が、気が楽というのが大きかったが。
「はい。ここにいるのは、皆何か問題があるので…」
「そうか。わかった、決まったら呼びに行けばいいか?」
「はい、そうして下さると助かります。ではどうぞごゆっくり」
一礼して、奴隷商が部屋を出ていくと、ゼロは大きい檻に一纏めに入れられた奴隷達に鑑定をかけ始める。
鑑定は、ゼロが冒険者になって初めて覚えた魔法だった。
さて、何か特殊な力でも持ってるやつがいればいいが…。
一通り『鑑定』の魔法をかけ終わるとゼロは、誰を買い取るか考え始める。
よし。買うとしたら、この四人の中からだな。
名前:リーシャ
種族:獣人
性別:女
Lv:1
HP 20
MP 200
力 5
防御力 10
俊敏力10
得意武器:ナックル
火属性 雷属性
名前:ラーニャ
種族:吸血鬼
性別:女
Lv:1
HP 150
MP 100
力 50
防御力 30
俊敏力 100
得意武器:クナイ
水属性 無属性
名前:レオ
種族:人族
性別:男
Lv:15
HP 500
MP 50
力 350
防御力 150
俊敏力 200
得意武器:片手剣 双剣
光属性
称号
レーウェン王国第1王子
剣神フレイの加護を受けし者
名前:リオ
種族:人族
性別:男
Lv:15
HP 300
MP 500
力 70
防御力 150
俊敏力 250
得意武器:杖 ナイフ
闇属性
称号
レーウェン王国第2王子
魔導神ヴァンの加護を受けし者
いやー、チートなやつ居すぎだろ。今まで誰も気づかなかったのか?っていうか王子が奴隷とか…顔、そっくりだな。双子か?
それにしても、王子達の称号やばいな…神の加護、二人とも持ってるし。
これを見てからだと、最初の2人はそれほど驚けないが、こいつらも十分チートなんだよな。この世界だと、魔法属性二つっていうのは一億人に一人の確率らしいし。その一億人に一人の確率がここに二人も…。
うーん、どうするか…。出来れば四人とも欲しいが。双剣のために貯めている金を使えば、買えないこともないだろうけど。いや、でも四人分も食費も宿代もかかるとなると、金、貯めれなくなるか?
…よし。双子王子を買おう。
双子なら一緒の方が安心出来るだろう。それに同性だから、色々と気も使わなくていいし。そして、何よりレベルが既に上がっているから、即戦力に出来る。
うん。いい事づくめだな。残りの二人は、お金がある時にまだ居たら見に来るとしよう。取り置きとか、出来ればいいんだが。
そんなことを考えながら、ゼロは奴隷商の元へと向かった。
「わかりました。ではすぐに、その二人に準備をさせてきます。しばらくお待ちください」
そう言って、地下へと向かっていこうとした奴隷商に、ゼロが言う。
「わかった。それとあと二人、気になるのがいたんだが…取り置きとか出来たりするか?」
「取り置きですか?はい。大丈夫ですが…」
どこか不思議そうに奴隷商は答えた。
「そんなに珍しいのか?」
「はい。ランクの高い奴隷ならばそういう事もありますが、最低ランクの奴隷で、というのは珍しいです」
なにせ安いので…と言う奴隷商に、ゼロは、その安い奴隷でさえも俺は買えないんだが、と心の中で呟く。
「そうなのか。まあ、それは置いといて…一ヶ月後くらいまで取り置きしておいてくれるか?」
「わかりました。ではそういうことで」
奴隷商は一礼すると、地下へと降りて行った。
しばらくして、奴隷商と、地下にいた時よりも少しマシな服を着た双子が来た。
マシといっても、ボロい服なのに変わりはないが。
「お待たせ致しました。こちらがご希望された商品です。では、ここに血を一滴垂らしてください」
ゼロは奴隷商の言われた通り、血を垂らした。
「ありがとうございます。これで、この奴隷達はゼロ様の物となりました。今は主への危害を加えないことのみ、命令してありますので。他に何か命令する時には、口頭で言ってください。奴隷の耳に届けば、命令は完了しますので」
「わかった」
「では、これで引き渡し終了です。ありがとうございました」
双子をゼロの方へと行かせると、奴隷商は一礼した。
「ああ。じゃあ取り置き頼んだ」
「はい。次はもっと、興味を引く奴隷を探しておきますので、ご期待ください」
奴隷商は、ゼロが最低ランクの奴隷しか買わなかったのは、興味を引く奴隷がいなかったため、と勘違いしたため、本気でそう言っているのだった。
「ああ。期待しておく」
一方ゼロは奴隷商の言葉を、礼儀として言っているとしか思っていないため、自分も礼儀としてそう言うのだった。
そんな誤解が解けないまま、ゼロは昨日のようにならないために、奴隷二人と共に、とりあえず宿を探しに向かうのだった。