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「おい。そっちに行ったやつを頼む」
「任せろ!!」
頼まれた男は、走りながら斧を振り回す。
「おらぁッ!!」
やっぱり、ソロよりパーティの方が楽だな。しかし、得意武器を斧にしなくて、ほんと良かったわ。あんな振り回すだけの武器なんて、単純過ぎて楽しくない。
一ノ瀬は、倒した魔物の魔石を拾いながら、心底そう思うのだった。
「...しいな...ない...」
なんだ?何か聞こえ...
「お......おーい市ノ瀬くん?」
俺を呼んでるのか?...いや、でも俺を君付けで呼ぶやつなんて...
「市ノ瀬くん、市ノ瀬くーん」
目を開けると、目の前に二つの目があった。
「お、やっと目が覚めたかな?」
「うぁ?...なんだ?誰だお前」
身体を起こすと、俺の目の前には女が立っていた。
「佐藤桜」
...何でしょう。誰かに呼ばれている?
「起きろ、佐藤桜」
はーい。わかりました、今起きますよー。
「おはよーございます。で、どちら様でしょうか?」
「やっと起きたか。真面目な性格だと思っていたんだが、実際はそうでもないのか」
それは私が一番わかってますよ...。
「よし。じゃあ、とりあえず今の状況を説明する」
唐突ですね。それに、あなたの正体は教えてくれないんですね。ま、いいでしょう。
「はい。お願いします」
「よし。お前は乗っていたタクシーに、大型トラックがぶつかって死んだ」
これが、社長がよく言っていた、いわゆるテンプレってやつですかね。
「わかりました。...続きをどうぞ」
「物わかりが良くて助かる。で、お前には今から、お前達の世界で言うファンタジーな世界へ行ってもらう」
それは、社長がよく言っていた転生物のような世界なんでしょうか。...ん?そういえば、社長はあれからどうなったのでしょう?私が死んでいるということは、社長も死んだのでしょうか?
佐藤は、ピンと腕を伸ばして挙手する。
「一つ質問よろしいでしょうか?」
「なんだ」
「その、私と同時刻くらいに、他に亡くなった方はいませんでしたか?」
「お前以外に?...ああ、お前と一緒の車に乗ってた奴か」
「はい、私と同じで後部座席に乗っていた方なのですが...」
「あー。そいつも確か、お前がこれから行く世界に転生する予定だったな...」
佐藤は、その言葉にほんの少しだけ口元を緩ませる。
「そうですか、教えて下さり、ありがとうございました。あの…聞いておいてあれですが、そんな個人情報、言ってしまって宜しかったのですか?」
「いや、本当は駄目だな。だがまぁ、漏らしたとこで何も影響はないだろうし、まぁ大丈夫だろ」
どうやら、この人?神?は割と適当に仕事をするタイプのようですねー。まあ、その方が余計な気を張らなくていいので、楽なんですけどね。
「では、本題に戻るのですが、私は、その世界に転生するという事で宜しいでしょうか?」
「ああ。で、お前には、今から得意武器を選んでもらう。得意武器というのは、その名の通り、自分が使いやすい武器だ。レベルが上がると、得意武器に関するスキルが発現したりする場合もあるからな。考えて選んだほうがいい。
じゃあ、この中から選べ。あ、それと他の身体の能力値については抽選で勝手に決まるから、自分では選べない」
そう言うと神?は半透明なウィンドウを出してきた。えっーと、片手剣、双剣、大剣、槍、斧、梶...
こういうのが、ファンタジーっぽいってやつですかね。...きっと今頃、社長はわくわくウキウキなテンションで、選んでるんでしょうね。
「ちなみに神様?のあなた的には、おすすめはどの武器ですか?」
佐藤がウィンドウを見せて、訊いた。
「神で合ってる。そんなもん自分で決めろよ。...まあ強いていうなら、双剣じゃねぇか?使いこなせば、間違いなく圧倒的な力が手に入るからな。ま、使いこなせなきゃ圧倒的に弱いけどな」
やっぱり神様なんですか。というか神様、自分で決めろと言う割には、しっかり教えてくれました。これは参考に出来そうです。しかし使いこなせれば最強、こなせなければ最弱の武器ですかー。
いや、ファンタジーな世界は、何があるかわかりませんしね。やっぱり頑張って、最強になっといた方がいいですよねー。
...ま、何とかなるでしょう。今まで、本気でやって失敗したことないですし。
「決めました。双剣にします」
あっさり私がそう言うと、神様はもう一度聞き返してきた。
「勧めた俺が言うのもなんだが、本当にそれでいいのか?使いこなせなきゃ最弱だぞ?」
「はい、これにします。神様が教えてくれたこともありますが、何より、使いこなせば最強というのが気に入りましたので」
私の心配までしてくれるとは、この神様実は、結構いい人なのでしょうか。
「わかった。なら、今からお前を転生させる」
「はい。お願いします」
私の意識が飛ぶ直前、神様が小さく、いい人生を。と呟くのが聞こえた。
こうして、佐藤は異世界へと旅立っていった。
一方、もう一人の魂もまた、今まさに異世界へと転送されるところだった。
「なぁ、エリーシャ」
「何かな?零くん」
「俺の選べる得意武器斧しかないんだが?」
そう言って市ノ瀬はウィンドウを神エリーシャに見せる。
「あれ?おかしいな、普通はどんな人でも、三つくらい選べるんだけど...」
このままじゃ、自動的に得意武器は斧になるんじゃねーか?せっかく、念願の異世界に行けるっていうのに、あんなただ振り回すだけの戦い方なんて、嫌だぞ。
「なぁ、エリーシャの力で、なんとかできないのか?」
「うーん。...できるにはできるんだけど、神がその力を使うことは、禁止されてるんだよね...」
俺は、斧を振り回して生きていくしかないのか?
嫌だ。せっかく、異世界に行けるっていうのに。
「頼む!!もう一つだけでいい。だから、選択肢を増やしてくれ!!」
俺は土下座の体勢で、エリーシャに頼み込む。
「ちょっ、やめてよ零くん。あぁもう!!わかったよ、わかったから!」
俺の必死さが伝わったのか、エリーシャは半分やけくそになりながらも、頷いてくれた。
「ありがとう。本当にありがとう」
「はぁ、だけど得意武器にも人数制限があってね。人気な武器の選択肢を神の力で増やすことは、さらに重い罪になっちゃうから、そこは勘弁してね」
マジかよ。じゃあ定番の片手剣とか槍らへんは無理だよな...。
「どんなのなら使えるんだ?」
「うーんそうだなぁ。叶えれるかは別として、希望はどういうのだい?」
「一番欲しいのは、技術の磨きがいのある武器だな」
ダメ元で希望を伝えると、エリーシャは、あ、と呟いた。
「それなら、ちょうどいいのがあるよ!!」
「本当か?」
俺は期待をし過ぎないようにと思ったが、顔が緩むのは止められなかった。
「うん。ただ...それちょっと、厄介な武器なんだよね」
「それでも構わない。教えてくれ」
まあ、人気がない時点で、何かしら欠点があるのは当然だろうし、今更だろ。
「わかったよ」
それから俺は、エリーシャが教えてくれた双剣という武器に決め、一通り使い方を教わると、転生するのだった。
読んでくれてありがとうm(*_ _)m