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__私は、本があれば、それでよかった。本は私に、色々なことを教えてくれた。



私は小さい頃から、人と遊ぶことが苦手だった。


だって他人の気持ちなんてわからないから。

たとえ、相手の気持ちがわかったとして、人に合わせて遊ぶことの、どこが楽しいのか理解出来なかったから。


そんな時、お父様にプレゼントして貰った童話を読んだ。



私の知らなかった世界に驚き、そして興奮した。


それから私はお父様に頼んで、色々な童話を読んでいった。


自分の知らない世界を知っていくのは、とても楽しかった。


でもある日、私がまだ見たことのない童話が無くなった。


そんな時、本を探しに、初めてお父様の書庫に行った。


そこで私はふと、一つの本が目に入った。


それは魔族の歴史書だった。初めは文字が難しくて、なんの本かも分からなかったし、もちろん話なんて読めなかった。でも、家庭教師に文字を教わるようになって、だんだん読めるようになっていくと、面白かった。


歴史書には童話と同じ、私の知らない世界があった。



私はその本で初めて、魔族が差別されていることを知った。



それから、なんで差別されているのか理由が知りたくて、もっと昔の歴史を調べ始めた。でもどんなに調べても、魔族はずっと差別され続けていることしかわからなかった。


それから私は、魔族以外の種族の歴史書も読み始めた。


そして、世界の色々なことを知った。


人族のこと、亜人のこと…。ずっとずっと昔から、差別があったこと。


なんで差別が出来たのかは、いくら調べてもわからなかった。


でも、私が生まれるずっと昔から、差別のない時代がなかったことはわかった。


差別される対象は、それぞれ時代で違っていた。


例えば、今から五千年前はまだ人族以外のことを指す亜人という言葉は存在していなかった。


今では世界の三分の二を占めている人族もこの頃は、そこまで多くはいなかった。


そしてその頃は、今亜人と呼ばれている、獣人族やエルフ族、他の種族も差別なんてされてなくて、普通に暮らしていた。

でも今とは逆に、人口が少なく、他の種族に比べて身体能力が低い人族は捕らえられ、奴隷として扱われていたらしかった。


それはその後も続き、三千年前に人族が初めて勇者と呼ばれる存在を召喚したことで人族に対する差別はなくなった。


そして、その頃から冒険者と呼ばれる職業が出来た。

冒険者達は、今と同じで依頼された魔物を倒すことでお金を稼いでいた。そして、冒険者になる人が多くなってくると、色々な武器が作られるようになった。

しかしその一方で、今は当たり前に攻撃手段として使われている魔法は、生活を手助けする程度にしか使われていなかった。

その原因について、特に記述はされていないが、私は、まだ知識が深く広まっておらず、この頃の人々は魔法が戦いの役に立つとは誰も考えていなかったのだろうと考えている。


しかし、その五百年後、人々の魔法に対する認識が変わる。


きっかけは龍人族がエルフ族の森を攻め、戦争になったことだった。


その頃の他の種族がエルフ族について知っていることは、長い年月を生きる種族ということだけだった。それは、エルフ族が今と同じで、昔から他の種族と関係を持たず、森に籠っていたからだろう。

にも関わらず、今までエルフ族をどの種族も攻めようとしなかったのは、エルフ族が住んでいる場所が森で、単に攻めたところで自分達に利益がなかったためだった。


そんなエルフ族と龍人族の噂はあっという間に広まり、誰もがその結末は龍人族の勝利で終わると予想していた。


しかし、エルフ族は長い年月を生きてきた膨大な知識の一つであった古代魔法を使い、見事、森を攻めてきた龍人族を倒した。


龍人族は数多く存在している種族の中で、最も身体能力が高いといわれており、その種族を倒したエルフ族の噂はすぐに他の種族達に広まる。


それからエルフ族の認識は、寿命が長いだけの種族から、龍人族を滅ぼすほど強力な魔法を使える種族として変わり、エルフ族は数多く攫われ、奴隷として高値で取引されるようになったという。


そしてこの時代から、今、亜人と呼ばれている種族達は、徐々に人口を増やしていった人族に支配されるようになっていく。



そんな歴史があったからか、お父様が手に入れてきてくれた亜人の国の本は、どれも人族が悪者という扱いで描かれていた。


それは確かに差別されている側の亜人達からすれば、そう思うのかもしれない。


でも、調べているうちに私は疑問に思った。


人族が人口を増やしたことが原因で、今亜人と蔑まれている種族が存在するのは確かだ。


でも元を辿れば、今亜人と呼ばれている人々が、最初に人族を差別したことが始まりだったはずだった。


そのせいで、人族の人々は追い詰められ、必死に、二千年も諦めず考え続け、勇者と呼ばれる強い者を呼び出すことで、身を守るようになった。

そして、人族は勇者という強力な存在に甘え続けず、他の者の力を借りずに自分達の力のみで、自分達より力を持った他の種族に対抗する手段を見つけ出したのだ。


その結果が、亜人が差別されること。


その全てを人族のせいにするのは違うのではないか、と。


今は同じ亜人として見られているエルフ族を最初に差別し始めたのは、同じ亜人の種族だ。


しかしそのエルフ族も、悪者として敵視しているのは人族。


いつの時代も何故人々は、何かを差別しようとするのか。

人族はなんで対抗する手段を見つけた後も、自分達がされたことをまた、繰り返そうとするのか。


努力して手に入れた他の種族と同等の立場なら、お互いに協力をしあうという選択も出来たはずなのに。


そして何故、私達魔族だけ、ずっと差別され続けなければいけないのだろう。


魔族は人族が奴隷にされていた時もエルフ族が奴隷にされていた時も、差別なんてしていなかったのに。

ある時代の魔王の日記には、奴隷として売られていた人族を買い取り、奴隷から解放し、メイドとして雇っていたと記されていたという。


それでも、悪魔の子孫だという、その一つの伝承だけで。

悪魔の子孫と非難してるけど、実際の悪魔を見たことがある人が一体、何人いるのだろう?

それ以前に、悪魔は悪いものだと誰もが言うが、その悪魔という言葉を作ったのが誰かは、気にならないのだろうか?



私は小さい頃から、お父様の国であるアシュタルにずっといた。

だから、他の国で実際に、魔族の扱いがどんなものなのかはわからない。


でも本を読んだ限りでは、他の亜人よりも酷い扱いで、同じ亜人の種族にも嫌われているらしい。


理由は、どの種族の歴史書を見ても、悪魔の子孫。その一つしか書かれていなかった。


だから、私はもっと調べるために、学園に行くことにした。


もしかしたら、どこかに一つくらい、悪魔が悪いものじゃないと否定するものや、魔族が悪魔の子孫じゃないという本が、存在するかもしれないから。


私はこの頃も、他人と関わるのは苦手だった。


けど、それ以上に魔族が差別されている理由が知りたくて、お父様に学園に行きたいと伝えた。お父様は今まで、私の頼みは絶対に叶えてくれた。

だから、今回もすぐに頷いてくれると思った。


だけどお父様は、私の頼みを初めて断った。


断られて、そこで私は気がついた。


私だって、どの種族からも差別され続けている魔族なのだと。


他の種族が治める国にある学園に行けば、私も魔族だとバレてしまう危険があるのだと。

そして、一度でもバレてしまえば、私も酷い扱いを受けてもう二度とお父様に会えなくなるかもしれないのだと。


それと同時に、私はお父様が、今までどれだけ頑張っていたのかを理解した。


私が今も、差別されている魔族だと忘れているくらい、お父様の治めているアシュタルは、平穏を保っている。

アシュタルの人々はいつも、幸せそうに笑顔で暮らしている。


でもこのアシュタルは、お父様が作ったとお父様の部下であるアシュタロトから聞いたことがあった。


つまりこの平穏は、当たり前にあったものではなかったのだ。


お父様が必死に頑張ってやっと、作り上げた平穏だったのだと。



そう理解すると、私はそれまでよりさらに、学園に行きたくなった。


それは、私は歴史だけじゃなく、もっと色々な知識を身につけるべきだと思ったから。


私のお父様がこの平穏を作り出し、守り続けているのだ。そのお父様からここを受け継ぐのは、一人娘の私しかいないはずだから。


そして、私が受け継いだ後も、この平穏を絶対に無くさないようにしなければいけない。


そう心に決め、私は、断られた後も諦めずに頼み続けた。


そして、頼み始めて一週間が経った頃、お父様が転移の魔法を私に教えてくれた。そして、私の頭に生えている角を幻影魔法で隠すと、危なくなったらいつでも帰ってこい。と言って、お父様は私を送り出してくれた。


それから、私は魔法科に入学し、講義を受けながら、学園の図書室の本を読み続ける日々を送った。しかし、二年に上がった時には、単位は取り終え、図書室の本も読み尽くしていたため、私はここ、アシュタルに戻ってきた。


でも、本当に私がしなければいけないことは、まだ学園に残っている。


それは、私が今まで逃げ続けてきたこと。


どうしても向き合えなくて、後回しにしてしまっていたこと。


それは、人と関わるということ。


私は学園でも、人と関わることはしなかった。教授と話すことはあった。でも、同級生達と話すことはなかった。


私には勇気がない。


長い間、人と関わって来なかったからだろうか。

小さい頃より今の方が自分から話しかけるのが怖く感じていた。


もし、話しかけて嫌な顔をされたらどうしよう。もし、睨まれたらどうしよう。


そんな小さなことが酷く心配で、もしかしたら自分の思った通りになると思うと、なぜか怖くて、声が出せない。


でも、他人のことを理解していなければ、今、お父様の率いている部下たちをまとめ、率いることが出来ないというのは、どの歴史書を見ても明らかだ。


そう思った私は、お父様に人族に会いたいと頼んだ。


もう一度、大勢の人がいる学園に戻って話しかける勇気はまだない。でも、他の種族について、本の知識だけでなく、いつか、実際に会って話してみたいとは思っていた。


だから私はお父様に、学園でも半数以上を締める人族を連れてきて欲しいと頼んだ。


大勢でなく、少数のなら、私も少し楽に話せる気がした。訊きたいことは沢山ある。だから話題には困らずに、普通に話せるんじゃないかと思った。


そして私はゼロと名乗る、自分の奴隷だという双子のリオとレオと、まるで兄弟の様な関係を築いている、不思議な人族に出会うのだった。



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