16
次にゼロの目に入ったのは、金色で描かれた模様など煌びやかな装飾が施された廊下だった。
「すごいな…。俺、こんな装飾、初めて見た…」
レオが周りを見渡しながら、そう呟く。
「僕も見たことないなぁ…。あっ、兄さん!勝手に触っちゃ…」
レオが、銀色の壺が置かれた台に手を触れる。
「これ、壺は勿論だけど、台だけでも相当高いぞ」
「そうなの?って、勝手に触っちゃ駄目だって」
ゼロがそんな二人の会話を聞いていると、ふと、誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「見つけました!ブラット様です!」
可憐な雰囲気の高めの声が聞こえると、長い廊下の奥の方から、こちらに向かって走ってくるメイド服の少女の姿が見えた。
「…誰かが走って、こっちに向かってきてる?」
「ブラット。こっちに向かってきてる人、お前の名前を言ってるぞ」
ゼロがブラットにそう言うと同時に、ブラットは向かってくる少女の反対方向へ身体を向けた。
「よし、私は逃げる。お前達はここで、向こうからこちらに向かってきている少女の足止めをしてくれ」
一言そう言い、ブラットはすぐに走リ出そうと重心を前へ傾ける。そして、一歩を踏み出そうとした。
その時、廊下に取り付けられた、幾つもある扉のうちの一つから、目を擦りながら角の生えた黒髪の少女が出てきた。
少女はゼロの肩より下くらいの身長しかなく、見たところ、リオ達と同じくらいの歳に見える。
「ふぁぁ、…ん。お父様、おかえりなさい…」
その瞬間、ブラットは踏み出そうとしていた足の方向を無理やり、少女のいる方へと向けた。そして、少女の元へと向かったのだった。
「ファナか。ただいま。元気にしていたか?」
ブラットは少女の頭に手を伸ばし、頭を撫でる。
「うん。よく眠れた」
少女は眠そうな目をブラットに向けて、小さくそう呟いて頷いたのだった。
「ブラット様!あ、ファナ様も…。アシュタロト様、すぐに来てください。ファナ様がおられます、今なら!」
メイド服の少女がそんなことを呟いていたが、そんな声は聞こえていないのか、ブラットはファナと呼ばれた少女と会話を続ける。
「そうか。それはよかったな。そうだ、ファナ。前に人族を見てみたい、って言っていただろう?今日は、その人族を連れてきたぞ」
「……?どこに、いるの?」
少女はブラットの言葉を聞くと、周囲を見渡して首を傾げる。
「ああ。ゼロ、リオ、レオ、少しこちらに来てくれ」
ブラットは呆然とした様子で自分を見ていたゼロ達に、声をかけた。
「…三人とも、この子はファナという。私の娘だ、仲良くしてやってくれ」
ブラットはファナの頭に手を置いて、ゼロ達にファナという少女を紹介した。
「お父様、重いから手離して。」
「ああ、悪い」
ファナは頭に乗っていた手が無くなると、ゼロ達の前に立つ。
「……ファナ。よろしく」
そして、ファナは少し間を置いた後、小さくそう呟いた。
「ファナ、か。俺はゼロだ、こっちの二人は双子で、左がリオ、右がレオだ。よろしくな」
ゼロはファナの急な登場に戸惑いつつも、笑顔でそう言い、手を出した。
「…ん」
すると、ファナは口元を少し緩ませ、小さな手でゼロの手を握ったのだった。