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「いや、そんな大したことをした覚えはないんだけどな…」


困ったようにそう言ったゼロに、興味津々といった様子でレオが訊く。


「ゼロさん!そこって、どんな世界だったんですか!?」


「お、おお。っていうか、信じてくれるのか?こんな突拍子もない話」


俺だったら、絶対信じないな。とりあえず、病院を勧める。


「もちろん!!だって、ゼロさんが俺達に嘘をつくとは思えないし」


「僕も信じる!!」


即答したレオに続き、リオも大きく頷くと、一言そう言った。


「そ、そうか、ありがとな」


二人はなんでこんなに、俺を信頼してるんだ?

俺は、大したことはしてやれてないと思うが。

いや、嬉しいは嬉しいが、本当に二人の将来が心配だ…。


「前世では、どんな暮らしをしてたんですか?」


レオが目を輝かせて、そう訊いてきた。


「それは、私も聞きたいな。地球というその世界には、魔物もいなければ、戦争もなかったのだろう。今、こんなに意気揚々と冒険者をやっているゼロが、そんな世界で何を仕事にしていたんだ?」


「え!?そうなの…?ゼロさん、魔物と戦う時、あんなに楽しそうなのに……」


ブラットの言葉を聞いたリオが、ゼロを心配そうに見つめた。


「リオ、なんでそんな目で見る?……まあ、そうだな、俺はこの世界で言えば、商会の会長みたいな、そんな仕事をしてたな」


厳密にいえば、仕事内容は違うだろうけど。まあ、社長も会長も似たようなもんだろ。


「商会の会長!?ゼロさん凄い!!」


「驚いたな…。てっきり、何かしら体を動かす仕事をしていると思ったんだが……」


「俺もそう思ってた。ゼロさん、戦ってる時いつも凄い楽しそうだし!!」


三人はゼロの仕事を聞くと、意外そうにそれぞれ、そう答えた。



俺、そんな風に思われてたのか…?



「前世にやってた仕事で肉体労働はなかったな」



……まあ、俺にとっては、今よりあっちの方がよっぽど大変な仕事だったけどな。


そんなことを思っていると、何か考え込んでいたリオが笑顔になって、言った。


「でも、ゼロさんが会長なら楽しそう!ゼロさん優しいから、部下の人にも慕われてそうだし」


「俺もそう思った!ゼロさんは俺達の面倒みてくれるくらい、面倒見いいから」


リオの言葉に続いて、レオまでもがそう言い、憧憬の眼差しでゼロを見つめる。


「いやいや、全然そんなことなかったぞ。それどころか……」


部下に殴られることもあった、なんて絶対に言えないな…。あんなに目を輝かせている二人を、失望させるわけにはいかないからな…。

まあ、それは佐藤に限った話だが、他の社員も別に俺を尊敬してた気はしないな。そもそも、佐藤以外の社員に会うこと自体、あんまりなかったしな…。


「ゼロさん?どうかしたの?」


ゼロの様子がおかしいことに気づいたリオが、心配そうにゼロの顔を覗き込んだ。


「何でもないぞ。それより、残りの肉も早く食べないと冷める」


「あ、そうだった!…ちょっと、兄さん!それ、僕のでしょ…!?」


「…ん、もふぁっふぁ」


レオは口を肉で膨らませたまま、そう言った。


「もらった、じゃないよ。いいかげん、僕の分を当然のように取って食べる癖やめてよ……」


「レオにはそんな癖があるのか?」


ゼロが水を口に運びながら、リオに訊いた。


「…うん。特に、僕達がまだ奴隷じゃなかった時なんて、ほんとに酷かったんだよ!?」


リオは頭を抱え、何かを思い出すようにそう呟いた。


「二人とも奴隷になる前は、どこで暮らしていたんだ?」


そんなリオに、ブラットがそう尋ねた。


「あ、えっと、レーウェン王国っていう、自然が沢山ある国です」


「ああ、そこなら私も一度行ったことがある。みな親切でとてもいい国だった」


ブラットはその時の事を思い出したのか、笑みを浮かべてそう言う。


「でしょ!?小さな国だけど、穏やかでとてもいい国なんだ!」


リオは、ブラットに母国を褒められたことが余程嬉しいのか、満面の笑みでそう言う。


「へぇ、それは俺も行ってみたいな。レーウェン王国っていうのは、ここからどれくらいかかるんだ?」


まあ、二人がどういう状況で奴隷になったのか、判明してからじゃないと、無理だろうけどな。

もし、王族の同意のもとで奴隷にされたなら、国に行くのは危険だろうし。

一応、後から二人に訊いてみるか。


「ふむ、大分遠いな…。馬車で行けば、1ヶ月はかかるだろう」


「そんなにかかるのか……。まあ、ある程度余裕が出てきたら、のんびり行ってみるか」


ゼロがそう言うとリオとレオが勢いよく、ゼロを見る。


「ほんと!?」


「ふぁんとか!!」


そして、二人とも驚いた様子で嬉しそうにそう言うのだった。


「ああ。でも、二人がそんなに行きたいなら、もっと早く行くか」


少し考えてからそう言うゼロに、ついに二人は身を乗り出す。


「…そもそも、何故二人は奴隷になったのだ?」


そんな様子を見ていたブラットがふと、そう尋ねる。


「そ、それは……」


ブラットの言葉に、リオが言葉を詰まらせる。


「いや、言いたくないならいい。踏み入った事を訊いて、すまなかった」


リオの様子にブラットが少し気まずそうに頭を下げて、謝る。


「ううん、ブラットさん頭上げて!!僕の方こそごめんなさい!……まだ、ゼロさんにも話せてなかったから。話す時は一番最初にゼロさんに伝えようって決めてたんだ…」


「そうか。…お前達はゼロの事を信頼しているだけでなく、好きなのだな」


何か納得したのか何度か頷いて、ブラットがそう言った。


「はい!!ゼロさんは奴隷だった僕達を、双子なら一緒がいいだろうって、一緒に買ってくれたんです…。その後も、奴隷の扱いとは思えないくらい、優しくて!!」


ブラットにそう言われ、嬉しそうに語ったリオに続き、やっと、肉を食べ終えたレオが言う。


「んく…。俺もゼロさんに買ってもらえて、本当によかったです。俺は奴隷になった時、自分はどうなってもリオだけは絶対に守るって、覚悟を決めてた。でも今はゼロさんのおかげで、リオだけじゃなくて、俺までこんなに幸せに過ごしてて……。ほんと、ゼロさんにはどんなに尽くしても、この恩は一生返し切れないです」


真剣な表情でそう語ったレオは、やはりリオの兄なのだと感じられる、弟を思う兄の姿だった。


…俺はそこまで感謝してくれなくても、いいんだけどな。二人を一緒に買ったことも、二人とも才能があるからこそだ。

俺は自分に危害を加える奴に容赦はしないし、慈善事業にも興味はない。自分に利益のない人間に構うほど、俺はお人好しじゃないしな。

だから、俺がお人好しだと期待されたら、後々、困る。

二人にもそこだけは、はっきり言っておかないとな。


「俺は利益のない人間を助ける程、お人好しじゃないぞ。二人を買ったのだって、二人が強くなると思ったからだ。…だから、これだけはしっかり覚えておいてくれ。俺は善人じゃない。だから、世の中で悪といわれる行為もやることもある。二人も、それだけは覚悟しておいてくれ」


「うん。それは大丈夫だ。俺、そういうことは沢山見てきたし、やったこともあるから」


「僕も大丈夫!ゼロさんのためなら、誰でも殺せるよ!!」


レオのは多分、王子の時のことだろうな。リオの方は、なんか怖いな。誰も、殺せとは言ってないんだが…。まあ、この二人なら大丈夫か。




「それなら、早速一つ、世の中では受け入れられてない事をやってみないか?」



そんな会話をしていた三人にブラットは、何故か少し楽しそうにそう言うのだった。


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