13
「どうした、レオ」
レオはゼロの元まで走ってくると、膝に手を置いて息を整える。
「はぁはぁ…。えっと、ゼロさん、なかなか戻ってこないから。俺、ゼロさんに何かあったのかと思って…」
「大丈夫、ブラットと話していただけだ。心配してくれて、ありがとな」
ゼロがそう言ってレオの頭を撫でると、レオは安心したようだった。
「そっか、よかった。俺もリオも、気づいたらゼロさんが見当たらなくて…」
「それで探してくれてたのか。ほら、喉乾いただろ?」
ゼロは町で事前に汲んでおいた水の入った水筒を、レオに渡した。
「ありがと」
レオはゼロから水筒を受け取ると息を落ち着かせてから、ごくごく、と喉を鳴らして、一気に飲む。
それにしても、もうこんな時間だったのか。少し、話し込み過ぎたな。
ふと、空を見上げると、町を出た時は低い位置にあった日が、随分高い位置に昇っていた。
「レオ、腹減っただろ?そろそろ、昼食にするか」
「うん!ゼロさん、水、ありがと。昼食なら、俺、リオ呼んでくる!」
レオはゼロの言葉を聞くと、嬉しそうにさっき来た方向に走っていった。
朝から今まで魔物を倒して続けていたにも関わらず、走り去っていくレオの後ろ姿に疲れた様子は全くない。
そんなレオの姿に、ゼロはようやく自分の体力についてこれる仲間が出来たと嬉しく思うのだった。
「…ブラット、話の続きは昼食をとった後でいいか?」
「ああ。だが昼食をとったら、絶対に続きを聞かせてくれ」
真剣な表情で、ブラットがゼロに詰め寄る。
「近い……。わかった、約束するから離れろ」
「ああ、すまない」
ゼロに言われて、初めて、自分が詰め寄っていることに気づいたブラットは、無意識に自分が必死になっていたことを少し照れくさそうにしながらゼロから離れた。
「ゼロさん!お昼ごはんって何食べるの!?」
そんなやりとりをしていると、声が聞こえてきた。
ゼロが声のした方向を見ると、そこには興奮した様子のリオと、そんなリオを必死に追いかけるレオの姿があった。
「レオ。そんなに急いで食べると、喉に詰まるぞ?」
ゼロ達が倒した魔物の肉に美味しそうに齧り付くレオに、ゼロが言った。
「ふぁいじょぶでふ、ふぇおふぁん!」
レオは肉を口一杯に詰め込んだまま、声を発した。
「悪いが、何を言ってるかわからない。ちゃんと、食べきってから喋れ」
「ふぁい!」
レオはそう返事をすると、また肉を口に入れ始める。
「はぁ……兄さんのことは僕が見ておくので、ゼロさんは気にしないで大丈夫です」
「ああ。悪いがリオ、頼んだ」
ゼロはレオのことをリオに任せ、さっきからずっと静かなブラットを見る。
「ん?どうしたゼロ」
ゼロの視線に気づいたブラットが肉を片手に持ち、そう訊いてきた。
「いや、お前が静かだと思ってな」
「…ああ。俺が食事中も質問攻めにすると思ったのか?」
ブラットは、一瞬不思議そうな顔をした後、思い出したように笑みを浮かべて、そう言った。
「ああ。てっきり、また詰め寄られるのかと構えてたんだが……」
「ゼロさん、何の話?」
案の定、喉が詰まったのか苦しそうな表情のレオに、水の入ったコップを渡して、リオが訊いた。
「ああ。実はな、お前達には言う機会を逃してたんだが、俺は転生者なんだ」
「ふぇんふぇいふぁ?」
「兄さん、飲み込んでから喋りなよ。それでえっと、転生者って何ですか…?」
首を傾げて、リオがゼロを見る。
「ああ。俺は前世は別の世界で、人生を送っていたってことだな」
ゼロがそう言うと、リオとレオはブラットに目を向けた。
「あ、ブラットももう知ってるから、そこは心配しなくてもいいぞ」
緊張感を漂わせていた二人にゼロがそう言うと、二人は身体の力を抜いた。
「ギルドで会った時にも思ったが、二人とも凄まじい忠誠心だな…」
ブラットは苦笑を浮かべて、ゼロを見るのだった。