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「よし、ここら辺でいいか…」
ゼロが足を止めたのは、町からだいぶ歩いた所にある草原だった。
「リオ、レオ、二人でそこにいるホーンラビットを倒してみてくれ」
ゼロが指を指したところには、角が生えた兎がいた。ホーンラビットとはBランクの魔物で角がとても鋭く、突き刺して攻撃する魔物だった。
「「うん!」」
二人は頷き、武器を構えてホーンラビットへと、音を立てずに走っていく。
その動きは、まるで暗殺者のようだ。
「兄さん、敵引きつけるのお願い」
「わかった」
一瞬顔を見合わせると、レオはホーンラビットにわざと足音を立てて近づいていく。
すると当然、ホーンラビットはレオに気づき、角をレオに向けて突進してきた。
「はぁぁぁ!」
それを確認したレオが声を発して、ホーンラビットの角へと剣を振り下ろす。そこに、後ろから静かに近づいていたリオがナイフで、ホーンラビットの首を切り落とした。
「うわ……。やっぱ、二人ともステータスに何かバグ、起こってるんじゃないか…?BランクってLv40くらいじゃないと、倒せないはずだぞ。それを首を落として倒すって」
そう言いつつ、ゼロも近くにいたホーンラビットの首を、一撃で落とした。
……?こんな、軽く切れたっけ?ま、いいか。
「よし、二人とも少しこっちに来てくれ」
ゼロは倒したホーンラビットを解体していた二人を呼び、ブラットを見る。
「さ、ブラット。助言してくれ」
一言そう言うゼロを見て、ブラットはため息を吐いた。
「はぁ……そうだな。リオとレオの連携は良かった。それと、三人とも首を落としたのも良いと思う。…出来れば、お前達のレベルを教えてくれないか?」
冒険者にステータスについて尋ねるのは、あまり良くない行動だといわれているため、ブラットは少し躊躇してから、そう言った。
しかし、リオとレオは何か考えることもなく、すぐにステータスを開き、ブラットに見せる。
名前:レオ
種族:人族
性別:男
Lv:30
HP 1500
MP 450
力 1100
防御力 1400
俊敏力 1050
得意武器:片手剣 双剣
名前:リオ
種族:人族
性別:男
Lv:31
HP 1100
MP 1500
力 650
防御力 900
俊敏力 1100
得意武器:杖 ナイフ
二人とも、レベル結構上がってるな……。やっぱり、オーク倒しまくったのが原因だよな。いや、それにしたって上がり過ぎじゃないか…?
ん…?てか、魔法についての欄も称号の欄もないな。
ステータスを普通に開いた場合って、『鑑定』ほど詳細には表示されないのか。リオもレオも称号はあまり人に見せない方がいいだろうからな。
ん?てか、それなら称号があることももしかして気づいてないのか?リオもレオもステータスを見せることに躊躇しなかったのは、だからか……?
まあ、それはあとから訊けばいいか。
それより、二人が見せたんだ。俺も見せた方がいいよな。助言頼んだのも、俺だし。
でも称号は見れないんだったら、『偽証』を使わなくても大丈夫か?
いや、念には念を入れて、一応『偽証』で隠しとくか。対策しておいて損はないからな。二人のもかけておこう。
ていうか、二人があんなレベル上がってるってことは、もしかして俺も上がってる?
名前:ゼロ
種族:人族
性別:男
Lv:50
HP 3500
MP 1650
力 3500
防御力 2700
俊敏力 2850
得意武器:双剣
おお、凄い成長してる。さっき、魔物と戦った時やけにすんなり倒せるなとは思ったけど、これが理由か。
しかし、こんな速度でレベルが上がってくのはチートといえるんじゃないか?
Lv50前後なら、この世界の冒険者の基準だと、Aランクになるのも夢じゃないな。
冒険者のランクは最低ランクのFから順にE、D、C、B、A、Sと上がっていく。上級冒険者のランクの基準レベルは大体Lv40からといわれる。
しかし、レベルが高くても依頼の数をこなしていないため、ゼロはランクが上げられず、Eランクであり、登録したばかりのリオとレオに至っては最低ランクのFだ。
昇格試験受けてみるか…。Aランクが無理でもさすがに、Eランクは卒業出来るだろうしな。リオたち二人も、Bランクくらいまで行けるんじゃないか?
昇格試験というのは依頼の数をこなして、受けられる試験とは別に、上級冒険者と戦って実力を認められた場合にのみ、特別にランクを上げられる試験があるのだった。
しかし、その分試験内容は厳しいものになっており、自分に自信がある者が毎年何人かは受けているが受かるのは、一人いたらいい方といったくらいだ。
まあ、それもあとから決めるか。
…はあ、やること多いな。
んん?俺のステータスと比べると、リオのMP、異常じゃないか?
リオは完全に魔法職向きだな。そういえば、得意武器に杖があったな。まあ、本人は選ばなかったけど。いや、でも昨日確か、強化魔法使ってたな。結構魔法も覚えてるのか?今度、魔法書指南書でも買って渡してみるか。
いや、装備揃えたらまた金が無くなるし、だいぶ後になるかもしれないが。
ま、今はとりあえずこれを見せて、と。
ゼロは『偽証』をかけ終わったステータスを、ブラットに見せる。
「ふむ。三人も充分強いじゃないか。私に助言を求める必要はないだろう」
ブラットが三人のステータスを見終わると、一言そう言った。
「いや、俺もまさかここまでレベルが上がってるとは、思ってなかった。でもだからこそ、いくらレベルが上がっていても、技術がなかったら、宝の持ち腐れだ。だから、それを指導してくれないか」
ゼロがそう言うとブラットが顎に手を置いて、何かを考え始める。
「ふむ。もう、ひたすら魔物を狩るしかないな」
しばらく無言になった後、口を開いて言ったのはその言葉だった。
「それはいいが、何か、動きで教えることとかはないのか?」
「私は我流だからな。私が教えられることはない。私自身、ひたすら魔物を狩りつづけることで、強くなってきた。だから、私が言えるとすれば、私のやったことと同じことしかない。まあ、強いて言えば、常に周囲を警戒しておくことだな。そうしていれば、そのうち自然に、隠している殺気でも察知出来るようになるだろう」
腕を組んだブラットがそう言った。
「わかった!あの!ブラットさんは、今日はずっと見ててくれるんですか?」
レオが申し訳なさそうに、手を挙げてそう言った。
「ああ、そのつもりだ」
「……!!じゃあ、何か助言があったら遠慮なく言ってください!!」
頷いたブラットに、レオは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ブラット、改めて今日は俺達のことよろしく頼む。じゃあ、リオ、レオ」
「「はい!」」
ゼロの呼びかけに、二人が元気よく返事をする。
「お互い、目の届く範囲で別々に魔物狩っていこう」
「ゼロさん!別々に狩るの?」
ゼロの言葉に、リオが不思議そうに訊く。
「ああ。もちろん、誰かが危ない時は協力して倒す。別々に戦っていても、俺達がパーティなのは変わらないからな」
ゼロはそう言って、ブラットを見る。
「そうだな。弱い魔物にまで、パーティで挑むのは効率が悪い。ゼロの言う通り、強い魔物にだけ、パーティで挑む方が効率がいいだろう」
ゼロの視線を受けたブラットは頷いて、そう言った。
「わかった!」
リオはそれを聞くと、納得したのか一度深く頷く。
「リオ!どっちが多く狩れるか、勝負しようぜ!!」
そんなリオに、興奮した様子でレオがそう言った。
「え、いいけど。それなら、勝った方に何か賞品があったら、いいんじゃない?」
「それいいな!……でも、何にするか」
首を捻るレオにゼロが言う。
「なら、勝った方には、今から倒す魔物を換金したお金で、何か買ってやろう」
その言葉に、二人は驚いた顔でゼロを見た。
「え、ゼロさん、いいの?」
「ゼロさん、お金大丈夫なのか…?」
そんな心配を子供にされることに、ゼロは苦笑しながらも頷く。
「大丈夫だ。オークの一件で貰ったお金が結構あるからな。それより、何でも好きな物買ってやるから、二人とも頑張れよ」
「「ほんと!?」」
ゼロの言葉に、リオとレオは声を揃えてそう尋ねる。
「もちろんだ。ほら、じゃあ始めるぞ」
興奮した様子で武器を構える二人を見て、ゼロは二人がまだ子供だということをあらためて認識するのだった。
「リオ、本気で行くからな!!」
「僕も本気で行くよ、兄さん」
リオとレオはそう言い合うと、同時に動き出した。