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初心者なので変なところがあるかもしれませんがよろしくお願いしますm(*_ _)m

東京都新宿にある高層ビル。その最上階の一室で、硬派な顔立ちの男が、パソコンの画面を眠そうに見つめていた。


「これは......だな、これはこう......であとはこれを...」

男は小声で何かを呟きながら、パソコンのキーボードを途切れることなく叩き続けている。


だだっ広いその一室では、そんな代わり映えしない光景が、永遠と続いていた。他に聞こえてくるものといえば、時計のカチカチという音のみ。そんな殺伐とした空気を、ノックの音が破るのだった。


コンコン__


「...失礼します。社長、頼んでいた資料はでき...」


入ってきた女は、男の視線の先にあるパソコンの画面が見えた瞬間、ヒールを地面に叩きつけるように、カツカツ鳴らしながら早歩きで、男に近づいていく。

女は、自分が近づいても、キーボードを叩く手を止めない男の椅子をグッと引き、無理やりパソコンから離す。そして一息置いてから、男の頬を容赦なく拳で殴った。


「...グホッ、」


「どうです?目は覚めましたか?」


何が起きたのか分からずに、瞬きを繰り返す市ノ瀬に、佐藤はまるで、今の出来事がなかったかのように、平然とそう言った。



「あれ、佐藤?お前いつの間に社長室に入って...。いや、それより今、頬に何か強い衝撃がきたような...」


「一体、何を仰っているのですか?私はきちんと、ノックを致しました」


真顔でそう言う秘書-佐藤桜の言葉に、社長-市ノ瀬零は、納得はしていないものの、言い返すことは出来なかった。


「それより、事前に今日中にと伝えておいた書類類は当然、全てに目を通しているんですよね?」


「いやそれが...本当に、ほんの少しだけ残っていてな」


「......、そうですか」


お、これはいけるか...?


「ああ。本当に、あと、ほんの少しだけだ。だから、もう少しだけ、待っていてくれ」


「...そうですね。真剣に取り組んで、それでも時間が足りなかったのなら、もう少しくらい待つべきですね。ええ、真剣に取り組んだのなら」


そこまで言い終わった瞬間、佐藤から凄まじい殺気が放たれた。


「...っ!!佐藤、ど、どうした。もう少しだけ待ってくれるんだよな?」


「ええ、待ちます」


「ああ…」


佐藤の返事に、市ノ瀬が肩の力を抜いた時、佐藤は人差し指をバッと突き出し、パソコンの画面を指さした。


「...なら、まずこれの説明をお願いしますね」


俺は、滅多に見ない笑顔を浮かべた佐藤から視線を指をさされたパソコンに向ける。


「あ、」


そこでついさっきまで、パソコンでゲームをしていた自分の行動を思い出す。


「あーいや、ははっ。......悪かった」


「それは、どの件についてでしょうか?」


「......全部?」


「ふふ、ふふふっ...」


「ははは...」


不気味な笑い声を上げる佐藤に、俺も無理やり笑いをつくる。


「ふふ...。......何故、あなたが笑っているのでしょう。あなたは今、笑っていられる状況なのですか?それとも、これぐらい社長だから許される、とでも思ってるのですか?ねぇ、どうなのですか社長」


「い、や...そんなことは」


あーやべ。ミスった。


「ないですか?では何故、笑っていられるのでしょうか。ああ、もしかすると、どうせ最終的には私が何とかするだろう、と思っているのでしょうか。だから、毎回毎回、私が伝えた期限を過ぎて、終いには、仕事中にゲームを始めても、危機感が微塵も芽生えないのでしょうか」


「そ、そんなことはない。俺だって、少しは成長してるぞ。ほら、あ、あれだ...前までは、期限内に全く終わらせていなかった仕事も、今回はあと、残り少しのところまで終わらせた。ほら、少しは成長してるだろ?」


俺は、額に汗が出てきているのを感じながら、恐る恐る佐藤を見る。


「そうですね。しかし、私は社長が成長されたお姿を、もっと拝見させて頂きたいです。なので今回の件は、今日中に社長が、一人で終わらせてください。えー、今は午後十一時を回ったところですから、あと一時間でお願いしますね。幸い、あと少しのところまでは終わっているそうですし、大丈夫ではないですか」


「いや、それはやめておいた方が...な?」


これはまずい。いつも佐藤が手伝ってくれるから、何とか期限内に完成しているものを、俺一人でなんて出来るわけがない。


「いえ、遠慮は無用です。私は一時間後にまた、では失礼いたします」


「あ、」


佐藤は、声も出せない市ノ瀬に見向きもせず、一礼するとさっさと社長室を出ていった。


マジか。...さて、どうするか。

......いっそ死ぬか。あ、駄目だ。来月新作ゲーム出るわ。死ぬにしても、それはやりたい。はぁ......仕事するか。


市ノ瀬が、真剣に仕事に取り掛かり始めた頃、社長室に一番近い部署では。


「...ね、佐藤さん今、社長室向かったよね!市ノ瀬社長に何の用だったのかな?」


「ちょっと!声大きいって。誰かに聞かれたらどうするの?」


「ごめん...。でも、気になるじゃんあの噂」


残業中のOL達が、こそこそと体を寄せて、噂話していた。


「それはそうだけどさぁ...」


「ねぇ、噂って何?」


「え、知らないの?市ノ瀬社長と佐藤さんの熱愛疑惑だよ!」


首をかしげた一人の女性に、もう一人が興奮気味に答える。


「熱愛!?」


「ちょっ、だから声が大きいって...!」


「だ、だって、でもなんでそんな噂が?」


「それはね...」


手招きにした一人に、他のOL達は耳を寄せる。


「「それは?」」


「それはね...ある日、昼食から戻る途中だったここの社員が、手に野菜の入った袋を掛けた佐藤さんを見かけたところから始まったの」


「え。野菜の入った袋?待って、まずそこから変じゃない?」


「いいの、そこは無視して」


ツッコミたくなるのを我慢して、OL達はまた耳を寄せた。


「それでね、その社員は、佐藤さんがどこに行くのか気になって、悪いと思いつつ、こっそり後をつけたの」


「それはしょうがないね。会社に野菜を持ってくるだけでも変なのに、それをしたのがあの佐藤さんだもん。そんなの気になるに決まってるでしょ」


「ちょっと美帆、だからそこは気にしないでって...」


美帆と呼ばれた女性は、はいはい。と言うように手をひらひらと動かす。


「で、その社員が後をつけるとね...」


「「つけると!?」」


「なんと、佐藤さんが社長室に入って行ったんだって!!」


「だよね。そうくるんだろうなって、だいぶ前から感じてたよ」


美帆はうんうん、と頷く。


「でも、なんでそれが熱愛に繋がるの?」


美帆の質問に、一瞬驚いた表情をしてから、言う。


「え?そりゃあ野菜ときたら手料理でしょ?で、手料理ときたら付き合ってるしかないでしょ」


「うんうん。やっぱりそれしかないよね!!」


「え、そうなのかな...?」


数人がそれぞれ頷くのに対し、美帆は、いまいち納得がいってなかった。


「美帆、まだ信じてないの?」


噂を語っていたOLがそう言うと、他のOL達も美帆を見た。


「うーん、やっぱり違うような...?だって、もしかしたらただお裾分けを社長にあげただけかもしれないし...」


「でも、それなら私達にもくれるでしょ」


「ほんと、美帆って噂とか信じないよね」


「あはは...」


そのとき、廊下を歩く足音が聞こえてきた。


「やばっ、部長かも」


「みんな解散っ」


OL達がそれぞれ席に急いで戻ると、丁度、部長が戻ってきた。


「みんな、残業お疲れ様。そろそろ零時を回る頃だし、今日はもう終わっていいぞ」


「はーい。じゃ、お疲れ様でしたー」


「お疲れ様です」


部長が声を掛けた途端、OL達は次々と部署を出ていく。


ほんと、切り替え早いなあ...。


部長はそう心の中で呟きながら、自分のデスクに戻り、残りの仕事に取り掛かるのだった。



コンコン__


「佐藤です。失礼します」


その頃、社長室には約束丁度の時間に、佐藤が訪ねて来ていた。


「市ノ瀬社長、書類は出来ておられますか?」


「...ああ。何とかな」


市ノ瀬はまるで砂漠を一週間放浪した後のような表情で、佐藤に書類を渡す。


「確かに」


佐藤は書類に一通り目を通すと、頷いた。


「では、明日は午前九時から、取引先の社長と会食ですので、午前七時には、ご自宅に迎えに行きます」


「...ああ。わかった」


市ノ瀬が返事を返すと、佐藤は一礼し、社長室を出ていった。


「はぁ」


佐藤が見えなくなると、市ノ瀬がため息を吐く。


あーマジ疲れた。やっぱり、久しぶりに本気でやったのが、効いたな。佐藤が秘書になってから、俺が本気出さなくても、会社が回るようになってたし。ほんと、佐藤には感謝だな。これで俺に口出ししなかったら、文句なしなんだが。


どこかで佐藤のはい?と言っている声がした。



翌日


「なぁ、佐藤」


タクシーの車内で、会社用の鞄を膝に置いて外を眺める市ノ瀬の姿は、どこから見ても普通のサラリーマンだ。


「なんでしょうか、社長」


そう言い横を向く佐藤もまた、上司に付き添う部下にしか見えない。そのためそんな二人が


「なぁ、してもいいだろ?車内なら誰にも見られないし...な?」


「駄目です社長、この移動も仕事のうちです。私事は、持ち込むべきではありません」


そんな会話をすれば、密かに付き合っているカップルに見えなくもない。だが、実際には全く別の意味で使われていた。


「佐藤は少し固すぎる。もう少し、柔軟な考え方にしたほうがいいぞ」


「いえ。結構です」


「遠慮は無用だ。そうだな...俺のゲームしている所見てろ。そしたら、少し考えが変わるかもしれない」


「いえ、本当に結構ですので。それと、いくら言い方を変えようと、ゲームをするのは駄目です」


くそ、こいつ固すぎる。絶対、彼氏いないだろうな。


「社長、今私のこと馬鹿にしませんでした?」


なんでわかるんだ。エスパーか?


「そんなことないぞ。俺が、お前みたいな有能な人材を、馬鹿にすると思うか?」


俺はビジネス用の仮面を被り、微笑む程度の笑顔で言った。


「嘘ですね。それは、社長お得意のビジネス用の仮面ですね」


だから、なんでわかるんだ。


「何言ってる。俺は、仮面など付けたことはない」


諦めが悪い市ノ瀬は、それでも粘る。


「ふふ。駄目ですよ社長、社長は私に勝てません」


「はぁ?なんだ...」


それ、と言おうとしたところで、俺の視界は真っ暗になった。

読んでくれてありがとう

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