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競馬場と白瀬貢蔵の釣り竿、そして塹壕の兵士

作者: ホッコクのクワズイモ

 起きがけにみる朧がかった夢のはなし。小糠雨に包まれた遊園地のような競馬場、曰く有りげな貰い物、時間も場所も遠くにあるひだまりの塹壕。

 なんとはなしに、体重が少し軽くなって、気持ちよさから一日が始まるような雰囲気を2分程度の読み物につなげました。

 長く眠っていたらオムニバスの映画のような夢を見ていた。消えゆく前に、書き留める。

 まずは、はっきりしているものから。

 馬券を買おうとしている。あたりは「天然色」といって相応しいパステルカラーに満ちている遊園地で、入場券売り場の若いお姉さんの売り子から手売りで売ってもらった。景色の拵えや彼女の顔立ちからは、どこかヨーロッパの田舎の乾いたハレの空気感なのに、馬券を挟んだ薄いカバーに約款のような日本語が下五列かかれている。ついでというように、昔のマキバオーのようなデフォルメしたアニメキャラまで添えられてる。カバーをめくると黒いブツブツの突起が打ち抜かれた紙には一万五千四百二十三の端数が記され、もう一枚の桜色の紙には三十万とだけ記されている。眺めるよりほか仕方ないので見ていると、彼女の方から「寒いでしょうから此方をお貸しします」と、グレーの小さな襟の付いたポンチョを二つ手渡してくれた。一つは濃いグリーンに濃淡の水玉、もうひとつは蜜柑茶色にサーモンピンクの水玉の入った、まだ袖を通していない四角く畳まれたお揃いのポロシャツに見えた。

 隣に小泉今日子の美しい小さな顔をした女の子が並んでいて、先にその子に着せてあげようと蜜柑茶色の方を拡げたら、思いのほか小さくて、その美しい顔は腰のあたりに並んでいる。その娘は恋人ではなくて、娘であることをしった。二人してポンチョを着込むと、「レースは明日なので、それまではこれを着て暖かくして待っているように」と、ニッコリを返して呉れた。ささがに三十万円以上も馬券を買ったので待遇がいいわけだ。誰もいない競馬場は、ただでさえ広く静かなのに、雨が降ればそれがもっと先まで行ってしまいそう。それでも、握ってくれる人の片方の手があれば、明日を待ちわびなくても済みそうだ。

 その夢の前は釣り竿のはなし。もらった釣り竿にまで話が及んでいる。はじめは彼女のもらった釣り竿の話を一方的に聞かされていたのだが、私の貰い受けた釣り竿に話しが移ると、待ち構えたように根掘り葉掘り探られている。彼女は小泉今日子ではない。馬券売の西洋女の方だ。今は化粧をそう見せているだけで、日本人だが。

 結局、それを見せなければ落ち着かない処まできて、取りに戻って見せた。これだったのかどうか怪しい感じはしたが、持っている釣り竿はもらった釣り竿よりないので間違いないだろうと見せると、既にそれを見知っているように、「白瀬貢蔵 作」と云う。 

 白鞘のような一番竿の手元にたっぷりの墨を使って、黒ぐろそう書いてある。女が読み出すまで、何故気付かなかったのだろう、と我に返った処で消えた。

 その前はかなり前なので、配色だけで繋がっている絵を思い起こすよりない。各自二畳だけ割り当てられた草原で野宿する。縦に四つで割り、岩側の隅を割り当てられたので、硬いのに難儀しながら寝床を作る。同じ二畳でも岩側で大部分取られているので、仰向けもうつ伏せもできず、横になるよりない。あまりに不公平で可哀想に思ってか、大部が枯れかかってはいるが、オレンジ色のマーガレットの群生が目線の先に来るように置いてある。

 四週間も上空だけが眩しい塹壕に籠もって、段々に枯れていくマーガレットの群生だけを見つめていた百年前の若いヨーロッパ兵士も、同じように枯れていく。枯れていきながらも生き永らえていく。いつまでも何も変わらない四週間は続く。


 起きがけにみる朧がかった夢のはなし。小糠雨に包まれた遊園地のような競馬場、曰く有りげな貰い物、時間も場所も遠くにあるひだまりの塹壕。

 なんとはなしに、体重が少し軽くなって、気持ちよさから一日が始まるような雰囲気を2分程度の読み物につなげました。

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