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9 薄茶色に濁る水
(落ち着け。一旦落ち着け、自分)
まだ死ぬと決まったわけではない。
シビレはすぐ収まるはず。
でも、その前に、酸素ボンベが尽きたら?
上半身までシビレが回ったら?
酸素ボンベが尽きる頃になれば、仲間が心配して探しに来てくれる? か?
いろいろな思いが脳内を駆け巡る。が、考えてもどうにもならない。
ふと気づくと自分の周囲の水が薄茶色に濁っている。
濁りの原因は自分だった。
首をひねって尻のあたりを見ると、けっこうな勢いで血が噴出していて、それが水の中に拡散して薄茶色に海水を染めているのだった。
血の匂いにつられたのだろう、小魚がたくさん寄ってきた。
(キレイだな)
などと、感心している場合ではない。
どこに隠れていたものか、けっこう大型のタコが現れて、グニョグニョと動きながらにじり寄ってきて、脚にへばりついた。
タコは人間の死体を食べると聞いたことがある。
(いやいや、まだ死んでないし。生きてるし。でも、動けないから死体認定されても否定のしようがないんだよね)