7 調子が出てきた
青年は焦っていた。
(まずいマズイ! このままではビールを奢らされる!)
いや、そういうことではない。
しかし、さすがの青年も、だんだん調子が出てきたようだった。
なんとなく暗い影をみつけ、
(あそこにいるな)
と思うと、そこにほんとうにヒトデがいた。
(よし。すぐに追いつくぞ)
青年は、次々に酢酸の毒液をヒトデに注射しては殺し、籠に入れていった。
(はいるだけ入れてやる)
次に船に戻るときは、大量のオニヒトデを船上にぶちまけて、船頭の鼻を明かしてやるのだ。
籠にはもう十匹ものオニヒトデが入っている。
かなり重い。
潮の流れに青年は体を持っていかれそうになった。
(でも、もう一匹だけ。もう一匹捕ったら船に戻ろう)
青年は次のヒトデを見つけた。
そこに近づき、注射器を持った手をヒトデのほうに伸ばした。しかし、あとちょっとなのに届かない。無理な姿勢で腕を伸ばす。
(あと5センチ)
青年はバランスを崩して、転びそうになった。その拍子に、籠から何個かの死骸がこぼれおちた。
(あ、しまった)
青年は、こぼれるヒトデをつかもうとしてさらに体勢を崩した。
そして、こぼれたオニヒトデの真上に尻もちをついた。
オニヒトデのトゲは、ウェットスーツを貫いて、青年の尻にブスっと刺さった。