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サンゴとオニヒトデ  作者: 青海 嶺
25/26

25 幸福

 青年はいま、激しく動揺していた。

 打ちのめされたような思いと、様々な疑問が、心に渦巻いている。

「人間のような愚かな種族は何をしても意味がないのでしょうか」

「愚かな動物が好き勝手に振る舞って、多くの生物種を絶滅させたとしても、それもまた地球(ガイア)全体の(おお)きな動的均衡の一部にすぎないのだ」

「じゃあ自然保護なんて無意味なんですよね?」


「お前はまだ分かっていないようだね。

 保護などと上から目線で語る資格が人間にあると思うのか。

 保護ではないのだよ。

 自然の中で自然と共に、命の大きな共同体の一部として生きていくこと。

 それに尽きるのではないかな。

 偉そうに保護保護というのはおこがましいこと。

 だが、排気ガスや、農薬の廃液や、プラスチックや、放射能を垂れ流して他の生命に迷惑を掛けるのは許されることではない。

 人間の文明とやらは、他の生命種にとってははた迷惑なことが多いな。

 ただ害悪ばかりでもない。

 人間は芸術という素晴らしいものも生み出した。

 まあ他の生命には無用の長物だが、自然界にはない美しさを生んでいるのも確かだよ。

 だから悲観ばかりすることもないのだよ。

 もっとも、ヒトデとなった今のお前には何の慰めにもならないだろうが」

 そういうとカメはゆっくりと泳ぎだし、悠然と離れていった。

「またどこかで会うこともあるだろう」

 青年は大きな後ろ姿をいつまでも見送りながら、何か、自分が救われたような気がした。


    *    *    *    *


 迷妄を断ち切った青年は、珊瑚礁に戻り、仲間とともにサンゴをたらふく食べた。

 やがて結婚し、こどもをたくさん産んだ。

 オニヒトデはどんどん増えた。

 いま、この珊瑚礁は元青年と、その子と、孫とで満ち溢れていた。

 彼は今、幸福を感じていた。

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