24 ウミガメの教え
青年は、一つの疑問に思うことがあった。
絶え間ない食物連鎖の流れのなか、弱いものは強いものに食べられ、強いものもより強く大きなものに食べられる。そいつも死ねば、微生物の餌になる……
とすると、弱肉強食は正しいのか?
弱い者は死すべしということか?
「一つわからないのですが。人間同士が助けあって、弱いものを支えながら、ともに生きるべきだ、なんて理想は、非現実的な偽善だということになるのでしょうか? 強いものが我が物顔にのさばるのは自然の摂理なのでしょうか」
カメは目を閉じ、深く息を吐いた。カメは答えた。
「野生動物も、同じ種の仲間同士、助け合い、支え合って外敵から身を護るのだよ。家族という意識もあるし、集団の仲間意識もある。むしろ人間だけではないかな。同じ種族で殺し合い、騙し、盗み、弱いものを搾取して足蹴にして強いものが笑っている。人間以外ではあまり聞かない話だよ」
青年は溜息をついた。ちなみにヒトデがどうやって溜息(以下略)
「人間なんて愚かな種は滅んでしまったほうがいいんでしょうか」
青年だったオニヒトデは、かつて自分が人間だったことを恥じる思いだった。
カメは静かに答えた。
「人類という種が滅んだところで地球にとっては、ニキビが潰れたほどのショックもない。
またいつか別の知的生物が生まれて人類のかわりに地球上にのさばるかもしれないし、知的生命など全然いなくても地球自身は何も困りはしない。
ヒトの命が地球より重いとか、生物多様性の保護とか、人間にとっての関心事は、たいてい人間の価値観のなかでしか通用しない戯言だ」




