23 オニヒトデの涙
大きなウミガメは静かに語りだした。
あらゆる命が、他の命を食べ、食べられながら、命を受け継ぎ、次の命に伝えていく。
すべては繋がっている。
繋がっている命に、上下も、貴賎もない。
ある生き物だけを守るのも、自然環境を「保護」するのも、しょせんは人間のエゴから出たことだ。
動物の命をもらうことに罪悪感を感じたり、植物だけを食べれば罪の意識から逃れられると考えるのも、人間の愚かな間違いだ。
植物も生きている。命であることにかわりはない。
他の命を食べることに罪を感じなくていいし、恥じることもない。
他の命によって生かされることは、命のことわりだから。
カメの言葉を聞きながら涙が止まらなかった。
ちなみにヒトデの涙の成分は海水とほぼ同じで、涙は出たはじから海水と混じり合うので、泣いているかどうかは本人にしかわからない。
うっかりすると本人にもわからない。
今こそ、青年ははっきりと気づいた。
珊瑚礁を守るのは、自分の商売のため、観光資源を、観光産業を守るためだった。
京都の古刹の庭師が、庭を綺麗に手入れするのと同じことだ。
そう考えるとなんだかスッキリした。
青年はふと思った。
「あなたはひょっとして神さまなのではないですか?」
「はてね。ワシはもう長く生きすぎて、自分が何者なのかよく分からなくなってしまったが。その昔聞いたことだが、神は亀の言い間違いからうまれたということだ」
青年は目を見開いた。ちなみにオニヒトデの目とは(以下略)。
(とすると、海亀とは海神のことではないか!)
大きなカメは目を細めた。
「冗談だよ」
「あなたの冗談は冗談に聞こえません」
カメは声を立てずに笑った。




