16 満腹
空腹に耐えられずエネルギー切れになるまえに次の珊瑚礁まで移動できなければ、それは即、死を意味するのだろう。
オニヒトデは海流の水の流れも利用しつつ、なるべく体力を温存しながら、隣のサンゴの群生を目指した。
なんとか次の珊瑚礁に辿り着き、オニヒトデは思う存分サンゴを食いまくった。
(あー、食った食った)
人間ならゲップの一つもするところだ。
とりあえず満腹して、人間らしい気持ちを取り戻した青年は、ふと周囲を見回した。お仲間のオニヒトデたちが、かなりの勢いでサンゴを食い散らかしている。このままでは、この珊瑚礁が死骸の山に変わるのもそう遠いことではない。
青年は思わず、近くの仲間ににじり寄って話しかけた。
「おい。やめようぜ、そんなにサンゴを食べるのは」
「何言ってんの? オレはハラペコなんだよ。だいたい、食べなきゃ死んじゃうだろ」
「まあまあ。とにかくサンゴは大事なんだからさ、別のものを食べてしのごうよ」
「お前、馬鹿か? 気はたしかか? サンゴが大事って意味がわからねえ。自分が生き延びることより大事なことなんて、この世にあるか?」
そう言われてみると、返す言葉がなかった。
「だいたいお前だって、さっきムシャムシャ食ってただろう。サンゴを、さも旨そうによ?」
その通りだった。青年は満腹だった。




