15 空腹
このあいだまでせっせと駆除していたオニヒトデに、まさか自分がなるとは。
青年は呆然とし、そして苦笑したが、オニヒトデになってしまったいま、苦笑とはどんな笑いだったか、分からなくなりつつあった。
(これが因果応報ってヤツか)
人だったころには考えもしなかったことを、いまヒトデになって考えている。思えばおかしな話だった。
(あのころは人間死ねばそれまでだと思っていたが)
まさか輪廻転生がおとぎ話ではなかったなどとは、自分で経験するまで信じられなかったのも当たり前だった。
(それにしても腹が減った)
青年だったオニヒトデは空腹を覚えた。
(そうだ、俺は腹が減っている)
周囲はどうやら珊瑚礁のようだが、すでに食べられるサンゴはほとんど食い尽くされているらしい。
青年は移動して、わずかに残っている食べられるサンゴや、小動物の死骸などを食べ、また食べ物を探して移動し、食べては移動し、を繰り返した。
(野生動物の一生とは、空腹と、それを満たす食べ物を得ることで過ぎていくものなのか)
青年は、深い自然の哲理を悟ったような気がした。
(だが、そんな悟りは腹の足しにはならない。腹が減った。腹が)
青年はサンゴの残骸だらけの珊瑚礁を離れ、次なる珊瑚礁を求めて移動した。




