13 海底の捜索
船上は緊張に包まれた。
何か事故があったのは間違いない。
あの赤い血の量はただごとではない。
あれが青年の血だとすると事態は絶望的だ。
「潜って探しましょう」
「だが、もう酸素が」
誰のボンベにも、青年を探し回れるだけの酸素は残っていない。予備のボンベもない。素潜りでどうにかなる深さでもなかった。海女さんなら別だろうが。
「しかたがない。捜索は明日だ」
「でも、もう少し待ちましょう。戻ってくるかも」
若者はそう言いながらも、赤い海の色を見て絶望感に襲われていた。
事故は無線で他の船にも知らされた。船団全体が沈鬱な空気に包まれる。
帰途は、お通夜のようだった。
若者たちは、楽しい賭けが台無しになって、ちょっとガッカリしていたが、人一人死んだかもしれないときに、そんなことも言ってはおれず、神妙にしていた。
翌日から海が荒れ、出航は見合わされた。
三日後、捜索隊がGPSを使って事故現場の位置に到着し、数十名のダイバーが珊瑚礁を捜索した。
しばらくして、金属製の籠、酸素ボンベ、そして青年がつけていたらしいウェットスーツのぼろぼろになった断片と、足ひれが見つかった。
青年の肉体の痕跡は何も見つからなかった。
海は青く澄んで綺麗だった。
赤い血の色は全然残っていなかった。




