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12 海の大宴会
サメのするどい歯は、青年の脇腹をウェットスーツごと食いちぎった。
大量の血が海を赤く染めた。
サメは何度も何度もぶつかるようにして、青年の腹部を食っていった。
シビレているせいで痛みは感じないが、周囲の水を染める真っ赤な色を見て、青年は自分が死ぬことを悟った。
(俺の最後の晩餐は卵かけご飯だったな。晩餐ってか朝飯だったけど)
スーパーの特売で買った安い卵。
(卵、2個にしておけばよかった)
卵、2個にしておけばよかった……それが、青年が最後に思ったことだった。
青年の意識は消失した。
二匹目、三匹目のサメも現れ、青年の体を食べた。
サメ以外のいろいろな水棲生物が、うようよと寄ってきて、青年の死体に群がった。
さまざまな魚たち、タコ、エビやカニの類……その他その他。
それは、ときならぬ海の大宴会だった。
ほとんどお祭り騒ぎである。
青年以外のダイバーたちは、酸素が切れる前に余裕をもって作業を終え、船上に戻っていた。そして青年が戻ってこないことを訝しんだ。
船頭が、海の水が赤く染まっていると告げた。
みんな、嫌な予感がした。




