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10 タコの愛撫
脚にへばりついた大きなタコは、青年の尻のあたりに移動し、どうやら血を吸っているようだった。
尻、というか、腰のあたり全体がグニョグニョするタコに覆われ、へばりつかれていた。かなりの力で締め付けれれているような気もするが、腰のあたりも既にシビレていてよくわからない。
(女の人に抱きつかれたらこんな感じだろうか?)
青年は、ふとそう思った。
(そんなこと考えてる場合じゃない!)
それに青年は三十路をすぎてもまだそういう経験がなかったので、考えてもどうせ分かるはずはなかった。
(ああ、尻がシビレていなければ、もっと気持ちよかったかもしれない)
あきらめの悪い青年だった。
周囲の水の茶色い濁りが濃度を増していた。
(なんか、俺、タコに食べられてないか?)
青年は気になって尻を見ようとしたが、もうシビレが首まで昇ってきていて、首を動かすことが出来なかった。
(本格的にヤバいかも)
青年の背後から何かが近づき、青年の真横を通り抜けた。
通り抜けてから、青年はその大きな影を見た。
サメだった。




