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唯一無二の人  作者:
1/1

BLです。なにかの手違いで開いた方や、この手のジャンルに嫌悪を感じる方はブラウザバックをお願いします。初投稿なので大目に見てください。




『ーーー先輩が好きです。』




俺はそう、桜の舞う木の下で彼に告げた。まだお互い高校生で、しかも相手は2つ学年が上。親密な関係というわけでもない。俺の一方的な一目惚れで、相手は俺のことなんて何一つ知らないだろう。そんな叶うわけがない恋だったけれど、どうしてもこの想いが止められなくて、気持ちが溢れて仕方がなくて。


告白後の独特な逃げたくなるような雰囲気の中、震える手を先輩に気取られないように俺は俯いて、先輩の口から言葉が紡がれるのを待っていた。


『…ごめん』


ごん、と頭を鈍器で殴られたような気がした。もちろん残酷な結果なのはわかっていた、覚悟もしていた。だけど俺はどこか淡い期待を抱いてたのだ。先輩はOKしてくれるんじゃないかって。そんな期待がガラガラと崩れ落ちていく、この現実を受け止めることが俺には出来なかった。俺は大粒の涙をみっともなく流しながらその場から逃げた。逃げて、逃げて、逃げて。




ひたすらに逃げた結果、俺はグレにグレ、大学に上がる頃にはすっかり擦れ上がっていた。若かりし自分を消し去るように髪は金に染まり、あの頃の痛みを誤魔化すように耳にはピアスがいくつも刺さり、そしてあの恋心は嘘だったのだと自分を欺くために恋に溺れた。


もう、あの頃には戻らない、あの時の自分はどこかに捨て去った、そう思ってたのに。


「あれ?君、あの時の子じゃない?」

「……加賀、先輩…!?」


何の因果かバイト先にあの時告白した先輩がいました。


あぁ、神などこの世に居なかった。ジーザス。






事の発端は1ヶ月前。そこそこの大学のそこそこの学部に入った俺はそこそこに大学生活を謳歌していた。ノリの合う奴らとつるみながら過ごしていたが、それでも人肌恋しい俺は、3つ上の男の先輩と付き合っていた。

俺はこの生活にだいぶ満足しており、なかなかに楽しい日々を過ごしていた。しかし、3つ上の先輩と付き合ってから暫くたってから、その楽しい日々は曇りを見せ始めた。


「わりぃ佐藤、金貸してくんね?家賃払えなくてさ」

「えー、先輩またですか?俺もそんな手持ちないですよ?」

「頼むよ、ちょっとだけだからさ」

「ちょっとって…いくらくらいですか?」

「2万くらい…無理?」

「学生に2万はキツいですよ!この間の1万円も返してもらってませんし!」

「そこをなんとか!」


ぐぬぬ、と俺は言い淀んでしまう。どうやら俺は強く頼まれてしまうと断れなくなってしまう質なようで、それが恋人からなら尚更だった。そして自分の金が無くなるということよりも、恋人に嫌われるかもしれないということが何よりも怖かった。また、あの時みたいに恋心を拒絶されてしまったら、と思うと少しくらい金が無くなるのは仕方がないと思ってしまうのだった。


「…も〜、ちゃんと返してくださいよ?」

「さっすが俺の佐藤!」


そう言ってキスされて、ピアスだらけの耳をなぞられては絆されてしまう。お金はなくなってしまうけど、まあ先輩が喜んでいるならいいや、と俺は流れに身を任せた。


しかし先輩から金を貸してほしいと言われる頻度はどんどん上がっていき、等々自分の手持ちの金がほとんどなくなってしまったのである。


「佐藤ー!飯いこうぜ!」

「ごめん、今金がないからまた今度な」

「マジかー!この間もそう言ってなかった?」

「びんぼー学生ですいませんね」


その時は笑い話でどうにかなったが、このままでは家賃すらもままならない。先輩からも嫌われてしまう、と必死にバイト先を探し、俺はようやく見つけたとある居酒屋に身を置くことになった。


しかしこれが運の尽きだった。



「えー、今日からうちで働くことになった佐藤遼くんです!」

「初めまして、佐藤です!慣れないことばかりですが、精一杯頑張ります!ご教授頂けたら嬉しいです!よろしくお願いします!」


あちこちからよろしくー!と声が上がり、随分アットホームなお店だな、とホッとした。何分アルバイトをするのが初めてだったものだから、自分が働くところが雰囲気悪かったらどうしようと内心不安だったのだ。俺の自己紹介を兼ねたミーティングの後、これからお世話になる店員の人達に挨拶をしに回った。それから1時間くらいして、1度店長の所に戻るかと足を進めた所で、ふと聞き覚えのある凛とした声が耳を掠めた。


「あれ?君、あの時の子じゃない?」


声のした方に顔を向け、その人物を確認した瞬間俺の表情は固まった。

しっかり切りそろえられた美しい黒髪、あの頃より身長はぐんと伸びていて、顔は面影を残しながらも大人びた表情になっていた。


その人がその人じゃなければ最高に好みの人間である。しかし、その人がその人である限り俺は絶対に隣には立てない。


その人、とは高校1年の時に桜の木の下で想いを告げた2つ上の先輩ーー加賀悠也のことであり、俺の忘れたい人ナンバーワンである。


「……加賀、先輩…!?」

「そうそう!覚えててくれたんだ!というか名前、遼くんっていうんだね!これからよろしくね!」

「うぇ、あ、はい、よろしく、お願いします」


先輩が勢いよく喋るので、少しびっくりして仰け反ってしまった。そしてその驚きで段々尻すぼみになってしまった俺の言葉は、加賀先輩の後ろにいた可愛らしい女性の「加賀くん、佐藤くんと知り合いだったの?」という言葉に持っていかれてしまった。丁度いい、と俺は脱兎のごとくその場をあとにした。




こんなことってあるのか、頬に冷や汗が伝うのがわかった。こんなものは奇跡でも何でもない、むしろ絶望に近い。もしこれで加賀先輩へボロを出し、俺がゲイなんだとバレてしまったら、やっとの思いで見つけたバイト先に通えなくなってしまう。それはいけない。そしたら恋人へ金を渡せなくなってしまう。そして社会的にも死ぬ。ダメだ、これは何としても回避しなければ。


どうしよう、と考えていたがなかなか答えが出ず結局同じ議題をぐるぐるしているだけだった。


「……くん、佐藤くん!」

「は、はい!」

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

「すいません店長、大丈夫です!明日からの出勤についてですよね?」

「うん、そうそう。忙しいだろうけどよろしくね」

「はい、よろしくお願いします!」


元気がいいねーと褒められ、店長から今日は顔合わせみたいなものだから帰ってもいいよと言われた。疲れてはいたし、なにより加賀先輩と会うのは少し気まずくて、俺は店長の言葉に甘えることにした。





「…はぁ」


帰路につきため息をつく。心が鉛のように重く、自然と歩くスピードも遅くなる。


「…加賀、先輩」


またこの名を呼ぶことになろうとは思ってもみなかった。会いたかったけど、会いたくなかった人。忘れたかったけど、忘れられなかった人。恋に溺れて加賀先輩のことを忘れようとしたのに、いつしか加賀先輩と似ている人としか付き合わなくなっていた。今の恋人だって黒髪で背が高いから付き合ってるようなものだ。


そこまで考えて俺は足を止めた。


「…なんだ俺、未練タラタラじゃん」


俺の火照りを冷ますように、冬を告げる風が頬を撫でて行った。


余力があれば中を公開したいです。


ご閲覧ありがとうございました。

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