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ミックスブラッドオンライン  作者: 鳥井 雫
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秘密の出入り口の門番




 最初の予定と違って、賑やかな見送り部隊に後押しされて。俺と相棒は、何とか潜り込むのがやっとの亀裂に身を投じて、暫しの格闘をこなしつつ奥へと進む。

 もっともファーとネムのコンビは、俺の目の前を悠然と歩き回っていたけど。立ち止まって振り返り、頑張れ的なゼスチャーまで贈って来る余裕はそのサイズ故か。

 こちらはいつ何時つっかえて動けなくなるか、冷や汗モノだったり。


 まぁ、師匠が何度も通っている道なので、恐らく問題は無いと自分に言い聞かせて。実際その通りで、超狭い難関はその十数メートルだけだった。

 良かった、危うく変なトラウマを抱える所だったよ。


 こちらは闇の眼帯と忍びのブーツは装着済み、念の為にと明かり魔法の《ライト》も掛けてある。初めての使用だが、これはピンポン大の明かりを呼び出す呪文らしい。

 ふよふよと勝手に追従してくれるので、まぁ便利ではある。


 一応は、こちらの思念で明かりが欲しい場所に移動させることも可能みたいだけど。ファーが最初のうち、それを手懐けようと躍起になってるのが面白かった。

 最終的には、何故か彼女に追従するようになってしまったけど……自分が出した魔法を取られるって、どんだけ妖精パワーはチートなんだ?

 別にいいけど、なんだか損した気分は否めない。


 それからネムだが、魔石と水晶玉が割と余っていたので。精霊ラマウカーンに一応尋ねて、思い切ってさらに強化させてしまう事にした。

 急なレベルアップは身体に悪いかなとも思ったんだけど、精霊はそんな事は無いよと言っていたので。何より今から敵地に、たった3人で乗り込む訳だし。

 レベルやHP不足で倒されたら、寝覚めが悪い事この上無いし。そんな訳で、ネムのレベルは今や俺と同じ22である。光と風の水晶玉も4つずつ与えたし、充分な強化だと思う。

 お蔭で仔竜の鱗の色が、少しだけ深みを帯びて来た気も。


 今後どう成長するかは不明だが、相棒として充分に愛情を注いでやらないとね。そんな与太話はともかく、ようやく広い道に出れた……ふうっ、怖かった。

 立ち上がって周囲を見渡すが、そこは道と呼んでよいモノか迷うような場所。地底を走る亀裂の底だ、地下空洞とはよく言ったものである。

 さて、ここからどちらに進むんだっけ?


 俺は鞄から、探索のコンパスを取り出して方角を確認する。西はあっちだから、この亀裂を右に進めば良い訳だ……師匠の地図だと、どこからか上に登る必要があるらしいけど。

 何というか、地図が大雑把で非常に分かり難い。


 師匠も別に、意地悪でこんな風に描いている訳では無いのは、何となく想像がつく。普段地図を描かない人が、地形を思い出しながら描くのは相当に大変のだ。

 ましてや、明確なポイントなど無い岩場だらけの地底である。例えば街の地図なら、ガソリンスタンドや本屋と言う分かり易い起点があれば、事は簡単に伝わるけれど。

 岩と崖しかない真っ暗な地底では、それも侭ならないと言う。


 しばし戸惑いつつ進んでみて、不意に先ほど取得した冒険スキルを思い出した。『地図形成』と言う名前の、かなり最初の頃に貰ったスキルである。

 どう使えば良いのかと、メニュー画面を開いて悪戦苦闘していると。何となく分かって来た、マップ画面からじゃなくスキル使用画面から使うみたいだ。

 その表示された画面に、思わず感心していると。


 不意に顔面に何かが張り付いて来た、って言うかこの感触はファーに違いない。おっと、ついメニュー画面に熱中し過ぎた、何か異変が起きてるのかな?

 足元にもネムがじゃれ付いて……いや、ネムは反対側で暴れ始めている。足元にいたのは何とスライムだった、じゃれ付きじゃなくて攻撃されている!

 しかもスライムは数匹、ネムは勝手に戦いを始めているけど。


 いつの間に接近されたのやら、こちらは武器を手にあたふたしてしまったけど。ネムも噛み付きは効果が無くて戸惑っている様子、逆にダメージを受けるのでやり難そう。

 こちらも我を取り戻して魔法での迎撃にシフト、ざっと見渡して5匹以上がすり寄って来ている。そう言えば師匠が、他にも出入り口があってモンスターも生息してるって言ってたな。

 すっかり忘れていた、これは失態だ……反省しないと。


 殲滅が先だけどね、まずは《スパーク》の効果を試してからダメージ魔法の《バグB》を喰らわせる。どちらも効きは上々で、やはりコイツ等には武器より魔法だな。

 所詮は雑魚なので、魔法一発で沈んで行く無形生物の群れ。苦労しながらも、ネムも1匹倒し切った様子。レベルを上げた効果は充分出てるね、確実に強くなっている。

 そして水の水晶の欠片をゲット、ブレス用にファーに渡しておいて。


 全ての敵を駆逐後に、改めて周囲の安全を確認して。ファーに見張りを頼んでから、休憩しつつのスキルマップの確認作業を開始する。

 冒険スキルが形成する地図は、何と立体的に表示がなされていた。これなら高低差もはっきりと分かる、確かに亀裂の崖の上の方にも人が通れる小道が存在する。

 ただし、この場所から登ろうと思ったらかなりきつそうな。


 師匠のくれた手書き地図では、少し進んだところから登攀が楽な場所があるらしい。それに従って、コンパスと地図を頼りに暗闇の中を進んで行く。

 ファーの操る光の玉が、ふよふよとリズム良く上下に動いている。ネムは俺の肩に泊まっていて、こんな荒地は歩きたくないとの意思表示。

 確かに地面はごつごつの岩だらけ、周囲も暗いし気持ちは分かる。


 幸いなことに、あれ以降はモンスターの姿は確認出来ず。たまに上の方で蝙蝠か何かの気配はするけど、こちらの移動を妨げる影は存在せず。

 日の光の無い中での移動は、方向感覚は全く当てにならない。数分ごとに立ち止っては、立体マップとコンパスで現在地の確認をしないと不安で仕方が無い。

 迷子にだけはなりたくない、見送りした皆に合わせる顔が無いからね。



 しばらく行くと、先導するファーが妙な動きを示し始めた。敵でも察知したのかと警戒する俺だが、どうも探索に切り替えたモーションだったみたい。

 地下のクラックの谷間の移動だけど、今の所分岐の類いは見当たらず。ところが目の前には、新たに左に分かれる亀裂の洞窟と、右の斜面には崩れかけた大きな岩の塊が。

 この先は通れないことも無いけど、道はしばらく険しそうな。


 それとも、左の亀裂が正解の道なのだろうか……師匠の手書き地図には、上に登る一択だった筈なんだけど。ファーもそれを心得ているようで、崩れた岩を登るルートを模索中っぽい。

 ふむふむ、ここから崖のぼりに至る訳かな。上の段差を闇の眼帯の暗視効果でチェックするけど、大岩のてっぺんからでも5メートル以上の登攀が必要だ。

 てせもまぁ、この程度なら何とか行けるかな?


 何故か張り切って仕切るファーの指示で、ロープを使って簡易命綱的な仕組みを作ってみたり。それをネムを操って、ファーが上の取っ掛かりへと結びつける作業。

 小柄で力の無い彼女でも、先に輪っかを作っておけば心配は無用だ。逆に未だに暗闇に慣れないネムの挙動が少し心配、こちらもこんな場所は早く抜け出したいけど。

 未だにゴールが見えない、迷走はもう少し続くみたい。


 苦労して亀裂の上の段差に辿り着いても、砦の秘密の出入り口っぽい扉は見当たらない。もう少し進むしかなさそうだ、ってか実際はそんなに時間は経過していない筈。

 暗闇ってすべてを曖昧にする存在だ、方向感覚も時間感覚すら。闇に潜む根源的な恐怖心には、今の所は抵抗出来ているので問題は無いけど。

 それも相棒達がいてくれての事だ、本当に感謝しないとね。


 方向を確かめてから、再び出発する俺たち。こちらの道は細いので、出来れば戦闘などしたくは無い。転がり落ちたら、洒落では済まされないだろうし。

 今までより慎重に歩を進めていると、再び先頭を行くファーに変化があった。どうやら俺の魔法の光の効果時間が切れたらしい、再びつけてくれと催促に戻ったみたいだ。

 何か見つけた訳では無いみたい、思わずドキッとしちゃったよ。




 その待望の変化を発見したのは、それからほんの数分後だった。距離にして恐らくは百数十メートル、目的の場所は案外と近かったようだ。

 何と言うか、隠されていた扉を探すのは大変かなぁとか思っていたのだが……とんだ期待外れと表現するか、なにやっ天然(テンネン)と突っ込むべきか。

 看板が出ていた……いや、看板じゃなくてゴーレムだけど。


 2メートル近い大柄な石で出来たゴーレムが、不動の姿勢で何かを護っていたのだ。無論、こんな場所で護ると言えば秘密の出入り口しか無い訳で。

 ここに大事なモノがありますよと、それは宣言してるってか宣伝していると言うか。むしろマイナスな手段だろうと思うのは俺だけだろうか、まぁ戦闘手段が無い人なら、コイツを見て侵入を諦めるだろうけれど。

 師匠の起こした盗難騒ぎが、余程気に障ったのかも知れない。


 俺にとっては良い目印でしかない、さてと戦闘準備を始めようかな。取り敢えず武器は両手棍で、後は取得して使っていない魔法の使い具合を確かめたい。

 そう言えば、弓矢スキルで《貫通撃》も覚えたんだっけ……今の所、ゴーレムに動きは無いから攻撃し放題ではあるけど。変な仕掛けがあったら嫌だし、普通に殴りかかろう。

 魔法に関しては、気が付いたら色々と増えていたりして。


 取り敢えず強化魔法を掛け終えて、油断しないようにゴーレムへと近付いて行く。不動だったゴーレムの無機質な目に、赤い光が灯ってこちらに向き直る。

 それから機械的な声での質問、どうやら合言葉が存在するらしい。それに答えられれば、どうやらすんなり通してくれるみたいなんだけど。

 当然知らないので、適当に答えるしかなく。


「と、盗賊サイコー! ミ・ナ・ゴ・ロ・シ!!」


 それっぽい言葉を口にしてみたが、無論かすりもしなかった模様。変化があったのはファーくらい、あきれ返った表情でこちらを見ている。

 いや、ゴーレムも行動を開始した模様……振りかぶった腕を、こちらに振り下ろそうとして来た。合言葉を間違えれば攻撃、普通に門番ゴーレムの定番パターンである。

 その攻撃を華麗に避けて、まずは一撃お見舞いしてやる。


 案の定固いな、断崖の遺跡でも戦った事があるけど、印象はそんなに変わらない。物理攻撃にはめっぽう強いが、魔法にはそれ程耐性が無いと言う。

 新しく取得した攻撃魔法を試してみてもいいが、ここはまず最初に《闇の腐蝕》を試してみよう。これは確か、相手の防御力を下げる弱体魔法だった筈。

 どの程度効果があるのか、ちょっと検証してみたい。


 これは初級魔法で、MPコストも低いし詠唱も短いし、敵と近距離で使用しても問題は無い。硬い敵には有効だし、殲滅時間の短縮にももちろん効果的だ。

 魔法の掛かったゴーレムの表情は、もちろん何も変わらない。しかし殴った感触は、先ほどとは結構違う……これは良いかも、何しろ敵の弱体はネムの殴りにも効果が出るし。

 そんな感じで、狭い通路で土人形に打撃を加えて行き。


 向こうは足場が悪いせいで、動きにまるで精彩が無い。それはこちらも同じだが、出入りを繰り返して直撃を完ぺきに避けている。

 おまけに宙からは、ネムの援護が容赦なく降り注いでいて。こういう時、タゲが全く動かないのは有り難い……特に固定などしてないんだけど。

 ってか、調子が良いのでつい殴り過ぎてしまった。


 他の魔法も試そうと思っていたのに、敢え無く破壊されてしまった門番役のゴーレム。ネムもちょっと不満そう、齧り甲斐が無かったのかも。

 それよりこの仔竜、レベル20を超えて何気に新しい技とか覚えていた。《噛み付き》と《突進》と言う直接攻撃技で、威力は《尻尾撃》とそんなに変わらないっぽい。

 ただ使える技が増えて、怒涛の畳み掛けは凄い事に。


 このまま成長を続けて行けば、どうなってしまうのか期待半分、不安も半分は存在する。あんまり大きくなってくれても、例えば室内などの狭い場所では不便だし。

 ファーみたいに小さいと、逆に巻き込まれ事故で命を落とさないかとやっぱり不安は大きかったり。何とかならないモノだろうか、相棒がいると賑やかだけど心配事も増えてしまう。

 こればっかりは、ファーママに相談してもどうにもならないだろうし。


 余計な事を考えている内に、そのしっかり者のファーさんが秘密の扉のありかを発見してくれていた。ちなみにゴーレムのドロップは、鉱石とか水晶玉とかそんな感じ。

 レア種でもないし、盗賊団が置いた伏兵みたいなモノなのだろうけど。こんな兵力も温存しているとすれば、砦の内部も侮れないかも知れない。

 そこはしっかり、肝に銘じて用心して進まないと。


 少しだけ休憩をはさんで、ファーの見付けてくれた扉を開けてみる。扉と言うよりは、指の入る窪みの付いた岩の重石だが、その奥にはちゃんと通路が続いていた。

 通路は横幅も縦幅も狭い感じで、変な罠が無いかちょっと怖い感じ。しかしいざと言う時の脱出路だとしたら、こんな場所に罠など仕掛けないよね?

 砦が落とされた時の、緊急避難用の通路だもんね。


 ファーも先頭で入り込んで、何のリアクションも起こしていないし。恐らく安全は確保されたっぽい、他力本願だけど俺たちはチームだからね。

 少し湿った空気で満たされた狭い通路は、妙にうねりながら先へと続いている。この道を抜ければ、盗賊がわんさか待ち構えている砦へと出れる訳だ。

 少し緊張して来た、本当に無事に切れぬけられるんだろうか?


 物語の主人公でもあるまいし、度胸だけでクリア出来る問題ではないのは確かだ。それでも誰かのために何かを為す、そうやって時代は紡がれて行く。

 犠牲になる気はさらさら無いが、気合だけは入れて行こう。





 ――突き当りが見えて来た、この先が砦の内部だ。









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