空の王者
喧騒と騒乱の安全地帯を後にして、一路西の断崖絶壁エリアへと向かう。相棒たちももちろん一緒だ、考えてみたら初日と違って随分騒がしいパーティになってるなぁ。
これなら少々強い敵が出ても大丈夫、とは言い切れないのが辛い所ではある。このエリアは大物が平気で立ち寄る狩場っぽいし、実際ワイバーンや巨大キメラも見た事あるし。
心強い相棒が増えた程度で、あの化け物と対等に遣り合えるとは到底思えない。
それはともかく、このエリアへの恐怖心から、余ったスキルPを割り振りした結果。色々と覚えてしまいました、初の複合技も含めて戦力アップは上々。
……まぁ、これがあっても流石に巨大キメラに挑もうとは思わないけど。その試運転は、すでに安全地帯で実施済みなので問題は無い。
8種類全ての魔法に手を出したのは、本当に不徳の致す所だ。
それでもまぁ、良いじゃないと思えるのは、またまたレベルが上がりそうだから。あの軍艦鳥40匹の群れと着ぐるみとの手合せの経験値、凄かったみたいですな。
もうすぐレベル20の大台である、しかもまだスキルPは結構余っている不思議。心の貪欲な声に従って、これからも気侭にあれこれ伸ばして行こうと思う。
次は両手棍かな、魔法は光とか氷が今の興味ではある。
ここは敵の数も多いし、割と大物も跋扈してるからネムとのコンビ戦闘のおさらいにも持って来いだ。ファーには周囲の警戒を頼んで、万一の超大物に備えて貰おう。
ファーの騎乗無しで、さっきの軍艦鳥戦でのコンビプレイが出来たら大したモノだ。ネムには是非とも、そのレベルまでに達して欲しいのが本音である。
意外と賢い仔だから、不可能ではないと思うんだけどな。
ちなみにここまでの道のり、マップ埋めに割と遠回りしてしまった。お蔭で北西の隙間をコンプリート出来たけど、残り時間は50分程度しか無くなった。
安全地帯に戻る時間を考慮すると、30分程度が活動限界かな?
そう考えると、あまり我儘は言えないかも……馬車の中身漁りだけでも、割と時間が掛かる訳だし。ってか、考える時間も勿体ないので、早速狩りを始める事に。
取り敢えずは、ファー抜きでのネムの動きを確認したい。
そんな訳で、ファーとネムに辛抱強く要点を言い聞かせて、再度動きのおさらいを。最初は単純な戦闘手順、俺が矢を放った敵に間髪入れずに襲い掛かる感じで。
ファーはすぐに理解してくれたが、仔竜のネムはママの不在に心細そうな表情。しばらくして、そういう遊びなのだと自分の中で解釈してからは順調に。
一気にテンションアップして、俺が弓を射る敵に襲い掛かっている。
実際、断崖の上の段に張り付いている大トカゲや山羊は、弓矢でないと攻撃が届かない。そして攻撃が当たった瞬間、こちらに向かって降りて来るのだけど。
その途中でネムが急襲、獲物はそれで呆気なく倒されて行くお手軽さ。俺の弓の威力が高いのもあるが、意外とここの敵も雑魚指定に成り下がってしまっている。
それから、ネムが想像より強いってのも勿論ある。
ちゃんと成功したら、その度にファーが誉めてあげているみたいだし。何処かホンワカした雰囲気ではある。戦闘訓練なのにね、いやまぁ全然構わないんだけど。
犬の躾け訓練みたい、まぁ似たようなモノではあるかな。ってか、ファーも遊び感覚で本当に楽しそうにしている。こちらはクエの消化中、なかなかに良いペース。
山羊の皮集めも、いつの間にやらクリアしていると言う。
獲物を求めて崖沿いを移動してたら、落っこちて来た馬車の残骸の前にたどり着いた。これは以前に漁った奴だったかな、まぁファーが反応しているからポイントはある筈。
ネムにご苦労様の言葉と串焼きのお肉を差し出して、休憩と上空警戒を頼んでおいて。ファーと一緒に、収集ポイントを片っ端から探って行く。
自分の出番が巡って来て、彼女はこの上なく楽しそう。
半壊馬車の探索も、既にすっかり慣れたモノ。前回は真夜中の行動だったけど、今は夕方で陽はまだ明るい。そのせいか、気分的にもちょっと楽。
ファーは全く変わらない、そのテンションは常に高度を維持していて容赦ない。彼女の指し示すポイントを、俺は促されるままにチェックして行き。
その結果、ほんの数分で結構な収集物を得た。
まずは品質が並みの収集物、木切れ各種に保存食が少々、木箱の中からは鉄鉱石が出て来た。次いで中当たりの品だけど、果実酒とポーション(大)、それから魔石(極少)×6個と宝石少々。
当たりに位置付ける品は、まずは闇の秘酒×2本と金のメダル×1枚。それから『木人形の呼び鈴』と土の水晶玉が1個。変わり種と言うか用途不明なのが、料理レシピ本と何かの手紙、それから形見の楽器と銘打たれたアイテムだったり。
何だろうね、クエアイテムとかなのかな?
今は無用の品だけど、どこかに持って行ったらイベント的なものが進行するとか? 良く分からないけど、ゲーム的に考えれば充分あり得そう。
手紙だって、誰に届けていたモノなのか不明だし。普通に考えれば、馬車での輸送中に不幸があって荷物ごと廃棄された感じだろうか。
いや廃棄と言っても、荷物主も無事では済まなかっただろうけど。
取り敢えず収集ポイントもひと段落付いた模様、ファーもやり遂げた感を存分に出している。そろそろ潮時、もう少し狩りをしたら安全地帯に戻って落ちるのがベストかな。
などと思っていたら、不意にネムが緊張した鳴き声を上げた。
同時に地面が不意に陰った、俺の中でけたたましく警鐘が鳴り響く。ネムも同様らしく、小さな翼をはばたかせて上空の“何か”を必死に威嚇している。
ファーも半壊馬車から飛び出して、慌てて再び物陰に隠れてしまった。俺も出来たら隠れたい、だけど恐らく既にロックオンされてるんだろうなぁ……。
勇気を振り絞って、俺は弓を片手に上空を仰ぎ見る。
“最悪”はどうやら免れた模様、いつかのユニオン種『巨大キメラ』では無くて何よりだ。代わりに獲物を求めて、レア種の“ワイバーン”が高速飛行で上空を制圧している。
いつの間にやら、勇ましい戦闘音楽が鳴り響いて来た。このゲーム、そう言った臨場感を煽る工夫だけは素晴らしく凝っている。こっちは襲われる側なのにね、どうしたモノやら。
とにかく、大人しく狩られるのだけは避けたいところ。
殴り武器は全く届かないので、武器は弓矢のままで良いだろう。続いての戦闘準備、せめて楯は欲しいのでおれは『闇水』で海月モドキを作り出す。
今回は役立ってくれると良いが、あの高速移動に追い付くスピードはこの生物モドキには無い。せめて楯代わりに使う程度、まぁ無いよりはマシかなって感じだ。
そうこうしている内に、奴が高速で降下して来た。
それはまさに天が降って来たような感覚、巨大モンスターのド迫力を垣間見た瞬間だった。あわや一撃で事故死するところだった、障害物なんて関係無い。
半壊馬車は、ものの見事に全壊して木っ端みじんの憂き目に。
「ファー、大丈夫か……っ!?」
ひっくり返って目を回しているネムを回収して、馬車の中に逃げ込んでいたファーに声を掛ける。自分と言えば、何とか地面に転がって最初のタッチダウンは回避に成功してたけど。
小さな相棒たちは、そうもいかなかった様子。ファーがひょっこり馬車の破片の中から顔を出したのを確認して、思わず安どのため息を漏らしてしまった。
最悪の事故は防げたが、反撃の手段なんてあるのか?
レア種と一言で言っても、その中でも格付けみたいなものは存在する。同じくNMの中でも、エリアボスに匹敵する強者も間違いなく存在していて。
ワイバーンも、間違いなくそのカテゴリーに組み込まれるそうである。最初の頃に琴音に目撃証言を報告したら、絶対に関わってはダメだと釘を刺された敵である。
今なら分かる、その巨体の敵の厄介さ。
まず取っ掛かりが無い、どう攻めようかとか考えるのに、その手段が圧倒的に少ないのだ。殴り合いはまず無理、たとえ奴が同じ土俵に降りて来ても踏み潰されるのがオチだろう。
それだけの圧倒的な体格差があるうえ、向こうは飛翔能力持ちである。ちまちまと魔法か弓矢で攻撃してれば、まぁ百回以上当たれば倒せる可能性はあるかもだけど。
向こうの1回のタッチダウンで、先にこちらが潰されて終わりだ。
砂埃が派手に舞っている中、俺たちは一応無事に合流を果たした。確認すると、ワイバーンは再び浮上して完全に有利な位置を取っている模様。
並みのNMとは迫力も重圧もまるで違う、カテゴリー的には竜の亜種の筈なんだけど。間違っても、仔竜のネムにお前頑張れと言えないレベル、体格差はそれ程に酷い。
そして生のバーチャル感、これを味わえるとはゲーマー冥利に尽きるのか?
そこまでゲーマーじゃない俺は、何とか全員で生き延びる手段を脳内模索。そう言えば、この近くに洞窟があったっけな。熊とか大蛇が、確か巣を作っていたような。
そこまで逃げ延びれたら、向こうは追って来れないだろう。逃がしてくれるようなヘマや油断を、ワイバーンがしてくれればの話だけど。
向こうのスピードはこちらの比じゃない、ちょっと無理ゲー気味じゃない?
断崖寄りを駆けての避難も、向こうはあまり気にしていない様子。山羊や大トカゲを狩り慣れているのだろう、どうせならそっちをタゲってくれればよいのに。
そう思って見上げた断崖だが、生き物の気配はいつの間にか無くなっていた。それはもう完璧に、彼らは危険察知からの避難に全力を注いだ様子だ。
知らなかったのは、残骸漁りに浮かれていた俺だけってか?
気付くのが遅れたのは確かに致命的だが、まだ完全にアウトを宣告された訳でも無い。壁沿いをネムを抱えて、洞窟を目指して必死に走る。
ファーもちゃんと付いて来ている、こちらの思考を先読みしているのか、洞窟の方向を指し示して彼女も必死。相手にブレス攻撃は無いよな、知識の不足を悔いながらの激走に。
思ったより距離があるのを知って、ちょっと絶望的になってみたり。
これは2度目の襲撃は不可避だな、何とか接近前に洞窟に辿り着ければと思ってたけど。それが叶ったなら、無理せずそこでログアウト出来るのに。
一応は、魔法の香炉で安全確保は可能なのだ。それならば、野外で落ちても危険性はほぼ皆無だと最近気付いて。ただし利便性では、師匠の家や安全地帯の方が上と言う話。
このピンチを生き残れば、それも確かめる事も出来るんだけど。
それもやや苦しいか、2度目のタッチダウンはかなり強引に行なわれた。向こうも洞窟の存在は気付いていて、断崖の岩を削り取るような破壊力で俺たちは吹っ飛ばされる。
幸い直撃は無かったが、壊れた石塊が肩や腰に当たって痛い。その衝撃で、思わず抱えていたネムを離してしまった。コロコロと転がって行く仔竜、慌ててファーが追い掛ける。
だけど相棒たちは安心だ、亜竜のタゲはしっかり俺に向いているから。
ワイバーンが亜竜と言われているのは、単純に解釈して竜の亜種だからだろう。竜であって竜で無い、なりそこないと言うか紛い物と説明すべきか。
まずワイバーンには前脚が無い、代わりにかなりのスピードが出せる翼が生えている。ブレスも吐かないようだけど、尻尾は毒針になっているようだ。
今はそれを振り回して、俺を捕獲しようと奮闘している。
野生の肉食動物は、獲物を捕食する狩りでは決して無茶はしないそうだ。万一それで怪我を負ったら、獲物が捕れなくなってしまうから当然だ。
ただしコイツに限っては、恐らく有り余る体力と自然治癒力でも備えているのだろう。岩の壁など物ともしない無茶な仕掛け、そして今も悠然と立ち振る舞って、洞窟への道を完全に塞いでくれちゃってる。
獲物で遊んでいるのかも、空の王者の風格まで漂わせている。
被害を最小に抑えたい俺は、ネムとファーから離れるべく反対側へと離脱を図る。案の定、それにつられてこちらをロックオンする空の主。
俺が走り出すのを見て、再び宙へと舞い上がる。
また鬼ごっこか、捕まると酷いペナルティ付きなのでこちらは必死だけど。だんだん腹が立ってきたな、こうも一方的な攻勢だと当然の感情とも思うけど。
何かやり返す方法は無いモノか、こちらは与えられた時間で懸命に策を練ろうと頭をフル回転させるのみ。頭上をもう一度見上げて、敵が再び落下態勢を取る瞬間を見逃さないように。
不意に視界に入ったのは、俺の生み出したイレギュラーの存在。
こちらの移動スピードに対応出来ず、襲撃地点の近くで動かず案山子状態だった様子だ。これを上手く利用できまいか、脅かし役の案山子でも良いから。
いや、やり様によってはもう少し上手く活用出来るかも知れない。さりげなく俺は、海月モドキを宙へと浮き上がらせる。
30分の活動限界まで、まだまだ余裕はある筈だ。
敵の狙いは俺しかいないので、俺とワイバーンの直線状にこの生物モドキを配置すれば、或いは一泡吹かせる事も可能かも。幸い敵は舐めきっている、こちらは碌な反撃もしてないのだから当然だけど。
そんな訳で、ワイバーンは前回と同じくかなりのスピードでこちらへと突っ込んで来た。何の捻りもないけれど、これから逃れられる手段を今までの獲物達は持っていなかったのだろう。
だから当然、この捕食行動は成功すると相手も思っている筈だ。
そこに割って入る、恐らく相手も見た事のない不思議生物。思わず噛み付き行動を取ったのが、相手にとって最悪の結果を招いてしまった。俺にとっては僥倖だ、そのスピードの主を捕獲出来たのだから。
回避行動を取られていたら、絶対に捕まえられなかっただろう。
結果、空の王者とHPすら持たない最弱の生物モドキの邂逅は、こうして為された。その瞬間を逃さず、俺は必死に海月モドキを操りにかかる。
下手に攻撃を仕掛けても、無駄なのは分かり切った事。ただし視界を奪うくらいなら、この惰弱な粘体生物モドキでも何とか可能である。
急に盲目状態にされたワイバーン、そのままのスピードで地上に激突!!
これは予想以上の成果だった、魔法の目潰しは何種類か持っているけど、距離だったり詠唱時間だったり、俺まで巻き込まれる可能性ばかり高い作戦だったのに。
ほぼこちらはノーリスクで、作戦成功に至ってしまった。しかも相手のワイバーンの被害は、何とHP半減と言う凄まじいダメージ具合。
引力凄いな、相手の自重もあったんだろうけど。
いまも海月モドキは、相手の顔に張り付いたまま視界を奪ってくれている。向こうは前脚が無いので、それを振りほどくのに相当苦労している様子。
無闇やたらと長い首を振り回して、この無礼者の所業を己への挑戦と受け取っている様子。そんな事を気にしていられないこちらは、相手に取り付いて翼を破壊に掛かる。
宙に舞い戻られでもしたら、また手が出せなくなってしまう。
弓で狙うにはリスキー過ぎる、何しろあの重量であのスピードなのだ。扇風機の回転翼を指で止めるのとは訳が違う。ジェット機のエンジンのファンに、首を突っ込むようなモノだ。
攻撃が当たれば良いと言うモノではない、その後の反撃も考えないと。失うものが指先だけなのか、それとも首から上の大事な個所か。
そんな博打に出るより、今この瞬間に相手の機動力を削がないと!
短槍では攻撃範囲が局地的過ぎるけど、両手棍に持ち替える時間も惜しい。と言うよりも、複合技を手放す勇気が無いと言い換えた方が正しいのかも。
それでも亜竜の翼の皮膜は、何度かの突きでズタボロになって行った。気を抜くと、後方から凄い勢いで尻尾の毒針が飛んで来るから油断は全く出来ない。
位置取りに注意しつつ、地上で暴れるワイバーンを突きまくる。
しばらくしたら、ネムが応援に駆け付けてくれた。相棒コンビは、衝撃に目を回していただけで大きな傷は無い様子。それでも相手は大物だ、充分に注意して欲しい。
これでこちらに勢いは付いたが、敵の膨大なHPはようやく3割辺りまで減じた程度。墜落ダメージが依然と高くて、俺の攻撃など些細なモノらしい。
それでも何とか、片方の翼は潰せたっぽい。
油断していた訳ではないが、それと引き換えに大ダメージを喰らってしまった。尻尾の毒針が突き攻撃で無く、薙ぎ払いに使われたのだ。
これで吹っ飛んだ俺は、すぐそばの土壁に激突。それだけで3割減のダメージとか、この敵強過ぎじゃない? エリアボスと言われても、今なら信じるかも知れないな。
酷い仕様に、思わず涙目になりながら。
《Dタッチ》のお返しは、敢え無くレジストの憂き目に。魔法耐性は強そうだなと思っていたが、この調子だと俺程度の呪文は全く効かないかも。
何せ、短槍に掛けてある《風属性付与》の効果でさえかなり微妙な効きでしかないのだ。他の魔法も推して知るべし、もう少し魔法スキルが高かったら少しは違ってたかもだけど。
うわっ、ネムも尻尾の毒針の餌食になってるっ!?
これはかなり不味いな、毒消し薬は一応ポーチに入ってるけど。ファーが慌ててフォローに入っているので、任せてしまった方が良いかも知れない。
こちらでタゲを取って、一応の呪文を飛ばすまではやっておこう。それから貯まったSPで、短槍の必殺技《四段突き》からの《白垂飛泉槍》を喰らわせる。
これはかなり効いた様子、HPが2割まで減ってくれた。
そして何より、タゲが完全にこっちに向いたのが大きい。尻尾と後脚の連続攻撃は辛いが、ネムの安全は確保出来た事になるし目論み通りだ。
そして残念ながら、無敵の海月モドキは召喚時間切れでマナと化して霧散してしまった。これで奴の視界を阻むものは為し、ただし片翼は潰されて敵はこちらと同じ土俵内である。
空の王者も、せいぜい泥臭い戦いに塗れておくれ。
しかも水の複合スキル技のお陰で、辺り一帯ぬかるんで酷い状態である。後は斬りタイプの武器があれば、厄介な細い鞭状のワイバーンの尻尾を斬り落とせたのに。
まぁこればっかりは仕方が無い、毒を喰らわないよう注意しつつ、残りの体力を削り取ろうか。厄介なのは承知だが、敵は既に届く範囲に墜ちてくれているのだし。
文句を言ってる場合ではない、やり遂げるか否かの問題だ。
ところが終焉は思わぬ所から降って来た、ワイバーンも相当に苛立っていたのだろう。それは当然だ、翼を破壊された上に恐らく初の水圧攻撃を身に受けたのだから。
空の王者の貫録丸潰れである、ここまで逆らった獲物は初だったろうに。その憤懣をぶつけるように、敵は巨体での体当たりを敢行。
無理な姿勢とぬかるんだ足場のせいか、それは的外れな方向へ。
怒りにまかせて行動すると、碌な事にならない良い見本だ。的である俺の小ささも、相手にとっては不利だった筈。その上、翼を破壊されての身体バランスの変化に感覚が追い付けず。
結果、2度目の自爆ダメージを自ずと受ける破目に。相手にとって不幸だったのは、壁の岩場が予想以上に脆くなっていた事だろうか。
奴のせいでもあるので、まぁある意味自業自得ではあるんだけれど。こんな終わり方っていいのかなとちょっと疑問に思ってしまった。
棚ぼた式の勝利、ワイバーンは崖崩れに巻き込まれてペチャンコに。
――潰された本体は完全にHPゼロ、本当に戦闘は終了したっぽい。




