仔竜よ君の名は
何と言うべきか……諸事情あって、従者キャラが一匹増えてしまった。しかも鈍重だったその動きも、精霊ラマウカーンのアドバイスに従って風の水晶玉を食べさせてやると。
“風の性質”を受け取った仔竜が、未熟だった翼を広げて軽やかに空中旋回を披露し始めて。うおおっ、水晶玉ってこんな使い方もあったんだ!
今まで割と、無造作に使い過ぎていたかも……。
そんな内心の葛藤は、今は割とどうでも良い。ラマウカーンに色々と、仔竜の使役方法とか成長のさせ方なんかを熱心に学んでいる際中なのだ。
それによると、8つの属性はそれぞれのステータスに関連があるらしい。それを与える事によって、自分の好みの能力に従者を仕上げて行けるそうで。
フムフム、まるで知らなかった情報である。
それによると、炎⇒筋力、水⇒精神、雷⇒器用、土⇒体力、氷⇒知力、風⇒敏捷、光⇒HP&スタミナ、闇⇒魔力&SPとの割り振りがなされているらしい。
なるほどね、為になるなぁ……ちなみにレベルを上げたければ魔石を食べさせれば良いとの事。それによってもステータスは上がるし、場合によっては特殊スキルも覚えるそうだ。
逆に言うと、仔竜は戦闘で得る経験値は微少らしい。
従者に経験値がほとんど流れないって事は、戦闘での経験値は全部こちらに来るって意味だからそれは良い。しかも俺の鞄の中には、結構な量の魔石が貯め込まれているし。
小さな体躯の仔竜でも、戦闘参加は全然平気とのお墨付きは貰ったけど、ちょっと不安ではある。こちらの好みで育成が可能なら、尖った性質に傾くよりはバランスタイプに育てたい。
そこら辺は、色々と精霊ラマウカーンにも相談してみて。
「赤ん坊とはいえ、腐っても竜だからのぅ……そこいらの雑魚よりは確実に強いし、ブレスだって吐けるぞ? それには、属性水晶の欠片が必要だった筈だけどな」
「えっ、それを食べさせればいいの……? 水晶を燃料にブレス吐くんだ、凄いね」
とにかく契約は成立してしまった訳だし、ここは積極的に新しい戦力を強化していこう。戦闘に巻き込まれて、死んでしまったら可哀想だし。
鞄をチェックしたところ、魔石(小)が10個と魔石(中)が5個も入ってた。レア種を乱獲して来たからなぁ、いや好きで遭遇してる訳でも無いんだけど。
ともかく役に立ちそうで良かった、貯め込んでいても仕方ないし。
ちょっと実験で、仔竜のステを見ながら小と中を1個ずつ与えて見る事に。なぜかそれに齧り付く仔竜、丸呑みして合計レベルは0⇒4となったっぽい。
どうやら小で+1、中で+3されるらしい。心なしか鱗の艶も良くなってるし、サイズも少しだけ立派になって来てる。ここは一気に魔石(中)をもう2つ追加、レベル10まで上げてしまおうか。
それから風の水晶玉を2つ、土を1つ食べさせよう。
本当に食べているのかは不明だが、とにかく能力に還元されたのは確かみたい。これでどの程度強くなったんだ、ラマウカーンの話だとここら辺の雑魚では敵無しらしいけど。
ってか、従者と言えばファーもそのカテゴリーに属する筈なんだけど。戦闘要員ではないよね、彼女は? とても役に立ってるけど、それは主に収集系に限っての話。
いや確かに、気配察知や乙姫へのおちょくりも酷……凄かったけど。
「いやいや確かに、彼女は戦闘種族じゃないからな……今は従者とは名ばかりの、装備扱いにしておるのだよ。でないと、戦闘に巻き込まれただけで命を落としてしまうからの。
本人はやる気はあるようじゃが、せめて妖精用の戦闘職にチェンジしてからでないと危険じゃからな」
「そうだったんだ……ってか、妖精用の戦闘職ってあるんだ。じゃあアレは何だったのかな、竜宮城で乙姫とバトルっぽい事になって、勝ってたんだけど……?」
精霊ラマウカーンの話によると、精霊同士は決して傷付け合う事が出来ないらしい。それは神様同士も同じ事……それじゃあどうするかと言えば格を落として肉体を得るか、代わりに配下を戦わせるらしい。
代理戦争はどの時代にもあったらしく、それは地上に住む信仰を持つ種族全体が対象になり得るとの事。そしてこのファンタジー世界では、竜族が加担するのも珍しくない事象で。
割と悲惨な戦歴を、この世界も抱えているそうな。
そんな竜族の子供を、従者に迎えてしまった俺だけど。果たして上手く折り合いをつけていけるのか否か、結構扱いも大変そうな仔竜のネムである。
ラマウカーンに聞いた話では、性別は女の子らしい。取り敢えず名前も決定したし、魔石と水晶玉でステ強化もある程度出来たと思う。
後はそうだな、俺とのコンビ狩りが出来ないと話にならない。
仔ドラゴンの操縦は、やっぱりファーママに頼むのが良策かな? 水晶玉の範囲攻撃に仲間への巻き込みダメージは無いが、戦闘中に味方が邪魔だってのはある話だし。
俺の攻撃範囲に居据わられて、手が出せませんでしたじゃ笑い話にもなりゃしない。動きのパターンを幾つか決めておいて、ファーに覚えてもらうのが良い気がする。
もちろん仔竜に、そこまでの知能があれば話は別だけど。
そんな事を考えていたら、段々とトリオでの戦闘行為が楽しみになって来た。お礼にラマウカーンの祠の前に、お酒を注いだコップを置いてみると。
精霊ラマウカーンはみるみる嬉しそうなダラケた顔に、どうやらお酒には俺の知らない魔力が存在するらしい。一気にそれを煽って、お代わりを望む素振りの鴉モドキ。
それは構わないけど、後は聞きそびれた事は無いかな?
特に無いような気もする、仔竜の普段の食事は自分たちと同じモノで全然構わないそうなので。ただしネムの命は1つきりらしく、死なないように大事に育てるように言い渡された。
それはもちろんだ、ゲームといえども命の重さに偏見はない。ちなみにファーの処遇も再確認されたけど、ここで戦闘参加を頼むと本気で命の心配が2倍になってしまう。
今まで通りで良いとの返事に、精霊は重く頷いたのだった。
そんな会話を経て、今は北東の海岸の端っこにいる。精霊ラマウカーンから、最後の最後に特別依頼を貰ったりしたけど、それは果実取りの後って事で落ち着いている。
彼の話では、この森に新たな澱みが広がっているそうで。どうも西の断崖周辺に、大きくて不穏な存在がうろついているらしいとの事。
えっ、それって巨大キメラじゃないよねとの俺の返事に。
強過ぎる敵ならば、無理に倒さずに追い払ってくれたら報酬を払ってくれるとの事。それも無理難題っぽいけど、最悪確認するだけでも良いそうなので。
不承々々引き受けた次第、本当に人間使いの荒い精霊である。
そんな事より、新戦力とのフォーメーションの確認が何より大事。必死に訓練、そして根気強く教え込んだ結果、何とかファーは3つの作戦を覚える事に成功。
それより何より、新戦力のネムはとっても強かった。この付近のフナ虫や飛び魚、それからクラゲなどは全く相手にならない無双振りを発揮して。
森に引き返してコボルトを狩るも、ほぼ一撃で蹴散らす剛腕振り。
いや、強烈なのは尻尾撃なんだけどね。飛行能力も何気に凄い、敵をまずスピードで翻弄する戦闘技能も侮れない。本当に産まれ立てなのか疑うレベル、俺より試合巧者かも?
ってか、これでレベル10って嘘みたいだ、他のモンスターのそれと比較すら可哀想な程である。うん、レア種って考えればステは軽く2倍で考えても足りないくらいか。
凄いなドラゴン、バリバリの戦闘エリート種族である。
ブレスの効果も試してみたが、どうも欠片3つ程度が適正の量みたいだ。それ以下だと威力が範囲にならないし、多いと大変な事になりそうな雰囲気だし。
これも例えば、欠片が炎の水晶のそれだと『炎のブレス』と属性を選べるっぽい優秀さ。敵の弱点属性が分かれば、ますます有利でそこを突ける訳だ。
いいねぇ、ファーに各属性の欠片水晶を渡しておこう。
「ネム、頑張ったらご褒美あげるかな。しっかりファーママの言うこと聞いて、向かってくる敵を倒すんだぞ? でも向かってこない敵や、やたらと強い奴は頑張りすぎちゃダメだぞ?」
コミュニケーションは大事なので、たとえ相手の返事がなくても語り掛けに手抜きはしない。戦闘意識が強いのか、この仔は獲物を見掛けたら飛び掛かる習性があるんだけど。
好きにさせるのはいかにも不味い、ファーの手綱締めもまだまだ慣れているとは言い難いし。そして何より不味いのが、自分の実力を把握せず強い敵と対峙すること。
たった一つの小さな命、無駄に散らせるわけにはいかない。
本人がイケイケの性格だから、事故率は少なくない気もするけど。そこは何とか周りとの協力プレイと手綱取りで、引き締めていく所存である。
ファーも割とイケイケだけどね……だからと言って急速に魔石を使ってのレベル上げは、あまりやりたくない手法ではある。だって協力プレイの大事さも、ちゃんと知って欲しいし。
何より単独無双プレイは、俺の存在意義がなくなってしまうw
そんな訳で、チームプレイのために教えた合図は全部で3つ。それを踏まえての戦闘訓練は、北の森のコボルト君達に相手を願った。
もちろん最初は全く上手く行かなかったが、仔竜のネムも決して莫迦ではない。段々と要領を飲み込んで、背中に跨るママの言いたい事が分かってきた様子。
そこからは犬の躾と一緒、上手く出来たら食べ物をあげる的な。
ファーも時々、摘み食いしてるけどなw しっかり見えてるけど、そこは仕方が無いというか彼女の個性でもある。しかしネムの食欲は妖精の比ではない、まさに底無し。
そんな30分程度の苦労が実って、インから既に2時間が経過。いま俺達がいる場所は、
北東の海岸沿いのごつごつした岩場である。
ここに至って、嬉しい報告が幾つか。
まずは雑魚戦での戦闘訓練で得た経験値で、呆気なくレベル19へとレベルアップしてしまった。それからこの未開の地を歩き回ったおかげで、マップ補完はほぼ完ぺき。
岩場の上の茂みに、ちゃんと虹色の果実の樹木も発見したし、ネムの仕込みも順調だし。ここに来て色々とクリア出来てるのは、一応は追い風として受け止めておこう。
そして新しい称号の、恩恵が早速発揮された模様。
名前:ヤスケ 初心者Lv19 種族:ミックスB
筋力 41 体力 45 HP 205(+20)
器用 41(+4) 敏捷 43(+2) MP 150
知力 30 精神 29(+2) SP 131
幸運 20(+12)魅力 6 スタミナ**
職業(2):『新米冒険者』Lv19
武器(6):《ブン回し》《落とし突き》《撃ち上げ花火》《四段突き》《Pハンマー》《貫き矢》
補正(4):《投擲威力20%up》《防御力10%up》《集中》《》
冒険(4):『野生』『水中適正』『』『』
武器:弓矢4P《貫き矢》
:短槍16P《落とし突き》《捻り突き》《二段突き》《四段突き》
:両手棍13P《ブン回し》《撃ち上げ花火》《Pハンマー》
:盾5P《防御力10%up》
:投擲6P《投擲威力20%up》
魔法:『闇』17P《Dタッチ》《バグB》《Bタッチ》《影纏い》
:『風』13P《風の茨》《風属性付与》《風疾く》
:『光』5P
:『水』18P《清き水》《水中呼吸》《Pヒール》《マナプール》
:『炎』4P《キャノンB》
:『雷』4P
:『土』5P
合成:『木工』2.8P
種族:『ミックスB+』(職業+1、幸運+4、器用+2、魅力-2、全耐性+20%up)
称号:『蝶舞』『猪突』『竜宮の遣い』
モネー:317、700
スキルP:17
***『新米冒険者』ヤスケ 装備一覧***
武器 :竜宮の短槍(12) 攻+15、精神+3
武器2:蛙のハンマー(10) 攻+12、水耐性+20%up
予備 :狩人の弓(10) 攻+12、命中率+35%up
盾 :甲殻の手甲(4) 防+4
頭 :竜宮の兜(10) 防+10、精神+3
上着 :丈夫なベスト(8) 防+7
鎧 :護衛の胸当て(6) 防+6、器用+2
下着 :クールな下着(5) 防+1、耐寒+20%up
アクセ:幸運の御守り(2) 防+1、幸運+2
指輪1:清水の指輪(4) 耐毒30%up、ヒール効果20%up
指輪2:契約の指輪(-) 従者+3
腕 :霊亀の腕輪《硬化》(10) 防+10、時々攻撃反射
ベルト:狩人のベルト(8) 防+6、ポーチ×5
下肢 :疾風のズボン(8) 防+7、敏捷+2
靴 :蛙のブーツ(8) 防+6、水耐性+30%up
背中 :海賊のマント(8) 防+7、敵対+2、魅力-2
従者:妖精Lv1 幸運+6、魅力+4、精神-4
:仔竜Lv10《飛行》《尻尾撃》《ブレス》
鞄:魔法の鞄(初心者用)+商人の鞄
アイテム:ポーション(大)×2、ポーション(中)×4、ポーション(小)×11
:マナポ(中)×7、マナポ×12、毒消し×7、マナP×7、Sポ×6
:ポーションP×6、万能薬×3、炎の神酒、豹柄のマスク、調味料
:氷の術書、闇の秘酒×2、聖水×4、目薬×3、薬品箱、鯨の骨
:虹色の果実×6、魔石(小)×9、魔石(中)×2、経験の飴玉、玉手箱
:料理キット、冒険者セット、『遠見透声』《魔女の略奪》投擲セット
:闇の眼帯、魔除けの香炉、憩いの香木×2、時の狭間の香木×5
:金のメダル×10、松脂1瓶、蛙の王笏、大猪の毛皮、海賊の短槍
:幽霊の呼び水、水妖の呼び水、南瓜の呼び鈴、骨工ギルドの推薦状
:闇の契約書、飛竜の血、闇蝙蝠の牙、闇蝙蝠の皮膜、探索のコンパス
:旅人のマント《秋波斬り》魔法の腐葉土、銀葉樹の苗木、白い甲羅
:『隠密』『交友』『地図形成』霧の呼び笛、硬質な木板、頑丈な木の蔦
:壊れやすい鉢、魔水連の球根×8、淡い水瓶、野蛮な大腿骨
:森狼の毛皮、風の牙、奇妙な頭蓋骨、転換の札×2、鯨の髭×2
:『妖精使い』星の涙、月の滴×2、逆巻きの風呂敷(10)、闇の羽根飾り
:海豹の呼び水、水と氷の香木×2、水中珊瑚、質素な帽子、三色珊瑚
:ヒドラの鱗、ヒドラの牙、宝飾の片手剣、複合技《白垂飛泉槍》
:死肉喰らいの生肉、ヒドラの生肉、冒険者の心得:初級×3
:護衛の弓、革の幅広ベルト
称号『竜宮の遣い』の効果で、自然と水スキルが+1されていた。竜宮城で買った術書も使って、スキル20まであと一歩なんだけど。
複合技の書の使用条件まで、もう少しの所までは来ている感じ。自分的には、次は両手棍を伸ばしたい気もする……ちなみに弓矢も、1つだけスキル技をセットしてみた。
《貫き矢》も凄いが、師匠に貰った弓の性能も凄いからね。
命中率に補正がついてるので、戦闘で大いに助かっている。攻撃力も高いので、下手すると初弾で雑魚のHPの半分以上を喰らってしまうと言う。
それは別にいいのだが、ネムとのコンビネーションを探っている最中なので、仔竜の活躍の場を無くすのは不味い。嬉しい悲鳴を胸中にしまいつつ、さっきまで訓練していた訳だ。
新しい武器って、常にテンション上がるよなぁ♪
ベルトも師匠に貰ったやつを新調、ポーチが1つ増えたので、薬品や小物の整理が更に楽になった。兜と腕輪も、防御力の高いのと交換出来たのは大きいかも。
特に腕輪は、土魔法の《硬化》も移植された優れものである。
魔法も武器スキルも、何気なく増えていて覚えておくのが大変だ。嬉しい大技の部類に関しては、やはり短槍の《四段突き》だろうか。
小技と言うか絡め技に関しては、《マナプール》と《影纏い》のコンボ技が将来楽しみの優良物件かも。それで生み出す『闇水』に、スピードとパワーが付けばの話だけど。
闇と水魔法スキルが上がれば、それも可能なのかなぁ?
他の小技に関しては、飛び道具の弓矢にある程度の目処が付いたのが大きい。それから土魔法の《ストーンウォール》は、足止めと言うか障害物の作成魔法である。
使い勝手は、圧倒的にもう一つの《硬化》の方が良いので、あまり日の目を見ない気もする。ってか、当初の予定では土魔法自体覚える気が無かったんだけど……。
世の中って侭ならないな、自分の予定通りには全く進まないよ。
後は竜宮城で、いらないモノを売って鞄がスッキリしたのが大きい。それから新しい家族、俺の従者の仔竜のネムは、言うに及ばずな近況だったりするので。
解説は省かせて貰うとして、後触れてないのは補正スキルで得た《集中》だろうか。老亀仙に特別に貰ったスキルだが、どうも『闇水』の作成にも大いに手助けして貰えている模様。
そう言う事なのだろうか、全てはあの老亀仙の用意したレールの上?
それでもまぁ、別にいいとも思う……自己流を気取るつもりも最初から無いし、戦術のアドバイスは大歓迎だ。そして、彼のくれた腕輪の“時々ダメージ反射”の特殊効果だけど。
まだその恩恵は受けてないが、強敵相手には凄い隠し効果になりそう。
さて、そんな感じでの成長報告は終了、今は海岸にびっしりと屯っている軍艦鳥の群れを眺めている所。多いな、だけどこれを無視して果実取りも出来ないと来ている。
ファーに取って来て貰うのは論外、あの大量な敵が一度に反応したら目も当てられない。空中戦は向こうの土俵なので、無理はさせられないと来ている。
果実の収集には、だからこの群れを駆逐するしかない。
大蛾以来の殲滅パターンだな、それでは準備を始めようか。まずは《マナプール》と《影纏い》で『闇水』の作成、しっかりと海月モドキの形に作り上げる。
MP回復時間が勿体ないので、マナポ瓶を飲んで魔力を補充する。今回は範囲攻撃アリの戦闘だから、主要武器には両手棍を選択する。
それを、《ストーンW》の呪文で出来た壁に立て掛けて。
小さな相方たちに、作戦の説明を簡単に行う。まずは弓矢での攻撃だ、それで反応して来た敵のみをこの場で殲滅して行く感じを考えているけど。
一気に全部が反応したら、それはもう仕方が無い。相手がどの程度強いか定かではないが、範囲攻撃はこちらも豊富に揃えているし。
水晶玉もしっかりファーに渡して、欠片系もネムに食べさせてと。
かなりドキドキしながら、戦闘開始の合図を小さな仲間に告げ。明らかに張り切っている感じのファーママとネムのコンビ、それに後押しされるように初弾の矢を放つ。
見事命中した先制の一撃、そして反応する敵の群れ全部!
「うわっ、全部来た……っ! ファーにネム、作戦通りに数減らし……なるべくタゲは取らないように、水晶玉で弱った敵から倒して行くんだぞ!!」
チリンと威勢の良い返事、その間に俺は連射で敵の数減らしに余念がない。反応した群れは、全部で40匹近く……手応えは結構ある、個体の強さはゴブリンよりやや上かな?
南の海岸通りにいた、ハーピー程度の強さかも知れない。だとしたらこの数は結構不味い、弱音は吐いていられないけどね。とにかく、近付くまで鳥の群れに連射。
師匠の教え通り、狙いは二の次である。
ってか、こんだけ敵が壁になっていると、どこに射っても当たるけどねw この数の群れに襲われるのは、実に大蛾との戦い以来な気がする。
肝が縮みそうになりながらも、敵の接近と共にスムーズに次の手に繋げて行く。これだけ隙間無く群れているのだ、水晶玉の効果は抜群と言うほか無く。
ファーもそれに便乗、派手な炸裂音が戦場に響き渡る。
「ファー、弱った敵にブレス!!」
先ほどの訓練で教え込んだ、3つの合図の内の1つ。一番派手なブレス技を、敵が固まっている間に撃ち込んでやる。俺はその反対側の群れに、《風の茨》を撃ち込んでの時間稼ぎ。
俺の右側に、派手な炎の乱舞が立ち上がった。最大パワーの3つの欠片の使用だ、この位の威力は当然だがある。タゲのカバーに、ブレスの終焉と同時にネムの前に躍り出る俺。
弓は既にしまってある、近付いた敵の群れに両手棍の《ブン回し》をお見舞い!
SP貯めはどうしても必要だったので、あらかじめ闇の秘酒は飲んである。いざとなったら、呼び鈴も使用するつもり。命より大事なものはない、当然ではある。
そして短期決戦も当然の作戦、ネムに2つ目の合図“一緒に戦え”を送ってやる。勢い良く俺の隣に飛び出してくる相棒。ファーも元気に、仔竜の手綱を取っている。
どうでも良いけど、そこは危なくないか、ファーさん?
闇の秘酒のお蔭で、あっという間にSPが貯まって行く。そこで再度の範囲攻撃、ネムたちを巻き込まないように3つ目の合図“離脱しろ”の号令を掛ける。
それを受けて頭上に舞い上がる仔竜、追随しようと軍艦鳥が数匹追い掛ける素振り。それを許さず、再びスキル技の《ブン回し》を敢行する。
バタバタと倒れていく、哀れな鳥の群れ。
ここまでの戦闘で、右翼の10匹程度を血祭りにあげてやった。左翼と中央は足止め魔法2種が効いていて、足並みが思いきり乱れている様子。そして何より、海月モドキが無駄に存在を主張している。
あんな意志を持たない浮遊物でも、囮くらいにはなってくれていて、大いに助かっている次第である。実はアレはHPを持たないので、相手にとっては殴り損なんだけど。
意外と役に立っている事実に驚き、ただの壁役のつもりだったのに。
そんな訳で、左翼と中央の群れは幸いにも分断出来ている。しかも右翼と中央の残りは、水晶玉のダメージで体力が半減している。ここは《キャノンB》とか、魔法の大技を撃ち込みたいのをぐっと我慢しつつ。
なにせたったスキル4Pの魔法だ、過信し過ぎるのは宜しくない。それよりも両手棍の《撃ち上げ花火》や《Pハンマー》で、確実に弱ってる敵にとどめを刺して行く。
更にネム&ファーの再参戦で、右翼の群れはほぼ壊滅させる事に成功。
こちらも被害が全く無い訳ではないが、時間的猶予もほとんどない。何しろ残りの敵の群れは、もうすぐそこなのだ。何故か狙われている海月モドキと土壁、土の壁はあっという間に崩されて元の土塊に。
その隙に、ネムの欠片補充は成功した模様。騎乗しているファーが、新たな水晶玉を掲げて俺の合図を待っている。こちらもすかさずポーチから用意、つまりさっきと同じ手順だ。
水晶玉のW投下⇒ネムのブレスで、鳥の群れは大打撃を蒙った模様。
軍艦鳥と言っても、実際はネムより大きなモンスターサイズである。嘴も凶悪に尖っているし、宙から襲い掛かる迫力は猛禽類に勝る勢い。
ただしハーピーみたいな特殊能力は無いので、戦い易くはあるかな?
それでもなるべく集団にたかられたく無いし、従者を不必要に危険に晒したくなど無い。そんな訳でさっきと同じく、ブレスでタゲを取ったネムの前に躍り出て。
貯まったSPで《ブン回し》のスキル技、まとめて倒れて行く敵の群れ。
この辺りで趨勢は完全に決していた、後は流れでの数減らしである。いやいや、新たな相棒の実力は予想以上だったな……戦闘合図は今後、もう少し増やしたい気もするけど。
今の所は満足のいく結果とコンビ振りである、ファーまで前線に出張って来るのはちょっと怖いけど。今後はネムのみの意志で、合図を聞き分けてくれれば尚良い感じ。
そしてファーは、いつものアシストに回ってくれれば完ぺきかも。
そんな感じで数分後、周囲の敵は完全に駆逐済みとなって。いつもの様に、ファーが近くに散らばる鳥の巣から卵や巣の素材的な収集物を拾って来てくれる。
もちろん虹色の果実の収集も忘れない、これで何と7個目である。随分集めたな、これでこの場所に用は無くなった訳だけど。ちなみに軍艦鳥のドロップは、平凡な鳥の羽や肉、それから鋭い嘴と言う恐らくは骨系の素材。
たっぷり集まったなぁ、何に使おうか?
それよりスタミナも減ってしまったし、相棒たちにご褒美もあげなくちゃ。取り敢えずは移動だな、当初の予定通りに安全地帯に寄って休憩しようかな。
ネムはあそこに行くのは初だよね、着ぐるみNPC達がどんな反応を示すか少し楽しみだ。それよりネムのステータス、もう少し弄った方が良いのかな?
今回は傷付かなかったけど、レア種との戦いだと怖いかも。
――考える事は多いよな、取り敢えず安全地帯で息抜きだ。




