続・水中神殿
宝箱の中身を回収してたら、ファーが壁に空いた穴を除いて来ていて。報告を詳しく聞いてみると、どうやらずっと奥へと下って続いているらしい。
スルッと滑って下るみたいな相棒のゼスチャー、ここから戻れるのかなとの予想は違ってた? まだ先があるのかな、このゴーレムがラスボスは緩いと思ってたけど。
ファーは全くお構いなし、一緒に滑ろうぜとハイテンション。
ふむ、ウォータースライダー的な仕掛けらしいね、コレ。定番だと、滑り落ちた先に敵がいるってパターンだけど。ファーも先の先までは、調べには行ってないみたい。
それは当然だ、危ない事は絶対にしちゃダメだと、常々口を酸っぱくして言ってるからね。それより行くか進むか、いや違った……行くか戻るかだな。
前進あるのみって、どんだけ前のめり?
まぁ、道があるなら進むしかないか、何しろこちとら冒険者だもんね! 念の為に《水中呼吸》と《風属性付与》を武器に掛け直して、と。
ついでに《炎テンション》も、待ち伏せあった時の為に掛けておこう。
ファーは自前で飛べる癖に、何故か俺の懐に潜り込んで来た。一緒に滑る気満々の相方、この先に恐怖が待ち構えているとも知らずにな(おどろ口調)。
いやいや、自分でフラグを立てるのは止めておこう。しかし……本当に、成り行き任せの行先知らずは怖いんですけど。大丈夫なのかね、ファーさん?
まぁいいや、覚悟を決めて飛び込もう!
それはもう、絶叫系でも類を見ない程の揺さぶりを体験中です、ハイ。さすがバーチャ世界、これでもかって程の現世では有り得ないコース設定。
無駄に酷いウォータースライダーの果てに待っているのは、案の定の派手な着水だった。今回の水溜まりは割と深いな、とは言えこっちの腰の辺りまでだけど。
そして水の中には、やはり大量のモンスターの群れが。
いやいや、ここまでの数は想定外ですよ? 何でこんなにいるの、ってか大半がオタマジャクシ型の雑魚なんだけど。持っていた棍棒を振り回し、反射的に防戦に移る。
ファーは大満足の様子で、俺の懐から無事飛び立った様子。楽しんで貰えて何よりだ、それより今の現状分かってらっしゃる?
分かってたみたいだ、光の水晶玉を水中に投下してくれた。
おっと、その手があったか……こちらもさっき分捕った、水の水晶玉を水中の敵に投入。数が多過ぎてもはや黒い塊にしか見えないオタマジャクシ達が次々に昇天して行く。
一気に10匹以上を殲滅したかな、まだまだ黒い影は多いけど。それはそうと水溜まりが一瞬、洗濯機のような渦巻きを発生させていた。
水の水晶玉も、なかなか凄い威力だな。
ファーにも持たせておけば良かった、あとで渡すのを忘れない様にしなきゃ。ってか、大アメンボも寄って来た、見える範囲で4匹いますけど?
オタマジャクシの突進や噛み付き技は、ゴミみたいなダメージしか与えて来ないけど。大アメンボの放つ水魔法は、二桁ダメージが基本だからなぁ。
警戒すべき敵は、早目に倒すのが定石だ。
ってか、敵はスイスイ避けるけどね……腹立つなぁ、範囲攻撃の《ブン回し》で追いこんではいるものの。水の中のオタマジャクシにも、何故かダメージが入るのが面白い。
範囲魔法も欲しいな、炎魔法の《キャノンB》は全くの期待外れだったし。もう一度水の水晶玉を投げ込んで、いつの間にか敵影もかなりスッキリして来た感じ。
こっちも割と、累積ダメージが酷いんだけどね?
タガメも数匹乱入して来て、場はもう阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わって行く。ポシェットを確認したら、水晶玉の残数は結構まだある感じ。
ここは勿体振らずにどんどん投入だ、命より高い買い物は無いんだから。そしてタガメは最優先でキルの標的に、コイツが一番の難敵だからな!
そんなこんなで、ヤンチャな滑り台から10分が経過。
何故にこうなった、随分命懸けな遊戯もあったもんだな! こちらの体力は既に2割を切っていて、敵の姿はようやく全ていなくなった感じ。
オタマジャクシだけで、ゆうに50匹以上いた気がする。そんな場所で泳ぎたくは無かったな、今更の愚痴だけど。そしてドロップは、全く大した事は無いと言うね。
ここは本当に、厄介なダンジョンである。
ちょっと休憩しよう、幸い水から上がれる陸地もあるし。部屋の構造は上とあまり変わっていない、水色の壁と床が静謐感を漂わせている。
さっきまでは、戦闘音でむっちゃ煩かったけどなw さてと、さっき入手した癒しの香木を試してみよう。これは魔除けの香炉にくべると、ヒーリング効果がアップするらしいんだけど。
おっと、なかなかに良い香りが漂って来ましたよ?
ファーもウットリしている様子、君はさっきからはしゃぎ過ぎ! こっちも座って休憩だ、確かに回復が目に見えて早くなっているかな。
それにしても香木シリーズは便利なのが多いな、もう少し本数欲しい所だけど。癒しの香木は、残り2本と寂しい限り……どこかで補充出来ないかな、売ってたら買うんだけど。
そう言えば、アロマ系は琴音が一時期ハマってたっけ。
あいつも色々と流行が変わるから、こっちも変な知識が貯まって行くと言う相互循環が。それにしても、バーチャ世界なのに香りまで再現とは凄いなぁ。
おっと、もうフルに回復しちゃったよ。
このダンジョンがどの程度深いのか分からないので、余りゆっくりはしていられない。準備を整えて、ポーチの中身をしっかり確認して……そうそう、ファーにも水晶玉とポーションをお裾分けするのを忘れずに、と。
さて、これで準備万端整った、次の部屋の扉を開けようか。って、今度は自動ドアなんだ。ってか次もやっぱり、水の張られたパターン構造の繰り返しみたい。
こうなると、弱点属性の雷魔法を覚えたくって仕方が無いっ!
――おめでとう御座います、雷魔法を取得しました!
てへっ、取っちゃった……初級魔法だけど、念願の攻撃系を取得出来ちゃったぜ! MPコストは8で、詠唱時間もそんなに長くは無いみたい。
これで幾つ目の魔法だとか、そう言うのはもう気にしない。我が道を往くのみ、我流を極めてこその冒険者だ。道を行くのではない、俺が通った後に道が出来るのだ!
……こんな台詞で、琴音は誤魔化されてくれるかなぁ?
まあいいや、言い訳はまた後で考えよう……おっと、一応《水中呼吸》も掛けておこう、この部屋も膝下まで水が張ってある。そして出て来るのはオタマジャクシの群れ。
代わり映えしないって事は無い、何故なら大カエルも混ざっているから。前衛カエルは変なシャツを着ていて、両手で持った三叉の槍で突いて来る。
水中からの攻撃なので、回避しにくくてかなわない。
《スパーク》で早速嫌がらせしてやるけど、これがかなり効いてくれて面白い程。闇系の敵に《フラッシュ》がすこぶる効いたけど、モロそんな感じだな。
お陰で近付いて来る敵、皆怯んでくれて範囲攻撃の格好の的だ。ファーも集団を見付けては、水の水晶玉を放り込む爆撃機と化してるし。
これこれ、奢りだからと言って贅沢に使うんじゃありません!
結果的には、それで良かったのかも。何故なら厄介な魔法使いカエルも、後衛陣に混じっていたっぽいから。杖を持っていて、お洒落な三角帽を被っていて……いや、倒されてしまったからおぼろにしか覚えてないけど。今回も割と数いたけど、戦闘は数分で終了。
《スパーク》強いな……いや、威力は弱くてダメージは辛うじて二桁って感じだけど。水属性の敵が、思い切り怯みまくるのが良い感じ。取って良かった、術書を持ってたからスキル3Pで済んだし。
そしてここでも、大したドロップは無し。
まぁ良いか、次の部屋へとレッツゴー。そろそろ終着点かな、ダンジョン攻略も侵入から1時間が経過しているし。だけど今度の部屋も、前のと似通った造りと言う。
水位は確実に、段々と低くなって来てるんだけどね。そしてオタマジャクシは存在せず、前衛カエルと魔法使いが数匹、それから巨大なハンマー持ちイボガエルが2匹待ち構えていて。
おっと、ひょっとしてここはボス部屋ですか?
イボガエル戦士の後ろに、何と王冠を頭に乗せてる殿様カエルまでいる。コイツも巨大で、俺より背が高い。武器は王笏なので、ひょっとして魔法使いかも?
そんな事より、列を揃えて突進して来る槍持ちカエルが厄介だ。《ブン回し》で対抗しつつ、こちらも浅くない傷をあちこちに負ってしまう。
相手に高等戦術があると、本当にしんどいな。
しかも足止めを喰らった所に、魔法使いカエルの攻撃呪文が飛んで来る始末。コイツ等は3匹と数は少ないが、呪文の命中率は凄く高くて避けるのはまず無理!
槍持ちの前衛カエルを倒すのに手間取っていると、とうとうハンマー持ちの巨大イボガエルが戦闘エリアに参入して来た。近付かれた感想は、素直にカエル気持ち悪い……と言うね。
てか数を減らさないと不味いな、見た目を気にしている場合では無いぞ。
《スパーク》と《バグB》を定期的に使って、魔法戦士の闘い方を本格的に演じてみる。ってか、弱った敵を仕留めるのに魔法で追撃&足止めは凄く効率が良い。
周囲を囲まれて派手に動けないので、仕方なくの措置だったんだけど。敵も連携は不十分な様子、巨大イボガエルが2回りも小さい前衛カエルのせいで前に出て来れない有り様。
後衛魔法カエルと一緒に、後ろでゲコゲコしている。
殿様カエルも、その点は一緒だ。ってか、さっきから前衛カエルの回復をしているのはコイツか? 数がなかなか減らないなと思ってたけど、支援魔法持ちは厄介だな。
半ダース近くいる槍持ちだけでも大変なのに、何気に殺意の高い編成じゃないか。それならこっちも、本気を出してやる。《フラッシュ》で敵を纏めて目潰し、右側へと抜けて行く。
そして、防御も侭ならない魔法カエルに《撃ち上げ花火》をぶち込んで。
これでやっと、3匹目の撃沈だ……おっと、ファーが水晶玉を放り込んで、与太ってた前衛が更に2匹お亡くなりに。そのファーの飛ぶ姿を、挙動不審な巨大ガマガエルの1匹がロックオン。
水晶玉の攻撃は、敵対心をそんなに高めないと思ってたけど。全く煽らない訳では無いみたい、そして《丸呑み》と言う呑み込み技が発動……またかよ、ファーさん!
慌てて救出に向かい、その大きな腹に棍棒を叩き込むけど。
ポヨ~~ンと弾き返されて、まさかの打撃耐性持ちですかっ!? 更に隣の巨大ガマガエルの舌が伸びて来て、俺の持つ武器を奪い取ろうとして来る。
なるほど、本当はこうやって武器を奪う技なのかもね。なのに相棒が、丁度美味しそうなサイズだったりするから……いやいや、今は分析より救出が先だ。
棍棒が駄目なら、タックルでどうだ!?
全身で飛び込んだ結果、何とか相棒は吐き出された様子……弾き飛ばされて転がった俺に、巨大イボガエルの《ペチャンコ蛙》と言うプレス技が飛んで来たけど。
半分水の中なので、そんなに効果は無かったけど。身を削る技だな、相手も体勢を崩してくれて、お陰でこちらも装備変更の時間を取れた。
棍棒が効かないなら、海賊の短槍にチェンジしてやる。
ついでに《Dタッチ》で体力回復、すかさず殿様カエルから回復と、魔法カエルから攻撃魔法が飛んで来る。さっさとMP切れを起こして欲しい、こっちの体力が先に尽きちゃうよ。
それでも目の前の巨大イボガエル、暗闇状態までは回復してないらしい。追い掛けて来る槍持ちカエルを《スパーク》で怯ませて、殿様ガエルをターゲティング。
近付いての連続突き……よしっ、ちゃんと効いている。
相手は王笏でガードしようと試みて、ついにはそれを諦めて弱体魔法を飛ばして来た。お陰でスリップダメージと、ついでに防御力がダウンしたとの報告があったけど。
甘んじてそれを受けた甲斐はあった、突破口となる回復役を先に潰す作戦を見事に遂行完了。後ろから巨大ガマガエルと前衛カエルに数発殴られたけど、波は確実に変わる筈。
ここで回復挟みたいけど、いつもの相棒の用意は何処に?
いた、壁の各所に窓のような切り抜きがあって、そこに避難してポーション瓶を用意してくれている。大急ぎで近付こうとするも、何しろ水中で動きに制限が。
《水中呼吸》の魔法も、さっき効果切れしてしまって転ぶのは不味い。下手したら先程のプレス技で、溺死させられ……って、近付くといかにもテンションの低いファーの姿が。
どうやら丸呑みの餌食にされて、いたく傷ついている様子。
慰めてあげたいが、こっちも今はそれどころでは無い。向こうは水中適応の能力があるから、全く引き離せていないのだ。目潰ししてやった奴らも、軒並み回復してこちらを目指している。
残りは巨大イボガエル×2を含めて7匹、回復役がいない分楽にはなったけど。次は魔法カエル×2匹がターゲットだな、やりたい放題して来たツケを払わせてやる。
その前に、ヤル気の無いファーと協力して連続で水晶玉の投入!
これで万遍なく削れたっぽい、手甲に隠してた投げナイフで目標の後衛カエルの1匹を潰す事に成功して。MPもそろそろ節約しないとね、と言いつつ《Dタッチ》を元気な巨大ハンマー持ちに使ってみたり。
コイツの一撃は、魔法攻撃並みに痛いからなぁ。それに対抗して贅沢に水晶玉投入の結果、ポーチ内の水と闇の水晶玉は綺麗に無くなってしまった。
お陰で周囲のカエルのHPは、軒並み半減以下に。
そろそろフィニッシュも見えて来たかな、持ち替えた短槍での《二段突き》で更に前衛カエルを1匹屠って。その反撃に、近付いて来た巨大ガマガエルの《毒息》で毒状態にされて。
せっかく殿様カエルの魔法スリップが切れてくれたのに、また継続ダメージかよ。腹が立ったので、そいつに《落とし突き》を見舞わせてやったけど。
今度は弾かれずに、ちゃんとダメージは通った様子。
しかも結構な与太り具合、ひょっとして殴りには強いけど斬突には弱くてらっしゃる? それならもっとご馳走してやろう、お返しのハンマーは何とか手甲で軌道を逸らしてやって。
華麗に避けたい所だけど、水張りのエリアはそれが出来ないから鬱陶しくて仕方が無い。体力150超えがモノを言ったな、防御力も何気に上がって来ているし。
残りのカエルの掃討は、5分余りで全て完了の運びに。
やれやれ、機動力を奪われた上に大勢で囲まれるとか、酷く殺意の高い部屋だったな……。しかしドロップは割と良好で、今までの外れ報酬が嘘みたいに種類も豊富。
まずは前衛カエルは、全員が銀のメダルと『蛙の歌笛』と言うアイテムをドロップ。銀のメダルは10枚で金のメダル1枚の価値があるっぽい。
コボルトやゴブリンも、たまに落としてたっけ。
蛙の歌笛は、戦闘中に使用する使い捨てのアイテムらしい。これを吹くと、敵の足元に数秒間だけオタマジャクシが大量発生して嫌がらせしてくれるのだとか。
……見なかった事にしよう、いやでも精神的なダメージは入るのか? 取り敢えず売ればお金になる筈、それより次は魔法カエルのドロップだけど。
水の水晶玉をそれぞれ、つまりは3個ゲット出来た。
ナイス補充だな、これは全部ファーに渡してしまおう。ようやくテンション持ち直しつつある相棒に、俺はおやつと一緒にドロップ品とポーション瓶を手渡して。
夢中になってチョコを頬張る妖精、これで何とか復活して欲しい。そしてお待ちかねの巨大ガマガエルと殿様カエルの討伐報酬なんだけど。
武器と防具が、割とたくさん拾えた模様。
――蛙のハンマー 耐久10、攻+12、水耐性+20%up
――蛙のブーツ 耐久8、防+6、水耐性+30%up
――蛙の王笏 耐久11、攻+7、水魔法+30%up
どれも性能いいな、それなりにレアな敵だったのだろうか……王笏なんて特に良い、水魔法の威力が上がるらしいので、後衛の杖装備の冒険者は喜ぶだろう。
こちらは前衛の魔法戦士なので、使い道は無いけどね。一応両手棍のカテゴリーだから、使う事は可能だけど。それなら攻撃力の高い、蛙のハンマーを使うって話だ。
こっちも良いな、手製の棍棒より威力は高い。
ただし大振りな武器なので、間違っても片手で振り回すなんて芸当は無理。使い勝手は悪くなるけど、威力を取ってこっちにシフトするかで悩む所。
ブーツも、今のスタミナ消費を抑えてくれる旅人の靴との交換は悩ましい。取り敢えず、この水系のダンジョンでは重宝するかもなので履き替えておこうか。
そして、殿様カエルは他にも色々落としてくれてた。
水色の水飴はお菓子の分類らしい、これはファーのご機嫌取りに取っておくとして。何と大物の魔石(小)とかも持ってたみたい。NM並みの敵だったのかな、あの群れを率いてたのなら充分に納得出来るけど。
そしたらスキルPもくれれば良かったのにね、それは勿論報酬には入っていない。その代わりに、ゴージャスな金の王冠がドロップしてくれてた。
これは頭装備とは違うらしい、防御力の記載は全く無いし。
一応は被れるらしいけど、やっぱり収まりは悪いわな。似合うか? と妖精に訊ねると、ファーは俺の頭に飛び乗ってそれを自分で被ろうと奮闘し始めてしまった。
サイズが全然違うじゃん、無理だって……それでもようやく元気の戻って来た相棒に、こちらも自然と笑みが湧き出てしまう。
例えトラブルメーカーでも、大事な相方には違いないし。
――どうぞ今後も、長いお付き合いを宜しくってね!




