祠造りと凄い報酬
ようやく安全地帯を出発して、その足で真っ直ぐ精霊のいる東の森へ。そこで祠造りの依頼をこなしたら、取り敢えずは南へと向かう予定でいるけど。
琴音と誠也からの情報では、南の海辺には軍艦が泊まっており、南の森でその軍艦で運ばれて来た騎士団がキャンプを張っているとの事らしい。
彼らに課された任務は、野盗の砦を攻め落とす事みたい。
やるならさっさとして欲しいのだが、ゲームの性質上それは無理なのだろう。とにかく南の森の湖近くに、虹色の果実が確実にあるっぽいので。
順調に行けば、今日にでもこの『始まりの森』はクリア出来る訳だ。
そう言えば、昨日の最後の狼NMとの戦闘結果を話していなかった様な……まぁこうして今日もイン出来ている訳だし、つまりは勝てたのは事実なんたけどね。
貰えたスキルPは2と少なかったけど、ボス狼は風属性だったみたいで。それ系のアイテムを色々とドロップ、風の術書が1枚と風の水晶玉を4個。
素材系に森狼の毛皮と風の牙×2をゲット。
何と昨日の4時間の探索での、5匹目となるレア敵のドロップ報酬である。有意義に使わせて貰うのはもちろんだが、果たして南の森ではどんな敵が待っているのか。
楽しみなような、不安なような複雑な気持ち。
取り敢えずは雑魚モンスターを蹴散らして、東の森へと向かいつつ。案の定、雑魚モンスター程度では新武器の性能は判然としない。
その確認は、また後で時間を取る事にしてと。取り敢えずは約束の祠造りだ、精霊さんはどこかなと、たまに樹の上や茂みの中を確認してみたり。
俺が見付けなくても、ファーに任せておけば確実なのは分かっているけど。ってか、やっぱり見付けたのは妖精のファーだった。挨拶を交わして、材料が集まった事を告げ。
さて次は、どこに祠を建てるかと言う現実問題。
「ここから北に少し進んだら、綺麗な景色の野原がある筈なんだけど。そこに設置したいかな、凄く長閑で素晴らしい空き地なので……ファーもあそこ、気に入ってるよな?」
「ふぅむ、我はこの森の中ならどこでも構わんが……そうさな、お主と妖精の好きな場所で構わんよ。南の森にある湖以外ならな、あそこは妹に明け渡しているから」
なるほど、南の森には精霊の妹がいるのか。それはそうと、祠設置の場所にあっさりと認可が下りて良かった。ファーも俺の確認の振りに、さっきあげた鈴付きの杖をご機嫌に振り回して同意してくれていたし。
何かかなりお気に入りみたいだ、俺が即席で作った鈴の付いた杖だけど。合図代わりに使えと言ってるのに、勝手気儘にシャンシャン鳴らしてるし。
マズったかな、与えてはいけない玩具を持たせた気分。
とにかく工作だ、皆で獣道を辿って野原へと歩いて行く。ラマウカーンが例の敵避けバリアを張ってくれているので、戦闘での足止めは皆無。
マップを見ながら進むんだけど、どうも昨日報酬に貰った『探索のコンパス』の効果なのか。やたらと地図情報が増えていて、敵や怪しい場所のマークまで分かる始末。
凄いなと思いつつ、順調に馴染みのあの野原を発見して。
相変わらずいい景色だな、ファーも喜んで花畑を低空飛行で楽しんでいる。名前すら定かで無い無名の花が、存在を主張するように咲き誇っている。
野原を彩るには、妙に合ってると素直に思う。自然が作り上げた美と言うのは、不自然な窮屈さが無いのが良い。この自然美を崩さない様に、祠を設置したいなぁ。
それには、どこが最適の場所だろうか?
あの木陰が良いかな、棗の木の下なんて良さそうだけど。奥には野生のミカンの木もあるみたい、野原も見渡せるしロケーションも良い感じ。
作業をするにも、もってこいの場所かも。
そうと決まれば、さっそく工作スタートだ。適当に工具を手元に並べて、それから使えそうな材料を鞄から出して行く。特に奇をてらう造りにはしないから、材料は足りると思うけど。
もやっとしたイメージにあるのは、良く見掛けるお地蔵様の祠である。どこの街を歩いてても普通に見掛ける、日本人には馴染みのある風景。
それには、そこに納めるご神体も必要だけど。
そう口にすると、それはラマウカーンが用意してくれるとの事。良かった、木材の加工ならともかく、石の彫刻までさせられるのかと思ったよ。
とにかくまずは、祠を乗せる土台を製作して行く事に。普通に平らの台を造って、それから建物本体を乗っける感じで。大きさは普通サイズ、地元で良く見掛ける大きさで。
工具と材料を地面に広げて、トンテンカンと作業音を奏でて行く。
材料が大量に余りそうなので、ついでにファーの寝所も造る事に。鳥の巣みたいな感じで、お椀の形にして中に藁か何かを敷き詰めてみようか。
これなら簡単に出来る、持ち手も造って可愛い感じに仕上げたいかな? 例えるならば、フルーツの盛り合わせ用のバスケットみたいな。
うん、どうやら上手く行きそう。
設計図すら無い工作だけど、幸いどちらも変な形にはならずに済みそう。元が変に凝らない様にとの依頼だったので、四角い壁とへの字の屋根の定型を目指して。
一応はいびつな形にならない様に、四方の柱の長さだけは慎重に等分に計って。小学校の頃に、鳥の巣とか図工の時間に造ってたなぁ……いや、精霊に対して失礼かな?w
そんな思いを抱えつつ、約20分程度のクラフト作業の結果。
ようやく満足の行く形に収まった、もろ工作感アリアリの祠と妖精の巣が完成。後はラマウカーンの感想待ちだが、彼も満足げと言うか感慨深げな様子で思わずこちらも安堵。
そこにファーが戻って来て、野原で収穫した花束を祠に飾り付け始めた。そして自分にも贈り物があると知って、物凄く有頂天になる可愛い相棒。
ラマウカーンも満足そうで、これで依頼クリアは出来そう。
クリアついでに、もう少し彼を喜ばせたい。お供え的なモノが、何か鞄の中に入ってないかな? ウン、お酒があるな……半壊馬車に残ってた拾い物だけど。
コップも提供しよう、今日は精霊の仕事? は忘れてへべれけになるまで飲んで欲しい。この後の予定が詰まっているので、生憎こちらは相伴出来ないけど。
あまり横道に逸れてたのが琴音にばれたら、本気で叱られてしまう。
精霊ラマウカーンは、割とのんべぇだった。お供えと言うか差し入れを、物凄く喜んで貰えて。昼間と言うのに酒杯を煽りまくり、かなりいける口らしい。
楽しんで貰えてこちらも嬉しいのだが、報酬の件も忘れないで貰いたい。意識がはっきりしている内に、精霊にそれとなく催促すると。
おおっと、ちゃんと用意されていたようです。
今回貰えたのは、『黄金の果実』と『時の狭間の香木』と言う2つのアイテムだった。黄金の果実は。食べるとレベルがステータス上限Maxで上がるらしい。
超凄いアイテムだと思うけど、こんなの貰っていいのだろうか? ところが時の狭間の香木は、この限定サーバに限って言えばもっと凄い性能だった。
何と魔法の香炉で焚けば、時間を20分止められるらしい!
それが6本、つまりは120分余計にゲームをプレイ出来る事になる。ただし香炉での使用だから、冒険では無くクラフト系でしかその威力は発揮出来無さそう。
それでもかなり凄いと思う、今回みたいな依頼があれば特にそうだ。何かこのゲーム、前もってそれがあれば依頼も楽にってのが、報酬で貰えるパターンが多い気が。
嫌がらせなのか、いやいやそれで有り難味が分かると言うモノ?
とにかく精霊の依頼も無事にクリア出来た、酔っ払いの鴉モドキと別れを告げて海岸沿いの獣道を南下。いつもの如く、ファーも何やら貰ってたみたいだけど。
それには敢えて触れず、上機嫌の妖精を伴ってひたすら道を行く。祠の隣に残そうと思っていた妖精の寝所は、何故か彼女の要望で持って帰る事になってしまった。
普段用に使うらしい、まぁ使って貰えれば造った甲斐もあったかな?
それより貰った黄金の果実の効果がヤバい、本当に普段1とかしか上がらないステが、幸運と魅力値を含めて贅沢な上昇振りを示し。スキルPも貯まってるので、やっぱり贅沢に消費してみる事に。
色々と考えた結果、冒険で拾った炎魔法の《キャノンボール》の威力がどうしても気になって仕方が無いので。術書も2枚あるので、ちょっと取得してみる事に。
ついでに闇の術書と剣術指南書も使用、闇魔法も新しいのを覚えてみたりして。
名前:ヤスケ 初心者Lv14 種族:ミックスB
筋力 27 体力 32 HP 129(+13)
器用 30(+2) 敏捷 28(+2) MP 108
知力 23 精神 22(-4) SP 95
幸運 17(+10)魅力 8(+1) スタミナ**
職業(1):『新米冒険者』Lv14
武器(4):《ブン回し》《落とし突き》《撃ち上げ花火》《二段突き》
補正(4):《投擲威力20%up》《》《》《》
武器:弓矢1P
:短剣1P
:短槍12P《落とし突き》《捻り突き》《二段突き》
:片手棍1P
:両手棍8P《ブン回し》《撃ち上げ花火》
:盾1P
:投擲4P《投擲威力20%up》
魔法:『闇』8P《Dタッチ》《バグB》
:『風』9P《風の茨》《風属性付与》
:『光』4P
:『水』4P《清き水》
:『炎』4P《キャノンB》
種族:『ミックスB』(幸運+2、魅力-1)
称号:『蝶舞』『猪突』
モネー:36、400
スキルP:16
***『新米冒険者』ヤスケ 装備一覧***
武器 :海賊の短槍(6) 攻+10
武器2:丈夫な木の棍棒(6) 攻+6(両手時+8)
予備 :研ぎ直した粗末な石斧 耐久3、攻+4(投擲可)
盾 :甲殻の手甲(4) 防+4
頭 :質素な帽子(5) 防+4
上着 :丈夫なベスト(8) 防+7
鎧 :護衛の胸当て(6) 防+6、器用+2
下着 :クールな下着(5) 防+1、耐寒+20%up
アクセ:幸運の御守り(2) 防+1、幸運+2
指輪1:耐魔の指輪(2) 耐魔20%
指輪2:契約の指輪(-) 従者+3
腕 :質素な腕輪(5) 防+4
ベルト:革の幅広ベルト(7) 防+5、ポーチ×4
下肢 :疾風のズボン(8) 防+7、敏捷+2
靴 :旅人の靴(12) 防+5、スタミナ減‐20%up
背中 :海賊のマント(8) 防+7、敵対+2、魅力-2
従者:妖精Lv1 幸運+6、魅力+4、精神-4
鞄:魔法の鞄(初心者用)+商人の鞄
アイテム:ポーション(大)×2、ポーション(中)×9、ポーション(小)×18
:マナポ(中)×2、マナポ×8、毒消し×6、マナP×3、Sポ×7
:雷、水、土の術書、潤いの蜂蜜×7、闇の秘酒×3、聖水×5
:虹色の果実×4、魔石(小)×8、魔石(中)、海賊のサーベル、《隠密》
:料理キット、冒険者セット、《地図形成》、《水中呼吸》、蟷螂の大鎌
:緋色の頭巾、闇の眼帯、護りの腕輪、海賊の大斧、万能薬、調味料
:魔除けの香炉、金のメダル×6、『初級海賊』、薬品箱、松脂1瓶
:巨大な大腿骨、幽霊の呼び水、大猪の牙の短槍、炎の神酒×3、
:闇の契約書、探索のコンパス、飛竜の血、闇蝙蝠の牙、闇蝙蝠の皮膜
:旅人のマント、護衛の刀、庭師のエプロン、《四段突き》、《秋波斬り》
:護衛の弓、骨の鋭利なナイフ×2、経験の飴玉×2、護衛の盾
:初心冒険者の服・帽子・杖セット、魔法の腐葉土、銀葉樹の苗木
:壊れやすい鉢、魔水連の球根×8、淡い水瓶、大猪の毛皮、枝切り鋏
:森狼の毛皮、風の牙、時の狭間の香木×6、蜂蜜ジュース×3
色々と突っ込み所はあるが、一気にレベルが12⇒14になった訳を話そうか……。どうやらあの黄金の果実、何故かレベルを13の際まで上げてくれていた様子で。
貯まったスキルを使って、新しい魔法と短槍スキルを取得してみて。使い心地を試そうと、海岸の敵を相手に闘ってみた所、ほんの数匹で再びレベルアップしてしまった。
何と言うか、至れり尽くせり感が満載である。
一気に強くなった気もするが、ステの上昇がとにかく有り難い。そろそろ30台に突入するのも出て来て、HPなんかは補正込みで140である。
そこらの雑魚敵のHPが20~30なので、俺のアバターは5倍以上の計算になる。最初の頃の死闘が懐かしい、今では素手でも倒せてしまう可能性も。
いやいや、過信はもちろん禁物ではあるけどね。
とにかくレベルは上がって、ステもHPやMPもグンと増えてくれた。新しく覚えた魔法スキルも、超強力……ならば鬼に金棒で天狗になってしまう危険性もあったんだけど。
期待していた炎魔法の《キャノンボール》は、確かに威力は高かった。苦手属性の水系のフナムシの群れを一網打尽にしてしまえはしなかったものの。
うん、まぁその……振り込みスキルたった4Pと、知力の低さが原因かもね?
範囲魔法は欲しかったのでまぁ良い、だけどコスト的に32MPは喰い過ぎだろう! しかも詠唱は長いし、攻撃距離もそんなに長くは無いし。
効果範囲はそこそこ広かったけど、何と言うか期待ハズレ感は否めない。一緒に取った闇魔法の《バグボール》と言う名前の、同じボール系の方が使い勝手が良いと来ては尚更だ。
比較対象があると、どうしてもねぇ?
ただし《バグボール》は範囲攻撃でも何でも無く、ただ野球のボール程度の魔力球をぶつける感じの魔法だったり。詠唱時間の短さと7MPと言う低コスト、それに攻撃距離の長さがマッチして魅力を感じた次第だ。
少なくとも、《キャノンボール》よりは使う頻度は上になるだろう。
けどまぁ、炎魔法を覚えた事は別にマイナスには作用しない。何故なら海賊の宝箱から拝借した、緋色の頭巾《炎テンション》の使用条件を満たしたからだ。
この装備、闇の眼帯と同じで別に帽子を被っていても頭の部分に巻けば“装備”しているとみなされるらしく。ちゃんと無事に発動してくた、コストは9MPで5分継続である。
攻撃力アップだったかな、この効果は割と良いかも?
ちょっと近くに雑魚しかいないので、検証は難しいけど。《風属性付与》とも重ね掛け出来るっぽいし、だから炎魔法の取得は無駄では無い! と思いたい。
もう少し検証は必要かな、それは後の課題にしようと思う。
重ねると言えば装備の重ね着、これもこのゲームは可能らしくてちょっと驚いた。丈夫なベストを古い上着と交換して、勿体無いので錆び落としをして貰った護衛の胸当ても重ねて装備してみたところ。
ちゃんと装備欄では効果が表れていて、つまりはこんな我が儘もまかり通るって事みたい。ただし聞いた所では、装備の総量の重さで動きが制限されたり、スタミナの減りが早くなったりとマイナス面も出て来るのだとか。
これも要検証だな、暫くはそこら辺の具合を見て考えよう。
あとは剣術指南書の使用、剣術では無いけどちゃんと短槍でも2P上がってくれた。ついでに武器スキルを取得したのは、現状で短槍が一番自分の武器で強いから。
まぁ《捻り突き》が弱過ぎて物足りないってのも、理由なんだけどね。それで今回取得したのは《二段突き》と言う技で、SPコストは12である。
うん、普通に強いからスロットはこいつと交換しようねw
そんなスキルの取得とか新しい武器や魔法の使い心地を試しつつ、『始まりの森』を南へと進む。バタバタしていた感は否めないが、近くの敵はもはや雑魚でしかなく。
物足りなさを感じつつ、初見の敵はいないかなぁと索敵しながら新エリアへと到達。ここからは南の森エリアだ、地形も段差が多くなって来た。
海も左手に普通に見えている、海岸線には浜辺は存在しないけど。
海とを隔てる断崖は、段々と低くなって来ているとは言え。崖下には鋭い岩が多く存在して、波間へと近づこうとは未だに思えない。
暫く進むと、ここなら何とか接舷出来るかなって感じの穏やかな海岸に出た。そしてそこには、既に巨大な先客が悠然と陣取っていた。
良く分からないが、あれは軍艦の類いだろうか。
野原を出てここまで約30分、なかなかの距離である。そして初見の敵を発見する前に、見付けたのがいかにも厳つい軍艦と言うね。
そう言えば琴音たちが言ってたかな、南の海には軍艦が停船してるって。そしてどこかに軍事キャンプを張っていて、そこにも虹色の果実は存在してるとか?
有耶無耶な情報だが、これはネタバレ禁止を掛けた上でのギリギリトークである。琴音も誠也も船には近寄ろうとはしなかった模様、俺も特に用事は無い。
でも遠目にだが、船の上に留守番クルーは存在しているかな?
向こうも同時に、こちらの存在を確認したみたい。初めは1人だったのに、今では3人程度がこちらを指差して何やら相談している。
ふむぅ、あまり面白くないな……不審人物に思われてるかも、早くここを立ち去った方が得策か。探索の時間も勿体無いし、南の森の中央に向かおうか。
そんな感じで方向転換、それに連れて敵の出現内容にも変化が見え始め。海鳥や飛び魚、フナムシの団体は姿を消して、代わりにゴブリンが姿を見せ始めた。
おおっと、コイツ等昼間からうろつき回ってらっしゃる。
別にダメとは言わないが、決して初見では無いなぁ……夜の断崖で見掛けてるし、その厄介さも充分把握している。今日もコイツ等は群れていて、どうやら全部で3匹の様子。
そして魔術師ゴブもいるっぽい、否応無しに戦闘になったので一番最初に倒すのは無理だったけど。戦士タイプが突っ込んで来て、通せんぼ役を担っていたのだ。
そうすると、途端にしぶとい敵役に昇格する雑魚モンスター達。
それでも新しい武器とスキル技で武装した、今の自分は一味違う。魔法での自己強化と足止め、更には遠隔で仕留める術も備えているのだ。
体力に任せて、後衛に無理矢理詰め寄るなんて力技は選ばない。なるべく瞬時に前衛を倒して、さらに1匹は目潰しで行動不能にしておいて。
それからゆっくりと、後衛を始末してやれば良いのだ。
うん、今の戦闘パターンはなかなか良かったかな。今後のテンプレにしてしまおう、MPコストはやや掛かるけど、自己強化は今後も積極的に使って行くつもり。
癖にしておかないと忘れてしまうし、いざと言う時に「しまった!」では遅いのだ。これは学校のテストでも同じ事、解ける問題から手を付けて、残った時間で解答を見直す。
癖にしておかないと、本番の受験時に失敗してしまう恐れが。
ゴブリンの群れにはそれから2度遭遇して、その両方に猟犬っぽいモンスターが新たに組み込まれていた。コイツ等、狩りに相当慣れているな……まぁ、手こずる程では無いけど。
それでも先手はどうしても取られるし、中には弓矢持ちだったり魔法での遠隔や回復持ちも存在するし。北の樹海でも思ったが、コンピプレーは一番厄介だ。
それでもソイツ等を駆逐しつつ、森の奥へと進んで行くと。
ようやく拓けた場所へと出て、思わずホッと一息。地形も丘あり斜面あり、谷間あり倒れた樹木ありで、樹海とは違った進み難さがあったのだ。
騎士団だったか、良くこんな奥までキャンプを張りに来れたモノだ。そして彼らは、確かにここにベース地点を構えていた。拓けた地形を利用して、結構な人数が動き回っている。
そして歩哨に建っている、鎧を着込んだ若い騎士風の兵士が2人。
「誰だ貴様は、止まれ! ここはテムール王国第四騎士団のベースキャンプだ、用の無い物は大人しく立ち去るがいい!」
「えっと……通りすがりの冒険者なんですけど、何か手伝える事とか無いですかね?」
「冒険者だと、それがどうしてこんな場所に……? ふむ、しばし待て……我らが騎士団長に、伺いを立てて来る故」
「待て、同志よ……コイツの出で立ちを良く見ろ! 海賊の装備を着けてるぞ、ひょっとして砦を占拠している野盗の仲間なんじゃないのかっ!?」
おやっ、不意に後ろから声が掛かったかと思ったら。マリン風の服装の男達が3人、どうやらこちらの後を追跡して来てた様子。軍艦にいた奴等かな、目が合ってたもの。
こちらの予測は大当たり、どうやら不審者認定されていた模様。海賊の装備とはマントの事かなぁ、いや確かに出所はその通りだけど。
不穏な空気は、どうやらその場を占領してしまいそうな雰囲気。
騙されかけたと思い込んだ若い歩哨たちは、完全に頭に血が上って抜刀にまで及んでいる。あれれっ、これは話せば分かるパターンなのか、それとも己の魅力度の低さを恨めば良いのか。
判然としないが、前後を囲まれているこのシチュエーションは不味い。向こうが範囲を狭める素振りを示した途端、思わず反応して左手の森の中へと飛び込んで。
怒号が飛び交う中、必死の逃亡劇が始まる破目に。
そしてすぐに後悔、そう言えばこのマントは魅力度-2の嫌な効果付きだったっけ。人と出逢わない森だったので、すっかり忘れていたよ……。
先に立たずの後悔をしながら、岩場の多い道なき森の中を駆け抜けて行く。後ろの追跡者の数は、さっきの詰問者5人程度らしい。いざとなれば戦うか、いやいや相手は騎士団だし。
斃すのは不味いかな、しかし相手は容赦する気も無いみたい。
何しろ弓の攻撃が二度ならず身体に命中、酷いダメージを背負ってしまった。さすがにNPC騎士団、良く鍛えているっぽい。酷いな、全く容赦なしだ。
逃げた俺が悪いのか? でも若い騎士の抜刀に反応して、後ろの海軍も武器を構えていたし。いきなり攻撃はして来なくても、捕まったらどうなるんだ?
果実集めどころでは無い、攻略が詰んでしまう可能性も。
逃げ切れれは次の手も打ちようがある、果実は他にもある筈だし。って言うか、そもそもあの場所に用はあったのか? 何となく道なりに進んで、つい弾みで声を掛けてしまったけど。
色々と軽率だったのは否めないな、自分の行動や装備も含めて。
不意に前方から矢弾が飛来して、俺の横を通り過ぎで後方の騎士の一人に命中した。怒号が途端に警戒の声に変わり、追跡者の足並みが一気に乱れる。
俺も呆気にとられて、思わず足を止めてしまった。ちょうど上り坂の途中だったので、前方に敵がいると戦うにも不利。警戒しつつ、前方の木々の隙間を覗き見ると。
どうやら敵ではない様子、こちらに廻り込めと手で合図を受けた。
「連中から逃がしてやる、ついて来い」
――それが俺と師匠の、最初の出逢いだった。




