表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミックスブラッドオンライン  作者: 鳥井 雫
29/73

土曜の夜と休日の朝




 ログアウト後の、いつもの琴音とのミーティング。余り長くなり過ぎると、家に戻るのが遅くなってしまうので。お喋り過ぎる幼馴染を、上手にコントロールして。

 相手の興が乗ってしまうと、それもなかなか難しいのだけれど。なんとか琴音の興奮を宥めすかして、大事な情報を選別して伝えて行く。

 俺の今夜の結果は、物凄く大まかだけど伝言済みである。今から限定サーバにインする琴音の方は、今日で果実を5個揃える予定らしい。

 そうすると、琴音は今日にでも『始まりの森』をクリア出来てしまう。


 琴音のレベルは、昨日を終えた時点で12に到達している。武器は細剣を選択していてスキル16、つまりスキル技を4つ所持している事になる。

 魔法は水魔法を3つ持っていて、何とか回復系をゲット出来たみたいだ。NMとの遭遇は4日を通して1匹のみ、昨日の冒険の後半に動物系のレア種と戦ったっぽい。

 俺が教えた海岸の洞窟には、行く予定は無いとの事で。


 限定エリアの夜のインを避けて、琴音の5日目は今から始まる予定。ってかあの海賊ゾンビとは戦わないのか、慎重過ぎるとは思うけど理由は色々あるみたいで。

 ベテラン的な見地では、武器も装備も貧弱な現状で無理はしたくないらしい。俺から言わせれば、無理をしないとアイテムは揃わないと思うんだけど。

 まぁいいや、攻略方法は人それぞれなんだしね。


「どうしよう、恭ちゃんがまだクリア出来ないんだったら、私ももう1日待とうか? クエも色々出て来てるし、今日は少しゆったり目でもいいかなぁ?

 ってか私もあの馬車漁ってみたけど、そんなにたくさん収集ポイント発見出来なかったよ?」

「マジか、それじゃああの大量入手って、妖精効果なのかな……? 今回の隠し洞窟だけど、あれは個人的にはお勧め出来ないなぁ。下手したら、ユニオンボスに丸焦げにされるから。

 それから別に、俺の事待たなくてもいいぞ、俺も明日は南の探索の予定にはしてるけど」


 予定にはしてるけど、それが順調に消化されるかはまた別な訳で。前半は精霊の祠造りは決定してるけど、後半の南の探索は行き当たりばったりになる予感がする。

 それで首尾よく虹色の果実が手に入れば良いケド、意外と広い『始まりの森』だけに。まだまだ波乱の展開がありそうで、ちょっとだけワクワク期待している自分がいる。

 誰も探索してない洞窟とか、またどこかに無いかなぁ?w


 とにかくコッチの方針は琴音に伝えたので、後は向こうの好きにして貰えば良い。ってか、あれだけの目に遭ったのに、今夜は果実ゲット全くの無しだったのか……。

 まぁ、まだ南の探索を全然やってないし、寄り道して素材の採集して遊んでただけだったからなぁ。当然と言われればそうなのかも、実績は明日に持ち越しとさせて貰いましょ。

 そんな訳で、夜も遅いし慌てて帰宅の準備に。



 琴音の家は、まだパパさんが仕事から帰って来ていないみたいだ。ママさんには妹達を呼んで一緒に夕ご飯食べようかと誘われたけど。

 好意は嬉しいが、甘えっ放しでは申し訳ないのも確か。幸いママさんは、俺達の賞金イベント参加を応援してくれている様子で助かっている。

 母娘でギャンブラー気質らしい、似たもの母娘だと常々思う。


 その点パパさんの立場はやや微妙だ、つまりは俺と琴音の関係とかゲームを始めた経緯とか。一応は琴音からあらましを報告されている筈だが、娘の学力の心配も人並みにしているようで。

 常識人としては当然だ、そこは俺や幼馴染のグループで面倒を見てやるしか無い。肝心の俺と琴音の関係性の方が、父親として微妙な立ち位置なのかも知れないな。

 もっとも、(ことね)の方は変な虫が付くよりはマシでしょと諭してるみたいだけど。


 そうかも知れないし、そうで無いかも知れない……虫除けと評されるのは、俺としてもアレだけどねw それはまぁいいや、とにかくそんな変なプレッシャーは常にある。

 琴音の家は、女性陣の方が気が強くて立場も上だったりするので。パパさんとは分かり合える日が来るかも知れないな、同性として尊敬もしているし。

 つまり、じゃじゃ馬慣らし的な……ゲフンゲフン。


 ちょっと喉の調子を悪くしたかな、とにかくその夜は、お(いとま)を告げて一人帰路に着いて。とは言え、歩いて2分ほどの距離、番地的にも同じなので夜道の心配も少ない。

 それでも妹達や琴音が、夜分に行き来するのは口を酸っぱくして諌めてるけどね。今の世の中、何が起こるか分からなくて不安になるのは当然だ。

 残された家族なのだし、過保護で丁度良い位だ。




「お兄ちゃん、おかえり~」

「ただいま、夕飯の支度がまだなら手伝うぞ?」

「もうほとんど出来てるよ、後はお肉とお野菜を炒めて盛り付けるだけ」


 そうらしい、ようやく家に戻って来れた安堵感と家族との何気ない会話に癒されつつ。着替える間もなく台所へ、そして妹達と夕食の準備に取り掛かる。

 とは言え、もうあまりする事は無いみたいだ。テーブルの支度は出来てるし、後は本当にフライパンで音を立てている野菜炒めの完了待ちだけっぽい。

 楓恋がそれを、手際よく菜箸で調理している。


 杏月はテーブルの支度を済ませて、すまし顔で料理が並ぶのを待っている。いつもの調子だ、俺は末妹の頭を撫でてから一度着替えに自室に戻る。

 着替えを終えて戻ったら、夕食の支度は完璧に整っていた。俺待ちだったみたいなので、大急ぎで席に着いて頂きますを皆で合唱して。

 さて夕食だ、賑やかに今日の出来事などを語りつつ。


「2人とも、明日の予定は何かあるのか……?」

「琴音ちゃんに、買い物行こうって誘われてるよ? 午後からだったかな、午前中はお家でまったりする感じ?」

「宿題あるから、勉強見てねお兄ちゃん……英語の訳と、数学のテキストがあった筈」


 開放感の半端無い、ゆったりとした時間を味わいながら。何でもない夕食時が、家族で一緒にいる事だけで至福の時へと格上げされる。

 週末の解放感もあって、俺もいつもより饒舌になっている気がする。聞かれるままに今日のゲームで起きた冒険譚を、やたらとドラマチックに脚色して捲し立てる。

 杏月がはしゃぐのは分かるが、楓恋の食い付きが意外と良い。


 我が家のゲーム事情だが、実は俺と似たり寄ったりで、普及率は全くと言って良いほど低い。精々が琴音の所で触れるか、友達伝いで聞きかじる程度だ。

 それでも小説の類いは2人とも、俺に負けずに読み漁っているので。中にはファンタジー系の奴も、結構混じっているから下地は充分なのかも知れない。

 これは両親、特に父親の形見の品でもある。


 本と言うのは、こんな形で次の世代に残るのが良いと、個人的には思っている。若い頃に自分の父親は、この本をどんな気持ちで読んでいたんだろう?

 そう思うだけで、一冊の小説の中に別の物語が閉じ込められている気になる。うちの家族の読書好きは、間違いなく家系なのだろう。

 妹たちも、俺ほどではないが結構な読書家なのだ。


 そんな訳でファンタジー系の小説も、最近はかなり嗜んでいるらしい妹たち。俺のバーチャ世界での冒険話も気になるらしく、かなり突っ込んで話を聞かれている。

 ここの所は、毎晩の夕食時には俺の冒険譚が主題に上がっている。だから毎日の冒険を、多少の脚色を付けて披露するのも段々と慣れて来てしまった。

 今晩も、夜の森で死にそうになった活劇を、スリル満点に語りつつ。


 恐ろしいモンスターとの戦いもそうだが、妹たちは可愛い妖精の活躍がお気に入りらしい。いつか彼女たちに、相棒のファーを紹介してやりたいな。

 俺の密かな願望だ、金と時間があれば叶うなどと、野暮なことは言いっこ無し。




 次の日は爽やかな目覚めとは言い難かったが、寝坊は程々に堪能出来たので良しとしよう。今日もお昼前からバイトが入っているので、ゴロゴロ出来る時間は多くない。

 しかも妹たちの勉強を見る約束もしてるし、それを考えると無駄に出来る時間は多くない。これもまたコミュニケーションだ、可愛い妹たちの為に頑張らねば。

 そんな事を思いつつ、見慣れた自室を眺めてみる。


 そう、子供の頃から見慣れている自分の部屋だ。何度か衣替えをしたりもしたけど、基本の構造は変わっていない我が家の自室。

 これも両親が亡くなって、危うく手放しそうになったモノの一つだ。街のこの辺りは割とお金持ちが住む区域なので、当然月々の家賃もお高い感じである。

 だから妹たちと相談して、1度ならず引っ越しを検討してるのだが。


 妹たち、特に杏月は乗り気では無いみたいで、その度にこの案件は頓挫している。どうも思い出の詰まったこの家を離れるのが、嫌で仕方が無いらしい。

 その気持ちは大いに分かるし、このテーマが出る度に泣かれてしまう。俺が高校に入学して、バイトを始めてからは収支は割と安定して着ているので。

 この議案はずっと凍結されている、妹たちの精神安定は大事だからね。


 俺としても、別にバイトが辛いとかもっと自分の時間が欲しいとかなんて贅沢は思ってなどいない。喫茶店のバイトは、社会勉強にも接客サービスの習得にも良い場には間違いないし。

 自分の時間が減るのは確かだが、経験値は充分に貯まって行っている筈である。これが後の就活にも活かされると思えば、忙しい日々にも我慢は出来る。

 などと考えながら、ベッドから這い出して朝食を取りにキッチンへ。


 妹たちも順番に起きて来て、朝の挨拶の後に賑やかな朝食へ。俺にとっては穏やかな時間だけど、お昼までのタイムリミットを考えたら呑気に構えてもいられない。

 誰がどの仕事をするかを簡単に話し合って、手分けして布団を干したり洗濯をしたりと家の中を3人で駆け回って。こう言うのは皆で働けば、誰からも文句が出ないので良い手である。

 ちゃっかり者の杏月でさえ、元気に掃除に励んでいる。


 普段お世話になっている家への恩返しだと、末妹からは殊勝な言葉が聞こえて来るが。案外と本音なのかも知れない、それ程にこの生まれ育った我が家に愛着を感じているのだろう。

 俺としても、その気持ちは充分に分かる。


「お兄ちゃん、お昼つくったら食材がほとんど無くなっちゃうかも」

「なぬ~~っ、ウチの台所事情はそんなに苦しいの、楓恋ちゃんっ!?」

「いや、単に生鮮食品が切れただけだろ? 即席麺とか缶詰ならそこそこあるから、心配しなくていいぞ、杏月?」


 とは言え、杏月はラーメンはあまり好きではないので微妙な顔つき。今日のお出掛けの夕食会の後に、取り敢えず皆で買い物をする事に決定して。

 買い出しは週に3回程度なのだが、大抵は誰かと誰かが一緒に出掛けて、意見を言い合って買い物内容が決定する。料理人は主に楓恋なので、大抵の買い出しも彼女は同伴する。

 従って、メニュー決めも長女の役割だったりする。


 普段の日曜なら、バイトまでもう少しゆったりしていられるんだけど。今日はバイト前に、琴音とゲームにインする約束になっているので。

 杏月の勉強を見てあげていると、あっという間に時間が無くなってしまった。とは言え、琴音のご機嫌取りも大事だと妹たちも充分承知している事実。

 出掛ける前に、楓恋の作ったサンドイッチを口にして。


 喫茶店のバイトがお昼12時からなので、いつも簡単な食事をしてから出掛けるのだが。今日も楓恋の思い遣りが心に響く、有り難く受け取って口に運んで。

 これで2時過ぎの休憩の賄いまで、お腹は持ってくれる筈だ。バーチャ世界での冒険も、なかなかにカロリー消費は激しいのだが。

 朝食から間もないので、そんなにお腹も空いてないので。


 取り敢えずは楓恋にお礼を言って、慌ただしく玄関を出る。ばっちりバイトお出掛け仕様の服装だが、今から出掛けるのは近所の琴音の家である。

 琴音の家だが、実はウチから歩いて2分のマンションである。割と小洒落た造りの高級マンションで、この周辺にはこんな感じのマンションは多い。

 ちなみに我が家は、普通のアパートである。


 家賃が少々お高いが、一家族が住むには普通の広さで、近隣の学校施設への通学に不便は無い。広い公園や病院なども区内にあるので、住むには良い立地ではある。

 家賃に関しては正直きついけど、妹たちの希望もあるので頑張ろうと心に決めている。幸いバイトも長く続けて行けそうだし、家計の足しに充分になっているし。

 だから特に、今回のゲームで一攫千金など夢に見てなどいないんだけど。


 琴音は割と本気らしく、気合の入れようは並ではない気がして仕方が無い。今もマンションの前まで出迎えに来てくれていて、挨拶もそこそこに強制連行気味なのは如何なモノか。

 いや、俺も今では楽しみにしてるしそこまでしなくても。



 とにかく家族で一緒にが、日曜の俺と妹たちのスタンダードな過ごし方だったんだけど。いつかこの『ミクブラ』も、一緒に出来れば良いなと思う。

 杏月はともかく、楓恋は器用だし上手く対応出来るような気もする。『ミクブラ』は魔法職も気楽に選べるので、最初のソロエリアを何とか乗り切れば杏月でも行けるかも?

 もちろん、楽しむだけなら杏月が一等賞な気もするが。


 末妹のそう言うお気楽さには、ある意味俺たちは何度か救われている。人生は、肩ひじ張らずに流されるのも時には大事だったりするのだ。

 それを体現しているのが、末妹の杏月である。俺と楓恋は、彼女を守るつもりでその重荷をひょいっと外して貰っている感じがしてならない。

 その気楽さに甘えて、俺も好き勝手に趣味に興じている感じ。


 いや、別にバーチャゲームは趣味って訳じゃ無いんだけど……琴音の機嫌がこのところずっと良いので、その恩恵は皆が感じているとは思う。

 だから俺のこの束縛時間は、決して無駄ではないと信じたい……バイト終わりに、妹たちとも外での夕食会で会えるからね。





 ――そんな感じで、今日もゲームにログインする俺であった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ