罠だらけの遺跡ダンジョン
狩り場認定された広場に顔を出すのは、やっぱり怖かったのは事実である。3つ目の半壊馬車を探索する気力も当然湧かず、まだ半分は時間はあるけど帰路に着く事に。
本当なら、洞窟の探索にもっと時間が掛かっている筈だったんだけど。そんなに広くも無かったために、予定より大幅に時間を残してしまう破目に。
取り敢えずここは離れて、森の中でやる事を探そうかな?
それとも安全地帯に戻って、早速クラフトに掛かるのも悪くないかも。材料は充分に集まったし、下ごしらえだけでもやっておきたい気もある。
そんな事を考えながら、夜の闇が覆う断崖を眺めて不審な点が無いかチェックして。用心しつつ、洞窟を出て歩き出す。落石が一段と多い地点を迂回して、森の中へと。
さっさと入ろうとしたら、ファーが騒ぎ出した。
これこれ、心臓に悪いからいきなり顔に飛びつくのは止めなさい! えっ、上に何かあるって……逃げ出す準備は万全だ、何しろあらかじめ備えていたから。
なぬっ、敵じゃないって? なら何だ、崖崩れの起きた場所に穴が開いてるって? ふむふむ、それは……もしかして、未発見の洞窟って事なのかっ!?
それは凄いぞ、ちょっとだけあの巨大キメラに感謝だな!
とは言え、あの時の恐怖心はまだ完全に払拭されてなどいない。少しでも自信を取り戻すために、それから気分転換に新しいスキルを覚えるかな?
魔法は今夜もう2つ覚えたので却下、物足りなさを覚えていた短槍の武器スキルを覚えよう。新しい盾を発見出来たので、別に盾スキルでも良いんだけど。
強くなるには攻撃から、そんな単純な発想である。
――おめでとうございます、短槍スキル《捻り突き》を覚えました!
うん、新しく覚えたっぽい……ランダム取得も悪くないな、新しいスキルを覚える時のドキドキ感が癖になりそう。運が良ければ、たまにレアスキルも覚えるらしいけど。
今回覚えた《捻り突き》は、完全に初級の技らしい。その名の通りに捻って突く感じ、攻撃力が1.3倍程度らしい。SP6消費の、まぁ安い技には違いないけど。
新しい戦力だ、今後存分に活躍して貰おう。
苦労して崖を登る途中の、まぁ生きた心地の無さと言ったら! 海辺の洞窟でロープを降りた時とは違う、何しろここは推定大物レア級モンスターの狩り場なのだから。
そんな訳で、ファーの示す洞窟の入り口に滑り込んだ時には、心底ホッと胸を撫で下ろし。そしてその人工的な造りの壁や天井に、多少ド肝を抜かれた次第。
ここはひょっとして、遺跡型のダンジョンと言う奴なのかな?
試しに用心して進んでみるが、残念ながら例の『未踏破ボーナス』のアナウンスは無かった様子。残念、ちょっと期待してたんだけどな。
と言う事は、既に誰か見付けた人がいるって事か。……あの巨大キメラに腰を抜かした人がいるって事実は、想像でもちょっと笑える気もする。
同志だよね、ある意味あの地獄を生き残った事は賞賛に値する。
それはともかく、この仄かに温かくて薄明るい人工遺跡。誰が何のために造ったかは、全く以て定かではないけど。何かがありそうな雰囲気、異様な気配がビンビンである。
下の洞窟で肩透かしを喰らった分、こっちは果たして期待出来るのか?
敵は早速、チラホラと姿を現せて来た。自然洞窟じゃないので、そんなに配置されて無いかなとか期待したんだけど。ただしさっきまでの敵とは、全く違う種類ばかりで。
まずは洞窟内では定番の敵、スケルトンとスライムに遭遇。スライムは雑魚だけど、不意打ち的に廊下の天井近くに空いた穴からヌルッと飛び出して襲って来る。
それさえ気を付ければ、まぁ何て事の無い相手だ。
スケルトンは2種類いて、片手武器を持ってる奴と弓矢持ちが存在していた。海辺の洞窟でも体感したけど、やっぱり遠距離攻撃はかなり厄介で。
自分でも覚えたいなぁとか思いつつも、距離を一気に縮めて対応するしか現状手立ては無い訳で。ただしコイツ等は、不意打ちとかじゃ無くて普通に廊下に配置されている。
そしてドロップ品も、そこそこ良いモノを落としてくれる。
雑魚では大ネズミも登場したが、どう考えてもコイツ等は勝手に棲みついたパターンな気が。そして雑魚トップ2の大ネズミとスライムは、ドロップが無いに等しい程に貧弱で。
その点、スケルトンは錆びた武器や魔石(微少)や、極たまに銀のメダルや錆びて無い武器や防具を落としてくれる。その中で当たりかなと思えるのが、ナイフ類だったり。
投擲に使えそうなので、数を集めたいかなぁと画策してみたり。
――骨の鋭利なナイフ 耐久3、攻+4(投擲可)
耐久力の低さとかはこの際どうでも良い。弓矢が使えないなら、臨時に遠距離武器の代わりが欲しいだけなので。3~4本欲しいんだけど、もっと落とさないかな。
この遺跡は結構広いから、敵の数も多いんだよね。
実際、こんな広いダンジョンは『ミクブラ』を始めてから初のような? だって通路の分岐まであるし、マップ見ながら探索とかいかにもゲームって感じがする。
そしてその節目の分岐点に配置されているのが、小型のゴーレムだった。下で倒した奴より小柄で、その分動きがやや速い気がする。
もっとも、タフさ加減で言えば宝箱を守ってた奴の方が数段上だけど。
その宝箱はショボかったけど、コイツはただの通せん坊役と言うね。落とすアイテムも土の水晶の欠片位のモノ。取り敢えずは、硬い敵を倒すための練習台だな、うん。
付与魔法を武器に掛けて、弱点的な部位は無いかと色々と殴っては感触を確かめて。結局この試みは失敗で、特に弱点らしき場所は発見出来なかったんだけどね。
顔とか殴っても、平気の平左っぽい魔法生物。
通路も壁もちゃんと加工された物で、場所によっては紋様とかも入っていた。用途不明のスリットや通風孔のような穴も一定間隔で伺えて。
そこからスライムが出て来たり、下の穴は大ネズミが通路に使っていたりと、最初はそれを織り込み済みで対応していたんだけど。
奥に進むにつれて、そこから罠の仕掛けが発動する事が判明して。
まずは単純な、槍や炎の飛び出しトラップ……俺は喰らってもダメージだけで済むけど、ファーは本当に危ないな。呑気に飛んでいるけど、スロット前だけは避けてくれよ?
実際に喰らってみて、ダメージ平均は10~20程度かな……今の自分だと、HPの2割以下なのでまぁ許容範囲内だな。それでも罠を避ける努力は、勿論するけど。
そしてこの手のトラップ、通路の突き当たりに設置されて厭らしい造り。
分かれ道もそれなりにあって、事件は2つ目の分岐の先の探索中に起こった。小部屋があって、そこで定番の小型ゴーレムが宝箱を守っている定番配置を発見して。
意気揚々とそいつを倒し、いざ宝箱をチェックしようとした瞬間。思い切り宝箱の上に乗って、興味津々のファーが何かを作動させてしまったらしく。
噴射される霧状のナニかと、それを浴びて寝てしまうお気楽妖精。
うわっ……やっぱりこのゲーム、宝箱トラップもあるんだな。しかし睡眠トラップって、時間制限のあるイベント中では最悪の部類じゃないのか?
自分が引っ掛かっていたらと思うとゾッとする、まだダメージ系の罠の方がましである。一方、身体の小さいファーがダメージ系の罠に掛かったらと思うと、そちらも凄く心配。
叩き起こした妖精に、その点は口を酸っぱくして注意して窘める。
ファーは一応、敬礼で承知のサインを返して来るけど、どこまで分かってんだか、とにかく俺より前に出ない様にと、壁や天井のスリットの近くは危ないから近付かない様に。
何て言ってたら、戻り際に今度は炎の噴射系のトラップに思い切り引っ掛かってしまった……。えっ、来る時は何も反応しなかったのに、何故?
どうやら、そう言う安心させてのパターンもあるらしい。
今度は俺が叱られる番、ファーは腰に手を当てて気を付けなサイとお叱りモード。ここは素直に反省しよう、ってか女性に逆らって良い事など何もない。
実生活で学んでいるからね、そこは人生を潤滑に過ごすコツでもある。そんな事より、この洞窟に入る前に覚えた《捻り突き》だけど。
うん、可もなく不可も無く……普通のダメージ技である。
SP消費が低いから、使いやすいかなとも思ったけど。ダメージもそんなに高くないので、必殺技と呼ぶにも躊躇われると言う。トドメの一撃にも不十分、ちょっと切ない。
スキルPはまだ結構あるので、その内に新しい技を覚えるとして。スロットが溢れそうになったら、外すスキル技の一番候補ではある。
その程度の技なので、あしからず。
何気に殺意が高い遺跡内を、分岐に苦労しつつ奥へと進んで行って。宝箱の回収は合計3つ、初心魔術師の服や帽子や杖、マナパウダーや炎の術書など魔法使い系の品ばかり。
魔術師を目指す人用のボーナスステージなのか、元が魔術師の住んでいた遺跡なのか。判然としないが、どうやら上階の探索は一通り終わった様子。
目の前には、下階へと向かうスロープが。
何故階段で無いのか気になる所、これもひょっとして罠への布石なのか……などと考えていたら、案の定スロープの中間地点で何かの作動する音が。
そして転がり落ちて来る、直径1メートル程度の石の球が3つ!
飛び越えるべきか下まで走るべきか、慌てながらも判断を迫られる俺。ファーも慌てている様子、俺にしがみついて宙に浮かせようとしてるのか?
無理だってば、完全に重量オーバーですよ?w
結局ファーのご厚意に乗っかって、宙へと批難を選択して。2個は何とか回避出来たけど、最後の石の球には直撃ダメージを受けてしまった。
小さくないダメージをポーションで回復、もう既に2時間半が経過している。ヒーリング時間を節約しつつ、罠に注意しながら下層の探索に励む。
そして出遭う、妙な形の守護者の群れ。
いや、警備ロボと言い表すべきか。まるでお掃除ロボみたいに、通路をすいーっと這って進んで来る。壁の下のスリットから、新手も湧き出ている模様。
殴ってみると、なかなかに硬そうだ。しかもコイツ等、攻撃方法が割と豊富で扱いに手間取ってしまう。いや、種類別に一定の攻撃しかして来ないんだけど。
それが3種類いて、チームを組んで襲って来るのだ。
前衛は近接攻撃で、低い位置からカッターのような剣を生やして回転攻撃を仕掛けて来る。これをぴょんと飛んで避けるのだが、これがなかなか大変だ。
何故かファーも、隣でぴょんと避ける仕草を真似してるし。君は宙にいるんだから関係ないだろ、むしろ飛んで来る魔法と飛礫に注意してw
そう、もう2種類は投擲と魔法がセットされているみたいで。
避けた途端に、飛礫と魔法が飛んで来る極悪仕様。こちらは棍棒に持ち替えて、とにかく近接しての《ブン回し》を多用しての範囲攻撃で対抗して。
通路がそんなに広くないので、部隊数が多くても囲まれないのが幸いだ。それにしても硬いな、1機倒すのも大変だ。ル○バ強いな、上の層の敵とは大違い。
位置も超低いから、攻撃を当てるのも一苦労。
何とか半分倒した時点で、こちらのHPも半分を割ってしまった。苛々も次第に溜まって来て、ええぃ水晶玉を使ってしまえ的な流れで範囲攻撃を敢行。
これが超撃ダメージを叩き出した、電気製品っぽいので、コイツ等は恐らく雷属性だったのだろう。使用したのは、さっき拾った土の水晶玉……つまりは、弱点属性?
うひょおっ、これはテンション上がるな!
例えるなら、吸い込み口に土の塊が詰まった時みたいな動作不良なのかな。とにかく弱点を知れたのは大きい、これ幸いと調子に乗って、もう1個を追加で投下してやる。
じりじり削られるよりは、短期で決着をつける方が得に決まってる。残った6機の護衛ロボも、この追い込みに既にヨレヨレ状態。それを上から叩いて行って、破壊王ここに降臨。
そんな感じで、難敵の群れをようやく撃破。
やれやれ、硬い敵に囲まれるとなかなかに辛いモノがあったなぁ。低い位置からの攻撃も、慣れてないので大変だけど。おっとまた分岐だ、下層もアリの巣状態なのか。
またマップを確認しながら、探索をしなきゃだな。ところで呼び出さずに示されるこの簡易マップ、明らかに昨日と違う……ってか、昨日までは無かったですよ、こんなの。
ひょっとして『探索のコンパス』の影響かな、この光点は宝箱の表示?
だとしても、一応遺跡の中は一通り廻っておきたいかな? その情報だけを盲信して、大事なアイテムとか情報を取りこぼすのは戴けない。
時間が本格的にヤバくなったら、目的地に一直線でいいかなって思う……そもそもここでの目的も、探索って事でハッキリしないんだけどね。
また分岐だ、マップも割と埋まって来たな。
この調子で、出遭った敵も全て倒して進むべし。罠も全部暴いてやるぜ、そんな感じで探索を続行、新たなトラップを2度味わったり、護衛ロボのチームを3つ倒したり。
インしてそろそろ3時間、残り時間が気になり始めた頃に。
ようやく最後の突き当たりの部屋へと到着、そこを護ってる大型ゴーレムをサクッと倒し終えて。コイツは下の洞窟の奴と性能は同じ、やたら大きくて鈍いと言う。
ゴーレムが護っていたのは、2つの宝箱だった。1つは普通のタイプ、海岸の洞窟でも見慣れた奴だ。もう1つは、やたら薄汚れていて箱のサイズが一回り大きい。
何だろうね、この違いに意味はあるのかな?
取り敢えず開けてみようと近付いたら、ファーがいきなり警告を発した。ビターンと俺の顔に貼り付いて、彼女が異変を察知した事を知らせて来る。
それが何なのかは、割とすぐに判明した……ってか、目の前の古びた宝箱が勝手にパカーンと開いて、中から甲殻で覆われた節足動物の脚が何本も飛び出して。
その鋭い突きを、危うくまともに浴びそうに。
――ビックリ箱だ、その中身を俺は存分に味わう破目に。




