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ミックスブラッドオンライン  作者: 鳥井 雫
22/73

夜の冒険初デビュー




 バイト終わりに琴音の部屋に直行して、そのままインすると言う自堕落な生活……。もとい、琴音が喫茶店にまで迎えに来ての、何と言うか部屋まで連行されてのログインである。

 夕食は妹たちも一緒に、喫茶店で済ませている。こちらとしては、妹達がちゃんと夕食を食べたのも確認出来て一安心だ。過保護な気がしないでも無いが、気を揉むよりずっと良い。

 それと言うのも、我が家の通信事情が全ての元凶で。


 つまりは携帯スマホを持ってるのが、長男で家長である俺だけなのだ。妹達にも持たせたいのだが、節約のために我慢させている次第。

 そもそもウチの地元の中学は、携帯持ち込み禁止なのだ。日中の大半所持出来ないのに、通信費を払うのはとても業腹なので。家族割りとかを天秤に掛けて、やっぱり高校からに。

 そんな感じ、家には固定電話もあるしね。


 一応パソコンも家族用に一台あるので、メールを家に送る事も可能だ。そこら辺はマメに連絡を入れていて、楓恋も杏月も定期的にチェックをしてくれている。

 やっぱり心配だからね、お互いの動向とかも常に気に掛けてるし。ただしそんな兄妹のコミュニケーション過多も、琴音の焼き餅精神に火をくべる要素になるので注意が必要。

 困ったモノだ、いやもう慣れっこだけどね。


 取り敢えずは携帯からメールで、あと1時間したら戻る旨を伝えておいて。明日は日曜なので、妹たちは家でゆったりしてくれていれば良い。

 あまり時間を掛けると、琴音に叱られてしまう。それでもイン前に、やり残した準備が無いかを確認したい。何しろこれから1時間は、意識を異世界に飛ばす訳だから。

 バーチャゲームの筐体って、考えたらちょっと怖いな。


 それでもゆっくりと、ゲーム世界でリフレッシュの時間は嬉しいご褒美だ。今では割と贅沢に感じる時間、提供してくれる琴音には感謝である。

 そんな幼馴染と、イン前の最終確認。


「こっちは今日中にクリアしようと思えば出来るけど、そっちはどんな? 恭ちゃんの方が手間取りそうなら、こっちも待つけど……?」

「こっちはバリバリ日数の掛かりそうなクエ受けちゃったから、今日と……少なくとも明日までは掛かりそうかな? 分かんないけど、クエの進展次第だなぁ……」

「分かった、ちょくちょくメール入れるから、経過を知らせてね?」


 凄く満ち足りた表情の琴音にそう言われれば、こちらは否とは言えない。それじゃあ頑張ろうねと、お互いに確認し合って筐体を被ってログイン作業。

 ――そして異世界に降り立つ、俺のアバター。




 とまぁ色々あったけど、無事にログイン……うおっ、何だか暗いなと思ったら今は夜なのか! そりゃまあ架空世界とは言え、もちろん昼があれば夜も訪れる訳だし。

 ただ今までは、インしていた時間が規則的で、それが偶然ずっと陽のある時間帯だったと言うだけの話で。こんな事態ももちろんある、さてどうしようかとちょっと悩みつつ。

 飛んで来たファーに、取り敢えずこんばんはのご挨拶。


 すかさず琴音からメールが飛んで来て、今は夜だから時間を置いてインし直すかとのお伺い。俺は少し考えて、このまま冒険を進めると返信する。

 何故なら俺の鞄の中には魔法の眼帯があるし、何よりファーと挨拶を交わしちゃったしね。仕切り直すまでも無い、このまま続行してイン状態を維持である。

 別に意地になってる訳ではない、勝算あってのこの返答だ。


 琴音からはしばらく後、こちらは通常サーバに接続してそっちで遊んでいるとの返事が返って来た。だから何かあったら、メールで気軽に質問してくれとの事で。

 なるほど、琴音は元サーバに成長したアバターを持っているんだっけ。彼女は安全策で、朝になったら限定サーバに改めて入り直すらしい。

 それも正解だと思う、慎重になるのも一つの手だ。


 こっちは既に、冒険へのテンションが上がりまくりである。それでも安全地帯を出る前に、こなす手順はちゃんと踏まなきゃね。まずはいつも通り、クエ依頼書のチェックなど。

 おっと、依頼を達成したクエも幾つか持ってたんだっけ……新しいクエも、チラホラと窺えるけれど。修繕とポーションの交換券も、ちゃんと貼り出されていて一安心。

 ポーションに限って言えば、昨日の冒険でかなりストックが増えたんだけどね。


 それでも貰えるモノはしっかり貰っ……そうだ、ログインボーナスも受け取っておかないと。いやいや、鞄がいっぱいで昨日から実体化させれていないんだっけ。

 何か初っ端からバタバタしてるな、まずは落ち着いてクエの整理からしようか。まずは終わったクエの報告を、動物の着ぐるみに渡して報酬を貰ってと。

 その結果、また鞄が圧迫されると言うね。


 それでも一番嬉しいのが、狼の革の交換装備である。これで壊れた穴あき靴から抜け出せる、ファーに笑われずに済むってのが何より有り難いよ。

 それから猪肉の串焼きと、魚の切り身との交換で貰えたフィッシュチップス。今日の分の補給食は、これで万全だろう。妖精は、肉も魚も嫌いだしね。

 彼女には、今日のログインボーナスにあったチョコをあげてみようかな?


 そう、今日のログインボーナスは『経験の飴玉』と『一口チョコ』が数個ずつと言う。飴玉はどうやら特殊効果が付いてるらしく、1個で30分間の経験値取得率up効果らしい。

 チョコについては……何も記載されて無いから、恐らくはただの保存食なのだろう。妖精がチョコを食べるかは知らない、実体化させてしまったら食べるしかないってだけだ。

 幸い、果実系のストックもたくさんあるからね。


 蝙蝠の討伐報酬は、何とランタンと光の水晶玉×3個と言う夜間活動用のセットだった。どうやら光の水晶玉は、ランタンにセットすれば光源として使用可能らしく。

 もちろん投げ付けて衝撃を与えれば、爆発してダメージ源としても使える。俺に関して言えば、闇の眼帯を装備しているのでランタンは全く必要ない。

 光の水晶玉だけ、有り難く使わせて貰う事に。


 他に受けていたクエだけど、クリア出来ていたのは実はこれだけだった。東と北のマップ完成クエは、全く完成には至らず未だ道半ばと言った感じ。

 このエリアはソロ仕様の筈なのに、やたらとマップが広いのが難点だ。そもそもこのクエって、クリアさせる気があるのか甚だ疑問である。

 そして新しいクエに、西のマップを完成させよってのが……。


 今から向かう訳だし、多少気にしながら進んでみようかな。東と北の地図だけど、マップを開いて確認すると5割も埋まっていない感じである。

 クリアで何が貰えるかが気になるが、まぁこのクエは探索のオマケ程度に考えて。ついでにNPC3人との会話クエも、まだ未クリア扱いとなっている。

 当然だ、このエリアで会話したのは、例の商人と精霊ラマウカーン位のモノ。


 あの鴉モドキの精霊を、果たして商人と同列に扱って良いのかが大いに疑問だけど。とにかく未クリなのだから、別のNPCを探さないといけない訳で。

 果たしてこの広い森の中、近日中に出会えるのかは一切不明。


 それはともかくとして、新しく貼り出されたクエスト依頼書が数点。既に薬品類は交換チケットと交換して貰ったし、武器と装備の補修もバッチリ終了済みだ。

 クエスト内容も、前に受けたのと大差ない内容のモノばかり。例えば西の地図を完成させろとか、蜂蜜を3個取って来いとか鳥の羽根を4枚集めろとか。

 大トカゲを4匹討伐とか、山羊の毛皮を2枚取って来いとか。


 うん、西の森関係のクエが多いな……その中でちょっと違うのが家具を自作してくれと言うクラフト系の依頼。精霊に続き、こっちでも遂に出たかってな感じである。

 ちなみに蜂蜜を3つ持って来てと言う依頼は、速攻受けてすぐにクリアしてしまった。包みの中に戦闘蜂のドロップで幾つかあったので、ヒツジの着ぐるみに渡してあげると。

 クリア報酬に、交換チケット2枚とパンを貰えた。


 おおっと、これも繰り返し受けれるタイプかぁ。同じく鳥の羽根も、繰り返しが可能みたいである。ちなみにこれは、矢束×10本との交換らしいので弓矢持ちなら本来嬉しい筈。

 こっちは鞄の圧迫に、眉根がキュッと下がってしまったけど。ちなみに前回の実験で安全地帯の端っこに放置していた剥き出しのアイテム群だけど、8割方無事だった。

 つまりは2割程度、行方不明品が出た事になるんだけどねw


 どの着ぐるみ野郎がガメやがったのかとか、推測を巡らせても全くの不毛なので。預け賃だと割り切って、今後もこの手法を取らせて貰う事に。

 いやいや、ファーを疑ったりはしてないよ? そもそも彼女は重たい武器など持ち去れやしない、果実の摘み食いならともかく……むっ、その可能性はあるなw

 でもまぁ、果実の半分以上は彼女の採集のお手柄だしねぇ。


 そんな訳で、物品喪失の猜疑は今後も問わない方針で。持ち切れない小物は木編みの鳥籠(かつてはファーが入ってたw)に放り込んで、安全地帯の端っこへ。

 その周りに、貰ったばかりのカンテラや使えない装備品などをオブジェの様に置いておく。琴音に訊いてアイテム的価値の高いモノは、無くなったら困るので鞄の中だ。

 その次に大事な物は、マントの風呂敷行きにしている。


 報酬で貰った食料も、同じく風呂敷の中に一時収納である。矢束は勿体無いけど、鳥籠オブジェの仲間入りw 繰り返し貰えるけど、今後は交換しない方が良いかな。

 交換チケット2枚だけど、これは割と秀逸だった。何とこちらで選べるらしく、つまりは不足と感じた物と交換が可能と言う事だ。

 つまりは回復薬が足りなければポーション券、修繕が必要なら修繕券と。


 こちらは今の所、どちらも足りているので……ある意味ギャンブルの、ランダム交換を選択してみようかな。この前ファーが樹上で見付けたのと同じ奴だ、1個でも当たりが出れば儲けモノ。

 交換は毎度お馴染みの、サルの着ぐるみが大きな袋を取り出して来て。いかにも抽選はランダムですよ感を満載の、袋の中身を手探りで取り出すと言う方式。

 その結果、ポーション(大)とクールな下着と言う変わりアイテムをゲット。


 ――クールな下着 耐久5、防+1、耐寒+20%up


 んむっ、俺って今まで下着すら穿いていなかったの?w いや、多分粗末な下着みたいなのを付けていたと信じたい。恐らく、記載する価値も無い類いの装備だったのだろう。

 とにかく着替え……このゲーム、着替えはステータス画面を呼び出してワンクリックで出来るのが良いね。そうで無かったら、木陰で全裸になって着替える破目になってたよ。

 それはともかく、お洒落は見えない所からってね?


 クエ関係の始末に少し時間を取られたけど、何とか全て無事に終了。クラフト系のクエだけど、道具も材料もほとんど無いので。今日の素材取りの成果に期待、そんな感じである。

 そうそう、素材が何とか集まっている、手甲と甲虫の甲殻の組み合わせだけど。実は精霊ラマウカーンから、前報酬にと松脂(まつやに)を1瓶貰っていたので。

 それを使わせて貰って、出来るかチャレンジしてみようかな。


 祠作りに使うように貰った素材を他に流用は、非常に心苦しいんだけど。こちらも戦闘力の向上と言う重い使命が掛かっているのだ。下手に手抜きは、このソロ区間を生き延びれない。

 そんな言い訳を用意しての、レッツなんちゃって合成開始である。と言っても、継ぎ接ぎの手甲の表面に松脂で甲虫の甲殻をくっ付けるだけなんだけど。

 くっ付きやすいように、なるべく甲殻をナイフで平らに削って、と。


 ――甲殻の手甲 耐久4、防+4


 完成まではほんの5分程度、それでも結果は良い出来と言わざるを得ず。何しろ合成で耐久値が上がったのって、初めてでは無かろうかっ!?

 防御値も倍化してるし、これなら今使っている盾と交換しても遜色無い。ただし接着剤が乾くまでは、養生して置いておくべきかも。

 そんな訳で、今夜一晩オブジェの仲間入りへ。




 ようやくすべての支度が整って、いざ夜の闇の支配する『始まりの森』へ。このゲーム始めて以来の夜中の行動なのだ、最初は慎重に進めなければ。

 闇の眼帯の《Dビジョン》は、当然ながら凄い性能だった。MP8使用で、それで30分は持つなかなかのコストパフォーマンス振り。

 これで昼と同じ視界を保てるなら、安いモノである。


 実際は、光の加減が昼とは違うので最初少し戸惑ったりもしたものの。逆に自分で光っている妖精が、眩しくて見え難い事態に。まぁいいや、自然と慣れて来るだろう。

 モンスターの配置だけど、これがまた昼間と全く違うのはすぐに判明した。何しろウサギも芋虫も、周囲に全くいない有り様で。

 代わりに、ゾンビとスケルトンが徘徊していらっしゃる。


 うわ~っ、ここまであからさまに違うとは意表を突かれてしまった。まぁいいや、コイツ等のドロップは意外と美味しいから。ってか、洞窟の奴とは見え方が違うなぁ。

 どうやらオーラ的なモノを、魔法の視界は感知しているみたい。だから遠くの奴も感知しやすいけど、纏まって行動していると個数まで把握し辛くなってしまっている。

 まぁそこは、些細な問題と割り切ろう。


 当然だけど、夜間の戦闘の手応えチェックもこの場で済ませてしまう。最初は近くにいたスケルトンを、木の棍棒で片付けて行く事に。

 洞窟にいた奴に比べて、微妙に強い気がするのは思い過ごしだろうか? レベルがこっちの方が高いのか、それとも今の時間帯が関係しているせいか。

 どちらもありそう、これは少しだけ厄介な問題だ。


 続いてのゾンビを相手取って、疑念は確信に変わった。やっぱり洞窟の奴らよりは強いし、体力も高くなっている。そして最悪な事に、闇魔法の効きがあまり良くない。

 相手も闇属性だから、ある程度耐性を持っているのだろう。これは迂闊だったな、夜でも視界が確保出来るから冒険も可能って、単純に考えていたけど。

 他にも色々と、相性があるのを念頭に入れてなかった。


 むうっ、今からでも遅くは無いかな……例えば、潤沢にあるスキルPで光魔法を取得するとか。確か琴音の情報では、光と闇は相関関係にあるって話だったような。

 それぞれ特攻効果があるので、闇の住人は光魔法にすこぶる弱いらしいのだ。4P支払って、何か取る手は悪くは無い考えだ……一発で、念願の攻撃魔法が出てくれればだけど。

 全然関係ない便利魔法も、もちろん出て来る可能性はある訳で。


 う~ん、悩むなぁ……ちなみに他の6種類の相関関係は、土>雷>水>炎>氷>土となっているらしい。風は中立で、どれにも干渉しない自由な性質を備えているそう。

 ちょっと面白いな、覚え方も琴音に教わったんだけど。土はアースで電気を逃がけど、霜柱で内から引き千切られる。雷は土には適わないけど、水との相性は抜群に良い。

 水は通電されっ放しだけど、炎を消す事が出来る。炎は水を掛けられれば鎮火するけど、氷を溶かす事が出来る……こんな感じで、強弱の関係が巡る訳だ。

 その中心で、ただ風は自由に吹いている、と。


 そんな属性のありようを踏まえて、さて魔法の選択なんだけど。たくさん覚え過ぎても、扱い切れないのは目に見えている。例えば全属性揃えるとか、自分が何の魔法を何種類持ってるのか把握し切れない姿が目に浮かぶよ。

 そもそもスキルPもそんなに無いしね、魔法スキルも低いより、高い方がもちろん威力も強くなるらしいので。全部を低スキルで揃えるより、1つに注ぎ込んだ方がお得ではある。

 かと言って、敵の弱点属性をある程度揃えるのも必要と言う。





――ダメだ、考え込んでも切りが無い……取り敢えず、今は保留しておこう。







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