最強と煽て上げられる少女 ─1─
その少女の周りの人達は、皆が口を揃えてこう言うのだった。
──あの子は、強いと。
だから、その少女も自分のことは強いと過信していた、いや、別に過信というわけでもないほどに力を持っていたのだから過信というよりも自分の力に自惚れていたと言った方が正確かもしれない。
だから、その少女は、努力というものを生まれてから一度もやったことがなかった。周りの人達が、毎朝早くから起きて、剣術の鍛練を行っているところを見ると少女は決まってこう思うのだった。
──なんで、あんなに頑張るだろう。
と。少女は、努力をしたことがなかったからこそ、頑張るということをしたことがなった。
だから、そんなふうに思っていたのだ。
そして、ある日その少女は両親からある提案をされるのだった。
──日本にある 、魔法学校に行ってはみないか?
と。少女は、なんの躊躇いもなく行きますと答えた。
そして、少女は、日本へと旅立つのだった。
そして、現在。その少女、クリスティーナは、自室で荒れていた。
「………なんで、私が負けた?そんなことは、絶対にないはずなのに、私は最強で、私よりも強い奴なんかいるはずがないのに」
クリスティーナは、別にリチャードに負けたわけでなかった。結果としては、引き分けで、それを負けたというのは、クリスティーナが負けず嫌いということを顕著に表していた。
そんな時だった、彼女の部屋のドアがコンコンと叩かれたのは。
「………誰?」
クリスティーナの声は、聞いただけで不機嫌だろうと分かるほどだった。
「ああ、私だよ。リリーフ・エリーナと言ったら分かるかな?」
「………分からないわ」
「あら、そう。それは、残念だな。私は、一応生徒会長をやっているのだけどな」
「そう。…………それで、そんな生徒会長さんが私になにか用でもあるの?私今忙しいのよね」
「そう。それは、リチャードに負けたからかな?」
「………っく、その名前を出さないでくれる?とても嫌な気分になるから」
「ほぉー、そうか。まあ、そうだよな。なんせ、君は、どうせこんなふうに思っていたのだろうからな。──私は、誰にも負けるわけがない。とね」
「………………」
クリスティーナは、なにも言わなかった。でも、なにも言わなかったことが、暗にエリーナが言っていることが図星であったと言っているようなものだった。
「………で、だ。そこで、君に提案があるんだよ。それも、とても面白い提案がね。だから、部屋に入れてはくれないかな?」
(………面白い提案。そんなの嘘。唯私のことを馬鹿にしたいだけでしょ!!)
クリスティーナは、エリーナの言ったことを全く信じることをせず、自分のことを唯馬鹿にしてくるだけだとそう思って、無言を貫くのだった。
(はぁー、これだからこのお嬢さんは………)
エリーナは、心の中でため息をつくのだった。
エリーナは、学園長から聞いていたのだ。
クリスティーナ・リーエルという少女について。彼女の周りには、自分よりも強い存在というものがいなかったから、自分は最強なのだと思っていると。
(………でも、たぶん、私も彼女と同じような位置になっていたとしたら、彼女のように、自分こそが最強なのだと思うのかもしれないな)
「………別に私は、君のことを馬鹿にしたいと思っているわけではないのだよ。むしろ、私としては、君のことを褒めたいと思っているくらいだからね。だから、部屋に入れてくれないかな?」
その言葉は、とても本心から言っているようには、聞こえないものであったが、クリスティーナは、その言葉を聞いて、素直にドアを開けるのだった。
その時、エリーナは、思うのだった。
──チョロイ
と。