補給と少女
用語解説
・8mm×50R弾
M1886が使用する弾薬
・Short Magazine Lee-Enfield
SMLEと呼ばれたりするイギリスのライフル
.303 British(7.7mm x 56R)を使用する
・M1903
スプリングフィールドと呼ばれるライフル
.30-06 スプリングフィールド(7.62x63mm)を使用する
・ピダーセン・デバイス
M1903を簡易改造して.30-18弾(7.65×20mmロングという拳銃に使われていた弾丸)を連射できるようになる装置で弾数も40発に増加できる
実際に存在していたものではあるが実戦で使われたことがない
解説
M1903とリー・エンフィールドの違いは本文内では使用する弾丸の違いです。
ムガル帝国 Suratgarh
「…。」
「さて、これでわたしの話は終わりだ。君に会えて良かった。…君には、酷だと思うがやってほしいことがある。」
まだ、何かあるのかと昇は思ったが、落ち着いて来たので彼の言葉を聞いたが、またしても驚くべきことだった。
「次の大規模戦闘で消失の魔女Saraを討つ。」
「消失の魔女をですか…。」
「ああ、彼女を倒してほしい。」
「…。」
ただでさえ、押され気味なのに彼女に直接会い攻撃するのは難しいと思った。
防衛線の厚かったデリーすら攻撃され、ガンガナガル付近まで空戦猟兵が行動をしている、そんな中、敵の大将格に相当する相手を討てというのだ。
「無茶だと思うかもしれないが、方法が一つある。」
「魔女に勝てる方法があるんですか?」
「ああ、そうだ…。」
ソフィアの話によると、サラの能力は消失か瞬間移動のどちらかだった。
そのため、とても勝ち目がないように昇は思った。
ガンディーは、方法があると言ったがあまり自身がなさそうだった。
なにより、深刻そうな顔だったからだ。
「サラは、大規模な部隊を展開させた後しばらく魔法を使うことができない。それは、今のこの状況でも分かるように彼らは補給線を繋げいてなおかつ、攻勢には出てないからだ。そして、もうしばらくしたら進撃すると考えられる。次の攻撃を凌いだとしてもその後はじわじわと追い詰められるだろう。そこで、一つだけサラを倒せる方法がある。」
「どうするんですか?」
「敵はKasba Thanaの町に集結している。おそらく、そこにサラが居ると考えられる。さっきも言ったようにサラは連続して魔法を使うことができないとされる。つまり、次の大規模攻勢の直後手薄になったカスバ・タナの町を攻撃することでサラを倒すことができる。」
「しかし、それだと他の部隊は送られてくる敵部隊と交戦することになります。サラを倒したところで攻められては元も子もないと思いますが…。」
「確かにデリーは陥落したが防衛線はある程度持つだろう。今、敵がデリーに突出している為、後方を断てば完全な包囲網が敷けるبہادر شاہ ظفر(バハードゥル・シャー2世)も撃てばもう士気もなくなると考えられるが、残存派の掃討という長い戦いになるだろう。つまり、ある方法というのは敵の大規模進撃直後の反攻作戦となる。この作戦の遂行のためにはなによりサラを討たなくてはならない。サラに逃げられた場合、今度こそ勝ち目がなくなる。だから、君に頼みたい。…心配ない、多くの兵士が居る。」
ガンディーは確かにそう言ったが、昇は不安だった。
だが、断ったところでモンゴル帝国、日仏露連合への帰路は完全に閉ざされるのだろう。
選択肢はサラを討つという、一つだけだった。
「…わかりました。やってみますよ。…それに、まだ帰れないんですよね。もし、ダメだったら眠らせてください。」
「…ああ、わかった。」
昇の返事に、ガンディーは静かにうなづくだけだった。
しばらくの沈黙の後、ガンディーは再び昇に声をかけた。
優しい声だった。
「作戦については、Kotaの司令部で聞くといい。時間はまだ少しばかりある。何かやりたいことはあるかい?」
「はい、できればシャワーを浴びておきたいとは思います。」
「わかった、…もう戦場に戻ることにはなるがあいにく今日の帰りの飛行機は用意していなくてね。ここで、泊まっていくといい。それと武器の補給も…。まあ、本当は帰らせるつもりはなかったんだ。部屋の前に、兵士を待機させているのでその子に案内して貰うといい。」
「ありがとうございます。」
「ああ、わたしはもう行かないと…いつか、また会おう。それでは、先に失礼するよ。」
ガンディーはそう言うと部屋を出て行った。
昇は、大きなため息をついてソファにもたれかかった。
「消失の魔女か…。」
ただ、そうつぶやいた。
勝てる勝てないではなく荷が重かった。
何より大勢死ぬことだろう。
無線や戦闘機があるとはいえどもすぐに、彼女が死亡した情報を敵に流したところで攻勢は止まらないし、士気にどう影響するかもわからない。
彼女の死がきっかけで残存派として活動する兵士も現れるだろう。
文字通り、長い戦いになるのは明らかだった。
緊張の糸がすっかり途切れてしまった昇は、ソファに座っていると不意に扉が開かれた。
昇は、とっさに身構えるとそこには13歳くらいの女の子が居た。
なぜ、そんな女の子が居るのだろうかと思うより先に彼女の服装を見た。
この国に幼年学校があるのかはわからないが、軍服を纏っていた。
「長篠昇軍曹ですか?ガンディー様より貴方様のお世話を任されたものです。お迎えに上がりました。」
よほど、出るのが遅かったのか、それとも待てなかったのか彼女はそう言った。
右手を腰のあたりに当てていたので、手を腰から外し彼女の方へ歩いた。
「ええっと…お迎えご苦労様。案内してくれるかい。」
「はい!」
彼女は元気いっぱいにそう答えた。
そして、彼女に案内され部屋へと向かった。
昇は、途轍もなく何でガンディーは彼女を自分に当てたのかと思った。
とはいえ、行きかう人に奇異な目で見られることもなく部屋に着いた。
そんなに少年兵もとい子ども兵士か、幼年兵…言い方はよくわからないが普通のことなんだろうと勝手に思った。
そして、何事もなく部屋に入り荷物を置いてシャワーを浴び、彼女と武器の調達に向かった。
M1ガーランドがあればいいなとは思っていた。
とはいえ、勿論。
期待していたものはなかった。
「どうぞ。」
そこには、所狭しとイギリスかアメリカ製ぽい武器が並んでいた。
おそらく、かき集められたものか輸入したものだろう。
また、先端部が金属の被膜で覆われていない弾丸もあった。
おそらく、倉庫から引っ張り出して来たのだろう。
それか、新しく生産されたものなのだろう…。
「8mm×50R弾の規格の弾ってある?」
「…ありません。たぶん…。」
「…新しく銃を貰うしかない。」
「わかりました、そうですね…Short Magazine Lee-Enfieldか、M1903ですね。」
「…モシンナガンは…無いよね。」
「ありません。」
「わかった、M1903にしようかな。」
「はい、弾はどうします。」
「ん?」
弾なんて一種類しかないかと思っていたが彼女は何やら奇妙なライフルを取ってきた。
通常の弾倉とは逆方向に弾倉があるというか飾りのような縦長のケースが斜めに銃に刺さっていた。
「…なにそれ?」
「ピダーセン・デバイスに変えたM1903小銃です。」
何というか、奇妙な装置だった。
ライフルからアサルトライフル…サブマシンガンになるようなものだった、
発射する弾薬の種類も変わるが弾倉が箱型で40発になるという優れものだった。
「…でも、これなんていうか反動が大きそう。」
「まさか、全弾撃ち尽くすつもりですか?」
「…やるかもしれない…まあ、でも面白そうだからこれにするよ。」
「わかりました、他に何か要りますか?」
「手榴弾と…あればライフルグレネード、それとショットガンの弾…。」
「わかりました、もしかしたらお持ちのショットガンの弾は無いかもしれません。」
「ああ、うん…わかった。」
昇は、PPSh-41(ペペーシャ)のことを思い返したがここには無い。
その後、何とかM1911の弾にありつけた昇は一旦部屋に戻った。
「次は、何が必要ですか?」
「うん、水筒とウイスキー2本、それと白い手ぬぐい、あとは医療用品と葉巻が欲しいかな。ええっと、葉巻がなかったらそれでいいから。紙煙草は嫌いなんで…。」
「了解しました。」
彼女が頼んだものを取ってきている間、昇は弾倉に弾を詰めた。
しばらくして、彼女から頼んできた物を貰った昇はウイスキーを水筒に詰めた。




