嬉しくない昇進
ムガル帝国 Sri Ganganagar 日仏露連合共同防衛陣地
ガンガナガルの防衛陣地はデリーでのبہادر شاہ ظفر(バハードゥル・シャー2世)の演説の後も予定図には無い塹壕を掘り続けていた。
ガンガナガルを守るために周囲の街をも防衛線として構築するために人材をかき集め消失の魔女相手に無謀とは思えるほど広大な防衛線を作っていた。
いかに、砲をかくし武器をそろえようとも気づいた防衛線の中に突場として現れる魔女にどれほど意味があるのだろうか。
航空機を使わない空挺部隊は恐怖でしかなかった。
しかし、国民が分断する前恐れていた空戦猟兵部隊ガルダを負傷または彼らも手から生き延びこのガンガナガルまで戻ってきた昇達は人の噂により新聞に書かれた事実よりも兵士の心に作用した。
そして、恐れていた彼らを殺すことができることに気づいた彼らは勢いづく…。
旧体制の復活を阻止し、国を元に戻すと誓う。
だが、同じ国は戻らないことを彼らは知っていたが勝利という言葉でそれを忘れた。
そんな彼らとは対照的に日仏露連合の兵士達は沈み込んでいた。
ガンガナガルへの侵攻を早く見積もった為装甲輸送艦3隻のうち2隻は既にガンガナガルを出港していた。
ガンガナガルへ着いた昇は、司令部へと向かった。
午後8時35分、昇は日仏露連合の基地として使われることになったガンガナガル市内にある大学に来ていた。
指示を仰ぐとロラ達に言い、貰った香水を軽くつけて司令部に入る。
「日仏露連合陸軍第28師団第12歩兵連隊第3歩兵中隊第3小隊C分隊、目的地ガンガナガルに到着しました。要人である、ヴィクトリア、ソフィア両氏の安否を確認したく思います。」
司令部は、撤収作業をしている最中のようで書類を持って行っては焼いていた。
指揮官は昇を待っていたとばかりに、嬉しそうな様子で立っていた。
彼の階級は少将であり、ヴィクトリア女王の確保に躍起になっていたのだろう。
彼の顔は表情があまりでないタイプの人だったが、声色である程度はわかった。
「ご苦労、ヴィクトリア、ソフィアの2人の身は戦艦瑞風に送り届けた。君らの任務はこれで終わりになるはずだったが事情が変わった。そこで、新たな任務を与える。長篠昇伍長、君は再編された歩兵部隊と共に敵を撃破せよ。以上だ。」
「はっ!」
昇は、そう答えたが落ち込んでいた。
最後の輸送艦には、乗れないことがわかりおそらく増援も来ないだろう。
「頑張りたまえ、長篠『軍曹』。」
そう指揮官は言うと階級章を渡し、昇の肩を叩き、そして分隊長の場所を伝え部屋を出て行った。
昇は、部屋を出てロラ達のもとに向かった。
「伍長…いえ、軍曹ですか?」
「ああ、なんていうかおめでとうも…なかったよ。」
「おめでとうございます、軍曹。」
「ありがとう、ロラ。中山、木下!」
「はい、ここに居ます…軍曹?。」
「昇進おめでとうございます、軍曹。すぐに出発ですか?」
「まあ、そうだな…C分隊の任務は終わった。ソフィアもヴィクトリア女王も戦艦瑞風に向かったそうだ。」
「それじゃあ、これで終わりですか?」
「いやっ、私は次の任務だ。」
「軍曹だけですか?」
「別に、C分隊とは言われてないからね。そこで、3人に命令を出す。これから、最後の輸送艦がこの国を出る。その輸送艦に乗ってソフィアとビクトリアが連合に行くまでの護衛を命ずる。」
「伍長…。」
「わかりました。」
「お気を付けください…伍長。医薬品をお渡ししましょうか?」
「ああ、モルヒネだけもらえるか?」
「使い過ぎないでくださいね。」
「今後の指揮はロラに任せる。それじゃあ、すぐに港まで向かってくれ。」
「了解しました…では、長篠軍曹。また、会いましょう。」
「ああ、またね。」
ロラ達は、そのまま港に向かい。
この国を後にした。
昇は、装備をひと通り揃え歩兵分隊が居る場所へと向かった。
「第31歩兵師団第4連隊第2中隊第3小隊の隊長はここに居ますか?」
「はい、彼です。」
「どうも…。あなたが小隊長の鈴木ですか?」
「ああ、そうだが…君は?」
「司令部より、新たにB分隊の分隊長になった長篠昇です。」
「そうか、よろしく。残念ながら分隊員の顔を覚える時間は用意できない、すぐに出発だ。」
「了解しました。」
トラックの荷台に乗り込み、来た道を少し戻るようにガンガナガルの外に出る。
M1897(ショットガン)の弾は補給出来ず、置いて行こうと思ったがその気にもなれず持っていた。
昇は、目的につくまでの間少し眠りに着いた。
しかし、敵はHisarを突破しガンガナガルを目指していた。
そのため、Sirsaと呼ばれる街へ向かうことになった。
敵である旧政府派、新政府派はデリーからヴィクトリア女王を追って弧を描くようにガンガナガルを目指していた。
日仏露連合は、このムガル帝国北部の港を一つでも取られれば増援は難しくなる。また、敵支配下の軍港への空母による攻撃は空母と戦艦の損失の可能性が高く陸上戦での勝利が必要になっていた。
バハードゥル・シャー2世の率いる軍はガンガナガルを目指し、サラもそこに居ると考えた。
日仏露連合、イギリス統治政府はこの突出した敵の退路を断つ為デリーへと部隊を進め、バフト・ハーン将軍はデリーに着いていた。
現地時間午前4時、昇達の部隊第31歩兵師団第4連隊はシルサにてイギリス統治派の兵士と共に戦闘を開始し防衛に成功した。
「軍曹、長篠軍曹は居るか?」
「そこに居ますよ。」
「おおっ、あなたが長篠軍曹ですか?」
「そうですけど…何か起きましたか?」
「鈴木小隊長とA分隊長のジュベール軍曹が戦死しました。」
「そうですか…新しい小隊長はいつ来るんですか?」
「…増援は来ません。あなたが新しい小隊長です。」
「…了解。今後、B分隊とA分隊は共に行動をする。司令部にはそう伝えてください。」
「軍曹…C分隊、D分隊、E分隊も損耗率が激しくあなたの隊に預けます。」
「…そんなに、他の分隊長達は?」
「C分隊長は目に重症を負い、D分隊、E分隊の分隊長は戦死しました。他にも、分隊員に重症者が居ます。」
「前線に復帰できそうな兵士も集めて来てください。」
「軍曹!同胞のムガル帝国軍の兵士の面倒も見てくれないでしょうか?」
「人数は?」
「34人です!」
「わかった…すぐに読んできてください。」
「はい!」
そう言い終わるよりも早く、自分より年上の兵士は駆けて行った。
昇は、物凄く眠くなっていたので早く寝たかったのだが彼らが小隊に加わるまで待たなければならなくなった。
「はあ…。」
昇は、葉巻を吸うことにした。
そのため、ランプを持ち人が居なくなった家の入口を開けたままテーブルにランプを置き安そうな陶器の皿を一枚取りランプの灯りが届くところに置いた。
なぜ葉巻なのかというと紙煙草よりもこっちの方が良かったからだ。
ナイフで葉巻を垂直に切り、ライターで火をつけて吸う。
暗い部屋で一本吸ってから誤魔化しの為に香水をつけた。
どうやら、まだ呼びに行っているようなのでまた部屋に戻り入口を見つめていた。
5分後、ようやく兵士がやって来た。
「お疲れ様です、これで全員ですか?」
「はい、では私は行きます。」
「ああ待って、今夜はここで寝ると伝えてくれませんか?」
「軍曹、今日ですよ。それでは!」
すっかり徹夜してしまったのだが一体いつ寝ればいいのかわからなくなってしまった。
そして、連れてこられた兵士達は俺のことを奇妙に思っていることが視線からわかった。
「私が、この第3小隊の小隊長の長篠昇軍曹だ。君らの中で階級が上の者は?」
「イシャン兵長とへマント伍長です。」
「了解した、イシャン軍曹をC分隊の分隊長、へマント兵長をD分隊の分隊長とする。部隊の人員の割り振りは私が行うのでその間この付近の整備をしろ。整備が終わったら休息を取れ、以上。」
「了解しました!」
昇は、テントに入り寝ようと思ったが寝る前にサレーナ達に手紙を書くことにした。
「よしっ…拝啓サレーナ様…日本語でも…いいかな。ご機嫌いかがでしょうか?私はムガル帝国に着きました。香辛料やスパイスの香りとはかけ離れた匂いがします…それで…。」
昇は、結局1時間程度しか眠ることができず昼間の戦いへと戦場は移行した。
ガンガナガルへ行くトラックの運転手にサレーナ、トヤー、アリマ、ターニャ、ニーナ、オユン、ツェレンに向けて書いた7枚の手紙を紐で束ねて渡した。
宛先がわからなかったので西安の基地に宛てた。




