皆既月食作戦 Ⅶ
用語解説(略)
・M1886 ライフル
・M1911 拳銃
・M1897 ショットガン
ムガル帝国 Mandi Dabwali
昇達は、先行したヴィクトリア、ソフィア達の車とは別のルートでガンガナガルへと向かう。
ソフィア達から20分後にファテーハバードを後にした。
ガンガナガルへ向かう車両は5両、先行した2号車に続き、3、4、5、6号車。
そして、昇達の乗っている7号車が最後尾となりガンガナガルへ向かう。
昇は、車の中で対空機関砲が配備されている場所を地図で見ていた。
「伍長、そろそろ分岐点ですね。」
「ああ、ここまで来れば追撃は無さそうだね。」
「伍長…それはいささか気が早すぎるのでは?」
「…う~ん、どうだろう。」
ファテーハバードを離れること2時間半ほど離れたMandi Dabwaliという街に昇達は来ていた。
まず、ファテーハバードからガンガナガルへ向かうルートは複数ある。
一つ目は、Sanwant Kheraという町での分岐。
もう一つがこのマンディダブワリである。
「伍長、待ち伏せするとしたらやはりガンガナガルへ向かうことが確認できる場所での待ち伏せが考えられます。」
「だとしたら、संगरिया(ラージャスターン)付近か?」
「いえ、おそらくもっと先だと思います。」
「だとしても、ガルダ部隊の移動速度は歩兵部隊の比ではないし、何よりあの消失の魔女によって敵部隊がどこからでも現れるからね。対処のしようがないかな…。」
「伍長、そんなに弱気にならないでください。」
「少なくとも、逃げ続けることが大事で敵側にソフィア達がどれかの車に乗っているということが大事かな。」
「ですが、応戦したらバレるのではないでしょうか?」
「確かに三郎の言う通りだけど、特殊部隊だから手は抜かないだろう。一台、一台丁寧に調べるだろうし。」
「伍長は面白いこと言いますね。」
「そう?」
「はい、ソフィア様とヴィクトリア様は頑丈なのでガルダ部隊も準備しているはずです。なので、車体を破壊した上で活動できている人にさらに追加で攻撃を加えます。」
「それって、2人とも死んでない?」
「さあ、どうでしょうか?」
ロラが言ったことに昇は、少し引っかかっていた。
車両を破壊した上で活動できる人は生存者か化け物だ。
とうてい、ソフィアやヴィクトリアが生きているとは考えられない。
しかし、自分はどうだろうか?
訓練中に撃たれたり、やけどを負ったり、車に轢かれて骨折したり、溺れかけていた。
しかし、痛みと共に皮膚や身体のいたるところがボロボロになってもすぐに直されていた。
要するに、自分の体は偽物である。
そのため、精神だけの姿でも活動できるだろう。
ソフィアやヴィクトリアも同じ様なことができるのかと、昇は思った。
だが、それがどれほど辛いものなのかもわかっていた。
数十分後、中山の運転でラージャスターンを過ぎたあたり定期的に後ろを向いていた昇は暗闇の中、何かが動いている気配を感じた。
そして、突然前を走っていた4号車が爆発音と共に炎上した。
火炎瓶と手榴弾によるものだとわかり、すぐさま弾丸の雨が4号車を襲った。
中山は、ハンドルを左に切りそのまま走行した。
他の3台も中山と同じ様に4号車を見捨てた。
道を外れ、畑の中を通って行く。
昇は、すぐさま発光弾を撃ち他の車両からも発光弾と音響弾を打ち上げ、発煙弾を進行方向に撃っていた。
「伍長、どうしますか?」
「Kikarwaliの近くに対空機銃ある、このまま畑を抜けて36番線に合流してくれ!」
「了解しました!」
「ロラ、木下!」
「大丈夫です。」
「お任せください、伍長。」
「よしっ…。」
昇は、ショットガンを構えるがガルダ部隊の姿は見えない。
少し距離を取ったか上昇していると考えられる。
4号車は、おそらく車体の前に手榴弾や火炎瓶等の武器が落とされて行動不能になった。
かなりの速度で移動しており、さらに姿が確認できないことから上空から投げたものだと考えられる。
しかし、かなりの精度が必要な為ガルダ部隊が実力のある精鋭だとすぐにわかった。
昇は、無線で他の車両に連絡を取ることにした。
「こちら、7号車。3号車、5号車、6号車応答せよ。」
「3号車だ、聞こえている。」
「5号車も同じく。」
「6号車、今一匹やった。」
「指示を出す、キカーウォーリにある対空機銃でガルダ部隊と思われる空戦猟兵を追い払う。このまま、Sunder Pura方面に進み36番線と合流する。返事を!」
「3号車、了解。」
「5号車、了解。」
「6号車、了解。」
「ダイヤモンド型に陣形を取る、5号車は右翼、6号車は左翼に展開、車間距離は大きくとれ!」
そう、昇は言い終わると通信機を置いた。
そのまま、ショットガンを取り左手で窓の端を持ち体を揺れる車体にぶつけながらも弾を撃つ。
ヘルメット越しに頭をぶつけながら弾がなくなったM1886とM1897の装填を諦め、M1911を使い、弾を装填し、再び身体を乗り出し撃つ。
「6号車が…。」
鳥の群れが、餌を啄むように6号車は集中砲火を受け爆発した。
6号車が攻撃される前に放った音と同じタイミングで6号車に攻撃をしかけた空戦猟兵数名が音響弾で聴力を失い、誰かが放った弾丸に当たり地面に落ちていくのが見えた。
しかし、絶対的な総数がわからない以上人数はあまり関係が無かった。
「こちら、7号車。6号車の分を埋める。」
車列を三角形にし、そのまま走行を続ける。
「ロラ、発光弾を!」
「はい。」
もう十分な距離だと思い、発光弾を空に打ち上げた。
発光弾は、敵の後ろで炸裂すれば敵が影になってわかるが前に居られるとわからなかった。
それから、数秒後対空機銃をサーチライトが空を照らし、対空機銃から発射された弾がそこに突き刺さる。
「こちら、3号車。5号車、7号車聞こえるか?」
「こちら、5号車聞こえている。」
「7号車、聞こえている。」
「了解、このまま次の対空銃座の方へ向かいますか?」
「ああ、なるべく進行方向近くの銃座へ向かってくれ。36番線に入るまでこのままの陣形を維持。」
「了解。」
昇は、今のうちにと急いでショットガンに弾を込めた。
次に、ライフルに弾を込めようとした時ロラが発砲した。
しかし、手榴弾を持った空戦猟兵は撃たれてもなおこちらに手榴弾を投げ込もうと車の右側に近づこうとしていたところ、三郎は右にハンドルを切り、昇はショットガンで頭の近くを散弾で撃ちぬいた。
ヘルメットを被っていない顔に当たったはずなので死んだか痛みに苦しむはずであったが、そのまま車の右後部にぶつかり、空戦猟兵は持っていた手榴弾が車の後ろでさく裂した。
「キリがない…。」
そう思いながら、ガンガナガルを目指して車は進んだ。
モンゴル帝国 ガンガナガル
ソフィア達は、無事ガンガナガルへとたどり着いた。
おそらく、昇達もあとから来るはずではあるが会う時間は無いので高速艇に乗り戦艦瑞風を目指していた。
港では、ムガル帝国から引き揚げようと日仏露連合の兵士が輸送船に乗り込むために集まっていた。
そして、戦艦瑞風の長官公室へと案内されたヴィクトリア女王、ソフィア、アブドゥルは椅子に座り話を始めた。
ヴィクトリア女王の向かいにソフィアは座り、ヴィクトリア女王の後ろでアブドゥルは立っていた。
「昇さんは、大丈夫なのですかソフィア?」
「はい、ガンガナガルに向かっています。途中、ガルダ部隊との戦闘に遭いましたが車両は故障していません。」
「そう…計画通りですのね。」
「はい、順調に進んでいます。Bakht Khan将軍もデリーを目指しています。」
「これで、ムガル帝国の革命まであと少しのところに来ました。後は、彼らに任せましょう。」
「ムガル帝国は、インド共和国へと変わり、本来起きたはずのインド仏教の寺社の破壊と仏教の壊滅は起きることはなく、またインド大反乱での英国人への聖戦は起きることがなく、カースト制度も崩壊しこの世界での新たな国として人を育て軍を強くすることでしょう。」
「これも、生命の解放の為に…。私はこの言葉があまり好きではないのです。人は繋がりのあるものですから…しかし、私達はなすべきことをしなくてはなりません。少し休みたく思いもしますが、まだ終わりではないのですから。」
「ヴィクトリア様、大丈夫でしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよカリム。少なくとも死んでいても心は疲れるものですから。」
「紅茶でも飲みましょう。誰かに頼んできます。」
そう言うとソフィアは立ち上がり部屋を出て行った。




