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日本政府所属?異世界航空自衛隊です。  作者: 葵流星
帝国を与えられし王
71/150

皆既月食作戦 Ⅴ

・用語解説

ヘロイン

アヘンから作り出されるモルヒネから作られる麻薬の一つ


マスタードガス

化学兵器

びらん剤(皮膚や気道を爛れさせるもの)に分類される

午前11時55分


「三郎、あと3分くらいたったら出発だ。」

「伍長…アバウトすぎますよ。」

「なんせ、大砲の音が鳴った瞬間に逃げ出すものだから…なかなかタイミングがわからないからな。」

「伍長…今日は晴天で湿度も高くありません。火薬の燃焼には問題ないかと…。」

「それも、そうだね…。さて、木下は何か言いたいことは?」

「あっ、はい…モルヒネをいくつか貰ったんですが、ついでにヘロインも取ってきました。」

「聞かなかったことにする。」


車で過ごすこと約10分、用意を万全にし既にソフィアもヴィクトリアも車に乗っている。

あとは、ガンガナガルまで行くだけだ。

そう思いながら12時ちょうどを待っていた。

昇達は10車ある中型統制車の列の一番最後に位置し、ソフィア達は前から5番目の車に乗っている。

そして、道路の端に並んでいるこの車列はかなり奇妙なのかもしれない。

だが、街を封鎖している為そんな風に思う人はいない。

同様に旧型の対空砲を載せた運搬車が通っていくだけだった。

後ろには装甲車が居た、kfz.222で日仏露連合がガンガナガルから運び込んだものだ。

もっとも、デリーまでの道の護衛で街を出た後はそのまま戦闘に駆り出される。


「さて、そろそろか…。」


そして、12時砲は音を鳴らした。


「行け!行け!行け!」っと怒鳴り散らすように中山に言った。


検問をいくつも通り街を抜ける。

町の郊外には建物がほとんどなく敵の気配もない、ただ遠くからサイレンの音が聞こえていた。




12時31分 デリー中心部司令部


「前線の部隊が後方から攻撃を受けている!了解した、直ちに航空部隊を送る!」

「目標はおそらくこの町だろうな…。空襲警報を発令!いますぐに!」

「はい、ただいま!」

「インドールでの敵の攻撃が開始!」

「ナーグプル、パトナーでも敵が侵攻を開始!」

「前線の部隊、敵に包囲された模様!」

「ただちに、迎撃準備に移れ!」

「前線の部隊への支援攻撃は?」

「隣接する部隊に任せろ!」


司令部は一気に慌ただしくなった。

それも、そのはずで最前線であるアフマダーマードが最初に攻撃されてから、すぐに他の町でも攻撃を受けたからだ。

砲撃を受けた後、後方からの騎兵と歩兵による突撃で退路を封じられ、その後は増援を航空機で爆撃している。

敵は臨時の空港を作ったわけではなく突如として現れたとしか思えない。

そんな、馬鹿げたような戦況図が完成しつつある。

沖田が率いる日仏露連合陸軍第701工兵師団第五連隊は他の機甲部隊や歩兵部隊と共に行動しており、デリー空港は司令部から近い。


「こちら、連隊司令部。敵の姿は?」

「まだ、確認できません!」

「了解!」


通信環境は雑音やノイズが入るもののまだ使えている。

このまま、何もなければと思いながら不安に駆られブリーフケースを持って司令部の外に出た。

空は晴れていて、何も問題の無い。

そんな感じがしていた。

しかし、そんな気持ちは砲の音でかき消された。

そこには、少数ながらデリー近郊に配備されている戦闘機、スピットファイアがハリケーンを追いかけていた。


「小佐殿!早く司令部にお戻りください!ここは、危険です!」


そう近くに居た兵士が私に向かって叫んだ。


「私は、第二司令部で指揮を執る!君は、逃げたまえ!」

「わかりました、ではご案内します!」


そして、私は彼と共に第二司令部に向かった。

第二司令部は複数ある司令部の中で最もデリー空港に近く、脱出する際に一番最後に使用するつもりの場所だった。

しかし、ここから距離が離れており加えて敵の航空機と爆撃機が姿を見せた今、移動するには逃してはならないタイミングだと考えた。


無事、半地下に設置されている司令部に入りすぐに司令部に連絡した。


「司令部、こちら第701工兵師団第五連隊連隊長の沖田だ。第二司令部にて指示を取る。了解した。敵は迫りつつあり既に航空戦が行われている。例の兵器の使用を許可する。以上。」

「…了解。」


沖田は持っていたブリーフケースを机の上に置き座ってから傷がないか確認しケースを開けた。

スライムの核は30個であり、全て起動していることがわかった。


「…。」

「少佐どうかなさいましたか?」

「いや…大丈夫だ。」


第二司令部で待機していた兵士が声をかけてきた。

沖田は自分がためらっていることに気がついていた。

それは…自分が今から、やろうとしていることが無差別攻撃だったからだ。

スライムの核に埋め込まれているプログラムは指定の場所でマスタードガスを散布し、その後も周りでガスをまき散らすようになっている。

マスタードガスは人体の皮膚や粘膜などのたんぱく質やDNAに強く作用する。

だが、致死性は低いとされているが後遺症は長く続く。

攻撃目標は、阿片窟や娼館そして、市街地などを対象にしている。


「コーヒーかお茶はあるか?」

「はい、コーヒーで良ければ…。」

「ああ、それで頼む。」


近くに居た女性兵士にコーヒーを頼み、沖田は画面を見つめボタンを押した。

カバーがつけられた小さなボタンだった。

示されている光点が点滅していた。

プログラムが実行されたのである。

通信システムそのものが今、ここで伝われているような電子通信ではなく教えてもらえなかったが特殊な通信の為、情報の送受信が問題なく行われているのだという。

そして、沖田は破壊用のコマンドを入力しブリーフケースを閉じた。

ほどよくして、頼んでいたコーヒーが届いた。


「お待ちいたしました。」

「ありがとう、ここに置いてくれ。」

「あっ、はい…砂糖のみですが…。」

「ああ、わかった。それともう一つ頼みごとがあるんだ。」

「何でしょうか?」

「このケースを、捨てて来てくれないか?」

「わかりました。」

「近くでいい!」


沖田がそう言い終わる前に彼女はケースを持って司令部の外に向かっていった。

沖田は、彼女が持って来たコーヒーに角砂糖を2個入れスプーンで混ぜて飲んだ。

飲み終わると席を立ち、通信機を使った。


「こちら、連隊司令部。第一小隊ら連絡せよ!」

「こちら、第一小隊。北東の方向に向けて移動中!」

「了解…第二大隊聞こえるか?」

「こちら、第二大隊!」

「敵の姿はどうだ?」

「まだ見えていません。付近の部隊が南へ移動を開始しました。続きます!」

「第二大隊、待機せよ。繰り返す、待機せよ。」

「第二大隊、了解!」

「第701工兵師団第五連隊連隊長から全部隊へ、すべての武器の使用を許可する。繰り返す、全ての兵器の使用を許可…また、敵勢力の構成員と見られる民間人への攻撃も許可する。スライムでのマスタードガス散布を行った。以上。」


沖田は通信機を話すと、返事が聞こえた。

付近に展開する友軍は戦闘を開始し、連隊の中で一番南に進出している第二大隊はまだ敵の姿を見ていない。

だが、それももう少しで終わるとそんな気がしていた。




午後2時

アフマダーマードの町が占拠された。

これにより、ウダイプル、シロヒに防衛線を作ることになり日仏露連合から派遣されていた一個砲兵連隊はアフマダーマードから撤退した兵士と共に戦うことになった。




午後2時30分

インドール、パトナーの部隊への増援を止め、ラクナウまで後退、アーグラ、ジャイプルでの防衛作戦へと移行。

ジャーンシーの町が、敵の攻撃機の攻撃を受ける。

第701工兵師団第五連隊の連隊司令部を、第二司令部に無事移すことができた。


「了解!連隊長!」

「なんだ?」

「はい、全小隊が敵との交戦を開始しました。」

「付近の第三小隊もか?」

「はい、空戦猟兵、航空機、歩兵多数確認とのこと…。」


銃の発砲音に続いて、手榴弾が爆発したような音が聞こえた。


「ああ、くそっ…。」

「扉を締めろ、早く!」


そう声が聞こえてきた。


「いったい…何が…。」

「連隊長、自分が様子を見てきますのでここにいてください。」


そう、副連隊長の山下が言いすぐに戻ってきた。


「連隊長、入口から手榴弾を投げようとしていた空戦猟兵の手榴弾が爆発したものです。すでに、入り口は封鎖しました。」

「わかった…他の出口は?」

「現在、確認中です。」

「了解…。」

「連隊長、どうした?」

「第二大隊が全滅しました。」

「馬鹿なことを言うな!どうやって確認したんだ!」

「第二小隊との通信が途切れました。最後の通信では、自分以外は全員戦死したと…。」

「そんな…。」

「連隊長、第二大隊が全滅したとなれば他の部隊の脱出も困難になると予想されます。空港に向かいましょう!」

「では、誰が部隊の指揮を執るんだ!」

「執る必要はありません。空港まで撤退せよとご命令ください。撤退に失敗した部隊はガンガナガルを目指すようにと言っています。」

「しかし、部下を置いて…。」

「連隊長、ご命令を…。くっ…わかった。」

「連隊司令部より、全部隊へただちにデリー空港へ。繰り返す、全部隊ただちにデリー空港まで後退せよ。」

「では、行きましょう…。」


この日の戦闘で、日仏露連合第701工兵師団第五連隊は傷病者、行方不明を含む連隊の半数にあたる1250人程度の人員を損失したと見られる。

また、デリー空港からの脱出に成功した隊員の数はおよそ350人。

行方不明を含めた多くの兵士がガンガナガルに向かう途中で戦死したと見られている。

午後4時、デリーは陥落した。


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