還りゆく草原に残される物
モンゴル帝国 Цэцэрлэг(ツエツェルレグ市)
2か月後
「Saranaねえ、ただいま!」
「おかえりなさい、Nina。…昇とTanyaは?」
「獲ってきたアイベックスの解体をしているよ。昇にい、すごいんだよ。ターニャが無理だと言ってたのに一発で仕留めちゃった。」
「そうなの、今夜はごちそうね。」
「うん、それじゃあ手伝って来るね!」
「ええ、指を切らないように気をつけてね。」
「うん!」
長篠昇は、3ヶ月の休暇を過ごしていた。
しかし、休暇というよりはそこまで自由でなかった。
砲を撃ち、馬に乗り、学び、銃を撃った。
「ん?」
サラーナは、近づいていてくる車の音に気づき玄関を出た。
玄関の外には、日仏露連合の礼服を纏った兵士が居た。
彼の後ろには、Kübelwagenがあり、運転手が居た。
周りの家に居るモンゴル帝国兵が銃を構えていないため味方であると確証が持てていた。
だが、そのことは昇は知っていなかった。
彼の休暇は、これで終わりだった。
「お久しぶりですね。錦戸さん。」
「お久しぶりです。昇様は?」
「居ますよ…。」
「明朝出発予定です。」
「わかりました。荷物はArimaに任せてあります。」
「それでは…。」
「ありがとうございます。」
錦戸は車に乗り込み家から離れて行った。
「さて、そろそろ準備しないと…。」
2時間後
夕食を食べ終え、昇とサセーナ達は食後のデザート食べていた。
「昇さん。」
「どうしたの、サレーナ?」
「話は聞きましたか?」
「ああ…今度はどこに行くことになるのかな…。」
「明日になればわかりますよ。」
「今日は、早く寝ないとね。」
「昇さん。」
「どうしたのOyun?」
「いえ、何と言いますか…変ですね。昇さんは軍に居ることが普通なのに…。」
「そんなことはないよ…。」
「私は、そうは思いません。アリマ、あなたからは?」
「冬服の用意はしました。…来年まで持てばいいんですけど。Toyaは何か言いたいことは?」
「知識は教えました。役に立つかは時間経過によります。…悲観的なのはよくありませんが…笑えないですね。」
「…。」
「Tsuerenは?昇さんに何かありますか?」
「私ですか?そうね、特にいうことはないけど酒と薬と女性には気をつけてね。」
「酒と薬?」
「あなたは、女性に弱そうだから。」
「…かもね。ニーナとターニャは何かある…まあ、特になかったら後は何か他のことを話すのもいいし…。」
「昇にぃとは、また会えるし他に言うことないけど…。」
「ニーナ…昇にぃは昇にぃだよ。どこに言っても数か月先の予測すらイレギュラーが発生したりすることもあるから…。」
「…さて、昇さん。最後の夜ですから…その…。」
「えっ…ああ、うん…。そっか…。」
明朝
「それじゃあ、行って来るね。」
「はい。」
「じゃあね、昇にぃ。」
「昇にぃ、がんばってね。」
「また、お会いしましょう昇さん。」
「昇さん…武運長久を…お元気で。」
「ツェレンは昇さんの帰りを待ちます。この地で無くとも…。」
「…いってらっしゃい…昇さん。」
「みんな、他に言っておきたいことはある?」
「サレーナ姉は?」
「私は、もう伝えましたよ。」
「それじゃあ、もう…大丈夫ですね。昇さん、またお会いしましょう。」
「ありがとう、トーヤ。それに、みんな。」
「では、行きましょうか…。」
俺は、車に乗り込み家を後にした。
このまま、一度カラコラムに向かいカチューシャ達に会うことになる。
「行ってしまいましたね…。」
「そうね、アリマ…私達も行動を起こさないと…。トヤー?」
「はい、なんですかオユン?」
「昇には野戦築城も教えたわよね?」
「はい、まだ役には立たないと思いますが…。」
「そう…ツェレンはどう思う?」
「計画は進んでいると思います。このまま、この世界は救われるかと…。」
「オユン、75mm野戦砲の使い方も教えた?」
「ええ、サレーナ。一通りの武器の使い方は教えました。」
「彼らと彼女達も見ていたようね…。」
「サレーナ姉、私達も出発しようよ。」
「ターニャ…。」
「ニーナも用意していこうよ。」
「2人共、そんなに慌てる必要はありませんよ。」
「でも、サレーナ。ここは焼き払わないと…。」
「わかってますよ…それじゃあ、準備を始めましょう。」
サレーナがそういうと、直ぐにアリマ達は準備を始めた。
昇と同じ様にサレーナ達にもやらなければならないことがあったからだ。
「サレーナ…。」
「どうしたの?トヤー?」
「いえっ…少し悲しそうだったので…やっぱりつらいのですか?」
「それは、あなたもじゃないの?」
「…そうですね。私達はみんな一緒…いえ、それ以上です。」
「トヤー…私には最適解がわかりません。そして、ハーレムも最適解ではなかった。」
「男女間の関係の最適解は存在しません。また、不誠実の元に許容されることではありません。」
「じゃあ…私はどうすれば良かったのでしょうか?」
「サレーナ…。」
「サレーナにとっての最適解は決まっているんですよ。トヤー…。」
「アリマさん。」
「…では、それが何であると言いたいのですかアリマ?」
「独占です。」
「独占…大袈裟な言い方ですね。」
「そんなことはないと思いますよ。サレーナ、他のみんなも。」
「オユン…あなた確か荷物の積み込みを…。」
「サレーナが悲しそうな目というより、泣いていたので兵士に代わりにやってもらいました。ちなみに、私は彼をものにしていた時が一番良かったですよ。…彼は私のものです。」
「…オユン。」
「違います!昇さんはアリマのものです!」
「やはり、猫を被っていましたか…アリマ…それが本当のあなたなんですか?」
「どうでしょうか?わざわざサバサバした態度で接して自分に興味を向かせようとしていた女が言えることですか?」
「なっ…私は…そんなつもりじゃ…。」
「お二方…もう止めて…。」
「あなたもよ、トヤー!あんただって、意識的に身体を寄せていたくせに!」
「私はそんなことはしません。
「噓をつかないでくださいトヤー…あなたが昇に意識してもらえるよう必死だったのには気がついていました。サレーナ…あなたはターニャとニーナを使って自分の良さを売り込もうとしていましたよね?」
「年上の女に見られることで魅力的に見られようとしたんでしょ!」
「私は、ニーナとターニャをそんな風に使っていません!」
「どうだか…本人に聞いてみるのが一番ね。…でも、昇は年上が好きなのかしら?もしかしたら、自分より年下か同い年がいいのかもね。」
「そんなこと…昇さんは…。」
「やはり、揉めていましたか…。」
「ツェレン…。」
「なんなの、ツェレンは?」
「昇は、私のものです。」
「違います、この私…トヤーが一緒になるんです。」
「彼が本当の私を求めてくれる!アリマじゃなくて…本当の…この名前じゃなくて…本当の…。」
「ふふっ、…やはり私達は上手くいかないんですね。」
「当たり前でしょ…。」
「アリマ、あなたは本当に素直に自分をさらけ出すことができましたか?」
「うっ…。」
「オユン…あなたは昇に誠実に相手にされていましたか?」
「それは…。」
「トヤー…あなたは自分の気持ちを気づいてもらえましたか?」
「…。」
「そこの二人もですよ?」
「私たちは、本当に双子だよ。」
「そうです…でも、昇にぃは…。」
「ニーナ?」
「ターニャ姉のものじゃありません。」
「えっ…なんで…。」
「ごめんなさい…おねえちゃん…。」
「…。」
「あなたは、どうなんですかツェレン?」
「私は、あなた方が愛に溺れる方を選んでいる間に彼と関係を深められましたよ。」
「そう…でも、私は彼と溺れることができたわ。それに、短くとも外出はできましたし有意義でしたよ。」
「…そうですか。」
「何よ…結局、誰も何も得てないじゃない…。」
「私は…。」
「だいたい、最適解とかなんとか言っても私達は可能性なんでしょ…。」
「アリマ…。」
「オユンも、サレーナも、ツェレンも、トヤーも、ターニャも、ニーナも…昇が出会うかもしれない結果の一つに過ぎないのに…なんで、私から奪おうとするの?…ひどいよ…私達は何百年もここに居るのに…短くても一緒に過ごせたのに…二人だけの時は自分のことを見せられたのに…それに…あなた達とだっていい友達にもなれるはずなのに…なんで、こうなってしまうの…。」
「落ち着いて、アリマ…。」
「オユンもだよ…。」
「えっ?」
「もう一緒になれないかもしれないんだよ。」
「それは、わかりきってたことで…。」
「今は、どうなの?」
「…私は…一緒に居たい…本当はずっと一緒に居たい変な風にからかうんじゃなくて普通に…大事にされたい…。」
「そうでしょ…。」
「でも…今は…。」
「みんなはどうなの?…自分が選ばれると思ってる?でも、違ったら…。」
「アリマ!」
「どうなの…トヤー?」
「嫌ですよ…そんなの…。」
「そうだよね…ごめん、みんな…少し取り乱しちゃった…でも、怖いの…もしも…この世界のことを覚えていたら…そして、誰かが彼の隣に居たら…。」
「…アリマ。」
「いいの…でも、悲しいかな…。」
アリマはそういうとどこかに歩いて行った。
みんな泣き顔だった。
少なくとも、彼と過ごしたとても短い時間は本物だと思っていた。
数日後、そこには建物がなかった。
2つの国が築いた建物の跡地…その下には武器だけが誰かを待っていた。




