日仏露蒙合意
モンゴル帝国首都カラコルム付近
「…もうすぐで、首都に。」
作戦開始から2日目の夜。
昇は、モンゴル帝国の首都であるカラコラムの近くに居た。
日露仏連合陸軍第22機甲師団第1戦車連隊第2戦車中隊第1戦車小隊は、同じ第2、第3戦車小隊、その他近くに派遣されていた野戦砲、歩兵部隊とも合流を果たし3度の敵の対戦車部隊、戦車部隊との戦闘後ようやく町の近くに着いた。
石造りの建物が奥に見えており、その手前には防御陣地が作られていた。
「こちら1号車、戦闘配置につきました。航空攻撃後進軍します。」
「指揮車、了解。各車、待機せよ。」
昇は、戦車よりも先行しており合流した戦車部隊の兵士から弾薬を貰い町に向けてモシンナガンを構えていた。
遠くから音が近づいてきた。
友軍機だった…。
友軍機は爆弾を落とすと再び上空に上がり、残っていた爆弾を落とし基地に戻っていった。
「指揮車より各車…これより、進軍する。合図を待て…。」
「友軍より、通達…。砲撃を開始!」
味方の野戦砲部隊が榴弾砲を町に向けて放っていた。
「全車、突撃!」
戦車の前進と共に味方の歩兵部隊が後ろから続く…。
だが、敵の機関銃、迫撃砲、対戦車ライフルの音が響く。
昇は、その場を後にし制圧された町に入った。
味方の航空機により、黒ずんだ土嚢には何かが仰向けに倒れていた。
昇は、その兵士を通り過ぎそのまま前進した。
人気が無いようにもどこかで隠れているようにも感じられる町はあまりいいものでもなく、不謹慎にも全て壊してしまいたいと思っていた。
昇は、このままカラコラムの近くまで行き終戦と共に炎蒙作戦の終了を迎えた。
モンゴル帝国 ホジルト
終戦交渉は、カラコラムの南にあるホジルトという町で行われた。
交渉は、日仏露連合から派遣されたカチューシャと、モンゴル帝国の代表としてЧингис хаан(ジンギス・カン = チンギス・ハーン)が同席し行われた。
日仏露連合の要求は、釜山、旅順、上海、香港、ウラジオストクなどのモンゴル帝国の東側の港湾施設を日仏露連合に渡すこと、そして、日本円にして約250兆円もの賠償金を要求した。
モンゴル側は南側の黄海に面する港を明け渡すことを約束したが、賠償金の減額を求め日仏露連合との交渉の結果、約150兆円である3750兆Tgを期限を定め支払うこととし終戦合意となった。
会議後、カチューシャはチンギス・ハーンと話をすることになり、彼の付添人のDolmaarという少女と共に用意されていた豪華な部屋に入った。
入り口は、両軍の兵士によって囲まれている。
「この部屋は、一応外から中の音が聞こえないようにはなっている。…まあ、ゆっくり話そう。ドルマー、お茶を入れてくれるかい?」
「はい、おじ様。」
椅子に腰をかけたカチューシャは、ドルマーが入れたお茶にお礼を言うとそのお茶を飲んだ。
「どうですか、カチューシャ?」
「сүүтэй цай(スーテーツァイ)ね。私は、好きよ。まあ、あの2人はもう少し甘い方がいいかもね。」
「では、入間基地の方々にもそうしたものをいれてみます。」
「ああ、ありがとうドルマー。…久しぶりですね、カチューシャ。他の方々はどうですか?」
「どうでしょうか…嬉しそうにも責任を感じているようにも思えます。」
「肉体的に年を取らない分、心の方が問題にはなるか…私の部下も今は身体を休めているよ。孫も同じように…。」
「調子が悪いのですか?」
「あまり良い傾向ではないね。でも、シナリオ通りに戦争は進んだ。他の国でもこれから戦争に向けて準備を進めていけるだろう。ようやく、遅れていた兵器の近代化も本腰を入れて取り組めるわけだ。T34や、MA…その他の兵器生産は進んでいますか?」
「兵器の生産数には限りがありますが、この戦争の特需で工場は増やせそうです。」
「それは、良かった。」
「しかし、魔法兵器の開発が上手く行きません。」
「それは、この国も同じです。あまり良い解決策はありません。」
「そうですか…。兵器の輸出はお任せください。いくらでも横流ししますので…。」
「相変わらずカチューシャは、平気でそういうことを言いますね。あれから、120年ですか…。」
「まだ、短いですね。」
「私は、そんな気持ちにはなれませんよ。創世記から生きている人達に比べれば短いかもしれませんが…それでも…。おかしいですよね、なんで死んでいるのにそんなことを考えるのか…私は、そもそもチンギス・ハーンなのか…。」
「世界は、1つではない。全ての世界が存在してそこには魂という一種のデータが存在する。この世界は、他の存在していた魂が連れて来られる場所であるとあの人達は言っていました。今回、引き寄せられた人達は身体が現世に存在しますがここでは魂だけでありこの世界に魂として来られなかった人々も他の世界との中間を眠りながら待っています。そういう意味ではあなたとはかわりませんね。」
「死んだはずなのに私は、若返ってここに居るのか…それとも、若くして死んだ私がこの世界に呼ばれたのか…どちらでしょう…。」
「…それには、私は…。」
「わかっているよ…それよりも、早く…長篠昇君だっけ?…彼に会いたいと思うよ。これから、モンゴル帝国はソビエト、アメリカ、イギリスを相手にして戦っていくのだから…私も彼らと同じようにこの世界から解放されたいと思う。…変だな、生きている頃は生きたいと思ってたのに…死んだ後にはもう一度死にたいと思ってしまっている。…まったく…訳の分からない矛盾だ。」
「…。」
「まあ、それはともかく…いくら終戦をし停戦命令を出したとは言え、この命令に従わない指揮官や部隊がいるだろう…。親衛軍を向かわせて停戦の指示に従わないのであれば彼らを殺す。」
「…私の方でもそのように…。」
「どうかな…きっと君らの軍は浮かれているに違いない。知っての通り、敗戦したとしても戦うことを止めない兵士は敗戦国において一定数存在してしまう。そして、テロリストや反政府勢力を組織してしまうのが問題だ。…だから、これは私に任せてほしい。」
「わかりました。」
「ところで、君は人を殺すことは…。いやっ…何でもない。…やっぱり、君の姿を見るとどうしても…。」
「…この世界において英雄と呼ばれる人達の存在は確認できています。しかし、許されざる者…悪人は桜、ジャンヌも同じように行方不明者として葬っています。」
「…そうか、やはりどうしようもないか…。さて、ドルマー?」
「はい、なんでしょうか?」
「昇君を迎えに行きなさい。カチューシャは…。」
「はい、すぐに手配します。」
「ありがとう…ああ、彼らは私を恨んでいるかな?」
「…会って見ればそれもわかります。」
「…そうだね。」
チンギス・ハーンは、お茶を口にすると何かを考え…うつむいた。
日仏露連合 神奈川県横浜市
それは、突然だった。
ジム・ホワイトは、この日も何も無いかのように普段通り仕事をしていた。
そんな彼にとって、この揺れは予想だにしていないことだった。
「地震だ!」っと、職場に居た人がいなければそのまま仕事をしていただろう。
ジムは慌てて、座っていた椅子から降り机の下に隠れた。
「大丈夫ですか?」っと、岸辺はジムに声をかけた。
「…地震ですか?」
「はい…大きいです。ひとまず、部屋からでましょう。」
「…はい。」
職場をそのまま後にしたジムは、聞きなれないサイレンの音を聞いた。
すると、岸辺や同じ職場の人達は「早く、高台へ!」と言い、ジムは走って高台に向かった。
高台に着いたジムは、このサイレンは何かと岸辺に聞いた。
「津波警報ですよ。…うちの職場は、海から近いですし。」
「では、もっと遠くへ…。」
「…今からでは、間に合いません。それに、余震もあります。しばらく、ここに居ましょう。」
ジムは、岸辺の言う通り高台に居ることにした。
幸い、波は軍の壁を超えることはなく無事だった。
だが、ジムは壁の前に人々が居る事を知っていた。
波が引くまで3日ほどかかり、ジムが津波による被害を知ったのもその後だった。
無論、波による被害だけでなく木製の建物の倒壊も生じていた。
浅草では、凌雲閣が残り従来の木製の建築物から耐震性の高い物へと復興の兆しもその後見せ始めていった。
「…嫌なものですね。」
ジムは、まだ記憶に新しい東日本大震災のことをお思い出した。
だが、誰にも話はしなかった。
おそらく誰もそのことを知らないからだ。
その為、嫌なものだとジムは言った。
だが、岸辺の反応は意外だった。
こうなるのはわかっていたとばかりに、冷静だったからだ。
「はい…しばらくは来ないでしょう。」
まるで、もう一度有るように岸辺は言ったのである。