モンゴル帝国攻略作戦 Ⅳ
日仏露連合 モンゴル帝国支配領域下 釜山 江西区 作戦司令部
特務少佐との話を終えた俺は来た道を戻り、C分隊のメンバーを探した。
しばらくして、同じ隊のロラと坂上を見つけた俺は彼女らに話しかけた。
「お待たせ、杏樹、それにロラ。」
「お疲れ様です…伍長。」
「遅かったじゃない…。」
「少し話し込んでいて…。」
「伍長、その武器は?」
「…ああ、この銃のこと?」
「はい、変わった武器ですね。…どこで手に入れたんですか?」
「司令部の山中特務少佐から貰ったんだ。」
「そうですか…あっ、お気になさらず…。支援物資の中に伍長が持っているのと同じ銃が届いたのですが一つ足りなかったので確認を行っていたところでした。」
「それは、すまない…。」
「いえ、お気になさらず…。それでは、私は降下装備のメンテナンス、最終確認を行うのでこれで…。」
「ああ、またね。」
「はい、集合時間に…。」
そう言うとロラは走って他の建物の方へ向かった。
残った杏樹に俺はそのまま話を続けようと思った、矢先に杏樹から俺に話しかけてきた。
「どう…何か情報は得られた?」
「まあ…得られたけど…杏樹は降下作戦について知っていたの?」
「ええ、そうよ…。」
今回の作戦…カラコラム襲撃作戦…もとい炎蒙作戦のことは、C分隊ではすでにロラや負傷したレフが知っていたのなら、なんで俺には教えられなかったのだろう…。
そう思いながら杏樹に質問する。
「…いつから?」
「あなたがC分隊に来る前からよ。」
「…そんなに、前から?」
「そうね…。」
そうであるとすれば、与那国島への船の中ですでにみんながこの事を知っていたということになる。
「…それじゃあ、もし与那国島奪還作戦が失敗していたら?」
「失敗はありえない…そういう作戦だったのよ。むしろ奪還作戦そのものが検討されていたのよ。それよりも先にこの大陸の首都を落として味方部隊を撤退させ与那国島を焦土とすることも作戦にはあったのよ…。」
「自分の国の領土なのに?」
「そういうことじゃなくて、敵に取られたくないからそうするのよ…。」
「…確かにそうかもしれない。」
「まあ、そういうことよ…。それで、作戦についてはどのくらい知ったの?」
「夜間降下くらい…だよ。」
「それじゃあ、作戦についてはブリーフィングで初めて知ることになるわね。」
「杏樹はこの作戦のこと全部知っているの?」
「もちろん…。あんたの持ってる短機関銃でほとんど成否が決まるのよ。」
「…そんな、馬鹿な…。」
「すぐに、わかるって…。右側に進むと杉山軍曹と木下が居るから会うといいわ。それじゃあ、また後で。」
「えっ…ああ、また後で…。」
そう言い終わ前に彼女は行ってしまった。
俺は、杏樹の言った通りに杉山軍曹の元へ行った。
その後は、集合時間まで空を眺めたり基地を歩いたりして…時間は過ぎていった。
「これより、ブリーフィングを開始する。」
「…。」
つかの間の休憩を取った昇は、輸送部隊からの支援物資を受け取ったC分隊のメンバーと共にブリーフィングが開かれる会議室に入った。
すでに、日仏露連合の兵士が集まっており階級も様々だ。
ただ…その兵士の中に海軍の兵士はおらず陸空の兵士が会議室の中に詰められていた。
「なお、本作戦については本国より派遣された山中晴幸特務少佐による戦況及び作戦説明を行ってもらう。ここにいる指揮官はこのブリーフィング終了後予定されていり通り作戦行動を開始することとする。なお、今回の作戦において重要な役割を担う兵士が今、この場にいるがこれは私が既に当ブリーフィングへの参加を許可をした者である。私からは以上だ。では、特務少佐。」
基地司令の伊集院に代わり山中特務少佐が壇上に上がる。
「はじめまして、私は日仏露連合本国より派遣された山中晴幸特務少佐だ。早速だが、本作戦の概要を伝える。現在、敵はカラコラム及びウランバートルに集結し連日に及びウンドゥルハーンの航空部隊と戦闘を行い膠着状態にある。そして、ウランバートル、カラコラム周辺には敵の陸空軍基地、要塞が待ち構えており、バイカル湾には海軍基地が存在する。これら全てを撃破しモンゴル帝国首都カラコルムを襲撃する。モンゴル帝国の領土は知っているように大きい。その為、この攻撃後は輸送部隊による補給が絶望的になる。従って、ここにいる私の他、指揮官の多くは空路により最前線ウンドゥルハーンまで行くことになる。この基地から北京、ノモンハン、チョイバルサン、そしてウンドゥルハーンに至る空路となる。作戦の第一段階は我が日仏露連合機動艦隊による海軍基地空襲及び潜水艦による魚雷攻撃を行う。航空母艦呑龍を旗艦とする機動艦隊は攻撃後すぐに離脱する。続いて第二段階は戦艦による夜間砲撃を行う。当初の予定である陸軍による上陸も同時に行う。本来ならばここにいるC分隊もそれに参加する計画であったが空挺部隊の不足を懸念して私が呼び寄せた。海軍による砲撃、陸軍に上陸、そして、ウンドゥルハーンからの夜間空爆と降下を行うまでが第二段階だ。すでに、上陸部隊は海岸線沿いに移動している。第三段階は明朝再び航空母艦より発艦した航空機による攻撃を行う。その後は、陸空軍によるウランバートル、カラコラムを襲撃し本作戦は終了となる。だが、この作戦には懸念事項がある。一つは、敵の機動艦隊、二つ目は少数の空挺部隊での要塞攻略、三つ目は攻撃後の補給ルートの空白化とされる。」
「特務少佐、この作戦はいささか無謀かと…。」
「すでに、ウランバートルへの航空攻撃は計画されていますが…バイカル湾への攻撃は…。」
「空挺部隊による夜間降下は今回が初となります。特務少佐の部隊も参加となりますが本当に可能なんでしょうか?」
「夜間降下作戦のスケジュールを確認しましたが…これでは…。」
会議室には声で満ち溢れた。
この作戦は成功するわけないと…。
俺もそんな気分った。
地図では短く見えるがどう考えても距離が離れすぎていた。
「説明は以上だ。作戦を開始する。」
山本はそう淡々と告げた。
「待ってくれ…本当に368名の空挺部隊だけで要塞を攻略できるのか?」
「それが私が派遣された理由だ。」
「要塞が攻略出来なかった時は?」
「私は、失敗が許されていない。たとえ後に来るはずの陸軍が来なくても私…私達はあなた方を待ち続けるだけだ。…他に質問は?」
これで、ブリーフィングを終了すると言い会議は終わった。
俺とC分隊は航空機に乗り込み北京、ノモンハンに降り立った。
すでに、辺りは暗くなっていてよく見えなかったが草と機械の油の混じったにおいがした。
「ここがノモンハンの航空基地か…。」
基地の施設についた俺は、そう一言…呟いた。
「ええ、立派でしょ…。」
杏樹は、無理やり息を集めてそう言った。
だいぶ疲れているようだった。
確かにあの体勢はあまり良くない。
でも、移動するには仕方がない…そう思ってこらえた。
基地の周囲にはしっかりと張られているテントが並んでおり、まだ明かりがついている。
その中に、いくつか変わった物があった。
「変わったテントがあるね。」
「…昇、あれはゲルよ。」
「なんでそんな物がここに?」
「何でって…モンゴルの人から買ったって言えばいい?」
「…。」
ゲルとは、モンゴルの移動式住居だ。
元の世界のモンゴル帝国の頃は馬によって運ぶことができるものもあったらしい…。
だが、それがここにあると言うことは…どういうことだろう…。
もっとも坂上の言うように買ったとなればそれでいいかもしれないが…。
明らかに数が多かった…。
「バルロー曹長…。」
「今日は、ここで休息を取る。だが、テントが足りていないためあそこにあるアルスランで他の部隊と共用することになった。会議用の机の上で寝ることになるが野ざらしよりはいいと言える。ロラと坂上は木村軍曹と共に指定されたゲルに向かえ。以上だ。」
「はい。」
俺は、アルスランという大きなゲルの中に入った。
どうやら会議室として使われているようで南京錠のついた箱もいくつかあった。
規則性に並べられた机の上で俺は、眠りについた。




