モンゴル帝国攻略作戦 Ⅲ
用語解説
TT-33
トカレフと呼ばれる軍用自動拳銃
日本国内にも持ち込まれるなどソビエトや中国などで生産された。
PPSh-41
ペペーシャと呼ばれる短機関銃
スオミを参考に作られ大量生産された。
「僕は兵器とかそういうのはまったくわからないですが…確かにそうかもしれません。ただ…。」
昇は、晴幸にそう答えた。
「ただ…なんだ?」
「はい、…魔法とそう言えるかもしれません。それか、これは誰かの悪夢かもしれないって…。」
「…っぷ、ははっ…なるほど…確かにそうかもしれないな。」
「なっ…。」
昇は、気恥ずかしくなってしまい顔を赤らめた…。
そして、そんな彼に晴幸は言葉を続ける。
「確かにその年なら…まあ、そっちの方が信用性はあるかもしれないな。」
「…。」
「ああ、確かに的を得ているよ。この世界はもし…とかそういう話じゃなくてどこか歪だ。それでいて、過去に死んでいる人物に出会えば疑いようの余地は無くなる…私達は死んだのかと…。誰かの魔法によって命を握られている…誰かの心残りでここに迷い込んだ…はたまた大統領を狙ったテロを防げずに巻き込まれて死んでしまった…。その可能性が浮かび上がるのも無理はない…。」
「…私達は本当に死んだんでしょうか?」
「どうだろう…それは、わからない。昏睡状態に陥っているのかもしれない。全ては謎のままだ。」
晴幸は、顔に影を落としたように感情のわからない顔をしていた。
「だけど、心配することはない。田中司令によるとこの世界から抜け出す方法がある…。」
「死ぬことですか?」
「…死ななくていい方法だ。だけど、これには特定の条件があって、今はその時期ですらない…まだ帰れはしない…。」
「…帰れる希望がまだ、あるんですか。」
「田中指令はそう言った。だから、君も信じてほしい…。そのために、戦ってほしい…。」
「わかりました。」
「…その返事を待っていた。」
「その…戦うって…何とですか?」
「…ああ、そうだった。当初は、民間人を戦場に…というのももはや守れなくなってしまったのは本当に不甲斐ないばかりだ。慣れはしてほしくはないと思うが、君をまた戦線に送り込まなくてはならない…。」
「…。」
昇は、喉に異物が詰まった…そんな不快感が込み上げてきた。
また、戦場に行くこともそうだし…何より分隊のこともそうだ。
与那国島奪還作戦では、C分隊で犠牲者は出なかった。
だが、今回はどうなるのだろう…。
あの兵士達の身体が積み込まれた船での出来事のように…今度は誰と共にどこへ運ばれるのだろうか…。
それとも、ここに来る途中で見かけたモノのように底に残るのを見送るのか…。
そんな考えが頭の中をよぎった。
「…今回の作戦を説明しよう。私達、日仏露連合はは陸海空共にここモンゴル帝国に送り込まれた武器弾薬及びその他関連資材を全て使い戦争を集結させる作戦を展開する。この作戦が失敗すれば私達は占領した沿岸都市及び現支配領域下の多くを失い、戦争終結へ退くことになる。本作戦名はカラコラム襲撃作戦…もとい、炎蒙作戦と呼称する。この作戦は本国軍司令部で提案されたモンゴル帝国陸海空合同侵攻作戦を基にピョートル様が一部変更したものとなっている。…それで、この変更が私と君を左右することになっている。」
「…その変更って、なんですか?」
晴幸は言いづらそうな顔を浮かべて昇に話した。
「夜間での降下作戦だ…。」
「…そんなのほとんど自殺行為じゃないですか!」
「ああ…だから、私達がこの作戦に参加するんだよ。」
「…。」
「その表情は…やはりある程度は予想できたみたいだね。」
「…はい、ですが僕はできてもC分隊は…。」
「C分隊の隊員が魔法を使えるのは知っているか?」
「知っています…それじゃあ、暗い所も見えるんですね。…みんな。」
「私たちの身体は、通常のよりもいくらか特殊なのはうすうす感じていただろう。」
「はい。」
「暗視能力は、この身体によるものだ。私はどういう仕組みなのかはわからないが…魔法っと否定したくても否定できない。そして、C分隊はその部隊の性質上特殊なヒトで構成されている。」
「…空挺降下を担当するのには丁度いいって、ことですよね。」
「ああ…今回の作戦は私の隊の隊員も参加する。敵の数は多いが、私達降下部隊の絶対数で戦うわけではないし大局的は私と君…一人一人の活躍にはよりはしないがある程度左右する。…戦う以上、全力で戦ってほしい。」
「わかりました。」
「さて…後は君への贈り物が届いているよ。」
「…本当ですか?」
「ああ、まあ…君が期待しているようなものじゃないないけどね…。」
「もしかして、カチューシャからですか?」
「…正解。さてっと…ああ、君の銃はとりあえず机の上に置いてくれ。装備が増えることになるから。」
「あっ、はい。」
俺は、言われた通りにモシンナガンを机の上に置いた。
山中さんは、木箱を開け中から金属製の物を取り出した。
金属製の大きな物体と、細長い黒い棒のようなもの、弾薬を机の上に並ぶ。
「…まあ、そんなに微妙な顔になるのも無理はないか…。こいつは、PPSh-41(ペペーシャ・ソーラクアジーン)…長いからペペーシャって呼ぶといい。有名なサブマシンガンの一つで君たちC分隊に支給された。ドラム型の弾倉もあるけど箱型弾倉だけみたいだね。使用しているのは7.62㎜×25㎜弾でモンゴル軍、そして、今回の作戦に参加する兵士達とも弾薬の受け渡しはできないから弾が切れたら捨てるといい。」
「わかりました。その…山中さんは銃に詳しいですけど、山中さんもこの銃を使うんですか?」
「いや、使うのはMP40だ。使っている拳銃とも弾薬は同じだから使い勝手はいいけど…たぶん、そんなことにはならないと思うよ。ああ…そうそう…それとなぜか拳銃も入ってたけど…たぶん、君にだよね。」
「…たぶん、そうだと思います。」
「それじゃあ、交換しようか。…いや、たぶん、そうしろと彼女が指定しているみたいだから…。」
「どういうことですか?」
「とりあえず、君の銃を机に置いて…。」
俺は、言われた通りにM1895(ナガン)をホルスターごと机の上に置いた。
拳銃を置くと、なぜか山中さんは奇妙な顔をした。
呆気に取られているというべきか…。
「…君、よくもまあこんなもので与那国から返ってこれたね。」
「役に立ちましたよ。」
「M1895か…。確かに悪くはないとは思うよ。この先も役に立つとは思うし…。リボルバーか…それは知らなかった…。ああ、ごめん…これが新しい拳銃だ。どうぞ…。」
山中は、ホルスターから銃を取り出し机の上に置いた。
ゴトっと、少し重めな音がした。
そして、そこに置かれていたのはやけに見覚えのある黒い拳銃だった。
「これは、TT-33。トカレフと言った方が分かりやすいね。さて、どうやらセーフティはあるみたいだから私達が居た世界のオリジナルそっくりそのままではなく、派生型っていった方がいいかもね。グリップはわざと鋼板じゃなくて木製だからそうとう前から用意していたのかもしれないね。こいつが使用するのはPPSh-41と同じ7.62㎜×25㎜弾。」
「なんかあんまりいいイメージがしない銃ですね。」
「確かに日本でも密輸されたりとかあまりいいイメージがないのは確かだ。しかし、ある程度は頼りにはなるよ。私は使いたくはないが…。その…何というか…まあ、使いにくかったらM1911(コルト・ガバメント)や、使っているM1895の方がいいかもね。」
「そうですか…。変えなくていいかな。」
「…う~ん、ここはそれでもトカレフに変えた方が将来的にはいいかもしれない。その…せっかく送られてきた物を送り返すには普通に考えていいことではないし…まあ、今回だけと思って使ってみたらいいと私は思うよ。」
「その…オリジナルのトカレフよりは安全なんですよね。」
「確証はないが…機構的には安全性は高くなっていると私は考えるよ。あいにくこの銃はトリガーを軽くはしていないから衝撃が加わっても暴発しづらいという特徴がある。だとすれば、今回の作戦にはうってつけとも言える。」
俺は、銃を手に取り触れる。
カチューシャとの訓練の時、何種類かの拳銃に触れた。
その中に、この銃と同じ種類の物があったかはわからない。
ただ…何というか…不思議な銃だった。
「…どうした?」
「使ってみようと思います。…この銃を。」
「そうか…なら、後は君に任せるよ。M1895の処分は私がしておく。…ブリーフィングまで時間はまだあるから自由にするといい。」
「わかりました…その…また、あなたと会えますか?」
「上からの命令次第と言っておこう…それと、もし他の隊員や記者に会うことがあったら私や他に会った人達と話すといい…まだ、この時代はインターネットが普及してないからね。君も携帯電話が使えなくて不便だろう。」
「スマホは、桜…桔梗さんに渡したので…持っていません。こうして、人づてに話をするしかありません。」
「そうか…私も君のことを誰かに話しておこう…。嫌な顔をされるのは確かだとは思うが重要な情報だからね。それと、その扉を開けたらこうして君と会話するのは難しくなる…だから、これだけは言っておきたい…。」
「…。」
「君は、日本人だ。」
「はい。」
俺は、そう返事をしてPPSh-41とトカレフ、そして、相棒のモシンナガンを持って部屋から出た。
…心の中でM1895に別れを告げて。




