いつまでもはありえないこと。
用語解説
・地図
古くからの軍事機密
日本だと、国土地理院に行けばあります。
「…もう朝か。…今日で何日目だっけな?」
たぶん、もうずいぶんと時間が経っているはずなのだが、訓練施設を往復するだけだし、いつも桜や、カチューシャ、ジャンヌがそばに居てくれるので彼女たちについていくだけなのでそんなに考える必要もなかった。
「…まあ、いいか。とりあえず飯を食べに行こう。」
そして、俺は結局、いつも通り服を着替え食堂に向かった。
「おはよう、桜。」
「おはようございます。昇さん。昨日は、寝付けましたか?」
「ああ、すぐに眠れたよ、カチューシャの訓練のおかげかな。」
「そうですか…。まあ、身体は大丈夫そうですね。」
「ああ、まあね。それよりも聞きたいことがあるんだけど?」
「はい、何でしょうか?」
「ええっと、今日って何月何日?」
「今日は、5月15日ですよ。」
「そっか、俺がここに来てから何日くらい?」
「ええっと、そうですね。ちょっとお待ちください。」
そういうと桜は、スカートのズボンから手帳を取り出した。
パラパラと、めくりページを探す。
そんなに、ページ数があるのかとは思った。
ほどなくして、桜はページを見つけて日付を確認した。
「はい、昇さんが来られたのは4月10日ですね。」
「なるほど、もうそんなに経つんだ。」
「はい、そうですね。」
…って、ことは俺がこの世界に来た日は、4月6日くらいだな。
でも、俺が入間基地に来たのは6月13日だったから、一年先送りしたのか、過去に戻ったのか…まあ、多分関係ないとは思うけど。
それにしても、もうそんなに経っていたとは思わなかったな。
「それじゃあ、さあ。」
「はい、何でしょうか?」
「そろそろ、休みの日が欲しいかなとか、思ったしたり。」
「…休みですか…そうですね。考えておきます。とは、言ってもこの辺りのお店は酒店とかばかりなので、パリに行かれた方がいいかと思います。」
「パリ?」
「はい、飛行機で行けますよ。基地ありますし。」
「…えっ、本当に?」
「はい…。」
「日本から何時間もかかるのに?」
「…言っている意味がよくわかりません。確かに、何時間もかかりますがそれほど離れていませんよ。海をまたいでちょいちょいです。」
「あっ、そうなんだ。…いや、断じてありえない。距離が全然ちがうじゃん。」
「…もしかして、あなたの世界の基準で言ってますよね。」
「えっ?」
俺の世界の基準…。
ああ、そっかここ異世界というか、何というかそんな感じ何だっけ?
でも、フランスから日本までかなりあるはずなんだけどな。
この前、だってあんなに長距離移動したのに。
「あっ、やっぱりそうなんですよね?」
「えっ、あっ、ああ。」
「確かに、日本とロシアとフランスの距離感について、教えていなかったですね。」
「うん。そうだけど…。」
距離感って、言われてもそれがって、感じだが。
でも、ロシアとフランスならロシアの方が近いと思う。
何千キロメートルも離れているだろうしと思った。
「それじゃあ、教えてあげます。まず、ロシアと日本は鉄道で繋がっています。」
「…日本海縦断?」
「違います、陸続きです。北海道までは。」
「…それじゃあ、ロシアからフランスまでは?」
「海路と空路ですね。海中トンネルはまだ、計画の段階だそうでできていません。近い港から行けます。」
「なんだ、北極海を通って行くだけか。」
「…昇さん、面白いこと言いますね。まず、ロシアとフランスと日本は温帯なので、北極から離れていますよ。」
「…あの、桜?」
「はい?」
「まず、前提としてロシアが温帯にあるのがおかしいし、何より海中トンネルで行ける距離にあるのもおかしいと思うんだけど。」
もし…そんなことが起きていたらロシアはどれだけ住みやすい土地になっているんだろうと不思議に思った。
そもそも、なんでフランスとロシアなのだろうか?
ベトナムと、シンガポールでいいじゃないか。
やっぱり、名前が同じだけの違う国なんじゃないかと思う。
「だから、おかしくありませんよ!事実ですから認めてください。」
「…地図を見れば、わかるんだけど。」
多分、地図を見ただけで俺がさらに、混乱するのはわかっている。
だから、と言ってダメもとで頼んで見た。
「…仕方ありませんね。とは、言っても軍事機密なので持ち歩いているのは連合の地図しかありませんけどね。」
「…いや、それが今必要だから。」
「そうですか…世界は広いですよ?」
桜は、そういうとまた、手帳をパラパラとめくった。
付録の部分にあったらしくさっきより早く見つかった。
「はい、どうぞ。」
「ああ。」
桜から渡された地図を見た。
そこには、見覚えのあるような形があった。
しかし、俺がいつも見ている日本地図とは異なっていた。
本州、四国、九州、北海道が全てばらばらに散らばっていた。
それどころか、北海道に至ってはロシアと繋がっていた。
なんというか、グロテスクな光景だった。
「…桜、これって。」
「だから、これが日露仏連合の地図ですよ。」
「いや…やっぱり何かおかしいよ。」
「そういわれましてもね。私は、大陸そのものを動かせませんよ。」
「別に、そんなことは頼んでいないけど…大陸?」
「…大陸とまでは言いませんけど、島ぐらいなら。」
「いや、そうじゃくなくて。」
「…何なんですか?」
「いや、他にも国があるのかなって?」
「ありますよ。」
「そうなんだ。」
「…ただ、ですね。」
「うん?」
桜は、少し顔を下に傾けた。
「あまり、友好的ではありませんね。」
「…そうなの?」
「はい。国交すらままならない国もありますから。」
「そっか。」
「さて、そろそろ訓練に行きましょうか。」
「わかった。ところで、今日は何の訓練?」
「今日は、バイクの運転です。」
「…バイク?」
「はい、モーターバイクですよ?」
「…俺、免許持ってないよ。」
「知っていますよ。あと、もうすぐ国籍が届きますので待っていてくださいね。」
…国籍?
「あの、さあ、桜?」
「はい?」
「国籍が届くってどういうこと?」
「あっ、そうですか。まだ、言っていませんでしたね。すいません。」
「…どういうこと?」
「はい、ええっと、そうですね。日露仏連合の国籍は発行制なのでもう少しお待ちください。」
「…よくわからないんだけど。」
「何がですか?」
「国籍。」
「…それは、勉強不足じゃないんですかね?」
「いや、違う、違う。そもそも、俺は日本人だし…国籍だって…。」
「なるほど、二重国籍とかそういうことですね。」
「…それだけじゃないけど。」
「心配ありませんよ。第一、日本国なんてこの世界にはありませんし、実質今、あなたには人権が働いていない状態に近いですよ。」
「なっ…。」
…人権が働いてない…って、どういうことだよ!
それじゃあ、俺は今、何なんだよ。
そもそも、無くせるものなのか?
いや、そうじゃなくて…まず、日本があるのかないのかはどうでもいい。
人権が働いていないって、それじゃあ、死んでいるのと同じじゃないのか?
「噓じゃありませんよ。政府が無いんですし、機関も無いですから。ひとまずは、連合の国籍を持つということで…登録させていただきました。」
「…言いたいことはわかるけど…けれど。」
「こればっかりは、仕方がないことだと思います。今は、持っているか持ってないかではなく所得していた方がいいもののはずです。それに、昇さんは異世界に来られたわけですからあなたが居た日本は時空間的に別の場所にあります。そもそも、そういった場合に、どの程度、日本の政府の権利が適用されるのか前例がありません。また、ガイドラインも設けられていないので、昇さんをどうするかは私たちが決めてもいいことになります。…まあ、あくまでもの話ですけどね。けど、私達の独断であなたを殺すことも可能でした。殺したところで、あなたはこの世界では産まれてはいない、無戸籍の人ですから、裁判にすらならなかったと思います。」
「…日本が無いか。」
「はい、今、私達は長篠昇を保護していますが、それが、いつまで続けるかは上の判断によります。」
「…捕虜ではないよね。」
「それは、…答えかねます。」
「…わからないことばかりだな。」
「…。」
「わかった、ひとまずは貰っておくよ。」
「そうですか…そうですね。」
「なあ、桜。」
「はい?」
「俺は、この世界の人間になれるのかな?」
俺の言葉に、少し戸惑った桜だったが、すぐに、返事をしてくれた。
「はい、きっと…なれるはずですよ。」
「そっか。」
「さて、そろそろカチューシャがここに来る頃ですね。彼女、はりきっていますから。頑張ってくださいね。」
「わかった。気を付けるよ。」
「はい、それではお気を付けて。」
この日は、バイクと実弾を用いた射撃訓練をした。
車体の整備に、少々手を焼いたが時間内には終えることができた。
結局、その後桜と話すことはなかった。




