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銃と女性は扱いづらい?

用語解説

・匍匐前進

自衛隊のみならず軍隊の定番

実はかなり大変な歩法


・ワイヤー

鉄でできた線

ブービートラップや、有刺鉄線など用途は様々


.○点射

発射する弾の数の事

なお、今回はあくまで仮想である。

「…きついな。」


訓練用のライフルといえどもやはり、銃には変わりがない。

少なくともそれまでの訓練では、重い物と言えばせいぜい背嚢くらいだった。


「遅い!もっと、速く!それに、ワイヤーにも引っかかってるじゃないですか!」

「…すいません!」

「ライフルを持ったくらいで、匍匐前進は遅くなりません!」

「わかったよ、カチューシャ。」

「ライフルを前に出すのではなく、身体を動かすんです!ライフルの先を上下に揺らさない!」

「了解!」


今、俺がやっているのは戦闘訓練でこの基地の一角の草むらで訓練を行っている。

草むらと行っても、どちらかというと地面が見えている場所が多い。

そして、雑草も倒されていた。

おそらく、俺の他にもこの訓練を行ったのだろう。


「…それに、どうすればいいのやら。」


少なくとも何も持っていない状態であれば、匍匐前進くらいはできる。

しかし、そこにライフルが加わっただけで難易度は跳ね上がった。

匍匐前進は、肘で身体を支え、前進で前に進む行進方法で、基礎的なものである。

簡単には、習得できるものではない。

結局のところ、地面に肘を擦り付けたせいで服が破けてしまった。


「…行進終了。」

「…いえ、もう一度最初から!」

「…了解」


俺が、そう答えながら起き上がろうとしたら、カチューシャが俺の背後を蹴り飛ばしてきた。


「…なんで?」

「気がゆるんでいる気がしました。次で、一旦終了しますので…現金な人ですね。」

「…いや~、ちょっときつくて。」

「まだ、ダメですね。銃床が地面にこすっています。なるべく早く直さないとくせになるから早めに直すこと!」

「わかった。」

「よしっ、それじゃあもう一回!」


結局、この日は一度も引き金に触れることは無かった。

ただ、延々と泥と砂にまみれながら訓練を行った。

かがんだり、塀を登ったり、柵を越えたりした。


「…まだ、ひりひりするな。」


シャワーを浴び、夜食を取った後、桜達の講義を受けた。

講義の内容は、コンドームの付け方と、銃の各部品の名称などライフルについての講義だった。


疲れた俺は、ベッドに仰向けに伸びている。

首が少し動きづらそうになっていた。

紛れもなく、頭を上に上げ過ぎたせいだ。

少なくとも、あの体勢を維持し続けるのは身体によくないだろう。

それでも、自分の命に比べたら楽な方かもしれない。

とはいえ、匍匐前進を行ったのはまだ、短い時間だった気がする。

最後の方は、控えめに言って障害物競走だった。

泥に浸り、水に濡れ、野を走る。

壁を越え、柵を飛び、的に構える。

引き金に指をかけることもなく、ただ走り回った。

そのたびに、カチューシャは構えが浅いとか、銃口を向けるのが遅いだとか、弾数を覚えているのかとか、そう言った事を聞いてきた。

でも、というか普通に俺は答えることが出来なかった。

その度に、最初からやり直すのだが。

カチューシャは、順番をランダムに変え、さらに、筋トレを加えてきた。

俺の持っていた訓練用のライフルの大本…現役のライフルの装弾数は8発。

拳銃より、少ない。

たった8発の弾でどうしろというのか疑問に思った。

そう、この8発が意外と厄介だった。

今日の訓練の的は、15ヶ所あり、さらに、カチューシャの言った回数だけ弾を消費するというもの。

ちなみに、ライフルの弾は入っていないので仮想上の弾だ。

先ほども言ったように8回した発砲出来ない。

なのに、的の方が多いし、カチューシャは2点射とか、3点射とか、自然に言ってくる。

なので、初回に8発撃った時は、一度地面に伏せないと言われた。

そもそも、何で弾を8発しか持ち歩いていないのかは、ともかく。


「今のところ、刺突だからね」


っと、剣すらついていないのに言ってくる始末。

実際、刺突動作をすると、


「どう考えても距離感おかしいよね?」


っと、言われる。

カチューシャの言いたい放題の訓練だった。

思いっきり、カチューシャに向かって銃床をぶち込みたい。

そんな気分になっていた。


「…今日もいろいろあったな。」


天井を見ながらそうつぶやいた。

何で、こんな事をしているのか。

俺は、本当に兵士になって戦場を駆け巡ることになるのかまだ、わからないままだった。

自分が、今何でここに居るのかもわからない。

そして、桜やジャンヌ、カチューシャが何で俺に関わっているのかもわからなかった。

俺は、その何故かを問おうかもせずに、何も考えておらずに今日も過ごした。

答えが欲しいはずなのに、俺は、確認すらもしていない。

答えは見えているようなものだ。

俺がここから逃げ出さない限り、戦場は俺との距離を詰めてくる。

それも、嬉しそうにだ。

今日から始まった訓練もそういうことだろう。

確実に、俺が戦場に出て戦うことになるのは誰でもわかる。

人生でかけがえのない経験にはなるかもしれないが、それが意味しているものは多分異なるだろう。

俺が、明日にでもここを離れ、どこかに向かった同郷の人達のもとへ向かえば何とかなりそうな予感がした。

けれど、どこへ向かえばいいのだろうか。

ただ、これまでのように学校に行くのと同じように不透明な行き先しか見えなかった。


「…明日から、実弾を使うのか。」


徒手による格闘から、近接武器、そして、銃になった。

今度からは、銃での戦闘がメインの場所となる。

そういう意味合いでもある。


「カチューシャは、俺のことどう思っているのかな。」


そんなことを、考えたがすぐに彼女の顔を思い出した。

そして、すぐにどう思っているのかはわかった。

そう、昼間俺が、訓練しているなかカチューシャはただ笑っていた。

そして、俺が、ミスをするたびにその笑顔は消え、冷たい微笑に変わる。

恐ろしいまでに、真剣な表情だったのを憶えている。

とすると、カチューシャは本気で俺を戦場に送り出したいらしい。


「…そんなことないか。」


それにしても、眠い。

いつもより早いけどもう寝ることにしようとした。

けど、俺はカチューシャへの不満からか余計な一言を話してしまった。


「はあ~、まったく…カチューシャって何であんなに可愛げが、無いんだろうな。」


すると、外から嫌な音がして来た。

気になったので、ドアを開けて見るとそこには何やら美味しそうな林檎を持ったくだんの人物が、これまた真剣なまなざしでこちらに目を向けていた。


「…おやすみなさい。」


俺は、何も見なかったと自分に言い聞かせてドアをゆっくり閉めようとした。

しかし、何故だか閉まらない。

下を見ると何やらスコップが挟まっていた。

何でこんなところにあるのだろうか?

俺は、それを引っ張り出そうとする。

けど、俺の身体は逆にスコップに吸い寄せられた。


「夜分遅くに失礼いたします。こちらは、長篠昇様のお部屋でございましょうか?」

「ええ、そうでございます。よろしければ本人が戻るまで中で、お待ち頂けますか?」

「…私って、そんなに可愛げがないですか?」

「誠に申し訳ございません。」

「はははっ、なんだよ…心配しちまったでござります。リンゴの皮をむいてあげようかなと思ったので、ございますが。どうやら人の皮を一皮むいてあげなければいけませんね。」

「…ごめんなさい。」

「昇さん?」

「はい…。」

「私は、綺麗で、可愛げがあって、可憐な女の子ですか?」

「…。」

「ふふ、私は、綺麗で、可愛げがあって、可憐な女の子ですか?」

「はい、そうです。」

「知っていますか?女性に噓をつくとどうなるか。」

「…本心なんだけどな。」

「先ほどの言葉もですよね?」


この後、何が起こったのか憶えていない。

次に、目を覚ましたのは朝だった。

何故か首も痛くもなく、俺は健康そのものだった。


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