ベアトリクスとの別れ、3国の絆
用語解説
・Scho-Ka-Kola
ショカコーラ、カフェイン入りのチョコレートで、ドイツ軍の糧食でもあった
・エトナ山
シチリア半島にある火山
カターニア・フォンターナロッサ空軍基地
イタリアのシチリア半島、はてさて今は何月だったのか?
そんなことを教えてくれないとばかりに、日差しと風がある。
「なあ、ベアトリクス…今日は、何日だっけ?」
「今日は、6月23日ですよ。」
「そうか…。」
「ふふっ、昇さんは実にルーズですよね。というか、カレンダーは確認しないんですか?」
「なんか見るには、見るけど結局忘れてる…。」
「4月2日に昇さんは、あの作戦に参加したんですよ。それから、数週間…風の魔女と過ごして、今度はこの私、電気の魔女と過ごしました…。」
「…数週間、そうだったかな?」
「ええ、実にイライラします。」
「それは、それは…。」
俺は、この空港に降りる前にとある山を見た。
その山は、エトナ山という…この飛行場の北側にあり、その山は…アンジェラ、水の魔女との最終決戦地であり…俺が、ミア達…いやっ、多くの兵士を失った場所だった。
その後、ローマ帝国は滅亡した。
またしても、というべきか…。
俺は、コーヒーを飲みながら、ベアトリクスと話をしていた。
実に、気長な旅であると思う。
コリアンナ曹長は、お茶菓子のクッキーを貰いに行っている。
俺は、日本国旗のような物が描かれた缶に入ったチョコレートを口にしている。
Scho-Ka-Kola、ようはカフェイン入りのチョコレートで、コーヒーと同時に摂取するという悪魔的な諸行をしている…。
まあ、気にすることもないだろう…。
「なあ、このドイツ帝国も滅びるのか?」
俺は、周囲に人が居ないか確認しながら言った。
とは言え、飛行場横のガラス張りの庭園のガセポの中に居るので、本当は気にする必要がないが、コリアンナ曹長に見つかるとマズい…ベアトリクスが口封じするとはいえ…。
「どうですかね?」
「…ん?」
「滅んだら、滅ぶだけですよ…。生命に解放あれ!」
「…what?」
「汚い英語なんて使わないでください!」
「ああ、ごめん…??いやっ、答えになっていないぞ…。」
「この国が滅んだときは、私が昇さんに殺される時ですよ…。」
「…。」
その言葉で、俺は瞬時に察した。
消失の魔女であるサラ、水の魔女のアンジェラを殺したのは俺である。
LLF(生命解放軍)による…。
それとも、俺がやるべきこと…。
もしくは、運命…。
「いやっ、そうかもしれないが…そうじゃないかも知れない…。」
「…私は、昇さんに殺されたいですよ。」
「ベアトリクス!」
「…ごめんなさい!」
俺が、ベアトリクスを怒鳴ると、彼女は委縮した。
初めて見る表情であったが、それを見て、俺は我に返った。
俺は、本心から彼女のことを思っていたのだろう…。
ただ、なんというか今までにない感情だった。
しかし、自然と違和感がない。
それは、まるで彼氏が彼女…愛すべき人に向けるような、それ…。
(…ダメだよな。)
死者を愛すのか?
そんな気持ちの悪いくらい冷静な言葉が俺に突き刺さる。
自分自身の言葉であるのが、なおさら質が悪い。
「…。」
「…。」
「…はぁ。」
俺は、ため息をついた。
だから、冗談めいたことを言うほかなかった。
「君を殺すか…。」
「はい。」
「嫌だよ…でも、それしかないのか?」
「昇さんが変えるためには、それしかありません。」
「みんなの為に?」
「いいえ、全部あなたの為ですよ。」
「俺の?」
「いえっ、これから、これまで人を殺してきたのは全部自分自身の為です。後悔しているとはいえ、投げ出さずにここであなたと話しているというのは、そういうことですよ…。」
「…そうかな。…そうだよな。」
「昇さん?」
俺は、たぶん…何かが嫌だった。
強制とか、義務じゃなくて…やれと言われたことが何かわからないんじゃなくて…。
なぜか、意識を彼らに委ねられなかった。
それは、俺が弱いからだ。
楽な方に流されれば、いいはずなのに…。
「ごめん、ベアトリクス…また、弱音を吐いて…。」
「ふふっ、いいんですよ。昇さんらしくて…。」
「俺らしい?」
「はい、いつでもLLFに頼めば意識、記憶も全部忘れられます。けれど、昇さんはそうしなかった…たぶん、これからもですよ。」
ベアトリクスは、俺のことを何もかも見通し…いやっ、知っているようだった。
それこそ、何年も前から…。
そんなはずはないのに…?
「ベアトリクス様、クッキーをお持ちしました。」
コリアンナ曹長がやって来て、その後はただ3人で話した。
翌日、6月24日に再び、B-29に乗り、ドイツ…エアフルト・ヴァイマール空軍基地に向かった。
そして、俺はベアトリクス、コリアンナ曹長と別れ、家に帰った。
7月2日
この日、パレードが行われた。
その主催者たる人物は、アドルフ・ヒトラー…。
酒場で、老人たちと一緒に白黒のテレビを見ていた。
「我がドイツ国民よ、ここに三魔女の力による新たな航空機の正式採用を祝い、告知をしよう。
空軍力において、今後、ドイツは負けることがないと!
私達の国家の前において、魔女たちによる代理戦争から、人類への戦争へと大きな変化、パラダイムシフトが起きている!
これは知っての通り、とある青年によるものだ。
各地で、魔女が敗北している。
しかし、相打ちによるものであり、どれも噂話や伝説に過ぎない。
ならば、最強を示すには人類を、ドイツ国民を強化すると必要がある!
そして、ここに、大日本帝国総帥東条英機、イタリア王国首相ムッソリーニの2人がここに来た。
私達は、敵国であるアメリカ、イギリス、フランス軍残党、アフリカ諸国、列強植民地を撃ち滅ぼし、すべての人々に平等で、武力による戦争の無い平和な世界を樹立する!
汚染されたユダヤ人を全てこの世界から、抹消し!
浄土とする!
そして、国民にのみ、恒久的な生活を提供することを約束しよう!
ドイツ帝国、万歳!」
ヒトラーの演説の後、すぐに東条英機が壇上に上がった。
「こんにちは。
私は、大日本帝国総帥東条英機です。
本日は、お呼びいただきありがとうございます。
…さて、私達日本帝国民、ドイツ帝国民、そして、あなた方ドイツ帝国民はユダヤ人により苦しめられてきました。
それは、資本主義を利用した搾取システムです。
そして、我が日本帝国の魔女、浅間様からの言伝を頂いております。
『我が国民において、一蓮托生であり、世界は統合すべし、悪しき者を撃つべし。』…。
これにより、私達はこの航空機を本日より生産し、覇権を得ることになりましょう。
ただ、それだけではありません。
日本から、ドイツの皆様へプレゼントがありません。
まず、大和型戦艦25隻をお送りしました。
次に、翔鶴型空母5隻、秋月型防空駆逐艦20隻、タンカー50隻をお送りします。
そして、今後も約35000隻の贈与を計画しており、航路を確保することが出来ることでしょう。
我等は、共にあり、ドイツ帝国万歳!」
会場の歓声がよく聞こえる。
「私は、イタリア王国首相、ベニート・ムッソリーニだ。
今回は、新型航空機の発表のお祝いと、ドイツ帝国へのお礼を申し上げに来た。
数か月前、我がイタリア王国はローマ帝国との戦争により、大きな被害を受け、水の魔女であるアンジェラを失った。
だが、あなた方ドイツ帝国は武器や資源、兵士達や民間人への手厚い支援を行い、順調に復興と、占領地での入植が行われている。
ひとえに、あなた方の協力があってこそだ。
ローマ帝国にある鉱物資源との航路もあり、今後はより盤石な軍備を整えられることでしょう。
我がイタリア王国は、ドイツ帝国と共にあります!
ドイツ帝国、万歳!」
白黒テレビから、そんな会場の熱気が映し出された。
その日、俺といつもの画家の老人たちと飲んでいたが、1人だけなにやら、懐かしそうな視線を浮かべ、ビールを飲んでいた老人がそこには居た。