肉体の損壊による精神的ショックと、自己認識
注意
場合によっては、ショックを受ける可能性があるので心臓、ショックに弱い方はお気を付けください。
用語解説
・コンテンダー
コルト社の製品で、1発のみ装填できる銃
わりと有名
・MAS Mle.1950
1950年にフランス軍に採用された半自動拳銃
ベレッタF92のフランス版の前に採用されている
・丸鋸
歯の付いた円盤を回して木材を切るやつ
チェーンソーみたいなもの
大日本帝国領サイパン島ノースフィールド飛行場
「…いえ、そんなことは…。」
「えいっ!」
「…。」
桜が、和元の背中に軽く触れると彼女は意識を失ったように棒立ちになり、ジャンヌの座っているソファに横並びに座らせた。
桜の手には、石…ほんのアクセサリーサイズの石が握られていた。
魔法があるこの世界では、それは当たり前のような出来事なのだが、私の心中は荒れていた。
一体、いつからだったのだろうという、混乱の他にない。
「…。」
目を閉じている、彼女…久代は、完全に意識がなく…生命活動すらも失われているような錯覚に陥るほど、静かだ。
本当に、死んでいる…いやっ、どうなんだ?
「彼女は、大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。見た目、以上に…。」
「彼女はいつから、こんな状態に?」
「この世界の時間だと、かなり前になります。具体的には、田中司令…あなたをBackdoorに、連れて行った後に処置をしました。」
「…そんなに、前から…。」
「はい…。」
…なぜ、私は気がつかなかったのだろうか。
それよりも、私に相談もなく…。
「彼女は、死んでは居ないんだな?」
「はい、安全な状態で停止状態にはありますよ…。今から、それについてもお話します。桜!」
「はい、では…また、起動状態に戻しますね。それと、再調整とメンタルチェックの為、しばらく、彼女の身柄は拘束します。…心配ありません、彼女は何も覚えていません…しばらく、この部屋には戻りませんが…気にしないでください。」
「待て!」
「…動かないで。」
「むっ?」
ジャンヌの静止を振り切ろうと、腰を上げた田中にジャンヌは、銃を向けた。
ジャンヌの手には、コンテンダーが握られていた。
「私を脅す気か?」
「脅すのなら、もっと簡単に出来ますよ…。」
「その銃の1発で、私が仕留められるとでも?」
「Non!これは、あなたを職務放棄させられる銃です。」
「それは、死じゃないのか?」
「いいえ…。」
「ハハッ、じゃあ…私を撃って…。」
発砲音が一発、部屋で響いた。
立っていた私の左胸を何かが貫いた気がした。
ジャンヌは、MAS Mle.1950で、田中の心臓を貫いた。
「はぁ…っ…うぐっ…。」
血が抜けていく…。
ショックが身体、脳に作用する…。
「…あぐっ…。」
また、発砲音がした。
ジャンヌは、二発目を座り込みそうになっていた田中の左下腹部に撃ち込む。
「…。」
あわや彼の左腕にも、当たるというばかりだが、ジャンヌは左手で狙い撃った。
不思議と私は、痛くなくなった…。
「回復弾?」
「いいえ、田中さんもなかなかのゲーム脳ですね。」
「じゃあ、一体…何を?」
「…痛覚が切れているというより、あなたとその身体のリンクが…いえ、感覚が感じられないようにしました。」
「つまるところ、これが本来の私たちの感じ方なのか?」
田中は、そう尋ねた。
彼自身は、そこまで頭が悪くとも、感が鈍いわけでもない。
再三にわたり、自身の身体が偽物と聞かされていても、痛苦を感じたのは事実だ。
変わった都市伝説の中に、自分は今、バーチャル…もとい、仮想世界に居て、人類は全て脳みそだけの姿になり、何者かに管理されているという話だ。
では、脳みそすらない私は、なんなのだろうか?
幽霊たらしめているのであれば、無痛なのが普通なのだろうか?
「そうですね…大半はそうですよ。多少の例外は除いては…。」
「なら、私たちに身体は必要だったのですか?」
「最悪、元の身体に戻った時に障害が残りますよ。」
ジャンヌは、そう簡単に言った。
私は、子供の頃、右腕を折った事がある。
その時ですら、不自由はあった。
「…そういうことですか、本当にそんなことが?」
「あくまでも、予想ですよ…。それに、無痛だったらどんな危険なこともやりかねません。」
「危険なことか…。」
「ええ、例えば…。」
「いやっ、聞きたくはない…。」
リストカット、首吊り、飛び降り、自傷行為…そんなところだろうか?
ああ、想像はしたくない。
「他には、それこそ…リハビリですね。感覚が無いというのは、死亡率が増加します。例えば、この紅茶は熱いですが…それすら、感じられません。もっとも、それが四肢になれば、歩行が困難になるか、負傷しても何も気がつかない…。」
「…そういうことですか。」
何やら、怖い話をされたが…。
いやっ…。
「…私は、どうなるんだ?」
「どうかされましたか?」
「…心臓を撃たれて、いるのだが?」
「ああ、身体を交換しておきますね。」
「…そうじゃない!私は、大丈夫なのか!」
「眠らせて、再移植します。」
「…そういう問題では、無いような気がするのだが…。」
私が、おかしいのだろうか?
いやっ、LLFがおかしいはず…。
というより、この娘がおかしいのか?
田中は、慣れ始めた日常から再び非日常に呼び戻された。
では、和元久代は、正しい…正常だったのだろうか?
私は、どこかで安寧を求めたのだろうか?
「いいですか、田中さん!」
ジャンヌは、少し怒ったような口調で言った。
「その身体は、所詮、偽物の製品です!いくらでも、代わりの物があります!今からでも、あなたの腕を丸鋸で切って、その後、縫合することも出来ます!しかも、痛みもなくです!」
「そんなことをしなくても…。」
「いえっ、わかっていないようなので理解してもらいます!」
ジャンヌは、そう言うと左手の銃をソファに起き、左手を、親指と人差し指でコの字型にし、何か持っているような状態にした。
そして、何やら風切り音が響いた。
私は、何かを察して、怖くなった。
そして、ジャンヌは、それをわざと光らせた。
高速回転する円盤…ゲーミングデバイスのように、虹色に光るそれは確かにそんな形だった。
所為、丸鋸である。
「やっ、やめろ…。」
「大丈夫ですよ…痛くありませんし…。」
「いやっ、それでも…。」
「…じゃあ、すいません…。」
ジャンヌは、そう言うと音を止めた。
私は、その時…安心したのだが…。
「別の方法で…。」
「えっ?」
その瞬間、私の右腕が切れた…。
確かに、痛くも痒くもない…がっ…。
「…!!!っ、あああ!」
頭がおかしくなりそうだった。
痛覚はなくとも、動いていたはずの右腕が…関節から上の部分が無かった。
違う、ソファに血を散らしながら、転がっていた。
痛い、痛い、痛い…痛くない!
声にならない、精神の苦痛が頭にスパークする。
受け入れたくない現実が、私の脳を焼いているように思えた。
左手で、切断部抑えるが、確かに血が流れている。
「…田中さん?」
「うっ…ああっ…。」
「まずい!すいません、強制鎮静剤を打ちます。」
「うぅ…。」
「…間に合わない…すいません、身体から引き離しますね!」
「あっ、何を…する気なんだ…君は?」
「一度、死んでもらいます…。」
「いやだっ…死にたくない…っ。」
目が、耳が、鼻が、脳幹が…全部崩れていく…。
どうなったんだ、どうなったんだ、私は?
数時間後
「目が覚めましたか?」
「…ここは?」
「入間基地ですよ…。」
「…ジャンヌさん?」
「はい、そうです…。」
「私は、どうなりましたか?」
「ショック死になりかけて居たので、隔離しました。」
「ああ…とりみだしたのか…私は?」
「そうですよ…。」
「情けないな…。」
「いいえ、私も多少やり過ぎました…。もっと、あなたは現実的なのかと…。」
「誰もが、自身の負傷を直視して冷静に居られるとは思わないが…。」
「兵士は、いつだって負傷や死が過ります。対人地雷で、手足を失った人達を見たこともあるでしょう…。あんな、汚い兵器で負傷させるのは倫理的に間違っていますよ。ちゃんと、死亡させなければ良い兵器とは言えません…。」
「…私は、たまにあなた方の言葉がわからなくなる…。あなた達の言葉は、生きていない…それこそ、物理現象の観測か、鉛筆が短くなったから捨てるレベルで、人の命を捨てている。」
「それは、違いますよ…。捨てているのは、人の身体です。LLFは、生命の解放を…つまりは、この世界の人々の死を追及して、生きることよりも死に向かって行く…そういう、スタンスの下に、こういった思考になっているだけです。」
「…死か…私とは、逆ということなのか?」
「私は、後天的に…というよりも、LLFから…教義的な物があって…私はそれに従う…いえっ、自分から選んだだけです…。」
「話が見えないな…。」
私が、そう彼女に言うと、彼女は優しく微笑んだ。
「田中昌隆司令、あなたの番が来ました…。」
「?」
感覚が戻ったような気になりながらも、私の身体は存在している。
・ジャンヌの魔法
→まだ、秘密です
ゲーミングデバイス、約1680万色なので虹色