神と人の考えの境目
用語解説
LLF
生命解放軍のこと、Life liberation force
昇達、異世界から来た人々の集団
三国ドイツ支配地域エジプト ギザ空軍基地 LLF管轄区 地下都市 神殿
神殿の中に入り、柱を横目に真っ直ぐ進む。
もう何度も通ったようなほのかな明るさが頼りの道を進む。
そして、大広間のような巨大な部屋に出た。
神殿であるのなら、ここは本尊のような場所であるだろう…。
しかし、一目見てすぐにわかった…。
彼は、王であるのだと…。
「プトレマイオス様、長篠昇、電気の魔女ベアトリクスをお連れいたしました。」
「ああ、わかった…下がっていろ…。」
「はっ!」
「ふむ、ようこそ参られた…魔女ベアトリクスよ。そして、少年。LLFへようこそ…生命に解放あれ!」
「生命に解放あれ!」
『生命に解放あれ!』
「!」
階段の上にある玉座にて、崩れた座り方をしていた王が立ち上がり、生命に解放あれ!っと、言った。
そして、それに呼応するように兵士達が、「生命に解放あれ!」っと、呼応した。
「時に、ベアトリクスよ…。この世界は、何か変わりがあったか?」
「…世界とは、常に変化していくものです。」
「そうだな…。」
「では、私は外に出ます…。」
「ベアトリクス?」
「ここから、先はお二人で…。」
「…わかった。」
「…では、こちらに来たまえ…少年…。」
ベアトリクスとマリカに、首で確認を取り、そのまま階段を登って行く。
古代エジプトのファラオ…壁画や像で描かれてきた、王族の服装をした男が前に立っていた。
ああ、ファラオではあるのは確かが…。
地上の太陽から離れた、地下…人工太陽の下においても、確かに太陽の化身とも言える男であった。
「ようこそ、エジプトへ…少年。私は、プトレマイオス・ソーテール。古代エジプトの最初の王だ。」
「初めまして…プトレマイオス様…いえ、王よ。」
「ははっ、そうかしこまる必要はない…まあ、いい心構えではあるな。」
「はぁ…。」
「まったく…彼女達も説明不足だな…君が我らLLFのどんな人物に会って、何を話したのか…その時はどんな反応をしたのか…それこそ、映像として確認できている。…従って、今後はタメ口でも構わない…。」
「…それは、いくらなんでも…。」
「まあ、そう言うと思ったよ。…君の口癖は、マジだったかな?」
「…参りました、よろしくお願いします。プトレマイオスさん。」
「ああ、私の方こそ、少し意地悪だったかな…。まあ、そう気にすることもない…早速だが、本題に入ろう…っと、移動するぞ…。」
「えっ!」
ガコンっと、起動音と共に玉座が持ち上がり上昇する。
そして、背後の赤幕が掛かっているだけの壁かと思った場所から、隠し扉が現れ…橋がこちらに伸びてきた。
「…王よ、いえ、プトレマイオスさん…この施設の仕掛けはなんで…こう…大袈裟と言いますか…多いのでしょうか?」
「少年…それは、我々のような上流階級の者は、往々にして暗殺の危険に遭う可能性がある。だから、こうした隠し扉があるものだ…。あとは、暇つぶし…。」
「暇つぶし?」
「…ああ、それこそが今日の本題だ。」
「隠し扉作りが?」
「隠し扉は、副産物だ…。とりあえず、庭園に行こう…。」
そして、橋を渡り…通路を通ると…。
「…楽園?」
「いやっ、オアシスだ…もっとも、生物多様性という点ではかなり歪だ。」
そこは、花畑だった。
蝶が舞い、キリンが草をはみ、ゾウが闊歩する。
そんな、水と光の楽園…。
「…まあ、もうすぐ終わるが…。」
プトレマイオスは、そう呟いた。
そして、そのままガゼポに、2人で進み…。
対面に腰を下ろし、テーブルを挟んだ。
「お茶を用意しよう…シャイベンナニャというお茶だが…まあ、苦かったら飲まなくてもいい…とりあえず、コーラも頼んでおこう…。」
「承知いたしました。」
「っ!」
急に、現れたメイド(?)の声に驚いた。
「…ああ、早く頼む。」
「…?」
(乳○見えてる…いやっ、これが普通か?)
「ん?ああ、気にするな…彼女達はロボットだ。」
「ロボット…では、あの服装は?」
「趣味というよりは、そういうものだ…。」
「うらやましい限りです…。」
「こらっ、本気にする出ない!私の生きていた時代は、老若男女関わらず裸のようなものだったからな…まあ、興奮するのも無理はないが…若いし…。」
「あはは…。」
「リラックスできたようだな…。」
「お持ちしました…。」
「ご苦労…下がれ…。」
(あっ…普通に尻触ってる…。)
俺は、お茶を飲み…彼を見た。
筋骨隆々…という、ものではないが…やはり若くはある。
「さて…お茶も届いたところだ…。本題に入ろう…。とはいえ、聞いても良くわからないと思うが…。」
「そうなんですか?」
「宗教観の話だ。」
「…ファラオについてですか?」
「まあ、そうではあるが…死後の世界だ。これは、日本にもあるだろう?」
「天国と地獄ですか?」
「そうだ、とはいえないが…死者の世界だ。」
「…でも、それがどうして?」
「この世界は、死者の霊が集まる世界だと知っているかね?」
「…いえっ、集まっているって…どういうことですか?」
太平洋戦争で死んだ山本五十六、ナポレオン…彼らは、死者だった。
だが、LLFの人間がたまたま、この世界に居るものだと思っていただけに、集められているというのには驚いた。
そして、プトレマイオスは言葉を続ける。
「この世界は、言わば…腫瘍のようなものだ…。正常な多数の世界の時間の流れに干渉し、霊体のみを集めている。」
「じゃあ、あなた達は集められたと?」
「いかにも…。」
「それじゃあ…。」
ここで、俺は疑問に思ったことがある。
もっとも、理解自体はそこまでではある…が、簡単なことだ。
「幽霊じゃない…俺が集められたのは何でなんですか?」
さて、どうだろうか…。
プトレマイオスは、特に眉間にしわを寄せるようなことはなかった。
「そうだな…霊体と君らの違いは、身体があるかだ…。そして、それが楔になっている。」
「…どういうことですか?」
「死者は、死んだ時に躰と霊体…まあ、魂が分離する…生きている状態というのは、その繋がりが断たれていない状態だ。」
「…しかし、現に私は、魂だけです。」
「いやっ…それは、君が君自身の身体を見ていないせいだ…。」
(…わけがわからない…それなら、俺の身体はどこに?)
そう考えていたのを察した、プトレマイオスは言葉を続けた。
「君の身体は、この世界と君の居た元の世界に存在する。」
「…そんな場所に…いやっ、どうなっているんですか?」
「この世界は、霊体を他の世界から集めている…そして、その状態というのは他の世界との接点を持ち続けているに他ならない…よって、霊体を集める作用を今度は解放する作用にすれば、世界は安定化する…。そして、それが、君を元の世界に帰す道だ。」
「楔と言ったのは、それが元の世界へ帰るための道しるべということですか?」
「いやっ…それとは、違う…。」
「はぁ…それじゃあ、一体。」
「覚えているのかは知らないが、君はこのような話を聞いた覚えは?」
「どうですかね…理解はできていないのか…それとも、言葉が濁っているのか?」
どうだったかな…誰かと話した覚えはある。
「ふむ、そういうことか…ようするに、入間基地に居た全ての人々がまだ、この世界に魂だけの姿となり、堕ちてこないだけだ…。」
「…堕ちてこない?」
「左様…。」
「じゃあ、俺はもう身体とは切り離されて…。」
(死んでいるのと変わらないじゃないか?)
そんな考えがよぎる。
「まあ、落ち着け…。」
「ですが…そんな!」
「君は離れているが、他の人々は繋がっている…そして、それはこの世界と君の世界が繋がっていて、完全に霊体として引き離されたわけではない。」
「あっ…。」
確かに、それなら…どうにか…戻れるかもしれない。
だが、本当にそうなのか?
「まあ、おいおい…この話はすると思う。その時に、改めて確かめるとよい…話を戻そう…大丈夫か?」
「ええ…なぜこんなに複雑なことに?」
「それも…すぐにわかるさ…。こほんっ、ところでエジプトの宗教観については?」
「まったく…。」
「死者の書は、知っているな?」
「はい…。」
「古代エジプトの宗教観…死生観というものを語るのは難しくはないが、長くなる…簡単に言うと、私がLLFに協力しているのは同胞の死後の為、そして、死者を正しく導くためだ。もっとも、私自身が…その死者としては道を違えている。」
「…この世界に、魂が引きつけられたからですか?」
「ああ、その通り…。本来なら、心臓と問答に答え、羽と心臓を天秤に掛けるのだがな…。」
「ファラオであってもですか?」
「ふ~む、君はなかなか鋭いというか、科学者的なタイプだな。」
「宗教は科学では、無いのですか?」
「所詮、文系のあほんだらが言葉を並べて、理系のどあほどもがマニュアル化したものを宗教とは言えないであろう…心が足りぬ。」
「あ~、確かに…ロックとかと同じですか?」
「音楽は、ライブ会場で聞くものだ。」
「そうですね…。ところで、LLFの協力って、拒否もできるんですか?」
「まあ、できる…それと、意図的に省いている魂もいる。…今のは、忘れてくれ。」
「はぁ…。」
「宗教とは、科学とは戦っているが…それでも、人の手に在り続けるものだ。人の願いの結晶とも言える。」
「でも、それはオカルトと呼ばれます…。」
「そうだな…では、人が願うとなるとその行動をした時にエネルギーを消費するだろう…要は人のカロリー消費だ。それは、科学ではある。」
「確かに、そうですね…。」
「それと、実際の現象を観測できた科学者は居ない。そして、カオス理論を説いてもそれが実際にどう影響するのかはわからない。そして、君と私がどう影響するのかも…。」
「スーパーコンピューターでも、計算はできないと?」
「ああ、数学者はそれを宇宙と言ってよく誤魔化すものだ…もっとも、アインシュタインも自分が相対性理論を作れると子供の時に思ったのかな?」
「見れないでしょう…それで、その先が…神…宗教へと行きつくんですか?」
プトレマイオスは、笑顔を作るが…それでも、何か納得はいかないような顔をしていた。
「神にするには簡単だが、それが科学の限界でもある…だから、人の限界かもしれないが…所詮、人類の感想にすぎないのかもしれない。」
プトレマイオスは、そういいティーカップを口に運んだ。
補足と追記
古代エジプトにおいて、人々の服装は男性が上半身裸で腰みの、女性はワンピースのようなものを着ていました。
今回のプトレマイオスのメイド…奴隷としての服装は、『古代エジプトのファラオの奴隷』という、ジョン・コリアという人が描いたイメージなので…そういう装いです。
余談ですが、ジョジョや遊戯王といった作品でもエジプトが舞台ですね。そんなわけで、わりと身近な国かもしれません。
エジプトは、中東戦争でイスラエルと戦争したり、ヨーロッパへの玄関口であるスエズ運河を持つ国でもあり、調べてみるとかなり面白い国です。